第160話 無い物はとりあえず揉む
「で、貴方達は何者なのですか?」
「アリーナだよ、よろしくね♪」
「コーラスっていうのッ!友達、友達になってッ!!♪」
「……えぇ」
いやぁ久しぶりに本体で『S.A.T』モードになったよ。学園の方ではずっとあの状態だからこっちでなると不思議な感じがするね。
私とコーラスは、現在エルフの国に来てるんだ。アイドリーに頼んで私達が来たんだけど、出逢い頭にブラックドラゴンがエルフの人に暴行しようとしてたから、2人でコテンパンに倒しちゃったんだよね。
それで、私達は妖精だよって今自己紹介したんだけど、コーラスが女王様が使役している『精霊』ぽいのに抱き付きながら友達になろうとしていた。私も是非なりたいな♪
「えっと、貴方達が妖精だということは分かりました。先程のブラックドラゴン達に対しての蹂躙と初対面の精霊に一瞬で気を許されたそこの子も100歩譲って理解を示しましょう……しかし、一体何がどうなって貴方の身体はそうなっているのですか?」
「え、あの。そこなの?」
「そこです」
「ちょ、あぅん?」
この女王様、さっきから私の胸を凝視してたんだけど、今度は一心不乱に揉んできた。ちょっと強くて痛いかなぁって思うんだけど止めてくれないなぁ……
凄い夢中になってるから……ま、まぁこのままでも良いや。とりあえずそのまま話を進めようと思う。
「しかし妖精が子供を産むなど、そんなことがあるのですね。これはその御蔭ですか?」
「いえ、これは元々かな。んっ……何で激しくなるのかな?」
「すいません、個人的な事情です」
そ、そうなんだ。何かさっきから周りのエルフの人にも凝視されてるから、皆これが欲しいのかな?私はレーベルみたいなカッコイイ身体になりたいなって思ってたからこうなっただけなんだけどなぁ。
そろそろ本題に入ろう。エルフの国では、ブラックドラゴンが100匹程居て、それは全部私達が片付けた。
エルフの人達は人間との戦争でドワーフと同じく戦力として活用される予定だったみたいで、それまでの間ずっと監視されていたらしい。
エルフ達は弓の扱いに長けているのと、『精霊魔法』という独自の魔法を持っている。私達でいう『妖精魔法』に似たものかな?と思ってたんだけど、実際は全然違っていた。
「お名前教えて~?」
『—――ッ!—―ッ!!』
「アネモネアって言うの?可愛いお名前だねッ!」
『ッ!?―――ッ♪』
「うきゃー♪」
えっと、さっき知ったんだけど、エルフにはそれぞれ一体の精霊とだけ契約出来て、その名前を聞く事が出来れば、寿命が尽きるその日まで絆が結ばれるっていう素敵な関係らしいんだけど……コーラスが今聞き出しちゃったね。
あ、私も聞こえてたから、アイドリーにもきっと聞こえると思うよ。
「……嘘」
「あ、あの。大丈夫だよ、私も聞こえてたから」
「そっちではないのよ!?」
「うわぁッ!?だから何で揉むの!?んぅッ」
周囲のエルフの人達に抑えられると、女王様は開放してくれたお礼に、国を案内しながら、精霊についてのレクチャーをしてくれた。
私達は妖精だから契約は出来ないらしいけど、友達になることは出来るからね。その存在については知っておきたい。
エルフの国は広大な森、人間達側で言うなら秘境と呼ばれる地域の奥深い場所に存在していた。といっても国はドワーフ達が造った魔道具の結界で守られているので、魔物の脅威は無かった。
そんなエルフの国には、壁と言える物は全く無い。家も全て大木を組み合わせたログハウスになってた。城の方は緑の筋が入った石壁で作られてて、石なのにノックしてみると響きが木だったのには驚いたかな。
それで精霊なんだけど、スキルで表記するとこんな感じなんだって。
・精霊魔法
『エルフのみに使える魔法。精霊を特定の方法によって使役する事により発動可能になる。精霊の属性により使える魔法が変わる』
こんな感じだった。つまり、心を通わせた精霊によって使える魔法が変わるってことかな?
