閑話・40 日記な話
100年前 3月9日 とある勇者の子孫
最初に呼ばれた記念すべき1人として盛大に祝われた。この別荘はそういう人間達にこれから使われる様になるらしい。偉大な者としてこの国に登録された事を私も記念し、偶々あった白紙の本に、こうして記録を残そうと思う。
80年前 10月10日 リンシターニヤの魔法剣士
私が選ばれるなんて夢みたいっ!!マルタの国の料理美味しいし、海でバカンスなんて初めてよっ!!
けどあのダンジョン何なのかしら?まぁ良いわ。お風呂も気持ち良いし街並みは綺麗だし。人生のお休みとしては最高の日々だったと思うわ。出来る事なら永遠に此処で暮らしたいぐらいよ♪
70年前 8月6日 冒険者グループ『鋼鉄の剣』リーダー
海で泳ぐというのは危なくないんだろうか?と思いながらも仲間達と遊び始めると止まらなくて、結局夕方クタクタになって皆で夕日を眺めるまで海に居たんだ。
それで次の日ダンジョンを紹介されたから行ったんだけど、なんなんだあれ?クイズ形式だって聞いたけど、全然知らない文化の知識とか求められても分かる訳無いじゃないか。あの時間以外は最高のバカンスだったと思うよ?
60年前 12月26日 ロックダース専属王立魔法士
雪の降る海ってのも良いものね。私こういう神秘的な光景好きよ。露天風呂も最高だったし言う事無いわ。前の人達が書いたのを見直して魔法探求者の私なら行けるんじゃないと思ってダンジョンに行ったのだけど、聞いてる限りじゃこの世界の知識じゃないっぽいのよね。
ああ、料理も最高だったのよ?だから他の人と同じ様に、それ以外は最高だったと思うわ。貴族の観光ガイドも親切だったし。
50年前 6月30日 ガルアニア騎士団長
ううむ、雨が降ってしまってあまり外に出られなかったのが悔やまれるな。料理は国の者達が用意してくれた物を有難く頂いた。馬車での移動も限界があるので造船所にて船造りの現場を見ていたが、あれ程の物を作りだす技術、誠感服した次第である。
国への招待も受け王への拝見する機会を得たが、どうも様子がおかしかった。この日記については知られていないようだが、念の為に持って来ていた鍵付きの箱に入れたいと思う。
40年前 8月23日 レーベルラッド巫女
特に何かをした覚えは無いのですが、勇者教の代表者として教皇の代わりに参りました。この箱に入っていた日記を見て興味を抱きましたので書きます。
ダンジョンについてはお供の聖騎士団長が部下を引き連れて向かいましたが、何故か最終的に漁場の人と仲良くなって一緒に帰って来てしまいました。そのまま今1階リビングで酒盛りをしています。
報告に寄るとダンジョンの問題は毎回ランダムらしく、どれも難しかったそうです。私も内容は聞きましたがやはり分かりませんでした。
ただマルタの王はどうしてもその海玉が欲しいらしいので、いつか誰かが取って来てくれるのを願っているらしいですね。
30年前 4月14日 ワドウ 侍
拙者が大陸に来てから何年か経つが、まさかここまで名が売れてしまうとは思わず、まさか宿屋にピンポイントで招待状が来るとは思わなんだ。出来る事ならば故郷のシシと赤子のゲンカクに行かせてやりたいが、対象が拙者限定らしいのでしょうがなく1人で参った次第である。
ワドウも統制の取れた街並みとして有名だが、こちらも相当に徹底されているのが分かった。これは確かに粗暴な者には余り肌に合わぬ国だろう。
潮風が気持ち良く景観としても素晴らしいかったのだが、断崖にあるというダンジョン。あれだけは異質だった。過去の通り、あそこは色々と変だったな。なんというか、人工物なのではないか?
