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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第一章 妖精郷
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第3話 旅への道

 夜が明けて次の日、世界樹の蜜で作ったという蜜酒の飲み過ぎで、私を含め全ての妖精達がそこらじゅうで青い顔をして唸っている。



「あーあー、ん、ん!……よし、声は大丈夫かな?」


 貫徹して歌い尽くしたけど、私の喉は強靭であった。昔もストレスが溜まったら、頭の中で叫んでたし。カラオケに行くお金……っていうかそういう施設無いし。どちらかと言えば引き籠り強制だったからなぁあの頃……ああ。


「そういえば、これ何の集まりだったっけ?」

「命名の儀だ馬鹿者」

「あたっ!……ああノルンさん。おはよう?」

「ああ、おはよう。見ろこの惨状を。普段は皆酔い潰れるまでは飲まないのだぞ? 女王もあの様だしな」


 少し青い顔したノルンさんの指し示す方向を見ると、顔色七変化をしているテスタニカさんが頭を押さえながらのたうち回っていた。端から見れば怪しい儀式かエクソシストである。うん、昨日はやり過ぎたね。後悔も反省も前世に置いて来たけど。


「この分では命名の儀は無理そうだな…」

「あはは……「見てー」え、アリーナ?」


 平謝りしていたら、近くで寝ていたアリーナがガバッっと起きて、私に紙切れを差し出してくる。文字は……読めないね。流石異世界ファンタジーさんはリアルだ。



「アリーナ、これなんて読むの?」

「んっと……『アイドリー』って、言うの」

「アイドリー……」


「ほう、良い響きじゃないか」


 覗き込んできたノルンさんはそう言うけど、私には名前の意味が分からない。というか見たこと無い字だから読めない。後で教えて貰おう、最優先事項リストですよ本当に。


「どんな意味なの?」

「意味は『歌い歩く者』だ。大方、昨日の君の様子を見て直観で書いたんだろうが、インパクトが強くて私もそれ以外の名前はちょっと思いつかん」

「なるほどね。アリーナ、私にはこれが合ってると思う?」

「うん!」


 心の癒し筆頭のアリーナさんがここまで断言するならぁいたしかたありやせんな。



「じゃあこれにするよ。私も気に入った」



「そうか。では心の中で自分の名を強く意識しながら、ステータスを出してみると良い。名前の欄に表示される筈だ」

「はいはい、えーと……おん?」

 

 言われた通りにしてみたら、確かに名前が付いていたけど、知らない物も増えていたので首を傾げてしまう。



アイドリー(0) Lv.1

固有種族:次元妖精(覚醒)


HP 30/30

MP 200/200

AK   3

DF   3

MAK  10

MDF  10

INT  7000

SPD  20


【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 空間魔法 顕現依存  


スキル:歌(A+)


 昨日の行いによりスキルに「歌」が増えててしかもAというのは過剰に高いんじゃないだろうか?と思うのはまぁ置いておくとして、なにこの固有種族に追加された(覚醒)って。



・覚醒

『種族として覚醒した状態。レベルアップ時の補正が倍になる。また、固有スキルの効果が大幅に上昇する』


 まさか名前を付けただけで覚醒したとか言わないよね? こ、これはノルンさんに聞いた方が良いのかな?いや、テスタニカさんの方が詳しそうだからそっちにしようか。今は名前の方が大事、そう絶対。


「大丈夫か?」

「う、うん。ちゃんと名前が付いたよ」

「そうか。では改めてアイドリー、これからよろしく」

「よろしくアイドリー♪」

「うん、よろしくね」



 その後三人で世界樹の中にある浴室で身体を洗いっこし、広いベッドの上で川の字で寝てしまった。


 その数時間後…


「っていうのを私がのたうち回ってる間にするのズルくない? ズルいわよね? 私も宜しくしたいのに。泣いちゃうわよ? ゲロを頭から浴びせるわよ?」

「汚いから止めて謝るから、ね? それよりテスタニカさん、私とりあえず身を守れる程度に強くなりたいんだけど、鍛えてくれないかな?」


「それが私を世界樹の裏まで足の方持って引き摺った理由ならいじけるわ」

「ごめん……お約束はしておくべきかなって」


 私はテスタニカさんを呼び出して二人きりになれる場所まで来て貰った、テスタニカさんまだ酔って千鳥足だったからこうするしか無かったんだよ、ごめんね?



