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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第三章 レッドドラゴン討伐
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第27話 依頼の継続 想いの継続

 Aランクパーティ『明ける鉄壁』は、ハバルの街では最も年期の長いパーティの一つだ。全員が30代の男の5人パーティ。三人が壁役で、二人が魔法による砲台という珍しい戦い方だが、その壁は厚く、魔法攻撃は苛烈で有名だと言われていた。

 今回レッドドラゴン討伐においても討伐隊の統率としての役割を持たされていたが、彼等はハバルを前にして、その顔を安堵に染めながらも雰囲気はどこまでも暗かった。


 その理由は、後ろを着いて来る自分達が統率していた冒険者達である。


 冒険者の半分は一人では歩けない程の重症であり、残り半分の冒険者の手を借りて歩いている。彼等の頭の中には、自分のパーティを抜けざるを得ない口惜しさとこれからの生活への絶望感が渦巻いていた。

 まだ10代20代がほとんどなのだ。親への仕送り、買った武器のローン等、それぞれの達成手段が潰えた今、彼等は生きる目的を見失ってしまっていた。



 だが、待っていた側の人間からしてみれば、そんな心情などどうでも良かった。


「帰って来たぞ!!」



 街に入った広場の先には、大勢の冒険者達の親族が待っていた。初級ランクの冒険者達は、街の状態を知っていて放って討伐に行ったことに後ろめたさを感じていたが、親族にとっては五体満足でなかろうと生きて帰ってくることが一番だった。

 全員冒険者ギルドまで行くと、地下で怪我人の治療をドロアが命令していた。『明ける鉄壁』はドロアに近づき報告をしようとすると、向こうからこっち来る。


「おう、お前等も来たか。レーナ、後は任せるぞ」

「分かりました。みなさーん、重傷の人から入れてくださーい」


 そして顎で中に入るように指示され、ギルド長室に入った。そこには、一人の白いローブを来た者が先に座っていた。


「ドロアさん、こいつは?」

「それも話す、お前等も座れ」

 ローブの人間と対面する形で座ると、ドロアは二枚の紙を『明ける鉄壁』の前に置いた。一枚は自分達の依頼書だが、もう一枚は知らない物だった。


「まずは討伐遠征お疲れさん。話は伝令から聞いてるから、今更言うことはない。俺としては生きて帰って来れた奴によくやったと言いたいんだが……それと依頼未達成の罰則とは話が別になる。これは冒険者規定だ。曲げられないのは分かるな?」

「ああ、そりゃあ覚悟の上だ。初級ランクの奴には気の毒だけどよ……」


 ランクの高い冒険者程お金に余裕がある。それでも依頼未達成など滅多なことでは起こらないから、大概の依頼は受けられる。が、初級や中級ランクの冒険者はそうはいかない。彼等は日頃から自分達の身の丈に合う依頼を取り合って生きている。当然その稼いだお金も同じ労力だがまったく違う。


 だからこそ依頼達成が確実に出来るものしか受けないのだ。罰則金を払う余裕など無いのだから。



「これから話すことは、言ってしまえば事後承諾して貰う案件だ。だからお前達にはこれを罰則として受け入れて貰う必要がある」

「……どういうことだ?」

「罰則金の代わりに受け入れろってことだ。お前達も、その他の冒険者全員もな」

「マジか!?」


 そしてドロアはまず、討伐隊の依頼書を手に取った。


「これはお前達の受けていた方だな。達成報酬は当然無し、依頼未達成として処理される予定だ。これを……」


 一息、破り捨ててグシャグシャにしごみ箱に投げ捨てた。『明ける鉄壁』の面々は顎が外れるほど口を開いて茫然としてしまう。


「これで依頼は無かったことになった」

「なった、じゃねぇよ!!」

「そんなん文面の上での話じゃねぇか!!」

「確かに、この時点ではまだこの紙は効力を失っていない。以前お前等の罰則は継続する。そこでこいつだ」


 もう一枚、彼等の知らない方の紙を手に取る。それをドロアがよく見せると、彼等はグリンと顔を白いローブの者に向けた。


「おい、個人に緊急依頼ってまさか…」

「そうだ。この嬢ちゃんが一人でレッドドラゴンを討伐しに行く」

「「「はぁ!?」」」


 『この男は頭が狂ったのだろうか?』グループの思いは一つになった。自分達があれだけ恐ろしい眼に会いながら逃げ出してきたというのに、その相手にたった一人の少女が挑むとは何を言っているのかと。


「なぁドロアさん。あんたがギルド長になってからこの街で起きるトラブルもかなり減った。あんたはやり手だからな、そこらへんは信頼してたよ。だが今回のその提案は無理にも程がねぇか?」


