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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
最終章 貴方と私の物語
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第268話 いつか来る未来の為に

「ふぅ……完成したのう」


 広い室内の中で、完成した自身の絵を見て満足そうにほっこり笑う。芸術家として最高の誉れ、王の自画像を完成させたルビリットは物悲しさを感じる。


 折角この仕事をくれた大恩人に、ラダリア再建の手伝いもさせてくれたあの妖精に見せられないという悲しさ。これが私の絵だと笑って言ってやれないやるせなさ。溜息も深く、寿命を延ばしたくなってしまう。


「まぁ、とりあえず報告しに行くとするかのう。君達はどうするね?」

「「「行く~~♪」」」


 モッフモフになってしまった身体に住み着きつつある妖精達もどうにかせねばと思うルビリットだった。





「じゃあお披露目ですね」

「……するのでございますか?」

「勿論ですルビリットさん。貴方の功績はこのラダリアの歴史に偉人として刻まれる予定なのですから」

「お、恐れ多いのですじゃ」


 ルビリットに連れられて絵画を見に来たフォルナは、満面の笑みで押せ押せしてくる。これだけ大きな絵を単身で描き上げたのもそうだが、こんな短期間で仕上げてしまったルビリットの技術力に感服しているようだった。


 それこそ孫と同い年ぐらいの年齢なので彼はタジタジだが、その感覚で来られると断り切れないのだ。


「ところでルビリットさん。過去に描き上げた作品はどの程度ありますか?」

「えっ……はぁ、まぁ大体200程は。家の地下に眠っておりますが」

「では個展を開きましょう」

「陛下ッ!!?」

「「「ナイスアイディーア♪」」」


 結局ルビリットは人員を大量に派遣され、家の地下から数多の作品を持ち出され、大掛かりな個展会場が設営され始めてしまった。場所は大屋台の真横らしい。


「とんでもない事になったねおじいちゃん」

「そうじゃのう……今になって有名になる機会があるとは思わなんだ」

「……終わって死んだらやだよ?」

「はは……お前が大人になるまでは、何とか生きるさ、ラピス」



 娘にも祝われたので、粛々と進んだという。







「ん~~」

「でけないね~~」

「そやね~~」


 コキコキと首を鳴らし、全体を見ながらクルクル回るアリーナとコーラス。今日も今日とて研究室で開発に明け暮れているが、どうにも最後の仕上げが上手くいっていなかった。土台は完成、術式も刻み込んだ。テストもしてみたが普通に使う分には問題無かった。失敗も無いのは流石である。


 だが宇宙を超えるには足りない物がある。アイドリーの過去に行くにも必要なそれを、アリーナは持っていないのだ。というか何かすら分かっていなかった。



「あーその、因果だったか?それって要は俺達が誰もが持っている物なんだろ?」

「訳分からん。色んな事象の要因やら哲学的な範疇を魔道具学に取入れるってどうすりゃ良いんだ……」

「そもそも魂ってのはそんな簡単に切ったり合体させたり出来るのかしら?」

「妖精なら可能なんだろうさ。とにかく俺達に出来る事はもう何もねぇ……」



 獣人達はこう言うが、ぶっちゃけた話、此処から先は『妖精魔法』という人間には理解不可能な範疇の話となる。イメージの具体化とは、何処までも自由。何処に終着点を置くかが重要となるのだから。


 負担や代償さえ考えなければ破格の力なのはクレシオンが言った通りだが、想い、感情といった部分、記憶の差異を固定する魂の存在を肯定しなければ、『妖精魔法』はどう足掻いても発動しない。


 更に因果とは結果と原因の巡りというだけでなく、時間を結び付かせた『終着した運命』なのだ。



 だからこそ、世界を超える為にはアイドリーの過去に関係する因果が必要だった。だが肝心のアイドリーが居ない。アリーナ達はそこで代用品を探すが、これが今難航している物の正体である。