 さて、私は元人間の転生者だ。当然人間世界に興味があるし、いつまでもここに居ることはありえない。ただ私はここが何処か分からないし、生まれたばかりで貧弱極まりないから、こうして教えを請うことにした。


「鍛えるのは別に良いけど、アイドリーはどのくらい強くなりたいの?」

「とりあえず妖精郷を出て世界を1人で旅出来る程度には」

「人間みたいなこと言うのね……」


 うん、そうだよね。普通は平穏な場所で静かに暮らしたいものだよね。けど私冒険心ウッズウズだからそれは出来ないの。ごめんちゃい。


「ここらへんの魔物はそこまで強くないし、ホーンウルフとかコブリンの亜種でゴブリンが出るくらいよ。だから基本的なことが出来れば問題無いと思うわ。ちょっと遠くの方まで行くと強いのがドバドバ出てくるけど」

「その前に、コブリンって何?」

「コブリンっていうのは、1ヶ月に1回郷に来る妖精コミュニティー専用の行商人妖精よ」


 ちゃんとそういう繋がりあるんだ妖精。もっと閉鎖的なものかと思ってたよ。


「ゴブリンとの違いは?」

「ゴブリンはコブリンと違って臭くて醜くて何より下衆ね。名前は似てるけど天と地の差よ。逆にコブリンは老若男女問わず毛並みフワッフワで凄い可愛いわ。私も生まれたばかりの頃は、行商人のコブリンにで引っ付いていたものよ。先代女王に引き剥がされるまでね」


 そこまで違うのか。私の頭の中にあるゴブリンは容易に想像付くけど、コブリンはまったく分からないな。楽しみにしておこう。


「じゃあ強くなる為に、まずはレベル上げの準備をしましょうか。具体的には妖精魔法ね」

「よしきた」


 テスタニカさんはその場で地面に枝で説明を始める。


「私達妖精だけが使える魔法、『妖精魔法』は種族によってその特色が変わるわ。火属性の子なら火系統の魔法が、水属性の子なら水系統の魔法が上手くなったりって感じで。想像がし易く、御し易いものなの。つまり属性ごとに得意なジャンルが変わるってこと。勿論全部極めたり、違全く違う属性の魔法に特化する事も出来るわ」


「自身がその属性の化身だからこそそうなるってことだよね」

「そういうこと。私やノルンのように、複数使うようになるには基本的にINTが高くないと出来ないわ。そして、それは威力にも依存するの。普通の子はただ何となくで使うから、威力も弱小。逆に私が使うと……ほっ!」


 彼女はそこらへんの木に向けて手を翳すと、手の平から魔法陣が浮き出て、そこから水が噴射された。まるでウォーターカッターのように鋭く発射された水は、容易に木を切り落とす。


 ……普通に凶器じゃん。人に撃ったら首切れちゃうじゃん。


「とまぁ、風属性である私が使った『妖精魔法』で水を噴射してもこの威力になるのよ」

「うへぇ……初めて魔法を見たよ」

「ちょっと、昨日貴方も使ってじゃない」


 それってあのアイドル服とかサイリウム棒とかマイクのこと? あれはそれこそなんの考えもなく感覚で呼び出したものだからノーカンです。


「そういえば、何でノルンさんとかテスタニカさんは普通の魔法のスキルがあるの?」

「ああこれ? ……えーっと、なんていうか、偶然手に入れたって感じなのよ。人は魔法を行使する際詠唱をするのだけど、その言葉を覚えたら使えるようになっていたの。妖精魔法はINTに依存するけれど、人の魔法はMDKに依存するから。そういう意味ではまったく違うものと言えるわね」


 それでも妖精魔法の方が扱いやすいけど、とテスタニカさんは語る。まぁ無詠唱で使えるもんね。制限も無いし。

「まぁ物は試しよ。まずは実際に使ってみなさいな。手の平に火でも思い浮かべてみたら?」

「うん」


 よし、やってみよう。目を閉じて、手の平に揺らめく「小さな火」を思い浮かべる……お、手が温かくなってきたかな?


