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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第39話 男前な女将さん

ご指摘頂きまして、アグエラの『旦那』部分を『従業員』に訂正いたしました。

よろしくお願いいたします。

「それじゃあな」と輝かしい笑顔で去っていたゴンドラ使いのおじさんを見送ると、レーベルが私達の身体を魔法で乾かしてくれた。龍魔法の炎か。ブレスだけだと思ってたよ。


「これが結構便利なんじゃよ。その気になれば色んな姿形になれるしのう」

「その姿は?」

「一番自然な『人化』した姿じゃ。盛っとらんかな」


くきゅぅ~~♪


「アイドリー、お腹空いた~~」

「え? 今の可愛い音がお腹の音?」


ごぎゅるるるるっ!!


「我もじゃ」

「逆な意味でお腹の音本当に?」 


 暗くなってきた街並みに、ところどころ光が灯り始める。道端には机や椅子が置かれ始め、冒険者や商人達が酒や料理を飲み食いし始めていた。私達も宿屋地区でおじさんに別れを言ってすぐ近くの宿屋に入る。香ばしい匂いが拷問に近いので、さっさとご飯にしよう。


 とりま良さそうな宿を見つけさっさと入る。


「すいませーん3人で泊まりたいんですけどー」

「おう、らっしゃい」


 出て来たのは男勝りな喋り方をする女性だった。髪も短く逆立っており、身体も引き締まった筋肉が浮き出ている。笑顔が獰猛なのはチャームポイントだね。


「御1人様につき1日銀貨6枚だ。見たところ冒険のようだけど、金は平気か?」

「大丈夫だよ。とりあえず1ヶ月分取りたいんだ」

「い、1ヶ月!? 前払いだぞ! 大体の冒険者は1日ずつ支払うんだが……」


 そんなこと言われても、一々来る度に宿代払うとか面倒だよ?他の人はしないのかなそういこと?


「そんな長くは泊まれないんだよ普通は。商人は2、3日で王都を出るし、冒険者は1日泊まったら森で魔物を狩って銭を稼いでまた泊まるんだ。それぐらいこの王都の街の宿屋は高いんだ」


 まぁ確かにハバルの時を考えれば遥かに高い。けどねお姉さん。私はしばらく冒険者として働きたくないから、ミッチリ稼いでおいたのさ。なので金貨の入った布袋を出して見せる。


 中を見たお姉さんは、1ヶ月分の支払いが出来ると判断したようで、肩の力が抜け脱力した。


「私はそういうの気にしないから、とにかく宿を。そして美味しいご飯プリーズだよお姉さん」

「……はぁ、どうやらランクの高い冒険者のようだな。スマン、いいとこ初級の御登りかと思っていたぞ」

「しょうがないよ。女3人だし、レーベルはともかく私達は小さいしね」

「ああ。部屋は3人部屋があるからそれを使え。私は奥に居る従業員に飯作るよう尻を叩きに行かなきゃな」


 そう言って奥に姿を消し、何かを蹴り飛ばしたような音と、悲鳴をあげる男の悲鳴が聞こえて来た……うん、行こうか。



 部屋に入って荷物を降ろすと、レーベルが口を開く。


「主よ。先程の女どう思う?」

「元冒険者でしょ、間違いなく」

「つよいー?」


 強さで言ったらドロアとどっこいって感じかな。ただお姉さんの横の壁に立て掛けてあった戦斧がお姉さんの武器だと考えると、相当の腕利きなのは確かだろう。


「まぁ良いじゃん。さっさと下降りてご飯貰おう? あんなに強そうなお姉さんなら宿屋も安泰だろうしね」


 身軽になって下に降りると、宿屋の外に椅子とテーブルが並べられており、他の宿屋と同じような風貌に変わっていた。私達がそこに座ると、他の泊まっていた客達もぞろぞろと出てきて座り始める。


「おーお待ちどう。順々に出していくから待ってろよ。うちは料理が売りだからな!」


 ニカッと笑いながら、他の従業員と一緒にどんどん料理を配っていくお姉さん。


 置かれたのは、何かの皮に包まれた肉野菜料理だった。早速三人で齧り付いてみると、切れた皮の間から肉汁がドバッと溢れ出して焦った。


「んぐっ! ……あー吃驚した。この皮何かの内臓だね」

「うむ、溢れた肉汁が包まれている火の通った肉野菜と絡んで非常に美味じゃな。しかもこの皮も噛み応えが……コリコリしていて美味いのう。酒が欲しくなる味じゃ」

「そこの姉さん。そいつはアックスボアっていう魔物の内臓と肉を使ってんだ。王都の森に居るからな、狩って焼いて食っても肉汁が出てうめぇんだぜ」

「ほう、ならば是非狩らせていただこうではないか!!」


 何かちょっとした美食家みたいなことを仰るねレーベル母さん。お姉さんもノリノリだし。けど私も手も口も止まらないや。ボリュームもタップリで、私とアリーナはこれだけ満足出来そうだよ。


