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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第38話 王都到着

 ある村に駐泊していた商人に聞いてみた。

「王都? やっぱり年に一回行われる武闘会かな。賭けも公でやってるから毎年盛り上がるんだよね。私も行くつもりだよ。息子にお土産買ってやらんとだしね」


 ある宿屋に滞在していた冒険者に聞いてみた。

「王都に隣接している森かな。あそこにしか居ない魔物も沢山出るし、素材も安定した価格で売れるから生活には困らないよ。宿屋の一泊は高いけど……」


 王都出身のとある貴族の娘に聞いてみた。

「なんと言っても素晴らしい景観ですわね。陛下の住む城なんて正しく建築美と言っても過言ではありませんわ」




「聞く限りだと、そこまで悪い印象は無い……か」


 どれも聞けば分かる程度の情報だなぁ。獣人についての話振ると全員目を逸らして口を閉じたし。もしかしたら箝口令が敷かれてるのかもしれないなぁ。


「ゆうや~けこやけ~の♪」

「あかと~んぼ~♪」


 アリーナとレーベルは、私の教えた童謡を二人でハミング混じりに歌いながら歩いていた。ハバルから出発してかれこれ1週間。いくつかの街や村を通り過ぎて、私達はそろそろ王都に着こうとしている。にしてもレーベルが童謡を歌ってるとこう……お母さんと言いたくなる。


 なんかね、アリーナを見ている顔が母性に溢れてるんだよね。ハバルで二人で買い物して以来、アリーナの面倒を見るようにもなったし。

 朝は私より先に起きてアリーナを起こしに行くし、戦闘になるとアリーナの傍から離れないし。食事中は口を拭ってあげてるし。今も一緒に歌って楽しそうだし。


 何が言いたいかと言えば、メッチャ羨ましいねん!!


「私も仲間に入れてお母さん!! 私ソプラノ得意だよ!!?」

「主のような者を育てた覚えないわ!! 得意パートも聞いておらんが!?」

「アイドリー♪ 一緒にうたお~?」


 いーや駄目だね。今日から貴方はお母さんだよ。今だってアリーナの頭に乗りそうだった葉っぱを事前に掴んで捨てたじゃないか。世話大好きかレッドドラゴン!!


「しょうがなかろう。何故かアリーナを見ておると見守っていたくなるんじゃ」

「キッパリ言うね。私もそうなんだけどさ。けど前までもっとこう、ワレワレしてたじゃん? 力無き者に生きる価値無しみたいなさ?」

「それはアレじゃよ。我は長年誰ともほぼ何も話さず生きてきたからの。同じ古龍種の奴も嫌いじゃったしな。だが、本来なら我もそろそろ子の一匹でも生む歳じゃ。そんな時にアリーナなんて見てみよ、愛い奴だと甘やかしたくもなるじゃろ?」

「番いを探すのは任せろーー!!」

「燃すぞお主!!?」


 ちぇっ、つまり、結婚適齢期で暖かな家族が欲しくなったけど、養子にしたいぐらい可愛い子に対して母性本能の湧いてしまった疑似お母さんが誕生した訳か。


 ならもう良いじゃん。母親やっちゃいなよ。どうせあと数千年生きるんでしょ?


「我はドラゴンで、アリーナは妖精じゃ。我がアリーナにそうしてやれるのは、我に余裕があるからに他ならぬ。それに、そもそも妖精には家族の価値観は無い。我はアリーナにとって良き友達であればそれで良いんじゃよ」

「こんなこと言ってますぜアリーナさん。どう思う?」

「レーベル……お母さん?」

「はうぁあ!!」


 ああ、レーベルが耳まで真っ赤になって悶えている。レーベルの美貌でそんなことしたら擦れ違う人達が前屈みになるから止めなさい。


「よし、アリーナ。今日からレーベルのことはお母さんって呼んでいいよ」

「わかったー」

「主よ勝手に決めるな!アリーナも了承するでない!!」

「お母さん、駄目?」

「娘よ、我を母上と呼ぶが良い」

「え、ガチじゃん?」

「ガチじゃが?」


 よし、懐柔されたな。そんな感じで本気でふざけていたら、水の流れる音が聞こえて来た。お、川があるね。これ伝ってけば湖に辿り着くだろうから、間もなく到着だね。







 王都ガルアニア。湖に浮かぶ巨大な門との先にある街や貴族街の奥にある城は、山を削り取り建設されている為、王都にあるどの建物よりも高くなっている。また湖の道を抜けたすぐ先には王都を代表する闘技場があり、連日賑わいを見せている。


