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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十四章 世界会議
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閑話・46 可能性に包まれた世界

 数多の宇宙が敷き詰められた様に存在するその広大な空間内に、僕達は突如として生まれた。


「……?」


 生まれた頃から、自分が何者なのかを本能的に知った時に僕という存在は確立した。近くで色んな物を破壊しながら互いの消滅を願っている者達は何なのかは知らなかったが、同じような存在だという事だけは分かった。


 何故僕は生まれた?どういう概念で?どういう力で?どういう次元で?どういう存在なんだ?自分が何を出来る者だと知っていても、そこに答えが付属されていない。



 ただ、消える事だけは怖いという想いがあったので、あれに関わる事はしなかった。








「……飽きもせずよくやる」


 それから、時間間隔など分からないがとにかく沢山の宇宙が生まれては消えを繰り返し、未だ広がり続ける自らの空間を感じながら、その中で殺し合う2柱を見ていた。


 あれは憎み合っている訳でもない。いつも楽しそうに嬉しそうに幸せそうに、愛を語らうかの様に殺し合う仲だった。だが感情のぶつけ合いは、『死』という概念を乗せた拳だけ。


 

 そんな2人を見ていたら、私の抱える世界の中で、1つの宇宙に変化が生じる。生物が誕生したのだ。あれは明確に嬉しいという感情を発露させた切っ掛けだったと思う。その生物は自分達に比べれば余りにも小さく、細く、か弱い存在だったが、何よりも『生』を渇望していたようだった。



 更に、その生物が生まれた宇宙は途端に、爆発的に増えだした。1つの宇宙に対してそれは無限に、再現なく増える。増える。果てなく増えていく。


 2柱は喜んでその中で殺し合いを続けていた。生物達の住む宇宙を壊す事を楽しみながら。



「やめろぉぉおッ!!!」

「「……?」」


 私は初めて叫んだ。だが何を言っているのか分からないのか、挟み撃ちで攻撃され、結果はボロボロにされてその時は負けた。






 生物が住む宇宙は私の心配を余所に、彼等が壊すよりも速く生まれ続けていたが、ある時、そこに私達と同じ形をした生物が生まれた。




「なんて脆い……しかし……」


 だが形が同じだけで、力は何もない。それでも彼等は僕達にとても似ていた。喜び、悲しみ、分かち合い、そして殺し合う。僕達の影響を受けて、そんな生物が進化の最中に生まれたのだ。


 そしてその生物の数だけ、また爆発的に宇宙は増え出した。とても小さな物だが、あっという間にそれは僕の世界を埋め尽くしてしまう。


「「―――――――ッ!!♪」」


 それでも殺し合いを止めない2柱。そこに、まだ宇宙になる前の芽があった。あったが、あんなものは見た事が無い。しかも生物が最初から住んでいるなど。


 僕は、疲れていた2柱の隙を狙った。その不完全な宇宙を繋ぎ止める為に、それぞれを繋ぎとして組み込んだのだ。







 それから私は、その芽と供に暮らしていた者達との対話を始め、文化を知り、生物を知り、彼等の感情を知った。


 なるほど、命という物には限りがあるらしい。彼等は私に近い構造だが、やはりその限界はあるようだ。そして不完全故にその世界で生きる事が出来ない。私は悲しみのあまり、消えて欲しくなくて彼等を隔離した世界で生きられるように手を貸した。


 更に封印したクレシオンの一部を切り離し、『良心』という『概念』を教えて世界の暖かさを与えた。



 その間私は他の世界にも同じような者達を探し続け、色んな種族、文化、歴史を知った。どうやら人というものは『想像』をする事であらゆる世界を思い描けるらしい。私の『創造』の力に似ている。


 こうした傍ら、人は自らを殺そうとしている事がよくある。戦争、紛争、環境、人の営みは人を殺し続け、歪な形へと変えていく。


 とある宇宙では、人は完全に滅びた。


 生物は自らを滅ぼす事はしない。なのに、彼等は自らの欲と感情に身を任せて破滅した。一部の人間の強欲。



 私は彼等を愛おしく思うが、同時に悲しみと恐怖を感じてしまう。



 そういった物に目を向ける為に自身の知覚スピードを落としていると、ある日封印の綻びを感じて私は再びアルヴァーナに戻る。見て見れば、そこにはルイナの作り出した存在に汚染された生物達が、クレシオンの率いる者達と戦っている光景。


