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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第二章 冒険者になってみた
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第20話 後始末と別れ

「おねぇさま~♪」

「はいはい……可愛いねぇ~まったく」

「可愛いですか!? 私可愛いのですか!?」

「え……うん」

「たはぁ~~~っ」

(この子面白いなぁ……)

(んなぁ……)

(アリーナには残念ながら及ばないけれど)

(……んふ~♪)


 私は今、メルキオラの自室に招待され、ベッドの上にて彼女に抱きしめられた人形になっている。何故こうなったかと言えば、バヌアが今後の話をアステルさんとするから待っててと言われ、そしたらメルキオラが是非私の自室に来て下さいと言われて来てみれば、この有様に。

 私は彼女にベッドに押し倒され、抱き枕の完成だ。あの、先程から股を擦り付けるのやめて……アリーナが真似したらどうするの。


「あの、メルキオラ様?」

「そんな、メルとお呼び下さい。敬語も止めて欲しいです」

「あ、はい。えっと……メル? 聞きたいことがあるんだけど」

「はい、なんなりと」


 何か従順に成り過ぎじゃない? 本当に同一人物なのかな? ツンに対してデレがつよつよしぃ感じだよ。


「どうしてメルは、強い男の人を求めてたの?」

「それは……昔から父は武闘派の一派として知られている貴族の一人なのですが、常日頃その父に言い聞かされてきたのです。『私よりも強く、優しい貴族の男がお前の婿だ』と。だから私はそれを追い求めていました。きっと素敵な恋が出来ると信じて」

「因みに…それはいつ頃から?」

「……? 4歳ぐらいの頃からですが」

「わお」


 なるほど、夢見る乙女の前段階でこういう刷り込みをされた結果、最強の王子様を探し続けて拗らせたせてしまったのか。


「しかしこの国の貴族で、若い男は皆お父様より弱かったのです、騎士団であれば強い者も沢山居たのですが、貴族は皆貧弱だと思い知りました……」


 つまりボンボンがほとんどってことね。けどまぁ戦いの経験とかないと強くなるのも難しいし、レベル上げる為には魔物を倒さないといけないからしょうがないんじゃない? 強い魔物に貴族の長男を戦いに行かせるとか後継ぎ失いそうな行為だし。


「けど、今日私は遂に見つけたのです。お姉様こそが、私の求めていた人だと!!」

「私女だよ? 貴族でもないし、お婿さんにはなれないんだけど」

「お姉様は私の嫁!!」

「メルって転生者じゃないよね?」

「?」

 キョトンとした顔はアリーナと同じように子供らしくて好感を持てるんだけど、貴族に生まれたからなのか無駄に知識があるからなのか、微妙におませさんになってしまっている。


 そこで天の助け、ドアのノック音が聞こえて来た。メルちゃんそんな露骨に嫌な顔しなくても…

「アイドリー様、メルキオラ様。ギルド長と伯爵様の会議が終了しました。リビングまでお越しください」

「だってさ、行こうメル?」

「……わかりましたわ」



リビングには、長机の椅子に腰掛ける二人が居た。どっちも生暖かい目で見てくれちゃってさ。


「すっかりメルキオラに懐かれてしまったな。はっはっは」

「メルキオラ様。そこ変わりませんか?」

「アステルさん、娘さんの将来が心配なんじゃないの? そしてバヌアは潰しとく?」

「どこを!?」


 アステルさんからも敬語を止めて普通に接して欲しいと言われてしまったのでこの話し方になった。武闘派だからこそこういう対応なんだろうね。普通の貴族相手だったら不敬罪だから気を付けてってバヌアに釘刺されたし。分かってるよまったく。


「メルはまだ8歳だ。出来ることなら心の赴くまま自由にさせてやりたいのだよ。結婚する時期は13~22歳ぐらいだしな。少なくともまだ5年ある。他国の貴族になら強い長子も居るだろうし」


