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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第三章 レッドドラゴン討伐
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第24話 お家騒動の末路

「踏み込みと振りが遅い!そんな腰の使い方があるか!剣で受けるな体で躱せ!目を瞑るな死ぬよ!!」

「ぐっ…うぉおおおおおおお!!!」

「戦っている最中に叫ぶな!! そういうのは止めの時だけ!!」

「がふっ!!? ぐ、くっそ……っ」



 私はちょっと戦ってみて、妖精の型の無いお遊びチャンバラごっこを思い出していた。


 この人やっぱり独学だったんだね。しかも身体が出来てるから何時間もずっと戦ってられる筈なんだけど、剣の型が無いからずっと振り回されてあっと言う間に息切れを起こしてしまう。身体の使い方を分かっていないんだ。


「これは外に出て正解だったね。経験を積ませた方が遥かに力として身に付く」

「遥かな高みへ~?」

「よくてアステルさんぐらいの上り幅じゃないかなぁ」


 さて、息切れを治させている間に、こちらも感知で魔物探しといこうか。最初はゴブリンで良いだろう。


「……よし、居た」

「なにが、居たって?」

 お、起き上がってきたね。2時間ぐらいは戦いっぱなしだったのにもう動けるのか。根性も人一倍ありそうな予感。


「魔物を倒したことは?」

「数年前、兵士に言うこと聞かせて倒しに行ったことはある……見つけられなかったが」


 兵士の皆さんお疲れ様。この人に戦わせない為に必死で逃げてたんだね。



「じゃあ、今日その初めてを卒業させてあげよう」



 少し歩いた先に、ゴブリンが2匹居た。シグルは初めて見た魔物に興奮を隠しきれないようで、剣を強く握る音が聞こえる。魔物を倒すと言った途端素直に付いてくるなんて、単純だなぁとは言わない。男なら憧れるよね、魔物退治。

 ああ、いけない大事なことを忘れるところだった。シグルのステータス確認しておかないと。


シグル(14) Lv.7


種族:人間


HP 283/283

MP 121/121

AK  103

DF  65

MAK 44

MDF 43

INT  77

SPD 51

  

スキル:剣術(E-)



 ゴブリンぐらいなら倒せる感じだね、良かった。でもウルフとは一対一で戦わせよう。


「ゴブリンは単体じゃ雑魚だけど、複数の場合は連携で仕掛けてくるから厄介なんだ。貴方の今のステータスなら油断さえしなければ勝てるから、いっちょ当たってみようか」

「い、いいのか?」

「勿論。危なかったら助けるから安心して」

「ふん、そんな必要は無い!!」


 そう言って意気揚々と出て行った。水人形1体だけ出してゴブリン達の足元に忍ばせたので、いざという時も平気だろう。お、接敵した。



「でぁあ!!」


 学習が早いな。さっき指摘したことを覚えて即座に自分の動きに生かしている。あれは多分私の剣の振り方もちゃんと見ていたんだね。見事に振った剣はゴブリンを肩から両断した。


「や、やった!」


 初々しいけど喜ぶのは今じゃないよ。もう一匹のゴブリンが仲間を殺されたことに激昂してこん棒を振り回してきた。シグルはそれに慌てるも、一度下がって態勢を立て直す。あれ?結構出来るじゃん。ゴブリンはその後もこん棒で攻撃を加えようとしたが、剣で弾いて刺突する。それはゴブリンの喉を貫いた。



「勝った! らくしょ「まだだよ!!」え、あ」



 喉を突き刺されたまま、ゴブリンはこん棒を振るい上げたのだ、あのままだと頭に直撃する。シグルは咄嗟に剣を離し後ろに下がろうとするが間に合わない。


「うわぁあ!! ……あれ?」

「だから目瞑っちゃ駄目だよ。どんな状況だろうと、ね?」


 ギリギリのところで、水の刃がゴブリンの首をこん棒ごと切り裂いた。死んだゴブリンをシグルはしばらく見つめると、その目をこちらに向けた。敵意という感じではない。


「魔法、使えたのか?」

「私としては、こっちが本業だよ。剣術と組み合わせて戦うのが得意ってだけでね」

「……そうか」


 



 気づけばもう夕方だった。あの後もシグルはゴブリンと戦い続け、三匹同時まではなんとか勝てるようになった。最後の一匹を倒すと、力尽きたようにその場に倒れて荒い息を繰り返すシグル。


「お疲れ。初日からやるじゃん」

「うるさい……さっさとレベルを上げて、お前を倒してやる」

「それが頑張った動機?根性があるんだか反骨精神の塊なのか判断し難いなぁ。まぁいいや、戦っている間にウルフを10匹程見つけたから狩っといたよ。今日はこれで1匹解体してウルフ鍋といこう。解体の仕方は知ってる?」

「はぁ……はぁ……知っている。勉強した」

「ほほう?」


 なんだ、やっぱ勉強熱心じゃん。


 日が完全に落ちた頃、漸く料理が出来たので舌鼓を打つ。調味料を背中から次々と出したら怪しまれたけど「マジックバックか……」と一言呟いて興味を無くしてくれた。勘違いしてくれるならいいや。


「美味しい?」

「……普通だ。屋敷の料理に比べればな」

「だろうね、けど私は美味しいよ。動いた後はとってもお腹が空くからね。余計そう感じるよ」

「軟弱者だな……そんな話はどうでもいい。明日はどうするんだ?」

「なんだ、私は倒さないの?」


 もう少し粘ると思ってたのに。あーけど、この顔は戦う楽しさに目覚めたのかな? まぁレベルを上げていけば私を倒せる確立も一応上げられるしね。それを狙ってるのかな?