「ぷふー……えっぱい!!」

「私ももう一杯だぁ~」

「我はまだ足らん。女将よ!追加で3つ持って参れ!!後酒!!!」


 お姉さんは「あいよ!!」と応えるとすぐに下がって追加料理を持って来た、レーベルは酒を一杯飲むと、またガツガツと食べ始める。私とアリーナは果実ジュースを頼んで食休みをしながらチビチビと飲んでいた。


 周りに目を向けると、一様に酒呑み交わし、3日後の武闘会について誰か勝つか話し合っていた。しかも賭け事が入るから皆真剣な表情だね。


「アイドリー」

「ん?どしたのアリーナ」

「アイドリーに、賭けて良い?」


 ……武闘会の賭けってこと? 


 え、もしかしてアリーナさんや。それが目的でお金使いたいって言いだしてたわけじゃないよね? いや、悪いとは言わないけど。もしそれに嵌ってしまったら……馬券握りしめて全財産擦った人みたいにならないようにしないと。


「アイドリーにしか賭けないよ?」

「それでいいよ。けどほら、レーベルと戦うまではレーベルにも賭けてあげなよ? 酒飲みながら真顔でこっち見て怖いからさ」

「やだっ!! アイドリーが一番強いもん!!」

「くそぉ……確かに我では主に敵わぬだろうが、アリーナにもっと頼られたいのじゃ……」




「あっはっはっはっは、本気かよお嬢さん方!負けるに決まってんだろう!!」


 そんな話をしていたら、隣のテーブルからいきなり笑われてしまった。椅子には1人の大男がデカいコップで酒を飲んでいる。


「負けるって、どういうこと?」


 私が立ち上がってその男のところまで行くと、その男も立ち上がり、私を見下ろしてきた。純粋な自信を持って私を見下しているっぽいね。というか立ち上がった姿が更に大きく見える。私2人分の身長はあるよ? 横幅も3人分以上、腕の太さが私の胴体よりも更に太い。


「そんなの決まっているじゃねぇか。お前さんみたいな弱そうな奴が武闘会に出ちまったら、皆攻撃に躊躇しておままごとみたいな大会になっちまう」

「それは言えてるぜバルディ!! 触っただけでポキポキ折れちまいそうじゃねぇか! 娼婦の方が金を儲けられそうなぐらい別嬪なんだ。出場なんて止めとけ止めとけ!! 綺麗な顔が銅貨以下の傷顔になっちまうぜ~~?」


 周りから爆笑が起こった。はぁーん、これは皆知り合いかな。大方この王都で稼いでいる冒険者達ってところか。酒が入ってるから皆悪酔いしてるみたい。


「お前等、王都の冒険者ギルドで姿を見掛けなかったが、今日何してやがったんだ?」

「観光だけど?」


 素直に言ったら、また笑いが上がった。バルディと呼ばれた男も馬鹿笑いをしながら酒を飲む。


「ぐひーっ笑い殺す気かよ。武闘会に参加しようなんて奴が観光だと!? 舐め過ぎだろお前………まさか冷やかしじゃねーだろうな!? そこの青い嬢ちゃんも、こんな弱そうな奴じゃなくてもっと強そうな男に賭けな!! 嬢ちゃんじゃ賭けるだけ損だぜ。こんな風に潰されちまうからなぁぁあ!!!!」


 急に目付きの鋭くなったバルディは、背中の巨大なバトルアックスを手に取ると、私達が座っていたテーブルを砕いた。アリーナに飛んできた破片をレーベルは薄い火膜を張って消し炭にし、料理は片手で持っている。器用なことするね。

 そして私がまったく反応しなかったのを癪に障ったのか、バルデイは声を荒げる。いや、確かに馬鹿力なんだろうけどさ。私は今それどころじゃないんだよね。


『ステイ、ステイよレーベル。貴方が暴れたら王都が消し炭になっちゃうから』

『……うむ、任せい。我冷静。とっても冷静じゃから。拳一発で済む』

『うん、ダメだねぇ。アウトだねぇ。アリーナさん、レーベルの膝にインよ』

『ははうえ~?』

『むぅ……』


 自分が認めた主を悪く言われればまぁ嫌な気持ちなんだろうけれど、大丈夫だって。後で幾らでも挽回してあげるって。


「俺みたいな男でも、毎年予選で負けちまうんだ。それをお前みたいな小娘が参加して勝ち抜けるとでも思ってんのが気に入らねぇ!!大会が始まったら覚悟しとけ!!!」


 そう言い残して、ズカズカと宿屋に入って行ってしまった。


(よ、良かった……去ってくれた)


