第31話 世界の謎 妖精の謎
結果からすると、アリーナの完全勝利だった。私よりも余程圧倒していた。
「また勝ちー!!」
「そんじゃあ帰ろうか」
「待て! もう1回!もう1回だけやらせくれ!! 今度は勝つ!! 絶対に勝つ自信があるんじゃ主よ!!!」
「もう20連敗じゃん。レーベルの完敗だよ」
「ぐぬぎぎぎっぎぃぃぃ~~~~~~っっ!!!」
「いいよ~レーベル~、やろ~~?」
「あら」
「おっしゃあ泣きの一回じゃアリーナ!!」
(駄目ギャンブラーみたいだ……)
何が酷いって、アリーナが情け容赦無いんだよね。あまりに圧倒的差で勝つから段々アリーナが駒落ちで対戦を繰り返すんだけど、最終的に歩と王だけで勝っちゃったよこの子。
レーベルからしてみればこれ以上無い程に屈辱的だ。子供でも勝てるレベルまで落として貰ったのに完敗してしまったのだから。だけどこれ以上は駒を落とせない為、私はこの最後で勝負を切り上げさせて貰った。
安心してレーベル。私でも多分同じ結果になるから。アリーナがプロレベルで強くなっちゃっただけだから。
「はいレーベルさんや、後12手先で詰みだね」
「ふぐぅぅぅううぢきしょうぉうぉおおお」
「ういなぁ~~♪」
「これでアリーナとも正式契約だ。お揃いだね?」
「うん♪ お揃い~~~♪♪」
ああ可愛い。レーベルは妖精に知略で読み負けたのが余程悔しかったのか、地団駄踏んで暴れている。あの、癇癪で地面割らないでくれない? この丘また人が使うんだからさ……
「ところで、その恰好のまま旅をするのは止めた方が良いね」
「ん? 駄目なのか?」
いやいや紅いドレスで旅って、どんだけ旅舐めてんだって冒険者に怒られると思うし、何より景観によろしくない。場違いとかそういう意味で。
「とりあえずはこれ羽織ってなよ」
私は自分が使っている白いローブをレーベルに渡して、自分も人化してローブを身に着ける。それを見たレーベルは私の顔を見て固まってしまった。
「どしたの?」
「お主、そこまで雅な顔立ちをしておったのか……一瞬見惚れてしまいそうじゃったぞ。妖精の時はあれだけ下卑た顔で我を舐め回すように見ていたというの」
「お、もう一発殴られとく? レベルアップしたから威力上がってると思うよ?」
「すまんかった許せごめんなさい」
思わず敬語になるほど嫌だったか。まぁしこたま殴ったり蹴ったりしたもんね。というか妖精の時はね、なんていうか欲望に忠実というか本能に身を任せているというか。とにかくそういう習性が少なからずあるからしょうがないんだよ。
つまり私の習性は下卑た顔で綺麗なお姉さんを見続けることってことか。変態女じゃないか自覚あるけど。
「というか、レーベルだって絶世の美女じゃん。男だったら全員前屈みで歩けなくなるレベルだよ? そのドレスだって身体にピッタリだからラインが浮き出てるし、正直な話永遠に見ていたいぐらいだし」
「変態じゃな、ドン引きじゃぞ主よ」
しょうがない、可愛いくて綺麗な女が悪いんだよ。私は悪くない。
「とにかく、レーベルも余計な輩に付き纏われたくないならフード被ってるのをお勧めするよ。まぁ人目がある時だけね」
「うむ、承った。アリーナはどうしているのじゃ?」
「ここー」
私のフードの中にスポッと入っていくアリーナ。お尻をコチョコチョすると笑いながらモゾモゾしている。尊い。ほらほら、お尻を押してあげましょうね。
「アリーナはいつもフードの中に入っているよ。私の魔法で空間拡張してるからあまり圧迫しないし」
「なるほど、アリーナは人化出来ぬのか。覚えなくて良いのか?」
「え? あー……考えて無かったね。いずれは覚えさせていこうかと思ってたけれど」
けどアリーナが人化したら色々ヤバい気がするんだよなぁ……危ない人に着いて行っちゃいそうだし、騙されそうだし……けどアリーナにもちゃんと人間の世界楽しんで貰いたいからなぁ。
