第43話 観客の皆さんごめんなさい
誤字・脱字に後から気付くことが多くて申し訳ありません。
多分今後もあると思いますが、気付けば直していきますので、よろしくお願いたします。
翌日、私はアリーナにお金を持たせて闘技場に行かせた。私とレーベルはトーナメントの発表があるので控室に行かなきゃならないしね。結局お金は必要最低限を残して全額渡したから、これで私が負けるようだったら全額消え失せることになるけど、負ける気は無いから良いのですよ。勝てば金貨貰えるし。
「にしても主よ。勇者とはまた手強い相手を見つけたのぉ……」
「そうなの? ステータス的にはレーベルの方が強かったけど?」
「いやいや、聖剣スキルを持っていたのであろう? あれを使われると我ではかなり厳しい戦いになるのは確かじゃ。勇者は聖剣を発動するとステータスが軒並み10倍になるのでな。しかも聖剣は我等古龍にも大きな傷を与える力を持つのじゃ。武器で勝負しても、まぁまず勝てんしのう」
ほへぇ、凄まじいな勇者。10倍アップとかチートでしょ完全に。素のステータスでさえも五桁なのに、けど試合で使うのかな? 偽名使って参加してるぐらいだし、そんなスキル使ったら王様とかにもバレるでしょ? 王様なら既に分かってそうではあるけれど。
あーけど、勇者ってこの国と協力して獣人国滅ぼしてるんだっけ? とすると、国による勇者のデモンストレーションって線もあるのか。優勝した時に招待を現して会場を盛り上げるって感じで。勇者なら最高のネームバリューだしね。
「まぁなんにせよ私は勝つだけだよ。アリーナの為に!!」
「主は本当にそればっかじゃのう……」
当たり前やん? 私にとって、アリーナは全てに優先される!!
闘技場内を走るアリーナは、一目散に賭博用の受付窓口まで走っていた。背中に背負っている袋の中身を持って行く為に。窓口は一般客でごった返していたが、アリーナは根気よく列に並び、ギュウギュウに押されながらも何とか窓口の出番まで耐えきった。
どうにかこうにか受付前に辿り着くと、ドサッと机の上に置いて笑顔を示す。
「こんにちわは~♪」
「はいよ、こんにちはお嬢さん。誰に賭けるんだい?」
受付の男がにこやかに話しかけると、アリーナも笑顔で迷わずバックごと机の上に置いた。
「アイドリーに金貨5000枚!!!」
ざわ……
一瞬にしてその言葉を聞いていた周りの者達が静まり返っていく。受付の男はにこやかな口元が引き攣って上手く喋れなくなってしまった。バックの口元の紐が勝手に解けていくと、その中には数えるのが馬鹿らしくなるぐらいの金貨がドッサリと見えた。
「お、おきゃ、お客さん。本気、かい?」
「本気!! にへ~~♪♪」
アリーナから躊躇なく渡されたとんでもなく重たい金貨のバックを、男は恐る恐る数人掛かりで掴み、後ろで他の職員達と騒々しく枚数を数え始めた。数分後に男は一枚の券をアリーナに差し出す。魔法効果の付与してある券であり、これがアリーナがお金を賭けた証拠になる。その券をアリーナは受け取ると、さっさとまた一般客の間を潜り抜けて姿を消した。
一般客と受付はしばらく思考が停止したかのように静かになっていたが、トーナメントの組み合わせ発表が迫っている為、自分達も券を買い始めまた現場は喧騒でごった返しになっていった。
『おはようございます紳士淑女の皆々様!!暑い10日となりそうなところで、今日はトーナメント発表の日です!!皆さんちゃんと賭ける相手は選びましたかぁ?私も既に選んでおりまぁーす!!皆様の賭けた選手達が勝てる事を祈り、その健闘を称えましょう!!では、トーナメントの組み合わせを発表しますッッ!!!』
セニャルの横にある大きな板に被っていた布が、合図で係員の手により剥がされた。おお、剥がれたと同時に会場の頭上に巨大なスクリーンが現れた。あれも魔道具かな? 前世より未来行ってるなファンタジー。
私はそのスクリーンに映し出されたトーナメント表に目を向ける。
Aブロック1回戦
『1組目:レーベルVSナリシャス』
『2組目:ホロミルVSオーシャン』
『3組目:アビルVSタンザ』
『4組目:チャックVSジョバイ』
『5組目:クロロVSモリアロ』
『6組目:スビアVSマチルダ』
『7組目:ラルゴVSバチス』
