第41話 バトルロワイヤル①
『さぁ、先程の大グループは大激闘、ラゴル選手とクロライナ選手の激しい魔法合戦が観客の眼を惹きつけました!! 次の第3グループでは、一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!注目は前年度に本選まで上り詰めたアビル選手!! 今年はどこまで行ってくれるのでしょうか!!! そして我が国の騎士団の一人、トゥイーレル選手!!どこまでその力を我々に見せてくれるのか!! それでは第3グループ、試合開始ぃぃぃいい!!』
「さぁて、手を抜くといってもじゃ。どうするかのう……」
試合ステージには100人の参加者が入り乱れておった。それぞれが近くの相手と戦い始めてしもうたが、我に掛かって来る相手がおらんのぉ~。
とりあえずフラフラと歩いてステージの端まで歩いてみた。
「おい、何余所見してんだ!!」
「むっ」
槍を持った者がこちらに目を付けて飛び込んできたので、我もハルバードを構えて相対する。槍の長さは2m程か。相手と距離を置いて戦うには便利じゃが、ちゃんと使いこなせておるようには見えんのう。
我とて人間状態で冒険者に襲い掛かった事もあるので、ある程度武器の扱いには慣れておる。どれ、一つ。手解きといこうではないか。
「くらぇえ!!」
こちらが動く前に向こうの刺突が来た。だが持ち手が端に寄り過ぎじゃ、掴まれたら捻られて、
「こうなるんじゃぞ?」
「お、ぉぉお~~~!?!?」
「57番失格!!」
槍の刃の付け根を掴み男ごと持ち上げ、ステージの外に投げ捨てる。確かステージから出ても失格じゃったな。何じゃ、これで問題無いなら案外楽じゃな。さて次は……
「くらえっ!」
「おらぁあ!!」
「ぬっ、ほう共闘。そういうのもアリなのか」
二人、片方が大剣、もう片方が双剣使いか。あーこっちも酷いのぅ。
「大剣使いよ。攻撃が遅過ぎる。そんなヘロヘロでは当たる物も当たらんぞ」
「うわぁっ!?」
ハルバードの刃先で受け流し、外に蹴り出す。その間に我の後ろから双剣使いが飛び上がって真上から刃を突き立てようとするが、
「双剣は手数で翻弄し自分のペースに誘い込むのが常じゃろう。必殺で繰り出すならもっと気配を消せい」
「あ、ウゴッ!」
腹にハルバードの石突き部分で腹を付き、こちらも外に放り投げる。これで3人か。さてはて次は誰かおるかの~
『お~っと、開始数分でもうステージ上に立っている選手は既に半分を切っている!! 強い、強いぞアビル選手!! 一体どれだけの修行を積めばそこまで強くなれるんだぁああ!?』
「ほう、先程司会が言っていた男か」
どんな奴かと目を向けると、なんじゃ? 残りの参加者が全員奴を囲っておるな。しかし奴に近づく者がおらんぞ。そんなに奴にだけ集中していたら、我が後ろから全員不意打ちしてしまいたくなるではないか。
「なんだ。全員で掛かって来いよ? どうした? ただ囲ってるだけじゃ俺は倒せないぜ」
「「「……」」」
アビルとやらの挑発に誰も乗らぬか。うーむ、このまま膠着状態は嫌じゃな。どれ……
「そこの、アビルとやら。良ければ我も加勢するが?」
「ああ? なんだい顔の見えない姉ちゃん。俺を利用して本選に上がりたい腹か?」
「どちらかと言えば、この情けない連中にさっさと消えて欲しいだけじゃよ」
「な、なんだとてめぇ!!」
おお、全員釣られてこっちを向きよった。だが良いのか? 先程お前等が注意深く見ていた奴を野放しにしてしまって。もう既にそやつそこから離れてしもうたぞ?
「がっ!?」
「ググッ!!」
素早く動いて一撃でどんどん倒していくの。周りの連中もアビルを見失い、瞬く間に数を減らしていく。おお、我含めて後4人まで減りおった。年配を動かさないとは感心じゃのう人間よ。
残ったのはアビルと、後は気の強そうな女剣士じゃな。身形が良く鎧にはこの国の紋章が付いていることから、この国の騎士のようじゃな。もう一人は高身長で黒ずくめの男か。こちらは大鎌を2本という奇抜な武器を持っておるのう。戦えるのじゃろうかあれで?