「アリーナ」
「なにー?」
「人化のスキル覚えて私と街で遊びたいって思う?」
「思う!!」
「よし、覚えようか」
アリーナの望みは私の望みだ。すると、レーベルがステイしてくる。
「待て、そんな手間をかけずとも、これをやろうぞ」
レーベルが自分の耳に付いているイヤリングを一つ外して私に渡してきた。金の枠にルビーの宝石が嵌っている装飾品だ。
「これは?」
「昔我がまだ上手く人化出来なかった時に知り合いから貰った魔導具じゃ。『人化』の効果が刻まれていて、魔力の燃費もかなり良いのだ。ほれ、付けてみよ」
そんな物まであるのか。もしかして便利道具さんでもあるのかなレーベルは。
私はアリーナを手の平に立たせてそのイヤリングを渡す。アリーナが魔力を込めて早速発動させてみると、
ぼふん……っ
「おおっ?」
煙が晴れると、中からポーズを決めた新生『人化』アリーナが現れた。
スカイブルーの髪に藍色の瞳、耳にはレーベルから貰ったイヤリングが付いた。身体は少女のそれで、私と同じぐらいの身長になったが、顔付きは私より子供っぽく、愛嬌MAXのおじいちゃんを萌え殺しそうな孫可愛さを醸し出している。
そんな子が裸で私の目の前に現れたのだ。正直お小遣いを求められたら全財産貢いじゃうね。貢ぎたいね。
「お、おおおー!! ひとっ!!」
「うむ、数百年振りだが無事作動したようじゃな」
「アリーナ、早く服着よう。私には刺激が強過ぎるから。そして結婚しよう、一生大切にするから」
「阿呆なこと言ってないではよ服を渡さんか!!」
「えへへ~~アイドリーと同じぃ~~♪ いっしょ♪ いっしょ♪」
「わー、すっごい上機嫌さん。私も嬉しいよ、アリーナ」
「んい~~♪」
それからアリーナにも私と同じ服を着させてローブとフードを付けさせた。レーベルにはドレスをそのまま着させて、肩と胸に鉄防具を装備させる。武器は要らないと言われたから渡さなかった。どっちにしろもう使い切って無いけどね。
これで白ローブ3人組の完成である。非常に怪しい。
「そういえばレッドドラゴンの皮? 抜け殻? の素材を街に寄付する予定なんだけど良い? 依頼内容に入ってるのよ」
「一向に構わぬぞ。主が倒した我の身体じゃからな。自由にするが良い」
なら好きにさせて頂こうかな。これでやることは全部終わった。後は街に帰って達成証明書を貰えば終わりである。死骸はボコボコにしたが血は頭の部分だけしか流れてないし、ほぼ完ぺきな状態だからケチは付けないでしょ。
仲間が増えた件についてはどうしようか…レーベルは昔私が師事していた人ってことにしよう。アリーナは私の妹で、村から追ってきたという感じでゴリ押す。後で二人にその設定を覚えさせないとね。
よし、じゃあ帰ろうか……ってそうだそうだ。
「帰る前にステータス確認するからちょっと待ってくれる?」
「む、そういえば更に強くなったんじゃったか。分かった。アリーナ、待っている間に」
「もうひと勝負!!」
「好きだねぇ……さてと」
レベルアップしたし何か変わってるかもしれないしね。自分のステータスを表示させて確認してみた。
アイドリー(3) Lv.859
固有種族:次元妖精(覚醒)
HP 1万1011/1万1011
MP 250万6082/250万6082
AK 8054
DF 7022
MAK 8457万5884
MDF 7404万0540
INT 7100
SPD 28万0025
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存
スキル:歌(A+)剣術(B+)人化(S)四属性魔法(SS)手加減(A+)隠蔽(S)従魔契約(―)
称号:ドラゴンキラー 古龍の主
