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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第165話 幼女と少女と男の娘

 アグアドが爆散して欠片となって落ちていく傍ら、宙に浮かんだままの宝玉は最初に見た時の10倍程の大きさとなっていた。

 2人でそれに近付くと、アイドリーはレーベルを『妖精魔法』で生み出したシャボン玉に入れたまま1人で宝玉に近付き、その上に降り立った。


 足の付いた先から激しいバチバチと音を立て、魔力の干渉で弾き飛ばそうとしてくるが幼女は意にも返さない。


「相変わらずの出鱈目ちゃんじゃな……」

「えっへん♪……ん~~っと、とりゃっ」


 レーベルの言葉に胸を張り数舜考える素振りを見せた後、宝玉に手を突っ込んだ。トプンっと入った幼い手でグルグル回し始めると、それに合わせて宝玉が鍋に変形しだす。


「どんぶらこ~どんぶらこ~♪」


 言葉に意味は無いが、なんとなくそんな事を言いながら更にかき混ぜていくと、段々宝玉は収縮し、ドロドロに固まっていく。そして元の大きさの1/3程の大きさまで小さくすると、



「てりゃ~~とぁ~~」


 と手を手刀の形にしてパカっと3つに割ってしまった。後はそれ等をギュっとして丸めて完成である。


「……えっと、なんじゃそれ」

「飴ッ!!」

「……ああ、食べるんじゃなそれ」


 1つを自分の口に放り込むと、1つを収納して、アイドリーは満足したようにレーベルの居るシャボン玉に入った。


「あー主よ。その1つはアルカンシェルの肉体に戻さねばならん。でなければ奴も復活出来んのでな」

「れーべるのパパ?」

「あー、うむ、そうじゃ」

「じゃあはいっ!」


 笑顔で飴玉を手の平サイズの宝玉にした。それをレーベルのお腹に乗せると、そこから流れ込んで来た魔力でレーベルが回復していく。宝玉を手に取って確認してみたところ、見事に抑え込まれ揺るぎの一片すらも無くなっている。


 古龍であるレーベルだからこそ分かるが、もしアイドリーがあの場に居なければ、勝ったとしても宝玉の暴走は止められなかったことだろう。本来なら数値にするのも馬鹿らしくなる程膨大な力を秘めている物なのだから。



(主は世界の条理を無視し過ぎている……どういうカラクリなんじゃか)



 と考えてみても、答えは出ない。というか、出してもどうでも良くなる。今も自分に無邪気にじゃれてくる幼女は、何かを傷付けるという意志を持たない。それが制約と言えばそれまでだが、同時にそれは枷なのだから。


 不条理から何かを救っても、納得しない者は出て来る。殺さなくてはならない者もきっといる。もしこの幼女がそれに出会ってしまったらどうなるのか、レーベルはそれだけが心配だった。


「れ~べるは優しいね♪」

「うっ……読まれたか」


 だがそんなものは心配無いと、アイドリーはレーベルに頬にキスをした。まるでおまじないだと言うように。妖精の普遍的な存在であるからこそ、幼女はブレない。必ずそこから互いの最適解を見つけ出そうとするだろう。


 例えどんな手段を使ってでも、幸福のみを追求するのがアイドリーの、妖精の業なのだから。貫き通す意志は神話の時代から変わりはしない。





 シャボン玉に乗って宮殿に降り立つと、レーベルはアイドリーと手を繋いで元々宝玉があった場所に向かった。


 それは宮殿の後ろにあるアルカンシェル本体、その体内にある。


 喉元から伸びる長い階段は全て宮殿を同じ素材で出来ており、荘厳な柱が導いていく。灯る火が空中でユラユラと2人を照らす、アイドリーはピクニック気分で鼻歌を奏でるので、そういった怖さはまったく無い。


 本当ならば、この道は簡単には通れない。一本道で宝玉の間に通じているが、その間に幾つもの試練の結界があるのだ。それをぶち破るという単純明快な仕組みなのだが、これが単純故に難しい。


「本当は10の結界をぶち破らねばならんのかったんじゃが、主には関係無い話じゃのう」

「ぶいぶい♪」


 幼女ならば、指先1つでその結界は通り抜けられる。まるで最初からそうであったかのように。2人分の隙間を作り、そこを通って行けてしまう。レーベルはアイドリーと出会う前なら1つ目すら突破する事が出来なかった事を思い出すと、苦笑いを浮かべるしか無かった。



「あわわわわわ~~♪お~ひびく~~♪」


 暇だったのか、暗闇の先へ声を発して山彦を楽しみ始めたアイドリー。壁に向かってカンコンと石を投げて反響させたりもする。自然音で音楽を作り始めていた。


「体内と言っても、最早化石に等しいからのう。音も良く跳ね返るわい」

「ぷにょぷにょしない?」

「逆に体液だらけだったら行くの嫌じゃぞ我?」

「え~~」

「ほ~ら、早く行くぞ主よ~~」

「ぴゃ~ん♪」


 アイドリーとしてはもっとダンジョン的な物を想像していて、内臓が迷路みたいになっているのでは?と思っていたので残念そうにぶーぶー口を尖らせた。


 勿論本気ではないので、レーベルは頭のアホ毛をぶんぶん振り回すアイドリーを撫で回すだけである。





 数十分後、最後の結界を抜けるとようやく目的の場所に着いた。レーベルも見るのは初めてなので、新鮮な気持ちで油断なく歩く。


 そしてあったのは見たまんまの神殿。あちらこちらに無駄に凝った龍の彫り物が見える辺り、アルカンシェルの趣味だろうとレーベルは容易に想像が付きながらもアイドリーを肩車しながら中に入ると、広い空間に出た。