 その主張は最もだと他の者も頷くが、ドロアは表情を崩さずに続ける。



「お前等は、一人ならどれくらの数の人間を護衛出来る?」

「いきなりなんの話だ」

「いいから答えろ。何人だ」


 戸惑いながらも、リーダーの男が答えた。


「……少なくとも、俺は3人が限界だと思っている。魔法も万能じゃない。四方から襲われたらその内の一方から早めに片付けるしか無いからな。そもそも盗賊に襲われたら1人じゃまず無理だ。ステータス差でゴリ押ししても必ず傷は負うだろう」


 4人も頷く。ドロアは白いローブの少女がこれまでこなしてきた証明書を彼等に見せた。


「なんだこの証明書の束は?」

「この嬢ちゃんがお前等が居ない間に受け持った1ヶ月の実績だ」

「嘘だろ!?」

「本当だ。で、その内の1つがこれだ。読んでみろ」


「……ば、馬鹿げてやがる」


 書いてある内容は、300人の商人を隣町まで護衛するという依頼だった。一人で、しかも依頼は達成されている。


「その前にも80人の商人の護衛依頼も達成されてる。証明書見れば分かると思うが、その時には魔物100体近くを一度に倒してんだ。嬢ちゃんの魔法でな。しかもその内の3匹はロックリザードだ。それを相手にして、嬢ちゃん含めて全員無傷で送り届けたんだよ」


 彼等の常識からは考えられない所業である。言っているドロア自身でさえ、そんなことは不可能なのだ。こんなことが出来るのは勇者か魔王ぐらいだと。


 口をパクパクすることしか出来ない『明ける鉄壁』に、ドロアは提案をした。


「で、こんだけ強い嬢ちゃんに、俺は今回この緊急依頼を個人指定で出した。つまり、『依頼継続』という形でだ。これならお前等の罰則は全てこの嬢ちゃんに行く」


「ちょっと待ってそれ私聞いてない」


 いきなり白いローブが喋り始めた。そういえば初めて声を聴いたと5人は思ったが、本当に少女の声だと驚く。


「お前さん、どうせ成功するんだから関係なかろう?」

「えぇ……まぁ良いけどさ」

(((良いのか!?)))


「まぁそういうことだ。ただし報酬は全てこの嬢ちゃんに行く。レッドドラゴンの素材は全て街に寄付されるから、結果的に損が多めだが、大損じゃなくなる訳だ」

「報酬もか……」


 彼等は報酬を貰わずとも良かった。しかし、重傷で廃業を余儀なくされた者達には、これからを生きていく為に金は必要だと思っているからこそ、その呟きが口から出てしまう。それを分かっているのか、ドロアは宥める口調で言った。


「中級から下の奴には、この嬢ちゃんから報酬の2割を分け与えると交渉は済ましてあるから安心しろ。それはギルドからの保険みたいなもんだ。俺も残念ではあるが、その金で新たに生きていく道を探して欲しいと思っている。納得したか?」

「……本当に任せて良いんだな?」

「任せて良いよ」

「……分かった、『依頼継続』を了承する。冒険者達には俺が言うから、後は頼んだ」


 こうして、レッドドラゴンの討伐は一人の少女に託された。



「ああ、そうだ。ドロア、今負傷者って地下で固まってるんだよね?」

「お前呼び捨て…ああ、もう全員地下に居る筈だ」

「……そう。じゃあ私は行くね」


 部屋を出て、私は速足でギルドの地下に向かう。さぁて、私は私で過密スケジュールを消化しに行きますかねぇ。




「アイドリー、ごめんね?」

「良いよ。私ばっかりアリーナにお願いしてたら不公平だもんね。それに、その優しいお願いを私は叶えてあげたいから」


 そう、沢山の負傷兵をアリーナが見掛けた時、彼女は私にあるお願いをしてきたのだ。その願いを私は叶えることが出来るけど、しかし必ず目立つこと請け合いだった。しかしもう既にレッドドラゴンで目立つことは確定しているので、やってしまおうという適当なノリで了承。


 その時のアリーナの見せた笑顔は頭のアルバムに仕舞ってある。



 地下に付くと、医療系の職員に指示を出しているレーナさんを発見した。室内はてんやわんや。あちらこちらで呻き声叫び声泣き声の合唱。地獄絵図が広がっていた。


「あれ? アイドリーさん、お話終わったんですか? なら何で此処に?」

「あー、ちょっとやることがあってね」

「も、もしかしてお知り合いが……?」

「んーいやいや、そういうんじゃないよ。私のことは良いからお仕事お仕事」

「え、あ、は、はい」


 さて、まずは感知で負傷者の魔力だけを見る。見事に欠損した部分の魔力がごっそり削れていて分かり易いね。数分で全員分を把握した。その様子をレーナさんが支持を出しながらも不思議そうに見ているが、知ったことではない。



「イメージは欠損の回復……」



 妖精魔法は魔力を消費しないが、特有の疲れというか、頭が知恵熱みたいな熱さを持つのだ。これはイメージする事象が大きければ大きいほど、強ければ強い程熱さが増す。


(ふぉぉ~キッツイなぁ。意識飛びそうだよ)


