第32話 討伐報告
帰って来ました数日ぶりのハバル。道中平穏なだけあって色んな話をレーベルから聞いていたよ。なんせ彼女は1000年生きているからね。この大陸の歴史や文化の色模様をこれでもかって物語形式にして貰ったので全然暇はしなかったよ。唯一の問題は、道中遭遇する魔物が、レーベルが睨むだけで逃げてしまう事だね。売ってお金にしたかった……
「ほう、ここが主の言っていたハバルという街か。人間の街など何百年か振りかじゃが、変わらぬものよなぁ」
「若干3歳の私達には分からない感覚だけど、そこまで変わらないの?」
「うむ。建て替えなどはあるじゃろうが、年代籠った家々等は歴史があるからの。災害や厄災が起きぬ限りそのままじゃよ」
ということは、この世界の生活文化はかなり緩やかでほとんど変わらないってことだよね。数十年で急速に生活水準を高めていた私の居た世界の歴史とはそもそもの基準が違うけど。
「それじゃあまずは冒険者ギルドに行こう。レーベルの皮の納品とか依頼達成の報告をしないとだからね」
「ぬけがらー」
「我の皮を道具にするとは、贅沢な奴等よのう~」
「レーベル1匹で街1つ動くからなんとも言えないよねぇ……」
意気揚々と冒険者ギルドに入ると、今までに無いぐらいの活気に溢れていた。というか、カナーリヤでみた時の光景そのままだね。これが本来のギルドの姿なんだと思うと、私のやってきたことはちゃんと繋がってくれたみたいだ。
といっても、この受付に並ぶ長蛇の列をどうにかしないといけない。ん~長いな。おっさんも若者も入り乱れて揉みくちゃになっている。汗が飛び散って輝いてるけど全然綺麗じゃないね。きちゃないね。
「主よ。我はあのむさ苦しい者共の中に入るのは嫌じゃぞ」
「私も嫌だよ。だからアリーナ行っちゃ駄目だって」
「ふぇ~? ……楽しそうなの!!」
「考えた結果の言葉がそれか。お嬢際が宜しい。ゴー。アリーナの皮は支えとくから」
「やふぃぃ~~~っっ♪♪」
「結局行かせるのかお主……」
アリーナ(人化)の頭から本体がポンッと出ると、冒険者の波に突っ込んで行った。
無理無理、アリーナさん神経図太過ぎだからね。私が倒れた時もレーベルの前に立ちはだかって守ろうとしたし、いや、その時のことを知った私は愛が溢れたんだけどさ。
んー、とりあえず酒場で人が減るまで待ってようかな。アリーナが皆の頭の上をトランポリンみたいに跳ねて楽しそうだし。って―――
「ん、おぉぉおおおアイドリー戻ったのかってお前なんで増えてんだ!!!??」
(本気で殴ってやろうかなあのギルド長……)
(ドラゴンが消し飛ぶその拳をか?)
2階から降りて来たドロアが私の姿を見て声を張り上げやがってくれたねぇ……まぁ私達3人とも白いローブ着てるから今はちょっと目立つかもしれないけど。
「「「……」」」
ほら見なよ、皆こっちを見てくるじゃんか。止めて、本当に止めて。うぅ、昼時に来るべきだった。ほら皆に睨まれてレーベルがガン飛ばしてるじゃんか。早く逃げないと皆炭になっちゃうからね? アリーナ本体が戻って来ると隣でぺかーっと笑顔を見せてくれる。よしよししとこう。
「おいどうしたアイドリー、早速報告聞かせろよ!!ギルド長室に来い!!」
ドロアはズカズカこっちに来て私のローブを掴むと、そのまま引っ張り始めた。何を勝手にマブダチ認定みたいな絡み方してんのかな?