「それは今は無理だと分からされたからな。で、どうなんだ?」

「基本的には今日と一緒だよ。私と戦いながら魔物と戦って、日が暮れたら野営ね。で、2人でご飯食べながら今日の反省会かな」

「そうか……ならいい」


 そう言うととっと自分の分の物を平らげてしまった。食器を置くと、そのまま焚火を見つめて黙ってしまう。どうしたの? ホームシックでも発症した?



「……昔の話だ」

 しばらくすると、少しずつ彼は話始めた。やっと本題に入ったね。


「父は二人の妻を持っていた。貴族の家庭だ、珍しくもない。だが私の母はそれを良しとしなかった。正妻は自分だと頑として譲らず、何もかもがもう一人より上でなければ暴れるような人だった。だから、そんな母に愛想が尽きた父は、一度母を捨てた。その1年後に私が生まれた」

「捨てられた後に気付いたの?」

「さぁな。だが、もう一人の方は子宝に恵まれなかったんだ。やっと出来た子供も病弱でな。数年で衰弱死したと聞いている。もう一人もその心労で会えなく後を追ってしまったそうだ」

「貴方のお母さんは?」

「8年前、流行り病で逝ってしまった。それからすぐ父に引き取られたのだ。最初は恨みもしたが、母も後悔していたからな」


 だから恨みも薄かったと。当時6歳、街で暮らしていた彼はいきなり貴族の世界に連れて来られて大いに動揺し、環境に振り回されたらしい。どうにか期待に応えようと頑張りもしたが、誰も彼も無能と笑い、まともな指導者にも父の少ないコネでは巡り合えなかったとか。


「剣術を覚えたのは10歳の頃だ。初めて自分にスキルが付いて直ぐに父のところへ向かったよ。だが褒めては貰えなかった」

「それでグレたの?」

「分からなくなっただけだ。貴族ってなんなんだろうと……そう思ったら、それを、持てる権力を行使したくなった。だから横暴な真似だって出来た。力の前に平民は屈した」


 分かっていてああいうことをしていた訳だ。止められもせず、しかし最後の一線は越えられない、中途半端な悪ガキで止まってしまったと。


「どうせ聞きたかったのだろう? 分かっていたぞ」

「それはごめん。じゃあ聞いた上で聞くけど、どうすれば貴方は父に認められると思う?」


 少し考える素振りを見せると、胸を張って答えた。


「力だろう。意志の力、武力、権力、貫き通す信念。貴族としての覚悟、理不尽な世界への影響力。そういった物だ」

「確かに全部必要なんだろうけど、今の貴方にはもっと足りてない物があるよ」

「なんだ?」

「信用と信頼」


 焚火を消して、私は空を見上げた。あまり長時間付けていると、魔物が寄って来るからね。光は、空の星々があれば良い。この世界の夜空は輝いているからね。



 街を出て行く時のことを思い出す。シグルはずっと助けを求めていたけど、誰も耳を貸さなかったし目を背けた。確かにシグルのやってきたことを考えれば当然の行為だけど、彼は貴族の息子なのだから、普通は止めに入る者が一人は居るものだ。


「簡単な話。どんな人間であろうと、1人では生きていくことは出来ない。1人では街を運営するなんて不可能だし、1人で強くなろうとするなんて無謀なんだよ。貴方は何処にでも居る、普通の人間なんだから」

「お前はどうなんだ?」

「私だって手伝って貰ったよ、沢山の人に……だから今こうして此処に居る」

「……」


 さて、そろそろ夜も更けてきたし、テントに戻ろうかな。


「私は寝るけど、どうする?」

「……体力は明日に残しておく」

「そう……じゃあおやすみ」



 テントに入って妖精魔法で周りに防護と防音を掛けておく。さて、


「アリーナ、出ておいで」

「あいー♪」


 私も人化を解く。今更だけど、妖精の方が広く使えるから色々楽なんだよね。さぁ寝る前の一局だ。



「「勝負ッ!!」」



 金に挟まれて投了しました……

「アリーナ今1日何時間将棋してるの?」

「えーとー……わからないくらい?」

「えぇ……」


 妖精は面白い物を見つけると、それだけで永遠に遊んでられるやり込みゲーマーである。

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