 王都は一般地区、商人地区、冒険者、宿屋地区、そして貴族地区と別れており、特に貴族地区には専用の入り口がある為、城で出入りを許可された者のみが入ることを許されている。

 王都に隣接している森は冒険者達の腕を磨く格好の場であり、魔物達は山向こうから随時来る為、一年中討伐が行われているのだ。


 

 というのを、王都に入るまでの間、並んでいたおっちゃんに聞いていた。


「なんじゃお前さん、そんな成りして冒険者なのか?偉く別嬪だが、武闘会には出ん方が良いんじゃないかね?」

「え、あるの?」

「あるのって、知ってて来たんじゃないのか?後3日で始まるんじゃぞ?今日が確か締め切りじゃったしな。入賞すりゃあ良い商品も貰えるだろうが、毎回猛者共が集まるし、観戦して賭けをしてた方が良い。儂もそれが目的じゃしな。カッカッカ!」

 

 そう言っておっちゃんは門の中で消えて行った。へぇ、それは良い話を聞いたね。ちょっとその商品とやらには興味があるよ。


「レーベル、出ない?」

「むぅ……」


 レーベルは良い顔をしなかった。アリーナの頭を撫でながらぶっきら棒に告げる。


「人間など、鍛えたところでたかが知れているであろう?戦ったところでお主のような者とも出会えまい。お主が出るというなら考えてやらなくもないが」


 んーそれだとアリーナが1人になっちゃうんだよねぇ。初めての場所で1人にしたら大変なことになりそうだしなぁ。間違ってもそれは許されない……


「あ、そうだよ。アリーナ妖精になれば問題無いじゃん。人間の状態で危険な目に遭っても、その場で妖精になれば逃げ切れるし」

「それだと後で大変ではないか?」

「いくらでも言い訳は出来るよ。『隠蔽』もあるんだから。アリーナ、それで大丈夫?」

「手打ちは3日!!」

「おや商売上手さんだね。うん、大会終わったら沢山遊ぼうね」

「ういふ~♪ あ、後ね~~?」

「おん?」


 服をクイクイ引っ張りながら、ちょっと悪戯を思い付いたみたいなはにかみ笑顔を見せるアリーナ。珍しいねぇ、どうしたの?


「あのね、お金、使ってみたいの~」

「……ほう?」

「なんと」

 

 そういえば、アリーナに直接お金のやり取りをさせたことって無かったね。いつもは私かレーベルがそういうのやってたし、これは良い経験になるんじゃないかな。丁度良いお金の使わせ方を私は今さっき聞いたところだし。


 その内アリーナも、1人でお買い物したい年頃になるだろうしね。


「いいよアリーナ。それで、私とレーベルは武闘会に参加するつもりなんだけど、その間、アリーナはどうしてたい?」

「応援します!!」

「「よしきた」」


 それから30分後ぐらいに、やっと順番が回ってきた。兵士は感情を感じさせない表情で機械的に対応してくる。まぁ1日数百組相手してるんだからそうもなるか。

「身分証明を」

 私達はそれぞれのギルドカードを見せる。私のカードを見たところで私の顔を見返した。


「……Sランク冒険者の方でしたか。ようこそガルアニアへ。目的は武闘会ですか?」


 いきなり態度に生気が戻ったね。やっぱりSランクはそれなりに尊敬の対象になるみたいだ。私の顔見た瞬間に少し顔を赤らめたし。

「そうだね。それもあるし、ここの森の魔物とも戦ってみたくてね。で、もういい?」

「あ、はい…どうぞ」




門を抜けると、王都がその全貌を現した。私達はその景観に興奮せずにはいられず、感動の声をあげる。


「「おぉぉぉぉおおー!!」」

「これは……うーむ、人間とは良い物を作る」


 ガルアニアの中心に聳える闘技場を中心として建ち並ぶ街並みやその奥に聳える城の存在感が素晴らしい。カメラがあったら一週間ぐらい観光したいわ。建築物がアーチ状に繋がってたり、街中に湖から流れる細い川や、そこを通るゴンドラなども見える。