 今も後ろで諦め気味なやんややんやと議論を交わしている研究者達の端っこで、アリーナはこれまでの事を思い出し何かヒントは無いかを探す。



 アイドリーが残した物。アイドリーに近付ける物。アイドリーの『魂』という因果が決定してる物……



「……」

「……んぇ?」



 コーラスの顔が目に入った。


「コーラス、おでこ貸して~~?」

「はいな~~♪」


 コツンっと互いのデコを当てると、アリーナは『妖精魔法』と『同調』でコーラスの中にダイブ。ものの数秒で解析を終える。


「……コーラス、お手柄だよッ!!うりうり~~♪」

「んふふ~~なら良かったの~~♪」

「おい、何か解決したっぽいぞ」

「いつも通りだな」

「ですね」






 久し振りに休みを取ったアリーナは、仕事を終えたというルビリットの自宅に来ていた。ラピスも居たので、抱き締めて椅子に座る。ラピスの上にはコーラスが埋まっていた。


 久しぶりのアリーナ達の顔を見れてルビリットは破顔しながらお茶を出す。


「久しぶりじゃなぁ。最近元気になって研究に励んでいると聞いていたよ」

「心配掛けてごめんなさい……」

「ありがとうおじいちゃん♪」

「うむ。それで、今日はどうしたかね?」

「あのね、アイドリー描いて欲しいの。ラダリアの時みたいに」

「ほう……それなら既にあるぞ?」

「本当っ!?」


 ルビリットは度々訪れるアイドリー達の少しずつスケッチしており、ラピスと戯れている全員集合の絵を描いていた。その段階で1人ずつの絵も製作しており、特にアイドリーやアリーナは妖精なので、どちらの姿も描いていた。


 早速見せようと持って来たそれをアリーナ達はビっと見る。ラピスも参考になるのか「やっぱりおじいちゃん凄い……」と言葉を漏らす。


 実際そこに描かれたアイドリーの躍動感は凄まじく、今にも動き出しそうな程だった。しかもこの絵、『隠蔽』無しのアイドリーなのだ。


「職業柄かのう、眼は良いのじゃよ。だから『隠蔽』されておらぬその子の姿を、どうしても形にしてみたくて……それでも、儂にはそれが限界じゃった。正に人の域を超えた存在じゃなぁ……」

「おじいちゃん……これ、貰ってい~い?」

「ん、勿論じゃとも、その方が絵も喜ぶ」


 そう言うと、2人に抱き付かれて大好きの洗礼を受けたルビリットだった……







 かの獣人氏族達は、猛烈な仕事量に忙殺されているフォルナと、その文官を城内の会議室に呼んでいた。


 タイミング的には遅いぐらいだが、彼等も自らの氏族を纏める時間と、新しいラダリアを肌で感じる必要がある。そういう時間をフォルナから設けて今に至り、彼等は今の現状に答えを出したのだ。


「皆様、改めてラダリアへの御帰還を果たされた事、誠に嬉しく思います」


 ペコリと一礼するが、その姿はやはり彼等が奴隷となる前の少女とは似ても似つかない威風堂々とした佇まいをするフォルナ。


「……陛下、と呼ぶべきなのかもしれぬが。我々はまだ古い仕来りに縛られたままの老人達だ。昔の様に呼んでも良いかね?」


 熊氏族の新族長が、遠巻きに『まだ女王とは呼ばない』と意味を込めて柔和に言うが、フォルナは「ええ、勿論です族長殿」と軽やかに切り返す。


「ふむ、ではフォルナ殿。貴方は我等が歩んで来た歴史を全て捨てさり、新たな道を歩もうとしている。数多の種を受け入れ、我等獣人氏族という垣根を超えた先、全ての心ある生物の交流という道を」

