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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第三章 レッドドラゴン討伐
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第22話 たった一人の冒険者

 レッドドラゴン討伐の為に、街から1人を残して戦闘職の冒険者が全員駆り出されてしまった街。それが今のハバルの現状である。


 日頃依頼を出している人間からしてみれば堪ったものではなかったが、もしもレッドドラゴンが討伐されれば、素材は全てこの街の利益として反映されることになっている。それを思えば、今のこの状況も耐えらえると大勢の一般人は思っていた。



 しかし、商人や鍛冶師は違う。街から出るには、必ず冒険者を雇う必要があるというのに、その冒険者が居ない。よって荷を待っている人達へ届けることも出来ない。もっと言えば稼ぎに行けないのだ。

 来る時に雇った冒険者は、往復で雇っているなら良いが、そうではない場合即座に他の商人との競売になってしまう。ギルドの依頼書には護衛の依頼で満杯になっているので、冒険者達もいざこざを恐れて誰も受けようとはしないし、すぐ街を出て自分達が拠点としている街へ帰ってしまう。


 そして職人達も困っていた。物作りの為の素材はやってくるが、それを街の外に出せないのだ。だから当然収入は0になる。鍛冶師も、買いに来る客や補修を頼みに来る客が全員レッドドラゴン退治に行ってしまったのだから、この1ヶ月のことを考えたら途方に暮れそうだった。



 そんな中、1つの光明が現れる。それは現在この街に残っているたった一人の少女の冒険者。


 曰く、少女は冒険者になったばかりだが、80人の商人達を一度に護衛し、100匹近い魔物に襲われても見事無傷で隣町まで運んだという実績があった。その80人のほとんどはこの街か近隣の村出身の為、すぐに話は街中に広がり、浸透していく。


 実際に何人かの商人が依頼を出してみると、冒険者ギルドから回答があった。



『行き先が同じで隣町までなら、同時に受けることが可能である』と。



 この話を商人ギルドのギルド長も公の場で承認し、この1ヶ月の間だけは許可された。


 護衛の冒険者は勿論例の少女。こぞって依頼を出し、前回よりも遥かに多い人数になってしまったのだ。



 その数、実に300人。しかし、依頼は受理された。



 やってきたのは白いローブを羽織り、フードで顔を隠した小柄な少女。勿論最初は怪しいと思われた。冒険者ギルドに騙されたのではないかと。だが、そのグループを率いるのは、前回その少女に護衛された者だった。紹介の段階で全幅の信頼を寄せていたその男を皆信じて出発すれば、魔物は一撃粉砕、複数出て来たら見たことの無い水人形で全て切り裂き、野営時には高く馬鹿げた強度の土壁で守られた。


 冗談みたいな光景だったが、次の日には全員隣町に到着したのである。そして当然そんな目立つようなことをしたのだ。隣街どころか、周辺の国にまで噂が飛び火するだろうということを、当の本人は失念していた。


 そしてそれから2週間。討伐隊が出て3週間目の頃。



「超疲れた。もう動きたくない。一歩も外に出たくな~~い」

「お疲れアイドリ~、はい蜜ジュース♪」

「ありがとうアリーナ~~、ごくっごくっ…………ぷっはぁぁあぁ~~~~~!! あ~全てが満ち満ちてゆくよぉ~~~~、あり~~な~~~、ん~お肌スベスベで可愛いぞこのぉ~~♪」

「ふにゃ、アイドリーくすぐったしっ、んふぁっ、んふふ~~~♪」


 私は、宿屋のベッドで妖精に戻ってアリーナの膝枕→抱き着き合いのムーブで英気を養っていた。ありえない。超ありえない。300人の護衛もそうだけど、そこからの怒涛の依頼ラッシュが酷かった。

 ギルドに顔を覗かせてみれば、直接依頼がしたいという鍛冶師や職人に揉みくちゃにされ、外に逃げて広場で串焼きを食べてたら、それを見た商人が警報のように同類を集め私を囲ってきたり。