 2柱は喜々として殺し合っていた。馬鹿な、あれだけ他の者に優しくあれたクレシオンが、理性を無くす?クレシオンは元の存在に戻りかけていた。だが受肉した身体同士、最後は供に消滅し合い、元の状態へと完全に戻る。


 残った世界ではその残像が未だに猛威を振るっていたが、僕は既に出来てしまった世界に大きく干渉する事は出来ず、2柱の封印を強める事しか出来なかった。




 2柱は呟く。


「「早く殺し愛たい」」と。





 もう漏れ出す力はどうしようも出来なくなっていた。ルイナは悪魔を作り、人の営みを理解させて潜り込ませ、クレシオンはそれに対抗する為に異世界より勇者を呼び出し、自身の力を与える。


 遊ぶように殺し合わせたのだ。それが楽しいからと。間接的でも殺し合えるからと。


「止めなければ……」


 僕は同じように自分だけの『勇者』を、生きたいと願った者達を呼び出して力を与えた。だがそれは戦う為だけの力。漏れ出る『概念』を止める術はない。分かってはいても、その歴史は止められなかった。



 2柱が飽きて止めない限りは……世界は蹂躙され続ける。



「2柱をアルヴァーナから追い出せばアルヴァーナは即時崩壊する。しかし、2柱をアルヴァーナに繋ぎ止め続ければ、殺し合いは続く……」


 ジレンマを脱する方法は無かった。僕は少しでも力になれる様にアルヴァーナへ受肉し、せめてもの詫びに裏から世界を見守り続けた。





 だが、2柱の封印は加速度的に解けてきてしまっていた。奴等はより強い者を望み、より悲惨な殺し合いを望む。だからクレシオンは勇者を限りなく強く出来るように施し、ルイナは数で滅ぼそうとしてきた。


 私も対抗しなければならない。世界が滅びる事を防ぐ為に。


 そうして、異世界の強い魂が入れる強い器を創った。それは人間ではなく、独特な生態系を持つ生物のシステムを組み込んだ存在だ。


 僕の肉体の半分とアルヴァーナという宇宙そのものを媒体として肉体は完成したが、いざその魂を探そうとした所で、クレシオンが封印から干渉し、無理矢理どこかの宇宙から持って来た同一の形をした魂を大量に入れてしまったのだ。


 これでは人格がグチャグチャになり、器が崩壊してしまう。悪ければそのまま世界崩壊だ……そう思っていたのだが、その生物はあろうことか1つの魂に集約され、示し合わせたかのように飽和状態となったのだ。その中心核の魂を見て、私は驚く。




(こんな歴史を持つ魂があるのか……?)




 単体で在り得ない程の因果を持ったその魂の1つは、肉体と合わさって途方も無い可能性を持つに至る。ある意味で恐ろしい程の力を秘めていた。同時に思う。


(この子ならば、出来るかもしれない……)


 このどうしようもない袋小路な世界を救えるかもしれない。だからクレシオンの思惑はどうあれ、彼はその生物を消さなかった。他の勇者達と同じ扱いをしたのだ。








「……はは、嘘だろ?」


 結果は、それはあらゆる存在の予想を超えた。『特異点』として妖精は世に降り立ったのだ。


 世界を支える根幹など露とも知らず、滅茶苦茶にも程があるにも関わらず全ての物事は彼女を中心に成り立ち続けた。


 中でも、私が最も悩んでいた『魔族化』を対象を殺す以外の方法で解決した事は、私にも不可能な事をやってのけたのだ。女神の勇者とはまったく違う方法でだ。



 そこで、もう一度この宇宙のシステムを見直し、世界のルールを知るに至った。



 ああ、だが君が知りたいのはこれからの事だろう?残念だが、それは私にも分からないんだ。女神と邪神は間違いなく私の封印を今回で解く気だろう。下手をすると朝比奈という勇者がそれに加担している可能性がある。だがどうやってそれを成そうとするかが分からない。


 だから気を付けて欲しい。最早、僕に出来る事は無いから……これだけは託すよ。

「さて、聖剣の最後の段階を開放させたけどどうかな?」

「……これどうやって使うのん?」

「え?……あっ……えーと…………がんばって?」

「アリーナ、コーラス。やっておしまいなさい」

「「あいあい~♪」」

「え?あの、うわっ!あはははははははは!!!やめ、やめて~~~!!!」


 神でも妖精のくすぐりは堪えたらしい。

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