「っふん!!」
「ごほぁっ!!??」
セクハラ行為は認めないので腹パンして黙らせる。そのまま片足で引き摺って勝手にギルド長室に向かった。レーベルもアリーナも後を付いて来る。いつの間にかレーナさんがその後ろから顔真っ赤にして来ていた。可哀想に、こんなのがギルド長で。
「あーいてぇ。何だよ殴るなよな? げほっ」
「あんな大勢の中で人を名指しで叫ぶ方が悪いんだよ、恥ずかしい。レーナさん、判決」
「有罪です。殺っていいですよ」
「任せい」
「すまん、謝るからそこの姉ちゃんだけは止めてくれ。さっきから殺気だけで殺されそうなんだが」
私がレーベルの肩を掴むと、殺気を止めて座ってくれた。ドロアは一息付いて、改めて椅子に座り直す。するとちゃらけた顔は顰め、仕事の顔になった。
あれだけの被害を出したレッドドラゴンの討伐だから当然だけど、下手すればハバルは壊滅していたのだからしょうがないけれどね……だからって、私はレーベルを責めはしないけれど。
「結論から聞くが、倒したのか?」
「……倒したよ。素材も全部持ち帰って来た」
「はぁー……マジで倒しちまったんだな。地下の件はレーナから聞いた時本当にやってくれるかもとは思ってたが……ああ、あの件は偶々街に立ち寄っていた巫女様がお忍びで奇跡を起こしてくれたとか適当に言っておいたぞ」
うん、それなら問題無いね。ちゃんと誤魔化してくれたみたいだ。というか良く誤魔化せたね本当に。
「だがレッドドラゴンの件は別だ。あれは街を挙げて祝わなければならん。お前は絶対に目立つから諦めろ。そのフードの外す外さないの判断はお前の自由だがな」
「マジかぁ……まぁしょうがない。分かったよ」
「それで、その両隣の奴等は一体なんなんだ?」
やっと触れてきたか。レーナさんなんてさっきから気になってたのかお茶出ししながらチラチラフードの下を覗いてたからね。アリーナはニコニコと見つめ返すしレーベルは顔を反らして興味まるっきり無いけれど。
とと、設定考えないとだよね。
「えーと。こっちの大きい人は私が昔師事してた人。こっちは私の村の出身で私の義理の妹なんだよね。この3人でパーティを組むことにしたから、冒険者を登録お願いしたいんだけど?」
「わかった。10割嘘だろうが深くは聞かん。どれぐらいの強さなんだ?」
ああ、分かっちゃうんだ……
「師匠のレーベルは私と同じぐらい、妹のアリーナは貴方に勝てる程度かな」
「よし、2人とも試験免除だ。レーナ、手続きしろ」
「は、はい。では2人とも、こちらに」
私は2人を見送ってドロアと部屋に2人きりになる。ようやく本音で話せるね。ドロアも目つきが真剣になり、顔から間抜けさが消える。
「なぁ、レッドドラゴンはどのくらいの強さだった?」
「それは言わなきゃ駄目?」
「義務としては半々だ。子爵が国に報告する義務があるからな。大体でも良いから教えてくれれば、後はこっちで適当に書いて報告する」
どうするか。馬鹿正直に伝えると、私が化け物染みた女だということがバレてしまうよね。だからと言って弱めに報告すると何故討伐達で勝てなかったんだと言われるし。ど、どこら辺のラインで言えば良いのかなこれ?