うーん……どんどん世界の理から外れそうなステータスになってきた。レベルが倍近く上がったのはまぁ分かるけれど、それに対する上がり幅が狂っている。
特にMAKとMDFが4倍だ。スキルの従魔契約は新しく教えて貰ったから覚えたんだね。称号もレーベルを倒して定着したものだし、これぐらいで収まったんならいいかな。アリーナを守れるぐらいの力があれば良いし。
「ぬおぉ……負けたぁ……ぬ、終わったみたいじゃな。どうだったんじゃ?」
「今なら一撃でレーベルを殴り倒せるぐらいにはなってたよ」
「我を基準にするのはやめい!!」
「ぶったらやーよ?」
「じゃあ……くすぐっちゃえ!!」
「ふにゃっ!? あははははっっ!! やめへぇぇ~~~~♪♪」
ガシッ
「おっと?」
「主よ……我も混ぜよ。ほれこちょこちょじゃ!!」
「あっ! あはははははっ!! 腋はだめぇえぇえ~~~~っっ!!」
ハバルに向けて歩いている最中、レーベルは私に色々と聞いてきた。内容は私の出身や、種族について。私からは世界中の妖精達の情報とかを。
「なるほど、あっちの世界樹はまだ健在であったか」
「他にもあるの?」
「うむ、それどころか各地にあるぞ。ここ数年は知らんがな。妖精達は皆世界樹の張る結界に守られ保護して貰っておる訳じゃな。お主達の大空洞の世界樹もそうであろう?」
「「うん」」
「それに、古龍は基本妖精には手を出さん。我もお主が攻撃してこなければ放っておくつもりじゃったしな。それが盟約だと強く言い聞かされていたのでな」
ここでまた出て来た。『盟約』という二文字。大昔、古龍や人間が滅びかけた時代があったらしくて、その時妖精達が力を合わせて助けたらしい。その古龍の子孫の内の一匹がレーベルなんだとか。妖精頑張ったな。
ということは、人間側でもその『盟約』を知る人が居るかもしれないんだね。通りで一般人が『妖精』を知らない筈だ。だってそれ、数十万年以上前の話でしょうに。
「なんで世界樹の結界が弱まっている原因とか分かる?」
「いや……それは我でも分からぬな。風の噂で魔王が死んだという話は聞いたのじゃが、ならば世界樹が未だ動かぬ説明が付かぬし。邪神が出て来た気配も無いしのう」
そこらへんはやっぱり当事者に聞かないと駄目か。どうせ王都には観光しに行くんだし良いんだけどね。
「それよりお主本当の本当に妖精なのじゃろうな? 妖精の皮を被った何かでは無いのだろうな? 次元妖精など長い間生きてきたが、初めて知ったぞ我?」
「それは生まれた私に言われても分からないよ。女神様の戯れとでも思っときなって」
「うーむ……アリーナよ。こんなこと言っておるが良いのか?」
「アイドリーだから!!」
「ゴリ押し……じゃと?」
「あれー?」
「あれーではないのじゃが? おん?」
「はぅえぇへへ~~♪」
そうだね。魔法の言葉だね。私だからで全て済ませてしまって良いよアリーナ。私が許すから。私だってよく分かってないし。
「えぇー…我とっても心配になってきたのじゃ……」
「人間からしてみればレーベルの方がよっぽど吃驚種族だと思うんだけどなぁ。ドラゴンが人型になれるとか新情報だと思うよ?」
「そのドラゴンの頂点である古龍を殴り倒した主は一体なんなのじゃ……」
「ただの妖精だよ、ねー?」
「ねー♪」
「……我分かった。妖精って基本話が通じんのじゃな」
オチも着いたところで、私達は数日間ゆっくり歩いて、何事もなく私達はハバルの街に帰ってきた。新しい仲間と、新たな身体を得た親友と一緒に……
「アリーナ、今夜もまた一勝負と行こうぞ!」
「はいなー♪」
「よし、私も今日こそは勝たせて貰うよ!!」
「な、なんじゃこの囲いは!?」
「雁木…だと……ッ!?」
「ぬまー♪」
ドロドロに伸ばされた挙句、大駒で食い千切られ負けましたとさ。