 もう本当にヤバかった。後数秒その場に居たら、レーベルの拳がバルディを黙らせようとしたことだろう。途中から『同調』して必死に止めてたから何とかなったけどさ。というか気付いてよ自分がとんでもない地雷を踏み抜いていたことを。


「主よ……武闘会であの人間を殺害しても良いか?」

「言い方怖いし殺すのは駄目。ほら、引き続きアリーナ撫でてな」

「……うむ」

「ママウエもっとぉ~?」

「え? 言い方変わったんじゃが? マイルドなんじゃが? だが撫でる」


 アリーナもずっと黙ったままだったけど、よく堪えたね?怒って妖精魔法の一発でも喰らわせるかなって思ってヒヤヒヤしてたし。


「アイドリーは凄いもん♪」

「全幅の信頼……っ!」

「感無量で咽び泣きとか大盤振る舞いじゃな主よ」


 まだクスクスと笑っている男達は放っておいて、私はお姉さんを呼んだ。その場を見ていたお姉さんは、申し訳なさそうにもしているが呆れた顔をしながら近付いて来る。壊されたテーブルの弁償をしないとね。


「さっきの男の言うことだが……まぁそんなに気にするな。奴は大会が近づくと、いつもああやって誰かを標的にして当たり散らすんだ。去年も私に当たってきた」

「お姉さん出てたの?」

「まぁな。王都で宿屋を経営しながら冒険者もやってるのさ。さっきの料理に使ってたアックスボアも私が狩った物だ」


 元冒険者かと思ったら現役だった。何でも宿の名前を売る為にそれまでは毎年出て居たらしい。商魂逞しい冒険者だなぁ。


「まぁ、私も毎年予選で落ちている側さ。今年は人の入りが多いから出ないが、その代わりお前達に行ってしまったようで……すまん」

「貴方が謝る必要なんて無いよ。テーブルの代金払うから元気出して」

「……すまん。テーブルの代金は後でバルディから取り立てるから安心しろ。さぁ男共!! いつまでも女を笑ってんじゃない!! 私が相手になってやろうか!!!?」


 男達は堪ったものではないと瞬く間に散っていった。お姉さん振り返って私と無理やり握手をした。


「私はアグエラ。武闘会、頑張れよ!!」

「……ありがとうアグエラ。私はアイドリー。全額賭けてくれたら絶対損はさせないよ?」

「それは怖いから止めておく」


 さいですか……




 しばらくすると、客も疎らになってきたので私達もお開きにした。レーベルもあれからずっと食べていたが、やっと怒りが治まったのか、今は酒だけを飲んでいる。アリーナは先に部屋に帰って寝てしまった。


 今は今日の仕事を終わらせたアグエラさんとテーブルを囲って飲んでいた。私は以前として果実ジュースを飲んでいる。二人からしてみれば私も赤子だしね。


「まったく、あの場で黙らせても良かったのではないか?何の為にランクを上げたんじゃお主……」

「あの場でランクを言ってもどうせ誰も信じないよ。下手したら偽造だーって騒がれてギルドで確認させられるなんて可能性もあったんだから、そんな面倒御免だよ。レーベルだって嫌でしょ?」

「そりゃあ我とて面倒じゃが……次顔合わせたら殴ってしまいそうじゃぞ我」

「その時は無理やり止めるさ。それよりアグエラさん。聞きたいことがあるんだけど」

「ん、なんだ?」

「武闘会の賞品についてなんだけどさ。それってどんなの?」


 アグエラはレーベルから新しく注がれた酒を一気に飲み干すと、指折りしながら言う。


「まず、賞品を手に入れるには本選に残らねばならない。その時点で一人金貨10枚が手に入るんだ。そこから一勝するごとに10枚ずつ増えていき、3位から毎年違う価値ある物と賞金が用意されている。そして、優勝者にはそれに加えてある資格が手に入る」

「それは?」

「国王に、直接願いを言えるんだ。叶えられる願いなら、何でも一つ叶えてくれる」


 私とレーベルは目を見合わせる。一番欲しいものが優勝賞品の一つだとは思わなかった為に、思わず笑ってしまった。どうやら早々に王様には会えそうだね。


「どうしたんだそんなに笑って?」

「あーうん。王様にお願いごととか出来たら最高だなって思ってさ。アグエラさんだったらどんなお願いする?」



 数分間額に汗を流しながら呻いて考えるが、出した答えはアグエラさんらしいものだった。

「……もっと大きな宿屋にしたい、かな?」

「私はお姫様を嫁に欲しいかな」

「それは無理だろ!!??」


 駄目なん……?

「私とはー?」

「我が貰おうぞ」

「アリーナは既に私の嫁だよ?」

「「……」」


その日は、夜遅くまで将棋勝負が続いた。

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