第2話 妖精郷の愉快な仲間達
思考は半分放棄されていた。
「うわぁー……うん、ファンタジィーだねッ!!」
見上げるのも馬鹿馬鹿しくなる程高い大樹、その周りには自然の物だけを使って作られた妖精達の棲み処があり、その妖精達が発している光で空間全てが輝いている。どこもかしこも初めて見る本の中には無い世界。現実だと言われてもまだちょっと信じられないよ。
通って来た森の中とは、空間その物が隔離されているようで空気も違う。興奮で頭がおかしくなりそう……
初っ端から妖精の棲み処近くに転生させてくれるとは、神様も優しいことをしてくれるんだなぁ。アリーナに会わなかったら死んでたけど。そのアリーナは……おっと。
「こわいー」
「あ、ごめんね? よしよし愛で倒してあげるからこっちきなきな」
急に私が大きな声を出したものだから、アリーナが怯えてしまった。直ぐに抱きしめて頭を撫でると、「えへへ……♪」と機嫌を直してくれる。会ったばかりなのに気を許し過ぎじゃないかな? 怖くてぐへへな人に連れてかれちゃうよ? 私が消し炭にするけど……なんて私こんなにこの子の事を無条件で好きになってるんだろうか……ま、いっか。
そうしていたら、物珍しそうな顔した妖精達が周りに集まりだした。皆アリーナと同じくらいの背格好で、違いと言えば色合いぐらい?男か女かって違いもあるけど。こんなに無邪気な顔に囲まれるとポヤポヤな空気が醸されていくね。
「だれだー」
「知らないコ?」
「どっからキタキタ?」
「アリーナのモロダチ?」
「新しいダチトモ?」
「ジョウオウサマにホウコクー」
最後の言葉だけ耳に引っ掛かった。女王様?妖精の?というか妖精達の圧力が凄い。揉みくちゃにされながら質問攻めである。アリーナは向こうで「きゃー♪」と楽しそうに何故か胴上げされていた。
数分後、やっと落ち着いたのか皆が離れていく。隣にアリーナがちょこんと立って「大丈夫?」って顔された。大丈夫だよ、すっごい疲れたけど。その様子を笑いながら話し掛けてくる人物が。
目を向けると、顔だけ出した全身鎧の妖精が立っていた。他の妖精と違って、髪や目が虹色のようにグラデーションを放っていて、その顔はどこか凛々しさを持っている。
一目で他とは格が違うと分かる。何かこう騎士っぽいし、剣も持ってるし。
「こんにちは、それとも初めましてかな? 名も無き同胞よ」
「あ、はい、こんにちは。名も無き者です。えっと……貴方は?」
「私は女王様に仕えている妖精、名はノルンだ。生まれたばかりの妖精にしてはINTが高いようで助かる。女王様がお待ちなので、これから会って頂けるかな?」
「勿論です。私も、色々と聞きたくて……」
やっとまともな会話が出来そうだ。けどこの人、私が名無しだったり生まれたばかりだって分かるってことは、私と同じ『妖精の眼』を持ってるんだろうか。試しに見てみようかな。
ノルン(105) Lv.125
種族:エレメンタルマスターフェアリー
HP 720/720
MP 6000/6000
AK 1052
DF 543
MAK 830
MDF 1620
INT 140
SPD 540
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼(劣化) 顕現依存
スキル:剣術(B-) 盾術(C+) 四属性魔法(A+)
戦う気無いけど勝てる気がしないね。種族が凄いことになってるよ。エレメンタルマスターとか何か極めちゃってるよ。『妖精の眼』は持ってたけど、(劣化)ってなんだろう?限定的にしか見れないってことかな?
なんで、大人しく後ろを着いて行った。ただ黙っているのもアレなので色々聞いてみようか?ノルンさん他と違って話通じてるし。
「あの中心にある大樹ってなんなのかな?」
「ん? ああ、あれは世界樹だ。ここら辺に居る妖精達の母なる存在でもある」
「母なる存在? つまり顕現の元になる物ってこと?」
「そうだ。君は違うようだがな」
「うっ……」
「はは、すまない。そんな顔をするな。妖精は皆生まれた当初、自分が何者かを知らない。大概の者はこういう世界樹の周りで生まれることが多いから安全だが、時折君のような者も生まれる」
「ノルンさんは?」
「私か? 私もこの世界樹の生まれだよ。これから会う妖精女王とは幼馴染になる」
「へぇ……女王様ってどんな妖精?」
この世界での妖精の暮らしに政治云々なんて無さそうだけど、もしかしたら王権政とかも存在するかもしれないし、一応聞いておいた方が良いよね?
