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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第40話 開会宣言

 当日までの間、結局私達は観光だけをしていた。依頼は一度も受けず、食べ歩いたり近くの観光遺跡に足を運んでみたり、アスバニの滝の木の下でアリーナに告白しようとしてみたり、湖で水遊びしたり、レーベルに乗って王都を上から眺めてみたり。とにかく遊んで遊んで遊びまくっていた。後悔は無いね。


 だから知名度も糞も無く他の冒険者にはひたすら舐められていたけれど、誰も手を出してこないあたり、冒険者としてのプライドはしっかりあるらしい。


(それに、国内の獣人達の扱いも、そこまで酷いものじゃなかったから一安心だ)


 彼等は皆労働を強いられている奴隷として扱われていたけれど、しっかり働いていれば不条理を押し付けられている事は無かった。そりゃあ理不尽な扱いは受けているけど、それは今どうにかするべき事じゃない。少なくとも、私達が王様に会うまでは……


 それまではしっかり楽しむべきなんだ。全てに向き合う英気を養う為に、ね。




「それでは、今よりグループ別けを始める!!」


 そして今日、遂に来ました武闘会!!


 筋骨隆々の猛者が集まってると言っていたけど、とにかく人が多い。私とレーベルは沢山の参加者の中で完全に埋もれている。


「まずは第1グループ! 番号を呼ばれた者は係りの者に従って移動するように!!」


「お、遂に始まったね」

「主とは一緒のグループにはなりとうないのう……出来れば決勝が良いのじゃ」

「それは私もだよ。また拳痛くなる程殴りたくないし」

「剣で斬られた方がマシなんじゃが!?」


 因みに私達はバルディみたいな者達に絡まれたくなかったので、また顔をフードで隠していた。アリーナは妖精状態で私のフードの中に入っている。寝息が聞こえる辺り、まだ眠いみたいだね。


「第1グループは以上! 次、第2グループ!!」


「そうだ。レーベル、予選は極力手抜いて戦えない?」

「む、何故じゃ? 面倒なんじゃが」

「アリーナの為と言ったら?」

「詳しく聞こうか」


 まぁ賭けの話になるんだけどね。どうやら人気のある選手であるほど皆賭けるから、本選ではあまり倍率が高くならないんだよね。逆を言えば、予選で地味にしておけば、倍率が高くなるから勝ては賭け金が何倍にもなるらしい。


 で、アリーナに大勝ちさせたい。ズルとかではなく、純粋にアリーナにも楽しみを共有させたいのだ。私達は戦いという場に居るけど、アリーナは大体いつも応援する側で寂しいだろうからさ。勿論、私とアリーナは完全に対等だけどね。むしろ私の方が負けてる感あるね……


 レーベルはその説明に納得し、私の提案に快く乗ってくれた。まぁ本当のところはレーベルに手加減して貰わないと、絶対に死人が出ちゃうからね。それで失格にでもなられたら大変だ。


「次、第3グループ!———————325番!!」


「お、我の番号じゃな。では主よ、予選後に会おうぞ」

 私達は二人とも背中に渡された番号の布を張り付けている。これも魔道具で、特定の魔力を当てないと剥がれないように出来ているんだとか。


「うん。また後でね」

「行ってらっしゃーい♪」

「うむっ!」


 レーベルは意気揚々と扉の向こうへ消えて行った。それから十分後ぐらいに私も第8グループで呼ばれ、アリーナに笑顔で見送られながら扉を潜って言われた場所で足を運ぶ。 


 指示された場所で待っていたら、係員が高い場所に立って説明を開始した。


「参加者諸君、見知った顔も居るが、恒例の闘技場におけるルール説明をする!!」


 ういうい、事前にアグエラさんから聞いてはいるけど、ちゃんと改めて聞いておこう。


「まず、絶対に相手を殺すな!! 故意で殺したと判断した場合、その場でその参加者は失格となる。逆に、死ななければ攻撃方法に一切の制限は設けない。両手足を切り落としても即死でなければ問題無い。闘技場には国が抱えている回復魔法士が数百人控えているからな。安心して戦え!! そして今回の予選、バトルロワイヤルの通過者は1グループに付き3人までとする! では、出番の時を待て!!」


 係員が去っていくと、参加者達は口々に今回の大会について話していた。私はすることも無いのでその話を聞きながらボーっとしていた。


「やったな。このグループには知っている有名な奴は居ないみたいだ」

「ああ、雷槍のジンや赤霧の死神も居ないぜ。こりゃあチャンスあるかもなぁ」


 私みたいな恥ずかしい二つ名を持った人が他にも居たんだね……にしてもそうかぁ、この人達が知っている限りで強い人は居ないらしい。いや、もしかしたら初挑戦でダークホース的な誰かが潜んでいるかもしれない。フラグは立てる為にあるからね。