「そうそうゆっくりで良いからねぇ~―――って待ってストォォップ!!」

「え? あれ!?」



ブォアアァアアアアアアアアアアアアアアア



 テスタニカさんの慌てた言葉に目を開けてみたら、手からは小さな火ではなく火炎放射のような炎が出ていた。噴射音が凄まじくて仰け反ってしまう。って、


「て、テスタニカ、さん。これ、これ、どうやって止めたら!?」

「えとえと、えい!!」


 ドバシャァ……




「止め方教えてよ……」

「……ごめん、テンパった」


 全身びしょ濡れの私に風を起こして乾かしてくれる彼女にジト目を向けるが、申し訳なさそうに顔を背けられる。こっちを見ろ女王、私はここにいる。


 先ほどの現象について、私は種族の(覚醒)が関係あるのではないかと聞いてみたら、


「先代女王様から聞いた話だけど、始祖の大妖精オベロンって種が覚醒者だったらしいわ。まぁ始祖と言っても彼も世界樹生まれなんだけれど」

「他には居ないの?」

「この郷の中では見たことは無いわね。けど説明を聞く限りじゃ、さっきの現象はそれが原因よ。威力が小さな火程度の想像であんなのが出るなんて、普通じゃありえないし。説明以上の何かがありそうね」


 どうやら、私は威力調整の修行が必要なようだ。うっかりで森を焦土にしかねない。当分は火ではなく水とか土系統で頑張ろう。


 けど種族の覚醒か……妖精以外でもありそうだよねぇ。


「やっぱりINTが高いと違うものね。あ、そうだ。旅をするんだったら当然人間の街にも行くのよね?」

「そうなるね。色んな営みを見たいし」

「だったら『人化』のスキルを身に付けることをお勧めするわ」

「人化?」 


 妖精や理性を持つ魔物等は、一定の魔力と想像力があれば人になれるんだとか。その中でも妖精は人にほど近い形なので、容易に『人化』のスキルを取り易いらしい。昔は妖精も良く外の人間達と接触していたんだって。


「けどテスタニカさんもノルンさんも、ついでに郷の皆も持って無いよね?」

「私達は郷から出る気が無いし。人が怖いっていう妖精の方が今は多いからしょうがないのよ。私は一応やり方だけ知ってるから、良ければやってみる?」

「是非!!」


 という感じで、テスタニカさんとの修行の日々が始まった。





「という訳で剣の修行おなしゃす!!」

「女王との修行はどうした……」


 頭を下げて頼む私に、ノルンさんが呆れた顔して問い掛けて来る。場所は勿論世界樹裏である。


ちゃうねん……本当はテスタニカさんにずっとそのまま習おうと思ったんだけど、思いの外は呑み込みが早いって言われたからついでに近接戦闘出来るようになりたいなって思っただけなのよ。


「だが、私が剣を使うのは趣味だぞ?」

「……趣味でそこまで鍛えたの?」


 ごっこ遊びに本気過ぎると思うが、妖精の娯楽的にはベター……なのかな?


