第4話 初めてのレベル上げと誤算
あれから数年が過ぎまして、私も3歳になったよ。すっかりこの妖精郷の生活にも馴染んで、住人の顔もほとんど覚えたと思う。
それで結局、私はあの日以降1回も外には出ていない。あの時は運良く魔物に遭遇しなかっただけで、本当は死ぬほど危ないってノルンさんにも注意されたしね。そんなところまで来ていたアリーナの肝っ玉が太いだけで。
「というかアリーナ、もう出かけたりしないの?」
「しないよ?」
「なんで?」
「……アイドリーと一緒が良い、から?」
「コテッてされても可愛いよ? 頬摺りしていい?」
「かもんっ♪ んひゅぃ~♪♪」
なので私は外の魔物と戦える基準として、『人化』スキルの習得を完璧にしたらという条件を自分に課していた。
その結果、先日遂にその目標を達成するに至る。
ここまで結構長かったなぁ……すっごい楽しかったけれど。
アイドリー(3) Lv.1
固有種族:次元妖精(覚醒)
HP 100/100
MP 250/250
AK 11
DF 7
MAK 22
MDF 25
INT 7100
SPD 35
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存
スキル:歌(A+)剣術(C)人化(S)四属性魔法(D+)
ステータスは軒並み微妙に上がったよ。努力が数値に現れると嬉しいもんだね。スキルも剣術を覚えるぐらいまでは出来たし、四属性魔法はテスタニカさんに詠唱の基礎を教わったからちょっとは使える。前世に持っていた技能がスキルに反映されていない0の状態だからかな。少しずつ上達していくのが嬉しい。
『人化』に関しては、『妖精魔法』よりも徹底して鍛え上げた。覚えるのは最初の1年で出来たけど、問題無い程度にまで上げるのに2年掛かったよ。人ぐらい大きくなっても羽とか耳とか隠せないとだし。残念ながら一番目立つ髪色と瞳の色はどれだけ上げても変わらないけれどね。
言語は主要な単語と自分の名前、そして日常会話レベルの文章が書けるようになった。人と妖精じゃまったく文字の形が違うから苦労したけど、テスタニカさんの教育の賜物だね。
なんにしろ、これでようやく旅の準備の第1段階が完了した。なので今日は第2段階『レベル上げ』をしていこうと思う……訳だけど。
「本当にアリーナも来るの? 危ないよ?」
「行くの~~」
実は数年外に出なかった所為で、私は一歩この妖精郷を囲う結界の外に出ると迷子になるという情けない事態に陥っていた。そこでノルンさん辺りに着いて来て貰おうかなぁと思っていたら、アリーナが名乗りを上げたのだ。
私は危ないから待っていて欲しいと言ったんだけど、アリーナは聞く耳持たず私の腕を離さない。そういえば、私この3年アリーナから一度たりとも離れて過ごしてないなぁ。抱かれた腕の感触も慣れたものよ。目隠しされても香りで見つけられる自信があるね。
「うーん、嬉しいけど。アリーナを危険に晒したくないよ」
「むぅ……やだー」
「こんなに強情だったっけ?」
「まぁまぁ、私がアリーナを見ていてやるから許してやれ」
ノルンさんも着いて来てくれるそうなので、渋々了承する。アリーナは太陽の様な笑顔になって私を抱きしめて来た。ちくしょう可愛い、死んでも守るわ。
三人で一歩外に出ると、ノルンさんが直ぐに魔物の気配を察知した。スキルでもなんでもなく、本人の長年の感に近いものらしい。
「すぐ近くに数匹程居るようだ。気付かれないないように近付いてみよう」
妖精って飛んでいる音は聞こえないから、隠密行動にも優れてるんだよね。三人で物音をなるべく消して魔物の姿を見ると、2匹の魔物が1匹の魔物を食べていた。あれは本で見たな。早速ステータスを『妖精の眼』で見る。
名無し(1) Lv.2
種族:ゴブリン
HP 210/210
MP 11/11
AK 45
DF 31
MAK 4
MDF 8
INT 12
SPD 24
【固有スキル】無し
スキル:棒術(F)
うん、弱いね。大きさは成人男性の肩ぐらいまでの身長かな。ゴブリンは基本的に短命だそうで、色んな魔物にやられるらしい。けど複数になると戦い難く、素人が単体で相手にすると苦戦するんだって。なにせ数が多く、仲間を呼ばれまくると収集が付かないんだとか。
つまり、出会ったら速やかにサーチ&デストロイだね。
私はノルンさんと目配せした後、静かに食事中のゴブリンに後ろから近づき、『妖精魔法』を発動した。イメージは風の槍を2本。どちらも鋭さを意識して………射出ッ!