 なんとも気の早い話だ。13で結婚とかランドセル取れたての中学生の歳だろうに……まぁそれはこの世界の常識だから何も言わないけど。


 とにかく私としては束縛される訳にはいかないから、早々に終わらせたい。


「それで、後始末はどうなったの?」


 後始末とは、当然ダイオスの今後の事についてである。あれだけのことをやってしまったのだ。完全に終わりだろうとは思うけれど。一応確認ね、確認。


「ダイオスは決闘罪の反故と、貴族令嬢への人質未遂ということで、奴隷堕としで最も危険率の高い鉱山に送った。今頃はもう街を出たところだろう」

「ならいいや」

「それで、アイドリー。お前には依頼の件以外で礼をしたいのだが」

「依頼通りのことしかしてないよ?」

「決闘はその通りだが、メルを救ったであろう。あれは依頼外だ」

「人として当然のことでしょうに……」

「私が個人的に感謝しているのだ。何でも一つ、出来る限りの礼をしたいのだよ」


 うーん……特に欲しいものとか無いんだけどなぁ。あってもそれは一貴族には無理な話だしなぁ……あーそうだ。


「じゃあ、私のことを言い触らさないで欲しい。特に、今回私の顔を見た人、私の戦い方を見た人は周囲に話さないよう徹底して」

「何故そのようなことを?」

「私は目立つことを避けたいの。いつかは目立つんだろうけど、それは今じゃないから」

「目的があるから隠れていたいと? 君はどこかの王族なのかい?」

「違うけど、あることが目的で信用、信頼が出来る国を探しているの」


 その言葉に二人が首を傾げる。


「我が国では駄目なのか? それは」

「アイドリー、それは遠回しにこの国じゃ駄目ってことかい? そんなに悪い国じゃないと思うんだけど」

「獣人を奴隷にしたのに?」

「……なるほどね。それが君の基準なのか」


 そりゃあね、嫌いじゃない人も出来たし、そこそこの知り合いも出来た。けどこの国自体は好きになれない。私の基準がこの国で欺瞞だったとしても、不当な奴隷制度は認められないのだ。


「獣人の国は周りの人間の国によって滅ぼされたと聞いた。私は山奥から来た人間だから、そんなことをした国が獣人を奴隷として分け合って国力にするというのはどうしても嫌悪感を抱いてしまうかな」

「なるほど、獣人と人間を同じ尺度で見ているのか。なら、確かにこの国は信じられぬだろうな。だがな、我々とてあの戦争はやらなければならなかったのだ」


 ここだ。貴族、それも武闘派ならそこらへんの詳しいことも知ってる筈。そろそろテスタニカさんに有用な内容を伝えたかったし、ここらへんで少し使命を果たそう。



「どうして戦争が起こったの?」

「獣人の国は昔から周辺諸国と仲が悪かった。それは認める。どうにもお互いを見下してきた歴史があってな。それを続けていた所為で今では埋められぬ溝となっていた。それでも貿易はしていたのだ。だが、ある時その関係が急変する事態が起こった」

「それは?」


 アステルさんは少し溜めて、俯きながら言う。


「魔王が生まれたのだ。獣人の国でな」

「アイドリー、魔王は獣人の国王が発症させてしまったんだ。その影響で、獣人の半数は魔族となってしまった」



 魔王とか魔族って病気みたいなものなの? 何が原因でそうなるのかな? そういう種族だと思ってたのに。

「原因は分からん。歴史の中では、人間が魔王になってしまうこともあった」

「どうしてそれが分かったの?」

「魔王が生まれる時、勇者もまた現れるからだ。勇者はハーリアという国の召喚術によって呼び出されるのだが、これは魔王が現れるのがトリガーとなっているのだ」


 なるほど、それが『魔王』が生まれたどうかを知ることが出来る理由ね。けどそれだけじゃまだ足りない。


「じゃあ何で獣人の国に魔王が居るって分かったの?」

「それは巫女の予言によるものだよ」

「巫女?」

「勇者を支援する教会が全国にあるのだが、その総本山である神聖皇国レーベルラッドに居るのだ。その方は女神から賜った固有スキルを血と供に受け継いでいる一族の末裔でな。数年前にそれを使って魔王を特定したのだ」


 魔王専用のダウジングってことか。便利なことで。


「ってことは魔王は倒されたの?」

「勇者が打ち取ったと私は聞いている。当時は獣人国周辺に居たのでな、その場面は勇者以外は見ていないが……」


 勇者が打ち取った……なら世界から危機は去っている? けどそれだと世界樹のことに説明がつかない。それ以外の原因とか在り得るんだろうか……?