「……えーと」
「おい、考えてるな?」
「ちょっと待って。適当な強さ設定してるから」
「俺の前で言うなコラ。適当に書いてやるから正直に話せ」
と言われても…そういうの慣れてないから上手く言えないんだけど……じゃあ適当に話すか。
「んー……。まず、討伐隊はかなり手加減されてたね。戦ってみた感じ、レベルが400ぐらいの人間が10人居れば……最高に運が良くて相打ちってぐらいで勝てると思う。龍鱗が魔法を通さないし、斬撃に対してもかなり高い耐性を持ってたから」
嘘は言っていない。レベル400で全員がガッチガチの火属性耐性の防具やら魔道具で固めて完璧なチームプレイで槌攻撃しまくればギリギリ勝てる可能性はある。1割ぐらい。
「……そんなのにどうやって勝ったんだ?」
「えーと…んー……半分はステータスでゴリ押し。もう半分は気合と根性と愛だね」
「最後のだけ分からん」
え、なんで分からないの? ドロアは愛を知らない哀れな存在なの? けどそれが真実だからどうしようもない。言葉は選んだけどね。
「まぁ良いだろう。次に素材の件だが、どこにあるんだ?」
「今持ってるよ」
「ああ、そのビックリ収納背中か」
一発で納得されても困るんだけど。すっかり訓練されちゃってるな。
「なら、領主のとこに行って達成証明書貰って来い。俺は商人ギルドに行ってヒルテにこの事を知らせて来る。んで、冒険者と商人を使って街中の人間を広場に集めてレッドドラゴンのお披露目会だ。いいな?」
「わかった。今日やるの?」
「いや、おそらくは明日の昼にやる。準備も必要だしな。それとほれ、Sランクからは新しいギルドカードになるから持っとけ」
私は頷いて部屋を後にする。出ていく時にドロアにお礼を言われたけど、私は返事をしなかった。私も一杯迷惑掛けてる筈だもん。それにお互いちゃんと交渉の上で決めたことだ。私は苦労もしたけど、それに見合った物を得ている。だから受け取らない。
1階に降りて来ると、2人が端っこで椅子に座って待っていた。
「ぬ、終わったのか? こっちはギルドカードを受け取ったぞ」
「うん。アリーナは?」
「こっちー♪」
ぽふっ
「おっと」
後ろから抱き着かれてしまった。ほらほらお離し。これから依頼完了のお知らせをしに行くんだから。けどその前に、
「レーナさん。私達パーティを組みたいから書類くれる?」
「え? あ、はいただいま」
こちらに挨拶しに来ようとしていたレーナさんにそう告げると、急いでUターンして受付の方に戻ってしまった。ごめんね手間掛けさせて。戻ってきたレーナさんから書類を貰うと、それをアリーナに持たせる。
「レーベル、先に宿屋を取っておいてくれないかな? レーナさんに場所を聞けば私が以前泊まっていた宿屋の場所を教えてくれるから。私はこれから領主からの依頼の達成報告に行かなきゃならないんだよね」
「うむ、承った。人間の営みにも対応出来るでの。安心して行けい」
「アリーナ、これに私達のパーティ名書いといてよ。アリーナに決めて欲しいんだ」
「おまかせ~♪」
ということで冒険者ギルドを出ようとすると、若い冒険者達が待ち受けていた。
「おい、待てよ。そこの3人」
「ん?」
「おん?」
「んあ?」
数は12人。囲い方的に4人3組かな。よく覚えてないけど、何人かは討伐隊で腕や足を失ったっぽい人だね。共通しているのは、誰もが良い顔をしていないということだ。確かAランクの人から継続の事は聞いてる筈だから、そのことかな?
ああけど、彼等は誰かレッドドラゴンを討伐したのか分かっていないから、私達のことはただの新人だと思ってるんだろう。よし、分からせてあげないと。
「お前等見ない顔だよな? ランクは?」
「Sだよ」
「……えっ?」
ギルドカードを見せると、途端に全員狼狽えた。そりゃあ絡んだ相手が遥か上っぽい人なら慌てるよね。けど絡まれるのが嫌だから私達は遠慮なく地位を使う。受け取ってすぐに役に立つとは。
「用が無ければ行って良いかな?」
「あ……ああ」
後ろから声を掛けた人が責められてたけど、私は振り向かずに領主の館へ向かった。
「アリーナさん、ステータスの発行をお願いします」
「あいー♪」
「……つよっ!?」
「レーベルさん、ステータスの発行をお願いします」
「うむ」
「……」(これは夢これは夢これは夢これは夢)
・レーベルのステータスは隠蔽が無いので、種族以外は普通に写ります。