「おい……」

「ん?」


 あっ……あぁ、見つかっちゃったなぁ。


「テメェ……この前のあれで懲りずに参加したのか。言った筈だぜ?お前みたいなのが居たらおままごとになっちまうってな…」


 コンニチワ、バルディさん……出来ることなら違うグループでありたかったよ。もう始まる前なのか、緊張で体がガチガチのようだ。態度にも余裕が見られず、表情も笑ってるのに顔が真っ赤だね。


 もう……精神統一でもしてれば良いのにこの人は。思わずため息を吐いてしまう。


「ふー……」

「何スカしてんだ!!」

「おい、何をやっている!!」


 バルディが怒鳴り掛かると、係員の一人がこちらに来てバルディを睨んだ。


「またお前かバルディ。毎年誰彼構わず絡むのは止めろ言っているだろう!! 何度も言うが、闘技場内で舞台裏でのいざこざは一切禁止だ!! 力は試合の場で示せ!!」

「……ちっ」


 舌打ちをすると、いつかのように、参加者達を無理やりどかしながら姿を消した。係員は私を一瞥すると、何も言わらずに立ち去っていく。助けてくれたのには感謝するよ。こっちとしても困ってたからね。


「……お? 始まったかな?」


 会場の方で、歓声が起こり始めていた。さて、レーベルがちゃんと手加減が出来るように祈ろう……




『おはようございます紳士淑女の皆さん!!今日はこの晴れ渡る日に闘技場へ足を運んで頂きありがとうございます!!!』


 会場のど真ん中で、過激な恰好をした司会の女性が音声拡の魔道具を持って大会の始まりを告げようとしていた。観客は満員御礼、どの人間もギラギラした眼をしている。


『今日は予選の日。グループは8つの計800人!そしてその仲から本選に上がれるのは24名となります!この中から明後日の本選で優勝するかもしれない方々をどうか皆さまの眼力にて見極め下さい!!それが明日の人気倍率に繋がるのです!!』


 観客席のあちこちから歓声が上がる。司会の女性はうんうんと頷き満足そうだった。


『闘技場の醍醐味をよく理解されているようで私も嬉しいです!!それでは大会開始の宣言をして頂きましょう。我らがガルアニア国王、モンドール・ビルテラ・ガルアニア陛下です!!!』



 闘技場を一望出来るその場にある玉座から、陛下と呼ばれた男が立ち上がる。音の振動が爆撃のように降り注ぐ音の嵐を、男は片手を上げて止めた。途端に闘技場を静寂が支配する。男は司会の女性が持っているような魔道具を持たず、そのまま喋り始めた。だがその言葉は、静寂を保つこの場に置いて、どんな音よりもよく響き渡る。


「また今年もこの日がやってきた。皆が楽しめる場であり、参加者が己の研鑽を誇りとして戦う由緒あるこの日が。今更多くは語るまい……


 自らの力を、我に示せ!!我はそれに応えようッッッ!!!これより、我が名の下に、武闘会の開始を宣言するッッッ!!!!!」


「「「おおぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおぉおおおおおお!!!!!」」」


『それでは予選第1グループ、バトルロワイヤル開始ぃぃぃいい!!!』


 高らかな銅鑼の音と供に、戦いは始まった。




「始まりおったか……」


 我1人で人間に囲まれるなど初めてのことじゃな。さっさと我のグループの番にならぬものかのぉ……己の武器であるハルバードを手で弄りながら只管その時を待っておったのじゃが、さっきから周囲が五月蝿くて敵わぬ。


 しっかしあれじゃの。人間とはこういう娯楽が好きなのじゃな。戦争を起こしたくてしょうがない種族かと思っておったが、こういう発散方法を用意するとは思わなんだぞ。手先が器用で工芸に秀でていると思えば、こうやって野蛮に戦いもする。自分達の暮らしをより快適にするのも得意じゃしな。我もその技術の結晶である魔道具を所持しておるし。


 今回も主の願いで参加したが、本当のところまだ我は人間に期待しているのだ。我に勝てる妖精がおるのだから、もしかしたらこういった場所で見つかるかもしれん。人間最高峰の強さを持った人間も何人か出るとの話であるしな。


(まぁ我や、ましてや主を越える化け物が人間に居るとしたら、それは勇者や魔王、もしくは我を生み出したあやつだけであろうな……)


 主ならばあやつにも迫れる……とは思うが、今はそこに考えを映すのは止めておこう。あやつは我が最も”超えたい”相手じゃしな……



「次、第3グループ!参加者は試合会場に向かうように!!」


「む、やっと出番か。では行くとするかのう……くふふっ」

 とにかく主の要望通り、雑魚共を散らすとしよう。

『八5飛車~』

『四3歩』


 あまりに暇なのでアリーナを呼んで『同調』で目隠し将棋開始。

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