「……我等の彫像があるではないか。こっぱずかしいもん作りおってからに」

「これれ~べる~?カッコイイー♪」

「よし、持ち帰るか主よ」


 ボコっと自分の彫像だけ抜くと、アイドリーに収納させるレーベル。いつか拠点に置いて此処に自分が居るという印にしようと考えた。



 そして宝玉を置く祭壇を見つけると、レーベルが感慨深い気持ちにもならず、さっさと宝玉を嵌め込んだ。本人としてはとっとと帰ってアリーナとコーラスがアイドリーと絡んでいる姿を心の底から見たかったのだ。きっと途轍もない癒しを生み出すことだろうと確信している故に。


「これで終わり~?」

「うむ、しばらくすれば眼を覚ますじゃろうから、我等は帰ろうぞ」

「はぇ?……会わないん?」


 コテっと首を傾げて聞かれたが、なんとも言えない顔をしながらレーベルは少女の姿のままアイドリーを肩車して誤魔化す。レーベルの身長は120cm、アイドリーは90cmぐらいなので、ギリギリ可能だった。


「我は毎回姿を変えておちゃらけてくるあやつが好かぬ。良い歳こいて美少女で現れた時など何度殺したくなったことやら」




『おや、ならご期待に応えようじゃないか、娘よ』

「おぉ?」

「げッ」




 空間内に響き渡る声。一見して老人のように聴こえてきたが、何故かその声がどんどん年若く、高く、少女のような声に変わっていく。


 この時点で嫌な予感がしたレーベルは出口に向かって走り出そうとするが、


「だめなしッ!!」

「ぬぉッ!?か、堪忍してくれ主よッ!!我あれに会うの嫌じゃッ!!!」


 本気で嫌がるが、アイドリーとしては古龍に用があったので、レーベルの顔に張り付いて逃走を阻止した。そのまま足が縺れて転がっていくと、遂に声の主が姿を現した。




 白色の髪をツインテールで束ね、コッテコテのゴスロリを着込み、縞々のニーソを吐いたその者はヒラヒラと短いスカートを傍目かせて後光と供に降臨した。


 僅かに見えた下着はネコパンツである。




「初めまして妖精よ。私の名はアルカンシェル。ゴスロリ『少年』アルカンシェルちゃんと呼んでくれたまえッ!!!」

「アルカンシェルちゃ~~ん♪」

「今までで最もドぎついもんぶっこんで来やがったの貴様ッ!!!いっぺん死ねやッ!!!!」

「あ、あっちょ、復活したばっかりだからレーベルちゃんに殴られたらヤバげへぇッ!!!??」

「あらー」


 出会い頭の腹パンで、アルカンシェルと呼ばれた『男の娘』が前から後ろから色々垂れ流して放送規制待った無しな事態になった。


 汚物は全てアイドリーが消毒したが、レーベルのアルカンシェルを見る眼は、それは汚物を見るような眼だったと言う。





「あーもうまったく。復活したばかりの父にそういうの酷くないかな?」

「黙れ変態。お主は両性であろうが。それより前に、言う事があるであろう?」


 始祖に性別という概念は無い。でなければ単体で子を成すという事も出来ないし、そもそもの生物的構造が違うのだ。


「まぁね。じゃあ改めて、助けてくれてありがとう。我が娘と規格外の妖精よ。君達の御蔭で世界中の人間達が知らぬ間に滅びる、という事態は避けられたよ」


 そう言って、頭を下げた。レーベルは「ふんッ」と顔を背け、アイドリーは「どういたしまして♪私アイドリ~」とアルカンシェルに抱きついた。


「おぉ、今日は良い日だね。娘の可愛いかった頃の姿と、こんなに可愛い妖精に会えたのだから。それで、聞きたい事が幾つかあるんだけど。まずは、聖剣を見せてくれないかな?」

「ほえ?いいよ~♪」



 収納から取り出した聖剣を受け取り、その刀身に手を這わせて魔力を流した。アルカンシェルから流れ出る魔力の色は、純白を放っていた。そしてアイドリーは理解する。あれは魔力に見える違うものだと。


 アルカンシェルは更にアイドリーに、確信めいた顔で聞いてきた。


「聖鎧は持っているかな?」

「はいどーぞー♪」


 何故持っているかなど一切聞かず、出された聖鎧も吟味するアルカンシェルは、ふぅっと息を吐いて笑顔になった。


「これは大丈夫みたいだ。ちゃんと『私の一部』で鍛え上げた聖剣だし、こっちの聖鎧もそうだ。良かったよ……本当に」


 心の底から安堵しているアルカンシェルだったが、当の2人は驚いているようなので、彼はおやおやと疑問の表情になる。


「アルカンシェルよ……それはお主の物だったのか?」

「え、そうだよ?聖剣と聖鎧は僕の身体の一部から創られているんだ。あれ?昔言わなかったっけ?」

「聞いておらんわッ!!?」

「しんじじつ~~♪」



 早速謎が1つ解けようとしていた。

「アルカンシェル………アーちゃん?カンちゃん?シェルちゃん?」

「アーちゃんでよろしくッ!」

「変態オヤジで十分じゃ糞がぁ~~……」

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