 瞬間的に頭が沸騰しそうになるが、諦めずにイメージを魔法に乗せて発動していく。



「あ、あれ? なんだ? 腕があるぞ!?」

「そんな、いつの間に治ったの!?」

「私の足がある……足があるよぉおぉうえ~~~ん!!」


 よし、成功した。続々と欠損していた腕や足、ついでに火傷や傷も治っていく。全快した者から泣いたり喜んだりとさっきとは違う意味で騒がしくなっていくね。


「ありがとう、アイドリー」

「いいよ。これでハバルは大丈夫かな」


 頭の熱も下がったのでその場を離れようとしたら、レーナさんが此方に走り寄ってきた。



「あ、あの、あの……これって……あぷっ」

 私は指を口に当て、次に出てくる言葉を塞いだ。その先を言わせる訳にはいかないからね。



「ギルド長にだけ話しといて。私はこれからコータス子爵のところに行ってからハバルを出る。今回のことは私の独断だから、私の手柄にはしないこと。依頼外だから報酬も要らない。だから誰も知らない不思議現象で通しといて」

「そんな勝手な――」

「バレたら不味いって分かるでしょ? それでもやったのは、私は少なからずこの街で知り合った人達に困って欲しくないからだよ。それだけ」


 そんな風に言われては何も言い返せないのか、レーナさん口を噤んでしまった。ごめんね、けど願いを受けた上で私もやってるから、我儘なのは承知なんだよね。


「……冒険者の皆さんを救ったのは確かですから、お礼を言う以外の言葉を私は持ち合わせていません。ただ1つ、無事に帰って来て下さいね? 死んだら……駄目、なんですから……っ」

「うん、それじゃあ……行ってきます!」


 多分この街で一番お世話になったであろうレーナさんのお願いだ。破る訳にはいかないね。さぁとっとと次行こうか。





「殴りに来ましたよ子爵様」

「いきなり何の用かと思えば、貴族に暴行を加える為に堂々と来たのかね?」


 いや、だって今回のことって元を正せば貴方が原因じゃん?その尻拭いをこれから私がしに行く訳だから、殴っても許されると思うんだ。


「レッドドラゴンの討伐のことか? 私とて、あんな依頼など出したくはなかった。それに、大量の初級ランクの冒険者が受けたのも誤算だったのだ」

「けど指定ランク設けてなかったよね? 報酬が金貨じゃ誰だって飛び付きもするよ。素材は高く売れるんだし」

「わかっておる、後から気付いて酷く後悔したわ…」

「で、なんでドロアとヒルテさんを門前払いしたのさ?」

「……どうしようもなかったからだ」


 聞いてみると、なんとこの依頼、本来なら各地の街と連携して行う筈だったらしい。しかし何故か王都の方で待ったが掛かったり、勅令でハバルの冒険者だけで対処せよという結果になったとか。ということは、本来ならもっと強力な冒険者を送り込める予定だったってことか。


「何故そのようなことを、と私も思ったが。聞く耳持たずでな。貴族と言えど王族には逆らえん。件のドラゴンがどの程度の強さかも分からんかったしな」

「だから弱い方に賭けてあの依頼内容ってことですか?」

「……そうだ」


 溜息を吐いてしまう。その所為で生活に困った人も居るのだ。少なくとも上級ランクだけを行かせて軽く当たらせた後に、国への支援を訴えれば防げただろうに。


「貴族のプライド?」

「それは一割にも満たない。誰が領民を死地に行かせたがる。立派な街の働き頭達だぞ。だがそんな弱気な依頼をしてみろ、八方から叩かれた挙句、王から爵位剥奪なんてことになりかねんのだ。勅令を果たせないのだからな……だが、これではシグルのことは言えんな。私は無能だろう」


「じゃあそんな貴方にビッグチャンスのお知らせです」

「なんだと?」


 冒険者ギルドでのやり取りを話すと、『明ける鉄壁』と同じような表情になってしまった。ついでに部屋の外で聞いていたシグルが「馬鹿か貴様!!」と怒鳴り込んで来たので腹パンして黙らせた。ノックぐらいしろ。



「私はこの依頼が終わったら王都に向かう予定なの。旅が元々の目的なんだけどね。だから、これが手切れ金だとでも思って?」

「いや、しかし……死ぬかもしれんのだぞ?」

「約束したし、死なないよ。じゃっ」




 これで王都に行けば何でそんな勅令を出したのか真相も分かるだろう。私としては悪の親玉がそのまま玉座に座っていてくれれば楽なんだけどね。


「さぁアリーナ、これから数日かけてライザルの丘までピクニックしに行こう」

「いくー!」

「レッドドラゴンってどんな焼き方が美味しいかな?」

「焼肉、ステーキ、しゃぶしゃぶ、ハンバーグッ!!」

「おーいいねぇ」


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