 どいつもこいつも顔が怖いのだ。必死の形相なのだ。アリーナがトラウマになったらどうするつもりなのさまったく。本人はおしくらまんじゅうみたいだと笑ってたけど。


「依頼、もう受けなし?」

「そうだねぇ……ちょっとは落ち着いてくれないとなぁ……」


 この2週間を馬車馬のように働いた私は、1日に少なくても5束ぐらいの依頼を一気にこなし続けていたのだ。鉱石の運搬とか井戸掘りとか魔物の素材とか護衛任務、果ては孤児院の子守りまで。


 いや、あれだけは癒しだったな。子供達可愛かったし、帰りに玩具沢山あげてしまったよ。



「にしてもさぁ……渾名とか付けられると恥ずかしいよぉ~」

「『白水の女神』ー?」

「い~や~言わないで~言わんといて~」

「恥ずかしがってるアイドリーかわゆし~~♪」

「ちゃうもん。そんなんじゃないもん。ほっぺの熱いの取れないだけだもぉ~~~ん」


 恥ずかしい。白いローブと水系魔法で戦っている姿からそんな名前が付けられてしまうとは。護衛依頼する度にそんな渾名を呼ばれ賞賛されるとか背中がゾワッとして事故りそうになるよまったく。


 とにかく、少し休みが欲しかった。2日ぐらい。アリーナとも遊びに行きたいし。後いい加減将棋で1回は勝ちたい。



 コンコンコン アイドリーさ~ん



「レーナぁ?」

「……そうみたい。しょうがない、出るよ」

「うい~、ふぁいとよアイドリー?」

「ういうい、任せんしゃい」


 至福のひと時を中断し、直ぐに人化してローブを羽織ってフードを被る。ドアを開ければ、見知った顔だ。最近化粧が剥がれて疲れた顔した亡霊みたいになってるレーナさん。さっきの私みたい。


「どしたの? そんなお化けみたいな雰囲気醸し出して?」

「最近の活躍を目まぐるしいので、ギルド長が次のランクに上げるよう言ってまして。お時間良ければこれから来て頂けませんか? ……これはただ疲れているだけですのでご心配無く」

(すっごい心配しちゃうんだけど……後で世界樹の葉ハーブティあげよ)

「あー……まぁ良いか。行くよ」


 出来れば今日は寝ていたかったけど、ランクを上げるられるならさっさとしときたい。今はC+まで上がっているから、次はBだ。試験内容はなんだろうね。



「来たよー」

「おう、悪いな疲れてる時に」

「いいよ、こういうのは早めにやっておきたいし。ギルド長は元気だね」

「なら助かる。俺は元冒険者だしな。体力だけなら無駄にあんだよほっとけ」

「レーナさん死にそうだったよ?」

「悪いとは思ってる。その分の給金はやるから、もう少しだけ他の連中にも無理して貰うさ。討伐が終われば楽になる……多分」


 言いながらも、ギルド長も疲れた顔しているというか、巨体が少しだけフラフラしてるね。身体が強くても、やっぱり脳までは鍛えられないか。


「試験内容についてだが、今回は免除だ。前に300人の護衛をやった実績があったろ? あれはSランクの依頼だと言っても過言じゃないからな。だからカードだけ更新するから出してくれ」