「これはさっさと参加申請して観光しに行こう」


 首を縦にブンブン振るアリーナとレーベル。多分森の方に行くの最後になるだろうな。武闘会が終わった後も城に行きたいし、出来れば城の中も観光したいし。


 正面大通りを抜け闘技場前まで行くと、その大きさに驚いた。これは楽に東京ドームぐらいの広さあるんじゃないかな? 多分魔法を使ってちゃんと補強してるからこそ建てられたんだろうけど、周囲の草の生え方とか木々の放置具合的に相当な年月が経ってるだろうね。


 入口に入ると、すぐ目の前に受付窓口があったので近付く。机の上には書類を入れる箱が置かれていた。そしてお兄さんがイケメンスマイルである。惹かれることは皆無だけど。


「ようこそガルアニアの闘技場へ。武闘会への参加ですか?」

「私とこっちで参加したいんだけど」

 私とレーベルの顔を見ると、1つ頷きお兄さんは用紙を2枚用意した。

「承りました。ではこちらの用紙に記入をお願いいたします」


 渡された用紙を持って、近くにあった立ち机でレーベルと記入していく。流石レーベル、人間の文字も完璧だった。


(えーと名前出身特技にランク一番の実績は何か、か。別に隠すものは何も無いよね)


 スラスラと書いてさっさと箱に入れてしまう。レーベルも少しして箱に入れ、これにて参加完了である。後は軽くお兄さんからの説明を受けた。


「当日はこの受付から番号の紙を受け取り、あちらの扉に入って頂きます。そこでグループ別けをした後、グループごとのバトルロワイヤルという形になります。これは毎年参加者が多い為ですね。前年度の本選に残ったベスト8の方は免除となっていますので、本選は前年度のベスト8+バトルロワイヤルで勝ち残った方となります。本選は毎年参加人数によって変わりますので、ご了承下さい。質問はありますか?」

「大丈夫だよ。ありがとうお兄さん」

「それは良かった。ところで今夜空いてますか? そちらの方も」

「冗談も上手いとはやるねお兄さん。それじゃ」


 即答で断りとっとと退散する。残念、妖精にイケメンスマイルは効かないのさ。


「あの男不憫じゃな。妖精を魅了しても無駄じゃろうに」

「ああ、やっぱり持ってたと思う? 魅了スキル」

 妖精の眼でステータスは見なかったけど、おそらくカナーリヤのギルド長、バヌアと同じ魅了スキルを持っていた筈だ。なんせ私達の後ろの女性冒険者の方々がキャーキャー騒いでたからね。