「っぎぃ!」
「ぎぷっ!!」
無防備のゴブリンの頭を見事に貫く。気分は魔法使いのアサシンである。
「うむ、初戦闘初勝利おめでとう。ゴブリンは単体ならば弱いが、グループだと厄介な奴等だからな。よくやったよ」
「戦闘というか不意打ちだよね。最初だから良いけど」
「アイドリー強しー♪」
『ピロン♪』
「ん?」
「どうした?もしやレベルの上がる音が聞こえたか?」
「ああ、これレベル上がった音なの?ゲームみたいだね本当に……」
まぁステータス機能があるんだから不思議でも無いのか。この世界だって神様が作ったものなんだろうし。色々と私の居た世界と違って遊び心もあるんだろうと勝手に考える。人生的にはこっちの方がイージモードだよ私にとっては。
「折角上がったんだ。確認してみたらどうだ?」
「だね、そうする」
スキル補正でどれだけ上がったかも気になるし。
アイドリー(3) Lv.2
固有種族:次元妖精(覚醒)
HP 450/450
MP 2530/2530
AK 65
DF 83
MAK 920
MDF 856
INT 7100
SPD 221
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存
スキル:歌(A+)剣術(C)人化(S)四属性魔法(C+)
「……んぇ!?」
上がり……過ぎじゃない!? え、怖い。
スキル効果と覚醒の重複でこうなったとしても上がり幅がおかしい。たった1レベルでMAKが900とか上がってるんだけど。今後もずっとこんな感じで上がってくのかな? MPも凄まじい上がり方だ。
「どうした?何か問題か?」
「問題、というか……上がり幅がおかしいんだよね。レベル2でMAKがノルンさん越えてる……」
「えっマジ!?」
ノルンさんも驚愕の表情になる。口調が戻ってるよ。レベル100越えの人のステータスを越えたらそりゃあそうなるよね。申しわけない気持ちで一杯だよ私。
「んん!……そう、か。なるほど、覚醒者という者はそれほど強くなる素質があるのだな。ならば僥倖。強い魔物を狩りまくりどんどんレベルを上げてしまおう。旅する上では、どれだけ強くなろうとも足りないからな」
私の成長幅に恐怖することなく提案をしてくれるノルンさんにマジ感謝です。
「アイドリー、最強になる?」
「なったる最強!!」
それからどんどん魔物のランクを上げていった。ホーンウルフ、オーク、トレント、ブロウサーペント、エルダーゴーレム、タイラントワーム、ワイバーン、キングレイス、ドラゴンとありとあらゆる魔物を倒していく。というかこの森と草原、魔物の種類多過ぎない?
「ここは人間にとって秘境と呼ばれるような場所だからな。私や女王様でも歯が立たないような種も多く存在する。アイドリーが戦って来た者達にも居たぞ。タイラントワームとかワイバーンとかだな。まさか『妖精魔法』無しで倒すとは思わなったが」
そう、私はついでに人としての戦い方の練習も行っていた。ノルンさん達は人化出来ないから、人化している際の訓練相手って居なかったんだよね。だから剣での戦いも魔物で練習出来たし、人が使う魔法も実践でどう使えるか検証出来た。この部分は大きな発展だね。
けど、その度ステータスを見ていると憂鬱になるんだ。
アイドリー(3) Lv.483
固有種族:次元妖精(覚醒)
HP 5960/5960
MP 85万2510/90万4032
AK 3210
DF 2546
MAK 2063万2164
MDF 1955万8799
INT 7100
SPD 5万2793
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存
スキル:歌(A+)剣術(B+)人化(S)四属性魔法(SS)
テスタニカさん何人分の強さなのかな、これ……
「もうここら変の魔物相手ならデコピンで倒しちゃいそうだねこれは……」
「途中から剣が折れて肉弾戦だったしな」
「べきぼっき~♪」
鉄製の剣は私の攻撃力について来れず見事に折れちゃったんだよね。しょうがないので試しにワイバーンを殴ってみたら、鱗どころか胴体が弾けた。返り血だらけになった私を見て、アリーナに「火の妖精さんにジョブちぇんじ~?」と言われたのが一番凹みました。
「ここまで強くなったのだし、もう良いだろう。しかし1日でレベル上げを終えられるとは思わなかったから、すぐに次の段階に進めるな。むしろこっちが本番になりそうだ」
「ですねー」
「何するのー?」
何をするか。それはスキルの取得である。取るべき物は二つ。『隠蔽』と『手加減』。隠蔽はステータスを誤魔化す為に。そして手加減は有り余る力を制御する為だ。
握手した相手の手を握り潰しでもしたら洒落にならないし、火種を起こそうとして爆炎を巻き起こしたら事だからね。
「嬉しい誤算だったけど、ある意味で人の世界では注意すべき事が増えてしまったのが難点だな」
「まぁ死ぬ危険が無いだけ良いと思うよ。アリーナ悲しませたくないしね」
「それが理由なのか……」
むしろこの3年それだけを原動力にして頑張ってきたんだよ?
3年間の間あったアイドリーとアリーナのやり取り
テスタニカさんの修行→「アリーナー蜜アイス~」「うい~♪」
ノルンさんの修行→「アリーナー蜜ジュース~」「あい~♪」
寝る前の語学勉強→「アリーナー抱き枕~」「ばちこい」
テスタニカ&ノルン(アリーナなんで嫌がらないんだろう?)