「わかった」


 流石にあのレベルの依頼をもう一回やれとかだったら拒否していたかもしれないから助かった。レーナさんにカードを渡して、私も椅子に座る。


「後、最近依頼人達に追っ駆けられていただろ? ヒルテが手を回してくれてな。冒険者の自由性をもっと尊重しろって怒ってたぜ。普段なら絶対言わねぇなあんなこと」

「やっぱり優しいおじいちゃんだね」

「そんなこと言うのお前ぐらいなもんだぜ?」


 そう言って笑いながら酒を煽る。いや、仕事中になに飲んでんのさ。というかなんでギルド長室じゃなくて酒場で仕事してんのよ。


「飲んでねぇとやってらんねぇよ。ほれ、うちの従業員もちらほら居るんだぜ?」


 まばらにだが、飯を食べながら書類を片付けている職人を何人か見つける。なんて社畜根性なんだろうか。ここだけファンタジー色失ってるよ……



「アイドリーさん、こちらがBランクのギルドカードになります」

「ありがとうレーナさん」

「後、先程頂いたハーブティ、とっても美味しかったです。何だか疲れも吹っ飛びまして。もしかして何かしらの魔法薬でしたか?」

「そんなところ。お金は要らないから、筋肉ゴリラなギルド長に負けずお仕事頑張って」

「はい、ありがとうございます♪」

「あれあれ二人とも酷いんだが? 泣きたいんだが?」


 渡されたカードをすぐに空間魔法で背中から収納する。これ、魔物とかでやるとどうしても護衛している商人に聞かれるんだよね。その内違う物で代用して誤魔化そう。


「Bランクか。1ヶ月足らずでここまで上げた奴は『勇者』以外ではお前が初めてだろうな」

「勇者が冒険者をやってたの?」

「魔物を倒す次いでにやってる奴は多かったらしいぜ。今世の勇者達も冒険者だしな。現在SSSランクで生物最強とか言われてるよ」


 異世界転移した勇者か。勇者って役割があるからきっと特典とか貰って無双してたんだろうなぁ。いつか会うんだろうけど、ちゃんと話が通じる相手だといいなぁ……


「話は変わるが、今日の依頼はどうするんだ?」

「やらずに帰って寝たいんだけど……」


 私も最近あまり寝てないんだもん。アリーナを抱き枕にして寝たいし全力でイチャコラしたい所存だけど?


「そうもいかん。まぁ商人の護衛依頼はもう無いから安心しろ」

「……なら、まぁ」


 正直言ってあれが一番辛かったからね。ほとんど寝られないのもそうだけど、何より商人達からの質問の嵐がヤバくて護衛に集中出来なかったのだ。余計な気を使い過ぎて途中何度寝落ちしかけたか……


 依頼書を渡されたので目を通してみたら、あら、これならいけそう。



・技術指南・ 指定依頼

報酬 金貨7枚

内容 領主の息子の剣術指南。日程は1週間

達成目標 剣術ランク(D)にまで上げる。現在のランクはE

指定ランク B

定員 1人



「この街の貴族かぁ……そういえば会った事無いね」

「お前がカナーリヤの武闘派貴族の依頼を受けたって話を聞いたらしくてな。是非受けて欲しいらしい」

「あー……」


 アステルさんが言う訳無いし、多分誰かが流したんだろう。受ける度に口止めするのも疲れるし。ああでも、今回は技術指南だけなのか。それなら実力を出す必要も無いか。


「いいよ、今からで良いの?」

「ああ、一人で行けるか?」

「何度か屋敷の前は通ってるから大丈夫だよ。行ってきまーす」

「行ってらっしゃいアイドリーさん」


 2人と何人かの従業員に見送られて私はギルドを出た。あーしかし、1週間か。隠れ蓑に出来る依頼を用意してくれるとは優しいじゃないか。これでしばらくは身体を休めることが出来そうだよ。貴族の依頼なら文句を言われないし。


「らくらくー?」

「五分五分かな。相手の性格によっては大変な依頼だからね」





「鬼ですねギルド長」


 レーナがどっさりと書類を机の上に置いて言ってくる。彼女も鬼だった。


「しょうがねぇだろ。カナーリヤの時と一緒さ。あいつしか受けられる奴が居なかった」

「それは、無理やりギルド長がBランクに上げたからでしょう?」

「向こうでもやったことだ。それにだ。良い加減あの馬鹿をどうにかしないと、住民だって安心出来ねぇだろ? 大丈夫だよ。アイドリーなら」

 

 無責任な発言だが、しかしアイドリーならやってくれるだろうと思っている。でないと将来あの馬鹿息子が街にどんな災いが起こるか分からないからだ。

 あいつの性格上、一度受けた依頼は完璧にこなすタイプだし。なら、あれの性格もついでに叩き直してくれると信じよう。




「たった1人の冒険者に頼るしかないってのは、情けねぇ話だなまったく」

「だったら仕事して下さい!!」

「……はい」

「貴族と言えばお家騒動だね」

「可愛いドレス~?」

「アリーナの方が可愛いよ?」

「「?」」


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