「私よりも聡明で、しかし天真爛漫な人だよ。女王という肩書きもあるが、基本的に私の時と同じような喋り方で構わない。妖精世界は、INTの最も高い者が王になるという暗黙の了解があるんだよ。でも結局誰がなったところで、することは王座でふんぞり返ることぐらいだし」
つまりおままごとの延長戦ってこと?微笑ましいな妖精。
「ただ、INTの高い妖精は、その傾向として他には無い固有スキルを持つことが多い。私は比較的ポピュラーな『妖精の眼』を持っていたりな」
「なるほど。女王様も?」
「うむ。まぁそれは彼女から直接聞くと良い。丁度着いたことだしな」
指刺された先を見ると、重厚な扉が姿を見せた。木の根が幾重にも折り重なっており、ちょっとやそっとでは壊せそうにないほど巨大だ。
「ちなみにあの扉、女王様が自分で作ったものだ」
「自作!? 本気だな女王様!!」
「私もノリノリで手伝った」
「ノルンさんもしかしてその喋り方も作ってた!?」
「そうだ。本当はギャル言葉全開でお菓子作りが趣味だったりする」
「半端ないな妖精!!」
フンスと鼻を鳴らして満足げな顔をするノルンさん。ああ、そうか。おままごとの延長ってことは仕えているノルンさんも同じくおままごとを本気でやっているってことだよね。どうやらINTが高くても妖精とは基本ノリで生きているようだ。
これなら肩肘張らなくても普通に過ごせそうだね。何も考えてなさそうで非常に楽しい。
「ふぅ、では行こうか。彼女が中でお待ちかねだからね」
まるで軽いコントを済ませたかのように良い笑顔のノルンさんは、そのまま扉に向かって歩き出した。ノルンさんなりに緊張を解してくれたのだろうか。
「……」
うん、違うね。あの顔は久々に女王様以外にノッてくれる妖精が現れたことに喜びを隠しきれていない顔だ。どんだけ飢えてたんだろう…
「ハロー新しき隣人よ。私が女王テスタニカ・フェアリーナよ。早速で悪いけど、君を『妖精の眼』で見ても良いかしら?」
木製の玉座に座っている女王様を視認すると、ノルンさんは片膝を付いた。付いたけどすぐに立ち上がる。え、良いの?そのごっこは疲れるの?あ、そうですか。女王様も気にしてないみたいなので、私は立ったままになっておく。アリーナもそうだし。
……なんでここまで着いて来たんだろうこの子。
「良いよ。こっちも見ても?」
「勿論♪ では……」
そしてお互いのステータスを確認してみると、
「「な…なんじゃこりゃッ!!」」
同時に叫んだ。周りに控えていた妖精達は、私達の叫び声に驚きアタフタし出した。しばらく見合って沈黙を保っていると、どちらともなく熱い握手が私達の間に交わされる。
テスタニカ・フェアリーナ(105) Lv.346
種族:テイタニア
HP 500/500
MP 7万5000/7万5000
AK 325
DF 1330
MAK 3420
MDF 4041
INT 1200
SPD 305
【固有スキル】妖精魔法 妖精の眼 顕現依存 千里眼
スキル:四属性魔法(A+)料理(A)
王女なのに料理スキル高い!! 前世で炭しか錬成出来ない自分からしてみると物凄く羨ましいよ。ステータスはなんていうか固定砲台って感じ。MPバカ高いし。レベルなんてノルンさんの3倍はあるし。
「貴方中々凄まじいステータスしてるわね。INTが私の6倍近いなんて賢者も顔負けよ。生まれたばかりでこれなら、年齢を重ねたら凄いことになりそう。『妖精魔法』も変幻自在に操れそうだし」
「いえ、女王様も料理スキルAとか羨ましいを通り越して憧れを覚えますよ。今度是非教えて下さい切実に」
「ええ、良いわよ。うちの郷土料理たらふく教えてあげる♪」
やった。魔法もちゃんと教えて貰ってレシピも沢山書いて貰おう。火加減とか間違えるとまた炭が出来るし…
「女王。その話はまた後で」
「あら失礼。それじゃあこれから命名の儀を執り行いましょうか」
「命名の……儀?」
「簡単に言えば、君の名前を決めようってことよ。こういう場所に居る妖精は、皆こうやって自分の存在を確立させていくの。元が自然の一部だからね」
そうしておかないと、仲間同士で同化現象が起こるんだとか。何それ怖い。人格とかどうなるのそれ? 混ざるの? それとも二重人格? 対消滅とか無いよね?
