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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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閑話・21 戦友

「面白いことやってんなぁお前等」

「マチューのおっさんこそ、何で剣術指南役なんてやってんだ?」

「金が足りねぇから」

「納得したわ」



 ヤスパーと偶々会ったマチューは、修練場の端っこでそんな会話をしながらその光景を見ていた。そして2人揃って酒を飲んでいた。マチューはガルアニアの冒険者内で知らぬ者が居ないと言われている大物なのだが、言動が基本駄目なおっさんな為、歳下でも特に気にする事は無い。


 それは武闘会後でも変わらず、結局飲んだくれだったのだが、それがこんな場所の剣術指南役だと言うのだから、ヤスパーとしては訝し気だったのだが、行動原理もよく知っているので素早く納得してしまった。



「それじゃあルールはタッグバトルで、後は武闘会と同じで良いですね?」

「「ああ」」

「それで良いわ」

「異存は無い」


 セニャルが審判をし、両者は真っ向から睨み合う。高坂も日野も、聖剣と聖鎧は首輪の力で使えない。これは2人がアイドリーに望んだ戒めとして残してあるからだが、今この場においてそれは明確な鎖だった。


 だから今回は、前回の戦いと違い立場が逆になる。今となっては、モリアロ達の方がステータス上でなら数倍は強いのだから。


 無論それは本人達も分かっていた。だが逃げるという選択肢は無い。全身全霊でどちらも勝つつもりしか無い。それが戦いの鉄則なのだから。



「それでは、始めッ!!!」



「「ッ!!」」

「うおッ!?」

「はやッ!?」


 先手はモリアロ達が取った。両側に別れ、高坂達を挟み込むように回り、


「逆巻け水よ」


 得意の水魔法がモリアロからまず放たれた。水は凄まじい勢いで高坂を包み、そして何百もの刃となって回りながら斬り付けてきた。


 即座に飛び上がって離れるが、そこに、鋭利なナイフが待っていたと言わんばかりに横腹に刺さる。日野と打ち合っている最中にスビアが投げたのだ。


「あぐッ!?」

「高坂ッ!!ちぃッ」

「効かんッ」


 日野がフォローに入ろうとするが、即座にスビアに回り込まれた。剣を打ち付け合えば、まるで巨大な岩石を受け止めている気分になり、まともに打ち合う事は不可能だと即座に知る。


 分かってはいても、と高坂は水の刃の追撃を避けるべく痛みを噛み殺して走るが、


「そら、手元がお留守だよ」

「あ、ぐぁあッ!!あぁああッ!!」


 横に並走してきたモリアロの短剣が手首の筋を狙って放たれた。どうにか受けるが、突っ張った所為で刺さったナイフの痛みでまともに力が入らない。どうにか回復もしなければならない。


 時間稼ぎは2・3秒あれば良い。それでナイフを抜ければ『自動回復』で傷を癒せる。


 だから、相手の知らない攻撃方法に彼女はシフトした。アイテムボックスからもう一振り、ショートソードを取り出し、死角からの一撃をお見舞いしようとした。


「せぇあッ!!」

「ッ!?『二刀流』かッ!!」


 短剣では受けきれないと分かれば、モリアロは即座に近距離戦から離脱する。そして痛々しげに高坂はナイフを抜く時間を得た。ジクジク痛むが傷が治っていく感覚があった。


「驚いたな。そんな珍しいスキルも持っていたんだね」

「まぁ、ね。聖剣を使わない時は手数で勝負する派だったのよ。私は特性の所為で魔法が使えないし、今は相手の魔法も吸収出来ない。既に詰みが近いわね」

「諦めるには早くないかな?私はまだ満足してないよ?」

「っは、諦めるつもりなんて……」


 例え惨めであろうとも、真剣勝負なら手は抜かない。ある手札を使って倒す手段を模索し続ける。でなければ相手に失礼だ。



 あんなに楽しそうな笑みを浮かべているのだから。戦闘の最中だというのに、まるでスポーツでもしているかの様な顔でこちらを見ている2人に。


「行くわよッ!!日野ッ!!」

「わかったッ!」


 だからまず、高坂はスビアから倒すことにした。日野と2人掛かりで速攻する。スビアはモリアロと違い物理主体なのだから、それが一番効率が良い。


魔法は集中力を使うのだから、2人で掛かれば使わせる事なく戦える。スビアに多少手間取って魔法を撃たれても、『自動回復』があれば耐えられる。ある意味捨て身の戦法だった。



「お、こっち来るか。いいぞ、そういうのは散々やったからな。大好物だッ!!」


 だが忘れてはいけない。スビアもモリアロも、あの『サソリ地獄』を生き抜いているイカレた戦闘人種なのだ。たかが同程度のステータスを持つ人間が2人に増えたところで、その優位性は変わる筈も無い。


「くそッどんな反射神経をしているんだッ!!」

「何で剣3本に1本で対応出来てんのよッ!!」

「潜った修羅場の数なら負けんさッ!!おぉぉらぁッ!!!」


 そう言うな否や2人揃って弾き飛ばされた。地面に剣を突き刺しどうにか止まるが、桁違いの戦慣れをしている相手に、2人は驚愕する。


 その2人に、戦闘狂達は愉快に笑う。


「ああ、やっぱり強い奴と戦うのは最高だな♪」

「そうだね。人間相手だとバンダルバさんぐらいじゃないといけなくなってしまったし」


(あいつ等、元馬鹿弟子と一緒にあの『地獄』へ潜りやがったな?……なんて馬鹿共だ)


