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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第三章 レッドドラゴン討伐
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第37話 静かな朝は訪れない

 結果から言うと、全てを有耶無耶にしてしまった。あの後夜中までコンサートは続き、最後には全員酒を飲み明かし、どんちゃん騒ぎをしている最中に抜けて来たってね。


 レッドドラゴンはコンサートの間に職員達が解体し、商人にどんどん売っていっていたので、数時間もすれば血も含めて跡形もなくなっていた。その時にドロアが私を止めようとしてきたが、即座に殴り飛ばして続行しちゃった。アンコールが止まないからしょうがない。


 フードももう、ハバルで被ることは無い。もう被っている理由も無くなったし。少なくともこのハバルでは誰も私に喧嘩を売ったりもしないだろうし。他の街や王都でも、絡まれたらギルドカードを見せてしまえば黙るだろうさ。


「ただいまー」

「おお、遅かったな主よ」

「おはうぇい~」

「あれ? 何で起きてるの?」

 夜中の時間なのに、布団に潜っていない二人に私は驚いてしまった。ドアのすぐ横には、頼んでいたであろう荷物の山が置かれている。ちゃんと買い物は出来たみたいで良かったよ。


 で、アリーナさんへにゃへにゃだね。本来ならとっくに夢の中に旅立ってるのに。


「我は明日で良いと言ったんじゃぞ? だがアリーナがどうしても今日渡して置きたいと聞かぬから、こうして待っておったのじゃよ」

「いや、別に良いんだけど。どうしたのアリーナ?」

「こぇ~……」


 呂律の回っていない口で眼をトロンとさせながら、白い手の平サイズの箱を差し出してくるアリーナ。なんだろう?とりあえず受け取る。


「今日、アリーナが見つけた物でな、全員分あるんじゃよ」

「あけて~」

 もう既に寝そうでほとんど目が明いていないアリーナの指示に従って箱を開けると、


「……これって、ブローチ?」

「パーティの……あか……しゅぃ……」

「ぬお、寝落ちたか」

「アリーナ……」


 そこでパタンとベッドに倒れてしてしまった。静かに寝息を立て始める……ブローチは、妖精が宝石を持ったような形をしていて、宝石はピンク色をしていた。レーベルは他の二つのブローチをみせてくる。それぞれ青と赤の宝石を持った妖精だった。


(……なんで一般の屋台のお兄さんが妖精を知ってるんだろう)


 確か王族ぐらいしか存在は知らない筈だったんだけど……まぁ長い歴史だし、どっかで人伝に伝わっているところもあるのかな……?


「これを『妖精の宴』のシンボルにしたかったらしいぞ。だから皆でお揃いを、とな。その時のアリーナの顔が想像出来るか主よ?」

「あー……うん。さぞ眩しい笑顔だったろうね」

 苦笑いで肯定するレーベル。私はアリーナを仰向けに寝かし直し、上から布団を掛けた。はは、成し遂げた顔しちゃってまぁ……


「ホント、最高の相棒だなぁ」

「羨ましい限りじゃよまったく。ほれ、これも渡しておくぞ」

「ん? おっと」


 レーベルが一本の剣を私に投げ渡してくる。って重いなこれ! !いや、持てるけどさ。地面に落としたら下の階まで貫通するんじゃないの?


「かなり頑丈な魔剣の類らしい。それなら我みたいな者が相手でない限り折れはせんじゃろ?」

「わ、わかったよ。ありがとね」


 大量の荷物と供にとりあえず収納しておく。こんなの持って歩いてたら歩き難くてしょうがないし。


「それで、予定通り明日出るのかのう?」

「そのつもりだよ。ああ、フードはもう被らなくていいよ。隠す気無いから」

「わかっとるよ。様子は把握しておったからな」

 えっ……ああ、同調してたのか。だったらあの泥酔しまくった人達も見てたのかな。この子も人間に色々確執持ってそうだから、新しい嫌な部分覚えなきゃ良いんだけど……


「じゃあ寝よっか。明日は早いよ。おやすみ」

「うむ、おやすみ主よ」

「おはう……い」

「「……クスクス」」


 寝言で応えてくれる親友の頭をそっと撫でると、私達は布団に入って目を閉じた。




「……くぁ~……ぁ」


 はい、おはようございます。推定朝の4時です。今日はバレないようにこの街から脱出しなきゃなりません。昨日あれだけ衝撃のコンサートをやってしまったからね。どれだけの人間に追われるか分からないんだよね。


「レーベルー、朝だよー」

 犬のように丸まっているレーベルの肩を揺すると、これまた犬のように伸びをして起き上がる。その恰好でそのポーズはヤバい。顔を色んな場所に埋めたくなるね。


「…んぐっ……むー、おはよう……主よ。よく起きれるものだな」

「習慣ってやつかな。ほら、アリーナも起きて起きてー」

「むいー……アイドリー、おはよ~~」

「おはよう。顔洗おうか。水よ、流れ落ちて……って、顔面受けか。その洗い方はどうなん?」

「あばばばばば~~~♪♪」


 四属性魔法で水を桶に溜めて、一人ずつ顔を洗っていく。その間にレーベルが火属性魔法を使い部屋を明るく照らしてくれた。お礼を言って皆でいつもの服装に着替える。


「アイドリー、アイドリー」

「ん?」

「えへ、えへへー」

「なんだなんだ………ああ、あれね」

 昨日内に掛けてある三人のローブにそれぞれブローチを付けておいたのだが、それを見たアリーナが私を呼んで指差してきた。すんごい嬉しそうねアリーナさんや。頬が落ちそうだよ?