「その通りですね。私達獣人の歩んで来た歴史から見ればまるっきり背を向けた状態になると思います」


 それは人間排他主義の世界。必要最低限の貿易以外は決して隙を見せない敵対行為。互いを嫌悪し、いがみ合い、冷戦を続けて来た歴史。


「時には我等の技術を狙っての戦争もあった。その度に勝利したものだがな……」

「今もしていますよ?戦争」

「なに?」

「競争社会。商売をする上で、人が繁栄する為に最も利用する方法です。どれだけ繋がりを持ち、供に繁栄を極められるかの戦争なのです」



 人はどう足掻いても争わなければ生きていけない。闘争という狂気は何時でも何処でも生まれるし、自然界にそっぽ向けられれば他人の領地に踏み入って略奪もするだろう。時には快楽で国が暴走するかもしれないし、人が増え過ぎて口減らしをするかもしれない。


 そういった時の為に、新事業を立ち上げ続け、開拓を続け、誰にも負けず、あらゆる者を受け入れヒエラルキーに取入れる国があればどうなるか。


「それは正しく最強と言えます。あらゆる文化を手に入れ知る事は益となりますし、技術の流出は新たな技術を生み出す。供に成長し繁栄すれば、世界の不和は限りなく減少していく事でしょう」

「……それは理想ではニャイのか?」

「そう、理想です。人はそんなに簡単に自己以外の為の利益を優先する事は出来ない。何故ならそれが人間だったから。しかし今の私達ならば出来ます。このフットワークの軽い且つての仕来りを利用すれば……夢では終わりません」


 氏族とは、種族が特定の人数まで居れば名乗れるシステムとなっている。ラダリアでは氏族事に独自に動く事が可能なので、例えば行商人を中心としていればあらゆる国へその氏族内で勝手に利益向上の為に国の名を使って支援も援助も可能になる。


 その分、国自身に負担が行くがそれがラダリアへの損にならない限りは、王は決して口を出さない。


 そしてその基準で行くと、妖精達も、ニグリグ族も、徐々に移住して来ている人間や精霊も、皆が氏族を名乗れるのだ。


「妖精や精霊の行動範囲はこの世界の中では果てがありません。彼等は行きたいと思ったら迷わず行商人の積み荷に隠れますし、困った事が国単位であっても幸福の下に解決してしまうでしょう。しかも氏族なのでそれはラダリアの預かりです。功績だけが増え続け、問題がどんどん解決され、世界はラダリアと同じ道を歩む事でしょう」



 それはアイドリーが生んだ新たな概念、妖精の在り方に起因する考えだった。人と供に生まれ、成長するこれからの時代。あらゆる場所で『妖精魔法』は発動し続ける事だろう。



 そうなった場合、例えどれだけの悍ましい出来事が起こったとしても、人間が間違いを起こしていようとも、その相方である妖精達が必ず正してくれるし、妖精同士のネットワークはそれこそ世界を股に掛けて繋がって行く。


 最早国という概念すら危うくなるだろう事は明白だった。だとしても、



「その先駆けがラダリアなのです。遥か昔、この世の全ての生き物が供に暮らしていたあの時代を、今度は私達で創り上げる時が来たのです。その為の時間を、我々が、私の世代が目指します」



 栄光の道は1人の為ではなく。全世界の共有財産とする為に。


「氏族長達よ。此処に集うのならば自らを縛る事をお止めなさい。王になりたいなら…………私様が全力で相手にしてやるからよ」



 燃え盛る8本の尾とギラつく眼は、老練に研ぎ澄まされた戦士達を射抜く。誰もがその覇気を感じ、フォルナの本気を受け取り頭を垂れる。



 そして女王はいつもの調子で始めるのだ。



「……ふぅ。では改めて会議を始めましょう。文官、報告を」



 この国の明日を作る為に、今日も今日とて全力で。

「しかし……育ちましたなぁ」

「本当にニャァ……」

「息子と婚約させたかった……」

「おう糞爺共、消し炭にされてぇみてぇだなぁ?」


 ストレス発散はその場で済ますフォルナだった。


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