『8組目:ブレイクVSバンダルバ』
Bブロック1回戦
『1組目:ピッソンVSゲンカク』
『2組目:アドニスVSオノレ』
『3組目:シルヴェスターVSノエル』
『4組目:ヤスパーVSリオネル』
『5組目:クロライナVSマチュー』
『6組目:アレイドVSロラン』
『7組目:トゥイーレルVSズマナ』
『8組目:ヘンリクVSアイドリー』
AブロックとBブロックに別れてのトーナメント方式か。私とレーベルは決勝までいかないと戦うことは無いみたいだね。
「……くくっ……準決勝は噂の勇者か。主との前哨戦には丁度良いのう……くふふ♪」
「楽しそうねあーた……負ける可能性だってあるんでしょ?」
「良いのじゃよ。これは試合。負けも勝ちも次に繋がるのじゃからな」
(う……大人な意見)
「主も肩ひじ張らず、もっと自由にやる事じゃな。何事も程度じゃよ程度」
「は~い」
不気味な笑みをフードの中で浮かべるのは止めて頂戴。何か暗躍されてると思われるじゃないのさ。舌舐めずりとかどこの殺人鬼ですか。頬が蒸気しているのが余計怖い。
『そして、それぞれの選手の倍率はこれだぁあああ!!!!』
「む、お楽しみのやつじゃな」
「さてさて、どうなってるかな」
「「…………おん?」」
Aブロック1回戦
『1組目:レーベルVSナリシャス』
520 43
『2組目:ホロミルVSオーシャン』
20 20
『3組目:アビルVSタンザ』
60 10
『4組目:チャックVSジョバイ』
96 360
『5組目:クロロVSモリアロ』
25 31
『6組目:スビアVSマチルダ』
8 115
『7組目:ラルゴVSバチス』
11 75
『8組目:ブレイクVSバンダルバ』
54 2
Bブロック1回戦
『1組目ピッソンVSゲンカク』
50 5
『2組目アドニスVSオノレ』
12 15
『3組目シルヴェスターVSノエル』
120 45
『4組目ヤスパーVSリオネル』
67 14
『5組目クロライナVSマチュー』
13 29
『6組目アレイドVSロラン』
40 76
『7組目トゥイーレルVSズマナ』
4 270
『8組目ヘンリクVSアイドリー』
55 1000
『賭け倍率はそれぞれの選手に賭けた観客の数に反比例しております。そして、なんとなんと、今回初めて出場したアイドリー選手には倍率4桁という大会初めての大倍率でございます!! 賭けた方はただ1人です!!! もしアイドリー選手が優勝すれば、5回分の賭け勝利により賭けた金額が1000倍ずつ増えていき、とんでもない金額となるでしょう。これは素晴らしい!!!』
「はは、いいね!! 優勝したらこの国が破産しちまうんじゃないか!?」
「ないない、とてもじゃないがバンダルバには敵わないって!」
「お、俺一枚だけ賭けようかな?」
「止めとけ止めとけ、金の無駄だって。ま、頑張れよ~~!」
おお、拍手喝采だ。賭けた勇気を称えられているみたいだね。皆馬鹿にしたような笑い方だし。絶対勝ち残れないって口々に言ってるし。
けどアリーナさん分かってないね。観客席で私に向かってブイサインしてるもん。ありがとうアリーナ。私今、ネタとして輝いているよ……そして、アリーナが応援してくれるだけで私にとってはこの観客全員以上の声になるよ。
「凄い倍率になったのぉ主よ。我も他と比べれば高いが」
「なんだか申し訳なくなってきたよ私は……優勝してもそこ等辺は要交渉してあげないとなぁ……」
『では次にトーナメントの説明に入ります!!トーナメントは第1回戦に2日、第2回戦に2日。そこからは準々決勝から決勝までを1日ずつで計7日間の戦いになります。2回戦までは制限時間30分での勝負、そして準々決勝からは無制限の勝負となります。心行くまで戦い続けて下さい!!説明以上!!』
なるほど、時間制限か。上に上がる程見所が増えるってことだね。他の選手が戦っているところも見れるだろうから対策もされるだろうしね。その分試合が長引くと思ってルールかな。
『それでは早速Aブロック第一組目の試合を始めたいと思います!!選手選手の皆さんは、レーベル選手とナリシャス選手を残して控室にお戻りくださーい』
「レーベル、盛大にやっていいよ」
「うむ、心得た」
レーベルと拳を突き合わせ、私は控室に下がっていく。今日は私の番は無いし、後はアリーナと一緒に観戦しよう。