「これからはあれが私達の制服だよ。『妖精の宴』というパーティに誇りを持って行こうー」

「「おー」」

「じゃ、逃げよっか」


 静かに宿屋を出て、早歩きで街の門へ向かう。まだこの時間帯だと通常なら空いてないけど、既にダブルさんに話は通してあるので、私達が言えば開けて貰える手筈となっている。

 門の前まで辿り着くと、門兵が既に開ける準備をして待っていてくれた。勿論私の知ってるいつものおっさんだ。


「よう、話は聞いてるぜ。人気者は大変だな」

「お勤めご苦労様。まぁ少なくとも数年の間は来ない……多分、来ないと思うから、精々ドロンさせて貰うよ」

「ああ……気を付けてな」


 門兵がそう言って門を開く為のハンドルを回し始めた。数十秒もすれば通れる分ぐらいの隙間が出来るだろう。


 にしても門兵、今日はニヤニヤしてどうしたの? 何か良いことでもあったのかな? まぁ祭りの余韻が残ってるのかもだけど。私もなんだかんだ楽しかったしね。


「主よ、何やら……門の外に沢山の気配を感じるぞ?」

「沢山の気配? 門兵さん一回止めて、魔物かもしれない」

「大丈夫だ嬢ちゃん達」

「え?」

 門兵は取り合わず、以前としてニヤニヤ顔でハンドルを回していく。なんだ?もしかして待ち伏せとかされてるのかな?一応私は剣を取り出していつでも抜ける準備をして二人の前に立つ。レーベルの後ろでハルバードに手を掛けた。




 最初に見えたのは、大きなアーチ。そこには、『アイドリーファン倶楽部一同』という文字がデカデカと書かれていた。次に、その周りに居る人達。全員少なからず見覚えがあった。言わずもがな、コンサートに参加していた者達である。


(そんな……何で……?)


 どうしてこの時間に出ることを知られていたんだろうと考えるが、しかし私がこの時間帯に出ることを知っている人物など知っているだけで三人だけである。おっさん共め……リークしたな……

 住人達は私の顔を見た瞬間、どこからともなく拍手が鳴り始めた。そして、例の3人がその間から出て来る。

「まったく、冒険者の守秘義務ってなんだろうね……」

「良いではないか。素晴らしい門出じゃと思うぞ?」

「デジャヴュ!!」

「どこで覚えたのそんな言葉……」


 おっさん達は私の前に立つ。まったく、昨日あれだけ無礼講で酔い潰れるまで飲んでたっていうのに、まさかこんなサプライズを用意して待ってるとはね。


「すまんな嬢ちゃん。どうしても街の恩人に皆でお礼が言いたいんだってよ」

「……ふんっ」


 ドロアが頭を抑えながらしてやったりな顔をする。まったく、今だけは殴るの我慢してあげるよ。腹パンしたらきっと汚い何かを吐き散らすだろうしね。次会ったらまず腹パンだけど。


「小娘よ。商人達も世話になった。ありがとう」

「いいよヒルテさん。私も結構お世話になってし。貴方が商人達に私を信じるよう根回ししてくれたの知ってるんだから」

「む…そうか」

 ヒルテさん。なんだかんだこの人には良くして貰ったんだよね。他にも護衛依頼の達成報酬に色を付けたりしてくれたし。


「すまなったなアイドリーよ。ドロアの奴を止めきれんかった……」


 ションボリしてしまっているダブルさん。貴方は今回一番辛い決断をした被害者だと私は思うよ。辛い中間管理職だったしね。お疲れ様です。


「それで、後ろのアーチの……あれは?」

「あれはお前の昨日のやつでファンになった奴等だ。言っておくが参加した奴の9割は居ると思え。お前さんのその尋常ならざる美しさと強さに惹かれちまったんだとよ。商人も新しく取り扱って街から街へと広げていく算段らしいぜ。な、馬鹿だろ?」


「馬鹿っていうか止めないアンタらが一番の馬鹿だよ!!」


 うぉ~失念していた。前世でも人間にとってアイドルの影響力が結構高かったことを…妖精郷じゃそんなの気にする子達じゃないからすっかり忘れていたよ。


「そう悪く言うなよ。それぐらいお前さんのやったことは皆の記憶に刻まれたのさ。胸張って旅立てや」


 そう言って、三人は道を開けた。私達はアーチを潜ろうと歩き始める。向けられる視線に、最早悪意は存在していなかった。

 思い出されるのは、パッドさんから始まった一連の騒動。よくまぁ巻き込まれ果てたものだと自分でも思う。いくらランクを上げる為とはいえ、無茶もした。だけど遠回りかと思えばはそうでもないのは確かだ。アリーナともっと絆が深まったし、レーベルという心強い仲間も出来たのだから。


 アーチを潜り抜け、私は振り返った。



「街の皆も、ファンになってくれた皆もありがとう。また会える日まで!!」

「「「おげんきでぇえぇええええ~~~~~!!!」


 男の大号泣はみっともないぞ、ファンの諸君………



「最後まで我々の騒動に付き合い、解決していくとはな……不思議な娘であった」

「これで後は、あの嬢ちゃんが王様に会ってどうなるかだなぁ……」

「生きておればそれで良い……」





 アイドリー達が街を出て少しすると、その反対側から馬車が一台走って来ていた。白塗りの台車を白馬に引っ張らせているその室内に、1人の少女が座っている。

 見れば、銀長髪に隙撮った蒼い瞳で、白の衣を着たその人物は、ハバルにどうしても行かなければならなかった。予言で見たとある少女に会う為に。

「時間が無い…早く…早く……」


 今か今かと身体を揺すり、落ち着かない様子のその少女は、何かに追われているかのような焦燥感に苛まれていた。

「早く……早く、会いたい……妖精の女の子に……っ」

これにて第三章は終わりとなります。

次回は一章~三章までの登場人物、スキル等の紹介も載せます。

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