「外で生まれた者は自分で自分の名前を決めるものだけど、貴方はアリーナに案内されてこの妖精郷に来た。だから同胞として名前を一緒に考えてあげたいの。寂しいのは嫌だものね?」
妖精という種の本能に近いのかもしれない。私も人間としての記憶はあるけど、妖精の本能が告げている。妖精は一匹ではこの世界では生きていくには厳しいだろうしね。
「良ければ今すぐ始めましょう?夜には新しい仲間への歓迎会を全員でやるからね」
「そんなに盛大にやるの?」
「騒ぎたい口実にはうってつけじゃない?」
「ですね」
二人して大きく頷かないで。アリーナそんなに輝く目で私を見ないで。ダメだ。もう人間としての常識は捨ててしまおう。この種族の前では。
「じゃあとっと始めよう」
「「「おー」」」
「はい、第14985回、名前を決めましょう会議始めるよー!!!!」
「「「「Woooooooooooooooooooooooo!!!!!!」」」
「いやいや、いやいやいやいやいや」
何故か世界樹の前に設置されている巨大ステージ(木造性)のど真ん中で、郷の妖精は全員集まり私の名前を決める会議が始まった。何が凄いってもうこの会議そんなに回数重ねてるの?どんだけバカ騒ぎしたかったの?
「はいじゃあまずは自己紹介いってみようか!」
……本気ですのん?私緊張で身体がガチガチというか氷というか手から冷や汗止まらないよ?私の肝っ玉は学芸会の背景役で精一杯だよ?
いや、しかし私は先程常識を捨てると誓ったばかりなのだ。郷に入っては郷に従えと言うのだし、このビックウェーブに乗ったって何も恥ずかしいことは無い筈!妖精として!!
「だから私は行く!!レディィィィイイスエェェェエエエエンジェントルメェェエエエエエン!!!!今日は私の命名の儀に集まってくれた妖精諸君に深く感謝を述べる共に、私のアッピィィィイイルプォイントに耳を傾けてく・だ・さ・い・な♪」
「「「Woooooooooooooooooooo!!!」」」
意味不明なテンションで訳のわからないことを口が勝手に動き出して言い始めたけど私は気にしない。絶対に気にしない。
「その1!私は次元妖精さんだぁああ!!この世で一匹ロンリー妖精だぜイエア!!」
「「「え?」」」
「え?」
え、なに。どうしてそんなに憐れんだ眼を私に向けるの?哀愁を漂わせた気は無いよ?おいそこの女妖精、目に涙を浮かべるな私が泣くぞ。
「その2!私のINTは女王様の6倍だぁああああああああ!!!」
「「「すげぇえええええええええ!!!!」」」
「そしてその3!私の特技は歌だぁああああ私の歌をきけぇええええええええ!!!」
「Yhooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!」
自棄になって『妖精魔法』を使った。着ている服装をアイドル風に加工し、妖精達全員にサイリウムの棒を出す。本当に想像しただけで出たのに驚く暇も惜しみ、私はそのままマイクと自分のサイリウム棒を精製して歌いだす。最初棒をなんに使うのか妖精達は『?』を頭に浮かべたが、すぐに私の振っている棒に合わせて振り出した。
どこまで行ってもノリの良い妖精達に、私のテンションも最高潮である。
さぁ、朝までフィーバータイムだ!!
「女王、これでは命名の儀が……」
「え、なに!?(フリフリ)」
「……いえ(フリフリ)」
「アイドリー、酒は呑まないのか?」
「おいひゅい~」
「アリーナ!?」
未成年にお酒、駄目絶対。