「それに、妖精の旅に役立つのか? この小さな体躯で魔物と接敵しても、不利にしかならないと思うんだが。基本妖精魔法で固定砲台の方が私は良いと思うぞ」

「それについては、テスタニカさんに『人化』の方法教わってるの。だから剣術も人化した状態で使おうかなって」

「ああ、なるほどな。だが剣はどうやって縮小拡大させるんだ?」

「それは空間魔法で『空間収納』っていうのを使えるようにしたから無問題」


 妖精魔法のスキル効果で魔力の消費も無いのよね。だから倉庫は幾らでも広がるし、大きさにも限界が無いと思われる。そんなに入れる物が無いと思うけど。


 そしてノルンさんは納得した顔で、私の剣の訓練を手伝うと承諾してくれた。


「広場にチャンバラセットがあるからそれを使おう」

「何でそんなのあるんです?」

「暇だからだ。あれに嵌っている妖精も多いから、訓練相手には事欠かん。皆独学だから型も糞も無いがな」


 へぇ、その内何か遊び道具作って提供してみようかなぁ……ボードゲームとか。


 広場に着くと、早速チャンバラごっこをしている妖精達を見つけた。双方空中に浮かびながらアクロバットな動きをして木剣を打ち合っている。


「……ああ、そうか」


 私はその様子を見ていて、勘違いに気付いた。妖精って飛べるんだから、人間と違って空中戦とかも出来るんだ。そりゃあ型も何も無くなるよね。そんな二人に、ノルンさんが話掛ける。


「スイレン、エンドル、私達も入れてくれるか?」

「おお、ノルンちゃん。全然良いよ!」

「ノルン姉か。珍しいな」


 一人は水色髪のおさげをした快活そうな女の子。もう一人は落ち着いているが赤色髪を揺らめかせている男の子。二人とも普通に会話してるから、結構生きてそうだ。っと、二人の眼が私に向く。ああけど、興味がある時の顔は妖精だね。


「ん? あ、貴方昨日の子だよね! 名前は?」

「私はアイドリー。よろしくね?」

「よろしく! 私は水属性の妖精でスイレン、隣のは火属性の妖精でエンドルって言うの!!」

「よろしくアイドリー。昨日の宴会は楽しかった」


 二人は自己紹介をして私と握手をする。妖精って皆フレンドリーだから、コミュ障の人でも幸せに生きていける環境だよね。


「二人共、私はアイドリーに剣の技術を教わりたいと言われてな。良ければ協力してやってくれないか?」

「遊び相手が増えるなら喜んで!!」

「是非も無し」

 ノルンさんの提案に数舜の間も無くノッてきた。妖精節である。


「よし、なら早速やるとしようか。まずは素振りだ」

「「「おー」」」





「けひゅー……こひゅー……おうぇぇ……」


 腕がプルプルしてる。全身からの汗が止まらない。そして吐きそうなぐらい息が続かない。え、なにこれ? 私体力無さすぎ!? 前世の一割も無いんだけど!?


「あー……アイドリー、君は剣の訓練以前の問題だったな。まさか女王様以下の体力だったとは。昨日の宴会ではあんなに歌って踊っていたというのに、不思議なものだ」


 哀れな私にノルンさんが申しわけなさそうな顔で言う。いや、私も悪かった。いきなり貧弱なステータスでいつもチャンバラして体力を付けている人達と同じ練習メニューをしたのだ。素人がそんなことすればどうなるかなど明白である。


「まずは走り込みだね……」

「そのようだな……」


 次からは鬼ごっこに変更されましたとさ。




 夜。


「はい、勉強始めるよ~?」

「ばちこ~い」


 私とテスタニアさんは、世界樹内にある一室に居た。教室のような様相で、黒板もチョークもある。何故かテスタニアさんはドきつい眼鏡をクイクイさせてニコニコしている。超楽しそう。


「言葉は一緒なのに字が人間と妖精じゃ違うってかなり変だと思うんだけど」

「私達の先祖から受け継がれてるのよ。言葉の方は、基本その時代の人間に合わせないといざという時に意思疎通が出来ないしね。それじゃあ早速だけど、今日は妖精と人間の基本的な文字の作りから説明していくわね」

「うい~す」


 ということで、午前中はテスタニアさんと妖精魔法、午後はノルンさん達と体力作り&剣術指導、夜にはテスタニアさんの言語講座という忙しい毎日が始まった。



 休み時間? アリーナの膝枕だけど? ていうか今日ずっと後ろでニコニコして見ててくれてたけど?

「しかしアリーナ、どうしてそこまでアイドリーにご熱心なんだ?」

「…………好き、だから~?」

(待ってそれはどういう意味かなもしかしそういう意味でそういう感じ? 愛を溢れさせて良い感じ?)

「アイドリー、膝枕されている状態で鼻血を出しながらブツブツ言うな!!」

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