「ただいまアリーナ」
「おかえりーアイドリー!! ひゅ~んっ!」
「あらよっと、ほいほいほいほい、ほい! はいだきぃ~」
「だきぃ~~♪」
アクロバティックにアリーナを回した後ダキッと受け止めると、そのまま二人で座る。私は屋台で買って来た肉串と飲み物を手渡した。
「アイドリー、これー」
「お、賭け証明の紙? あー、自分で言ったことだけど、本当に全額賭けたねアリーナ」
「ぜったい、ぜ~~ったいアイドリーの優勝だもんッ!!」
「親友からの信用が嬉しくて泣きそう」
金貨5000枚というのは、私がこれまで冒険者として稼いだほぼ全額。けどそれ以外にもガルアニアに来るまでに倒した魔物の素材で得たお金があるので、大会が終わるまでの間困ることは無い。だとしても、普通の冒険者が生涯稼ぐ金額よりも多いらしいんだけどね。
これから私が成す事の為には……もしかしたらそのお金ぐらいじゃ足りないだろうしね。
「さて、そろそろ始まるみたいだよ? レーベルの試合」
「おー二人でおうえんだー♪」
『レーベル~ふぁいお~♪』
『任せよアリーナ、圧倒的な勝利を見せようぞ』
同調でレーベルへ声援を送るアリーナ。あんまり熱くさせちゃうとレーベルが加減間違えちゃうかもだから程々にね…
『それでは両者ステージへ!!』
レーベルとナリシャスがステージの上まで来ると、司会セニャルがそれぞれの選手の紹介を始めた。
『ナリシャス選手はロックダース王国出身のBランク冒険者です。ロックダースにて新進気鋭の冒険者が予選では見事な水の舞いを剣に乗せて私達に魅せてくれました。この一回戦ではどのような戦いを見せてくれるのか!!』
妖美な笑顔を観客に振りまくナリシャス。煽情的な身体を見せるかのような軽装備で男達からの野太い声援が大きく上がった。
『対するレーベル選手。このガルアニア王国のハバル出身の冒険者になります。つい数週間前に登録したばかりらしく、ランクもFで、これといった実績もありません。予選でもこれといって目立った戦い方はしませんでしたが、本選では一体どのような戦いを我々に見せてくれるのか期待しております!!』
容姿の見えないレーベルに対し、冷やかし交じりの声援が掛けられる。それを聞いてナリシャスはレーベルに哀れみすら抱いていた。だが人間とはそういうものだと分かっているレーベルは全く気にすることなく、手に持つハルバードの感触を楽しんでいる。
「貴方も可哀想にね?」
「ん? 何がじゃ?」
「どうせガルアニアに来た記念でこの大会を受けたってところなんでしょうけど、まさか本選に上がれるとは思ってなかったんでしょ? ちゃんと手加減して落としてあげるから感謝なさいな」
「……ふむ。では、観客に顔ぐらいは覚えて貰って帰るとしようかのう」
レーベルは、ゆっくりと自らを隠していたフードとローブを脱ぎ去っていく。観客が姿を現したレーベルを見た時、老若男女問わず、喉の鳴る音が響いた……
「「「う、美しい……」」」
あまりにも完成され過ぎた美が、そこにはあった。
何もかもを呑み込み燃やし尽くす程の赤い色を全身に纏ったその姿。レーベルのその鎧は、巨乳の前面だけを包み、腹の側面を覆っていくあまりに性的で鎧の体を成していないものだった。日の光を浴びて輝き金色の光を放つ髪、見ただけで意識を奪われそうな紅い瞳。
声を失う程の美貌に、誰もが深い溜息を零してしまうが、当の本人の顔を見たナリシャスはそれどころではなかった。自分を遥かに超える容姿を持ったその女をもはやただで帰す気は無くなっていたのだから。
レーベルもまた、もはや我慢する気など無かった。早く全力で攻撃を振るいたかった。なので、未だ始まりの宣言をしない司会者を睨む。
「おい、司会。早く始めい」
『……え、あ、はいお姉様!!それでは本選第1試合、開始ぃぃいいい!!!!』
「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!」」」
「……お姉様じゃと?」
「あ、あんな良い女ギルドに居たのかよ!?」
「す、すげぇ……一晩相手してくんねぇかなぁ~」
「アイドリ~きこえなーいよー?」
「聞かなくて良いことだから良いのっ」
両手でアリーナの耳を保護するアイドリーであった。