20年前 1月22日 とある大商人
去年最も利益を生み出した商人として来たのだが、いやぁマルタとは素晴らしい国だな。主に商売的な意味で。食文化はワドウに似ているが、魚の種類が豊富なので毎日違う物を食べられる。船に関しては、是非私の拠点とする場所でも1枚噛ませて頂きたいものだ。
そういえばダンジョンについてだが、聞いて欲しい。1問目だけだが突破出来たのだよ。この日記を見る限り私が1番手らしいので非常に気分が良かった。此処にこれから来る者達よ、最初の問題は商人でなければ解くのは難しい。冒険者ならば諦める事だな。
10年前 5月25日 ガルアニア冒険者
あー、字が汚くて申し訳ねぇな。武闘会で優勝したら招待されたんで来たんだが、どいつもこいつも人を初心者冒険者と勘違いしやがって非常にムカついてんだよ。
漁業ギルドにも海専門の冒険者が居るらしいんだが、喧嘩を売って来たんで全員返り討ちにしてやった。そのまま酒やって全員で朝まで酒盛りしたんだが、流石に怒られた。
ダンジョンだが、最初は計算問題だったな。俺じゃ分からなかったが、いつかまた来る時があったら答えを用意しておきたいと思う。
9年前 7月7日 とある賢者
妖精について研究しとったら、セイレーンが呼べるという噂を聞いてこの国に来たんじゃが、色々と披露しとったら中に入れてくれてのう。どうやらダンジョンの問題に答えれば手に入るらしいので行って来たんじゃ。
結果は3問目で躓いて駄目じゃった。1度として同じ問題は出ないらしいので、流石の儂でも無理じゃったよ。それを伝えたら叩き出されたが、あんな広い別荘儂だって泊まりたく無かったので逆に安心したわい。
8年前 6月10日 テルベール理事長
私をこんな場所に無理やり来させたマルタの諸君には呪詛の言葉と供に怒りを交えて始まりの言葉とさせて貰おう。
さて、日記を見る限りでは過去の偉人、重鎮達が皆揃って件のダンジョンに挑戦しているらしい。私は魔道具の解析が専門なので興味は無いのだが、マルタの諸君が求めている秘宝とやらが私の心を疼かせたので、試しに行ってみた。
結果は、先の賢者と同じ3問目で駄目だった。やっていて分かったが、これは確実に『勇者』が必要な部類の問題だ。2問目までは一般教養があれば誰でもこなせるが、その先は私でも未知だったのだ。王は何かを隠しているようだったが、その周りの貴族共も様子が怪しい。まぁ私の知った事ではないが。
7年前 レーベルラッド巫女
お父様が、まだ私には早いって言うけど、私はお外に余り行けなかったから、いけない事だけど我儘言って聖騎士団の人に連れ出して貰ったの。ごめんなさい。
海、とっても綺麗で、お魚美味しかった。蟹?も。タコさんの吸盤凄いって思った。吸い付かれてちょっと泣いちゃったけど。
私以外にも昔に巫女の人が来てて驚いたけど、聖騎士団の気性は、昔と変わらないのだなってマルタの王様に頭を撫でられた。残念そうな顔してたけど、優しかったの。
6年前 ガルアニア冒険者
連続4連覇したらまた招待状が来やがって。まだ漁場の連中が俺の事を覚えてたので1日目は普通に酒盛りしてまた怒られちまった。
問題の対策は事前にしといたし、此処数年の奴等の記録で俺も3問目までは到達出来た。次の奴は流石に分からなかったので勘で言ったんだが、意味の分からない言葉にも関わらず正解しやがった。
んで、案の定次の問題も意味分からねぇから適当に答えてやっぱり駄目だった。俺はもう限界だろう。どこまで続いてんのか知らねぇけど、魔物と戦えねぇし面倒になった。
3年前 とある国の学者
過去の日記と私の文野で総合して考えた結果、この問題の多くは勇者達の世界の知識が多く用いられた問題という事だ。それはつまり、このダンジョンが勇者の手によって作られた事を証明しているに他ならない。
そういう考えに行き着くと、この日記を最初に書いた人物。つまり勇者の子孫があのダンジョンを作ったと仮定するのが私の行き着いた答えだった。私は運良く昔の勇者が残した辞典を持っていたのだが、そこに載っていた単語はこの世界に存在しない物なので、信憑性としては確かだと思われる。
1年前 ガルアニア冒険者
だからもう行かねぇっての。
「ふーむ、来た時はそんなもん見えなかったがのう。というか、武闘会のあやつ来過ぎじゃろ……」
「何か楽しそうだね~~♪」
「こうして読むと、国に隠しておくべき内容もある。やはりりキナ臭いのう。コーラスよ、どう思う?」
「そのダンジョン行きたい感じなの♪」
「うむ、我もじゃ。明日あの男爵に言ってみるとしよう」
「ういっしゅ♪」
「……それはそれとして。コーラスよ、ちょっと我といちゃつかん?」
「いちゃつく~♪」
コーラスはレーベルの手の平の上で弄られました。