「まぁいいや。次、どうしてその後、残っていた獣人達を奴隷にしたの? 獣人の国は滅ぼしたけど、悪いのは魔王と魔族だけでしょ?」

「それは、残った獣人達が魔族化する可能性に各国が恐れた為だ。奴隷にしておけば、いざ魔族化しても行動を縛れるからこその判断だろう」

「なら奴隷の首輪だけつけて、後は自治区でも何でも作って暮らさせれば良かったじゃん。人権奪って働かせるのは可笑しく無い? 敗戦国扱いして罪の無い獣人を労力として使ってるんでしょ?」

「うっ……」


 そこでアステルさんは言葉に詰まった。彼も分かっていたのだろう、濁す言葉も思いつかないようで、そこにバヌアが割って入った。頑張って欲しい。小娘一人が相手なんだから。


「しょうがないのさ。魔族は一体でドラゴンが可愛く見える程に強いからね。どこもギリギリで疲弊していたんだ。労働力はどこも欲しかったんだよ。許されることじゃないのは分かってるけど、政治的判断が入ったのは否めない。人間だけを責め過ぎはよくない。戦争をしたなら見返りが発生しなかればならない。人の作る社会の上では、ね」


 それは聞き心地の良い言い訳に聞こえるけど、まぁそういうのは王様に聞き正せば良いか。


「分かった、今はそれで納得しておくよ。個人で解決する問題じゃないし。話が脱線したけど、私の正体、もしくは容姿や戦い方についての口外をしないこと。それで良いね?」

「う、うむ。それぐらいならば何の問題もないな」

「じゃあ私はハバルに帰るね。依頼証明書はさっき貰ったし」

「え……」


 あ、話に夢中でメルが居るの忘れてた。


「……帰っちゃうの?」


 上目遣い×涙目×涙声=破壊力→可愛いには叶わなかった。言葉遣いも子供のそれになっちゃうし反則じゃない?


「アステルさん決闘しようか。勝ったらメルちゃん貰ってくね」

「よーしルールは相手が死ぬまでで良いな」

「わー待って待って!!」





「約束ですよ!?絶対ですよ!? 必ず会いに来て下さいね!?」

「うん、絶対に行くよ。行くって、嘘じゃないから。ね? ほら、指切りしよ?」


 結局、次に会う約束をさせられてしまった。私は冒険者だし、いろんな街や国にも行くからね。今は移動手段が徒歩だけど、馬とかも買って移動速度上げたいなぁ。色んな景色とか楽しみながら行きたいし……


「ドロアさんによろしく言っといてね。それと、機会があればカナーリヤの依頼も受けてよ」

「それは断る」

「あはは、嫌われたなぁ……」

「貴族間いざこざで困ったことがあったら来い。多少は力になろうぞ。王都の方で働いている妻にも言っておく」

「うん、その時はお願い。じゃあね!」


 私はアステルさんとバヌア、メル、メイド、騎士団に見送られながらカナーリヤを発った。アリーナ、楽しかった?


「アイドリーかっこよかった!!」

「ならいいかな」




 彼女を見送った後、私はバヌアとまた話し込んでいた。白いローブの冒険者、アイドリーについて。


「紹介した私が言うのもあれなんですが、途轍もない女の子でしたね」

「それもそうだが、バヌアよ。アイドリーのステータスは開示されておるか?」

「ええ、詳しくは知りませんが、ドロアさんより強いとは本人から聞いてます」

「なるほどなぁ……」


 あのドロアが言うのであれば間違いあるまいな。だが、


「最後の、ダイオスから娘を守る時の動き。あれは明らかに王国の近衛騎士よりも速かった。というより、隔絶している。私の眼には映りもしなかったからな」

「私もです」

「それでな。先程の獣人の話もしていて思った。彼女は人間では無いのではないかと」

「獣人だと? 耳も尻尾もありませんでしたし、エルフのように耳も長くはありませんでしたよ?」

「もっと違う者だ。何かの化身、とかな」


 最も、そうであるなら、とっくに何かしらの天罰があるのかもしれんがな、と自虐的に笑ってしまう。


「仮に女神とかの化身だったとして、あんなに人間臭いものですかね?」

「確かに」



 こうやって笑いあっている場合でも無いが、今日は街と娘救われた日だ。多少は許されよう。

「あ、バヌアに口止めしとくの忘れてた!!………ま、いいか」

 妖精は基本その場のノリである。

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