 あの手のキラキラスマイルが出来る人はどうやらそういう系のスキルがあると見た。一応気を付けないとね。妖精にそういう系の美的感覚で惑わすのは不可能だろうけどさ。


「ああいうのレーベルには効かないの? 私は妖精だからそれ以前の問題だけど」

「我よりも強い者であれば効くぞ」

「つまり効かないってことじゃん……」


 そんなん人間じゃ無理でしょうに……まぁ悪い男に騙されないという意味では良いけどね。


「アリーナは私にラブだもんね?」

「ラブラブ~♪」

「我ともラブラブじゃよな!!」

「うい~♪」

「おっと、トカゲ畜生さんが私の大事な親友に色目使ってるねぇ」

「我を母上と尊ぶ愛娘に集るハエの羽音が五月蝿いのぉ~~?」

「「……おん?」」

「おけんか……する?」

「「しませんごめんなさい」」


 私とレーベルの目線が物理的な火花を発しそうになりながら三人で歩いていると、観光用ゴンドラ乗り場に到着する。傘帽子を被ったおじさんが手を広げて出してきた。


「観光かい? 一人頭銀貨2枚だが、名所の説明もするなら銀貨もう一枚だ。どうするね?」

「お願いするよ。はい、銀貨7枚」

「あいよ。乗りな嬢ちゃん達」


 私達が乗ってゴンドラが発進する。一定の揺れを感じながら水を掻き分けるオールの音が耳に心地良い。


 それに合わせる様に、早速おじさんの観光説明が入り始めた。


「まずはあれだな。ほれ、多分行ったと思うが闘技場だな」

「さっき武闘会の参加申請してきたところだよ」

「ほう! そいつはまた恐れ知らずだな。なら知ってるか? 闘技場にはヒーローが居るんだぜ。王都の看板だと言ってもいい。名はバンダルバ、SSランク冒険者にして闘技場で最も気高く強い男さ。闘技場の歴史も古くてなぁ。ガルアニアは国の中でもかなり古い部類に入るが、どの国も、その年闘技場に出場した冒険者達に目を掛ける程有名なんだ。あんたらも、もしかしたらそうなるかもなぁ」

「へぇ……それは張り切って頑張らないとだね」

「ははっ! そりゃあ良い。応援させて貰うよ嬢ちゃん!」

 

 レーベルが詰まらなそうな顔になってしまっているので、私は次の名所に行くよう促した。城の方面を横に逸れる感じで進んでいくと、街を抜けて山肌が見えて来た。同時に、巨大な滝を目にする。


「次はあれだ。王都から流れる観光名所の一つ。アスバニの滝だ」

「おぉー」


 山の上に建つ城からは、絶えず大量の水が流れだし、山肌を伝って小さな湖が出来ている。その水が街を通って広大な湖に広がっていくみたいだね。滝はとても高い位置から落ちているので、半ば霧となって降り注いでいた。


「虹の橋が見えるだろ? この高い滝の高度で年中ああでな。『エターナルブリッジ』なんて名もある。湖の真ん中で小さな島と一本の木があるだろ?あそこでプロポーズをすりゃあ必ず成功するって云われもあって、恋人のデートスポットとしても人気だな」


 よくみれば、あっちを見てもこっちを見てもカップルだらけである。こういうところが城の近くにあるというのは凄いよね。


「アイドリーの眼みたいできれー!!」

「主の眼もエターナルじゃな」

「今はただのピンク色なんだから言わないで……」


 流石に虹色の眼は変だからね。普段は隠蔽で染めてるんだよ?


 滝から離れてまた街中を進んでいくと、次は貴族街に隣接したこれまた大きな建物だった。建物が円柱状で、ガラスもはめ込まれている。


「あれは、この街の知識を詰め込んだ場所、王立図書館。この国が保有する正に、眼に見える知識の財産だ」

「本があるの!?」

「ああ、沢山の伝記や技術書、魔法書が納めらてる。ただし入れるのは貴族や国お抱えの魔法士だけ。運営しているのは城に在住している魔法書士達であり、その代表者はこの国の魔法騎士団の団長様だ。冒険者が盗みに入ろうとしても魔法の滅多打ちに遭うから、近付く時は気を付けてな」


 いや、けどあの広さだと相当な数の本が入ってるよね? 製本技術がどうなってるのか分からないけど、少なくとも今まで見て回ってきた街や村には数冊ぐらいしか見当たらなかった。作り方も完全に手作りだったし。


「あそこは国の資産そのものだからそれだけ厳重なんだよ。だからこそ一般には見せられない。ゴンドラで回れる場所はこれで以上だが、どうだったね?」

「満足!!」

「そいつは良かった。さて、嬢ちゃん達、どこで降ろす?」


 もう夕方だ。早くしないと宿屋が埋まっちゃうだろうし、やっぱり宿屋地区に行こうとおっさんに告げると、ゴンドラは今まで最も早く動き始めた。



「そらそら、最高スピードで届けてやるぞ~!!」

「お、ぉぉお~~!?」

「おー早いではないか。こういうのもいいの~♪」

「れっつごぉ~~~♪」


 流れていく川の冷たさに冷えた風を感じながら、ゴンドラは激しい水しぶきをあげて驀進していった。

「「……」」

「きもちよかった~♪」


 激しい水しぶきに遭い、水の滴る良い女達が出来上がった。

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