「大まかにはそうですね。それに加えて、精霊の格によっても違ってきます。精霊にも下級、中級、上級と別れているのです。例えば、こんな小さな形をしているけど、私のアネモネアは上級の精霊なのです。格が上な程魔力が高くなり、使える魔法も増え、そして威力も補正が掛かっていく、という感じになるのです」
「「へぇ~……」」
精霊は皆形が違っていた。アネモネアは花の冠を付けた人型だけど、他にも馬とか鳥とか、後見たことない小動物の形を取ってたりしていて面白かった。
魔物に似たのもあるけど、大きさで格が決まるというものでもないらしい。そこで素朴な疑問が湧く。
「精霊と喋られないの?私達は普通に意思疎通出来たけど」
「喋られるのもいますが、それは人には使役出来ないのです。彼等は『大精霊』と呼ばれているけれど、自然界そのものを司る存在だから、力が強過ぎる。精霊は皆その大精霊達の子なんだけど、そういう意味では妖精も近いのでしょうか?」
「だと思うよ?私とかは世界樹から生まれたし」
私達妖精は肉体があるけど、精霊達は精神的な存在だから、そこで違いが出てるんだろうなぁ。
ちゃんとそれぞれに意思があって、コミュニケーションを取れて感情を分かち合える存在が生涯のパートナーって、まるでアイドリーみたい♪
「まぁ、妖精には私達も初めて会いましたし、コブリンの皆さんが来る度に貴方達の存在を自慢していたから、今回会えて良かったです。こんなに愛らしい存在なら大歓迎ですし。精霊達とも仲良くなれるなんて凄いものですから」
その言葉の通り、女王様は笑顔で私達を歓迎してくれた。けど女王様、コーラスは妖精の常識にはまったく当て嵌まらないんだよね。アイドリーもだけど、むしろアイドリーの方が当て嵌まらないけど。
んー駄目だ。アイドリーの事を一度考えると顔が熱くなるな~。帰ったらまた一杯キスしないとなぁ。じゃないと私の感情が爆発しちゃうからなぁ。
「ママ~♪見て見て~~♪」
「んー?おお、沢山連れて来たね」
「あ、あの子何者?一度にあんなに複数の精霊に好かれるって……」
コーラスは街中に居たエルフ達の契約しているあらゆる精霊達と仲良くなりながらこっちに来た。うわぁ、トラの頭に乗って頭に蛇乗っけて両腕にウサギ抱えてるよ。う、羨ましいなあれ。
「ママも来てー?」
「混ざって来て良い?」
「娘のお願いを聞いてあげるのは母親の役目ですよ。行ってあげなさいな」
「ありがとうッ!コーラス~~~ッ!!」
「ママ~~ッ!!」
私は妖精になってコーラスを抱き締めると、その周りを精霊達に囲まれて精神が感応していくのを感じた。
皆が自己紹介しながら身体を擦り付けて来るのがとても気持ちい良い……っは、危ない。精神が溶けそうになっちゃったね。
『ヨウセイ メズラシイ』
『ヒサシブリ』
『ジュンスイ イトオシイ』
精霊達の声は、大まかにそんな感じで片言だけど聞こえる。『同調』をしている感覚に近いかな?けど、久し振りって聞こえたから大昔に一緒に暮らしてたのかな?精霊って精神の存在だから寿命とか無い訳だし。
…………これ、その内アイドリーを連れて来た方が良いかもだね。
「ねぇ女王様、今度私の大切な人連れて来て良い?」
「良いわよー、私が許すわ」
「ありがとうッ!!」
私はウサギの精霊を抱きかかえるコーラスの頭を撫でながら、次の予定を話した。
「コーラス、次はアイドリーと一緒に来て皆で遊ぼう?」
「ほんとうッ!?パパも一緒なのッ!!?」
「うん、だから今の内にもっと沢山友達作りに行こう。数が増えればそれだけ楽しいもんね。エルフも精霊も関係なく、ね?」
「うん、私頑張るよッ!」
「よしよし、良い子だねコーラス」
「んふー♪」
「凄いのですね、妖精というのは」
「ええ、気質は精霊に似ているのに、あそこまでパワフルなのですね」
エルフの女王とその側近は、数多の精霊達に囲まれている2匹の妖精を見て深いため息を吐いていた。思えば、2人が現れた瞬間からエルフ達が使役する精霊達が一斉に騒めき出した事が一番の驚きだったが。
エルフ達は精霊と言葉を交わす事は出来ないが、その感情を読み取る事は出来た。そしてその時の感情は『歓喜』だった。
それも自分達が契約を結んだ時に感じたものと同等、もしかしらたそれ以上の強さかもしれない。
そう思えばこそ、女王からこんな言葉を呟いてしまう。
「私達は長年精霊と共に生きてきましたが。本当のところ供に生きるだけで、彼等自身の事をもっと知る努力が必要だったのかもしれないですね。ほんと、言葉とは偉大ですね」
いい加減森に引き籠る歴史は終わらせるべきなのかもしれない、女王はそう思って側近に目を向けるが、彼女には判断が付かないと首を横に振るばかりだった。
「……主よ、何故いきなり我の胸部を揉み始めた」
「いや、何か対抗しておくべきかなって。何となく?」
「いや、知らんが。う、こら、先っぽは止めよ。むず痒い」
「……」
「ん……く、だから止めんかオラァッ!!」
「がふぁッ!!?」