 これにはマチューも苦笑いで驚嘆を示すしか無かった。なるほど、戦闘狂いならばあの環境は天国にも等しいと言える。


 強く在れと望み続けてあの強さまで供に到達すると言うなら、なるほど確かに、彼等は揃って勇者と呼べるだろう。狂人ではあるが。


「さぁ、続きだ。まだ手はあるんだろう?」

「「……」」


 あるにはある。だが、とてもではないが通じるとは思えない。そんな心境だった。立ち向かう意思はあるのに打開策が無い。


「卑怯っぽいけど。『自動回復』に身を任せて特攻する?」

「止めとけ。串刺しされれば意味が無い」

「なら」

「ああ」

「「勝負だッ!!」」



 個々では敵わない。2人で一緒い戦っても駄目。なら後は、乱戦に持ち込むしか無い。固まって突っ込んで来た2人に、まずモリアロが動く。


「水よ、柔らかな羽衣となり惑わせッ!!」


 2人の前に水のベールが薄く広がった。構わずそれを切り裂きモリアロ達に殺到しようとするが、


「うそ、居ないッ!?」


 羽衣を抜けた先には、影も形も存在しない地面だけが残っているだけだった。どこい行ったと地上を探すが見つからず、不思議に思っていたら、


 フっと修練場全体に影が差し込んだ。



 見上げれば、そこには『バースト』を使いモリアロを抱きかかえて城の天井程の高さまで飛び上がるスビアの姿が。



 そして更にその上には、これまた『バースト』を使い、宙を支配する、水で出来た巨大な鯨が舞っていた。



「さて、私の全力だ。受け取ってくれるかな?」

「……上等よッ!!」

「……そうかい。じゃあ後は任せたよ、スビアっとッ!!」



 そう言ってモリアロが空中でスビアの靴底を蹴り上げると、彼はクジラの尻尾に作られた取っ手を掴み、


「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!」


 回す、回す。ブンブンぶん回す。スピードを上げ、突風が吹き荒れる程の速さになるほどに。


 この時、離れてそれを見ていたフォルナは思った。「あ、被害は出さないようにしろと言い忘れていた」と。



「くらえぇぇえええええッ!!!」



 そして全力全開の『投擲』スキルにより、巨大な鯨が高速で落ちて来た。当たれば勿論タダでは済まないし、修練場どころか。国内に大洪水が起きるだろう。


(まぁ落ちる瞬間に消すけどね)


 それを分かっていたモリアロは、高坂達が受け止めきれればそれで良し、潰れてしまったら自壊する前い消すつもりだった。あくまでも魔法なのだから、水は全て魔力で生成されているからこそ出来る芸当である。


 だが、それを知らない彼等からして見れば、突如現れた大質量の物が激突してくるのだ。堪ったものではない。


「日野」

「ああ」


 それでも、2人は立ち塞がった。あんなものは何でもないと言う風に。


「ちょっ無理ッスよッ!!2人とも逃げるッスッ!!」

「あんなの受け止められる訳ないじゃないッスかッ!!!」


 白狼兄妹は逃げるように言うが、首を振る。


「あんたらは逃げなさない。私は何があってもあれを止めるわ。王様にはお世話になってるし、この国は好きになっちゃったから……守りたいのよ」


「ネムレア。特に思うところは無いが、俺達は勇者だ」



 勇者が逃げる訳にはいかない。例えそれが茶番だったとしても。




「「ぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!!」」




 ありったけの力を込めて、その大質量を受け止めた勇者達は、水とは思えない硬さに歯を食い縛って耐える。足元がひび割れ、クレーターになったが、未だ地面には着弾していない。まだ鬩ぎ合いをしているように見えたが。



ズゴォォォォォォオオオオンッッッ



 呆気なく潰された。誰もが大質量の水に押し流されると覚悟したが、予想とは違い、水は瞬く間に水蒸気へと姿を変え、綺麗さっぱり消えてしまう。


 そもそもの地力が違う上に、2人は『バースト』でステータスが上がっているのだ。どう足掻いても勝てないことは分かっていた。それでも逃げなかった勇気をモリアロは評価した。強いて言えば、それが見れれば、戦いの過程などどうでも良かった。


「リサリーッ!!」

「ブレアッ!!」


 埋没した2人をクエントとネムレアが掘り起こすと、2人は意識を失ってはいなかった。だが身体中が押し潰された衝撃で満身創痍なのが見て分かる。武器も防具もバラバラなのだから。


 そうして顔を見てみれば、悔しさに歪んでるでもなく、悲しみに暮れるでもなく、痛みに耐えているのでもなく、


「はは……ははは」

「ふふ……」


 笑っていた。『勇者』という肩書を持ち出して啖呵切って挑み、そして圧倒的な差で負けたのだ。無様に、情けなく。これ以上に清々しい気分は無い。


「私達の勝ちだね。ほら、セーニャ?」

「あ、ああ、はいッ!!ではこの勝負、モリアロ、スビア組の勝利ですッ!!」


 モリアロは2人に近付いて、回復魔法を掛け始めた。水に包まれていく2人は、不思議そうな顔してモリアロを見るが、彼女はさも当然のように笑って言う。



「これで1勝1敗だ。次は君達のリベンジを待っているよ。『リサリー』、そして『ブレア』」



 そうウインクして、去って行ってしまった。



「……っぷ、あは、あははははッ♪」


 ああ、これは長い付き合いになってしまいそうだと。本当に厄介な存在と知り合ってしまったのだなと。そして、自分を見て『戦友』と彼女は認めてくれたのだなと。


 色々な想いが渦巻き、今度こそ大笑いしてしまう。



 こうして過去は清算され、関係は新たな形となって紡がれていく。


 2人はやっと、1つの荷が下りた。

この組の絡みは閑話では後もう少しやるかもしれません。

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