『残ったのは311番アビル選手、325番レーベル選手、363番トゥイーレル選手、391番コズノック選手の4名!!ここから本選に上がれるの3名です!!一体誰が落ちてしまうのかぁ~』
「騎士団長の名に懸けて、貴様らに負けるつもりは無い。倒されたい者は掛かってこい!」
剣を構えて己の勝利を豪語する女騎士か。主が見たら襲いそうだのう色んな意味で。んーしかしこの中で一番弱そうなのは……よし。
「おい、そこの大鎌。貴様が一番弱いから退場せよ」
「っつ!? ふざけるな貴様!!」
よし、大鎌の男がこちらに来たの。2本の大鎌を回して、1本をこちらに投げてきおったな。それを我はハルバードで弾く。
「馬鹿がっ!」
む? おお、弾いた一本が旋回して戻ってきおったな。男が反対側からもう一本を自ら振りかぶる。挟撃で仕留めようとするとはな。魔道武器とは面白い。
我が迎撃しようとすると、アビルもこっちに来おった。ほう、我を協力して倒すつもりか?
「おいおい大鎌野郎、俺を利用したそいつをお前が消そうとするなよ」
ぬお、アビルが後ろから旋回してきた大鎌を弾き飛ばしおったな。なんじゃこやつ、言っていることが意味不明じゃぞ。
「安い挑発に乗った愚か者よ。お前に闘技場を立つ資格は無い。失せろ!!」
もう1人の女騎士が我と大鎌の男の間に入り、男の武器の刃の部分だけ斬り飛ばしおった。一瞬じゃが、剣が発火して焼き切ったようにも見えるの。
というかなんじゃお前等、目立ちたがり屋なのか?というか我はもっと動きたいのじゃが、邪魔せんで欲しいのう……
「げがぁあッ!!??」
「うわ、容赦ねぇな……」
そのまま大鎌の男の胴体を剣で真っ二つにしてしもうたな。いや、確かに即死じゃなければ大丈夫じゃが、それも数分で死ぬであろうに……そのままステージの下に落ちた男は、回復魔法士の治療を即座に受け、下半身を繋ぎ始めた。
女騎士のトゥイーレルか。剣術スキルは主と同じぐらいの技量じゃな。妖精魔法を使わない主となら剣で互角に戦えそうじゃ。剣も魔法剣を使っておるみたいじゃしな。
『きまったぁぁああ!!本選出場はアビル選手、王国騎士団の若き騎士トゥイーレル選手、そして今回初出場の冒険者、レーベル選手だぁああああ!!』
結局そこまで目立つことなく本選出場か。まったく力は出しとらんから不完全燃焼じゃ~。これなら森の魔物を狩る方が何倍も楽しい。それでも退屈じゃけれど……
「おい姉ちゃん。本選はもっと頑張れよ。じゃあな」
「私は女を斬るのは好かん。お前と当たらないことを祈ろう」
ニヒルな剣士と女騎士はそう我に告げてステージを去っていきおった。好き勝手言いおってからに。まぁいい、我もとっとと下がって適当な観客席に座るとするか。主の戦い振りも見たいしのう。
『レーベルは無事死人を出さず上がれたみたいだね』
『がんばったでしょう~』
にしてもこの大会、国お抱えの騎士団の人まで出場してるんだね。まぁ冒険者だけって規定は無いけどさ。早速同調でレーベルに感想を聞いてみようか。
『レーベル? 本選出場おめでとう。ちゃんと手加減出来た?』
『おお、主よ。退屈であったぞ我は。手を抜き過ぎて良いところを全て剣士と騎士に持ってかれてしもうて不完全燃焼なんじゃが……』
『ああ、ごめんね。本選では一度倍率が決まったらそのままらしいから、そしたら相手が死なない限りは全力で戦っていいからね。私の時も本気でやって良いし』
そう言うと、レーベルの雰囲気が一気に明るくなった。現金だなぁもう。
『おお、なら楽しみにしておくとしよう。我は好きな物を最後に取っておくタイプじゃなからな。それより主よ、アリーナは一緒で良いのか?』
え、あーそうか。んー近くで観戦させても良いんだけど、一応何があるか分からないしね。
『アリーナ、私の試合はレーベルと一緒に応援してくれる?』
『もっちー!!』
『じゃあアリーナはそっち送るよ。よろしくねレーベル?』
『うむ。アリーナよ。我と同調したままこっちに来るのじゃ。エスコートしてしんぜよう』
アリーナは隠蔽スキルで完璧に気配を消し去り、レーベルの下へ飛び立っていった。さて、一人になったし戦い方について考えるかな。
人化している今の身体じゃ、私は妖精魔法を使うとヤバい。だから使うのは普通の人間の扱う魔法だ。武器は剣だけど、これ重過ぎるから相手の武器を簡単に破壊しかねないんだよねぇ…魔法主体にしようか。遠くからチマチマ撃ち続けてればその内勝手に数が減ってくるだろうし。あーあ、こんなことなら安物で良いから剣を買っておくべきだったなぁ。
とにかく私も手加減スキルがあるとは言え、即死させないように立ち回らないとね。
それから1時間後、遂に私のグループが呼ばれた。
「レーベルー串焼きプリーズ♪」
「おう。ほれ、食べよ食べよ」
『レーベルー私にもー』
『霞でも食べとれ』
『後で夕飯に並びたいのかな』
『買って待っとるから早く終わらせんか!!』