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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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閑話・20 再会&再会

長くなったので前編後編で別れます。

「スビア、ようやく着いたね」

「ああ、此処がラダリアか。今まで行った事は無かったけど、こうして見ると色々と面白そうだな」

「聞けば温泉もあると言うしね」

「らしいな。一緒に入るか?」

「そッ!!?そ……それはまた次の機会、かなぁ」


 そんな蜂蜜のように甘い戦闘狂カップルは、ステータスに物を言わせて1週間でアモーネからラダリアまで踏破してきた。3日に1度は宿を取っていたのでボロボロという訳ではない。

 

 そしてそんなやり取りをしていると、2人の後ろから、もう1組のカップルが大きな声を上げてこちらに向かって来たのだ。



「あーーッ!!スビアさんとモリアロさんだよ、ヤスパーッ!!」

「え?……ああ、本当だな」



 腕を組みながら現れた2人は、セーニャとヤスパーである。どちらも特に周囲の目線を気にする事なく現れたが刺さる視線には居心地が悪かったので、少し通りを外れてお互いの再会を喜んだ。


「久しいね。結婚式以来かな?」

「2人とも新婚旅行は終わったのか?」

「はい、そちらも?」

「ああ、無事終わったところだ」


 実は、この2組は同じ日に式を挙げていた。なのでお互いが花嫁を賜り、同時に新婚旅行に行っていたのだ。だからこそ、此処で再会したのは運命を感じているようで和みが増す。


 見る限りでは、通って来た道は違えど幸せそうな表情を見れば、互いにそれは成功に終わったと確信出来た。どうせなのでこのまま一緒に宿に泊まることで合意する。


「じゃあ再会祝いにどこかで一緒に昼食でもどうかな?」

「あ、私温泉街の方に良い穴場あるの知ってます。そこ行きませんか?」

「おお良いな。モリアロ、是非行こう」

「うん、温泉も見たいしね」

「そんじゃあそういうことで、行きますかねぇ」


 トントン拍子で予定が決まっていき、四人はさっさと門で検査を受けようと思い進んでいったのだが。



「「「あっ」」」

「……ん?……げぇッ!?」



 早速問題が発生した。4人とって、特にモリアロ達にとっては忘れられない相手がそこに居た。


「君は……高坂」

「あんたは武闘会の時の……モリアロだっけ」

「……あぁ」


 名前を呼び合えば、スビアが彼女達の前に入って睨み付けた。高坂はこの時点で2人のステータスを『鑑定』で見たが、それは恐ろしいことになっていた。


(嘘でしょ!?何でそんなにステータスが上がってんのよ……!?)


 驚愕するしか無かった。勇者でもない一般人が、どんな地獄を見たら1年以内にこんな力を身に着けると言うのか。それ以上に、彼女はモリアロに対して何と言うべきか、いや、即座に謝るべきなのだろう。


 しかしこんな場所で自分の存在が『勇者』だとバレれれば、周囲の警備隊の獣人達に八つ裂きにされる。そして何より、目の前で他の者の対応をしている白狼の男にどんな眼をされるのか。それが一瞬で彼女の頭の中で広がりごちゃごちゃになった。


 そんな様子を見ていたモリアロは、何を言うでもなく見つめているだけだった。その心中は推し量れないが、


「……あんたら、入国者?」


 とりあえず仕事を果たそうと言葉は紡いだ。後ろに控えている者達を待たせる訳にはいかない。それを4人も理解したのか、一様に頷いてカードを見せる。


 そして門を通り抜ける際、高坂としての彼女が待ち合わせの場所と時間を言ったので、モリアロは神妙に頷き、それ以上は何も聞かずに他の3人の背中を押して立ち去った。



「リサリー、今の人達はお知り合いっスか?」

「……ええ、私の罪の相手よ。まさか四肢が復活してるとは思わなかったけどね……多分」


 多分、あの妖精がやったのだろう。そういう奇跡は十八番だろうから。しかしそれを口から出すことはない。だからどうしたという話なのだから。



「休憩時間になったら、あの人達と待ち合わせるわ。あんた、今日は適当に」

「俺も行くっス」

「は?何言って「1人にしておけないっス」ッ!?」


 腕を掴まれ、真面目な顔でクエントは『リサリー』を見た。その顔は、罪に怯えた女の表情をしていた。悪いことをして怒られるのが怖い子供のように。


「謝りに行くんスよね?一緒に行くっス。絶対1人にはしないっス」

「……何でよ。あんたには関係無いでしょ?」


 ステータス差で、容易にクエントの拘束は解ける。だがそれは彼女の心が許さなかった。だからなるべく拒絶の意志を示し、口での威圧に止めた。


 止めたが……彼は一切揺るがなかった。そして、



「だって、償う為なら『人生』差し出しちゃうでしょ、リサリーは」

「――――ッ!!」



 その核心を、強く押し込んできた。


 掴まれた腕が更に強く握られる。なのに身体が氷に包まれたように動かない。動かせない。


「駄目っスよ。逃げちゃ駄目っス」

「……私が何から逃げてるって言うのよ。ちゃんと彼等と向き合おうと」

「自分の人生から逃げんなって言ってるんスよッ!!」

「ッ!……それは」


「全部投げ捨てて楽しようとしてなかったじゃないスか。逃げずに悩み続けててたじゃないスか。それが、いざ本人を目の前にして簡単に放り出そうとしてどうスんすか?」


「けど、けど……じゃあどうやって、償えってのよッ!!私はあいつの人生をグチャグチャに潰して悦に浸るような女だったのよッ!?それがどの顔で『許せ』なんて言えるのよッ!!人生を潰して貰う以外にどうやって償えるって言うのよッ!!」


「馬鹿リサリー、それは謝るって言わないっス。ただの贖罪の押し付けっスよ。ああ、もう。せんぱーいッ!!俺達ちょっと抜けるっス~~ッ!!お願いして良いっスかぁ~~ッ!?」


「おー、良いぞ。ついでに今日は休みにしといてやるよう隊長に言っといてやる。好きなだけ話して来い馬鹿共」

「あざーッス!!ほら、行くっスよ?」

「はぁ?ちょっ!!腕掴んだまま歩かないでよッ!!」


 そのままグイグイ引っ張られ、その大きな背中を見上げるしか出来なかった。手を振り解く勇気すら、今の彼女には無かったのだから。


 そしてそのまま2人は通りを歩いていき、寮の部屋まで連れて来られて、いつものようにクエントの膝にリサリーは収まった。落ち着く空間ではあるが、今は非常に居心地が悪い。


「……何がしたいのよあんたは」

「何って、普通にリサリーとお話したいだけっス。ほら、続きっスけど。リサリーはただ勇気が無いだけっスよ。子供と一緒。言われるまで謝れないタイプと見たっス」


 図星である。彼女は一度として自分から謝れた事は無い。いつも最後最後、完全に詰んでから口に出すタイプだ。


「それで、自分から謝ろうと場を設けたのは良いっスけど。やろうとしているのは贖罪の押し付けっスよ。しかも自分の手足を斬り捨ててくれて構わないとか、その場で問題になるっスよ?贖罪相手を犯罪者にしたいんスか?しかもそれで死んだらオージャス隊長がキレるっスよ?あの人元は人間排他主義の人なんスから」


 1つ1つの指摘が、自分を浅はかだと言わしめていく。それ悔しくて情けなくて、何も言わずにただ自分の震える手を見て涙をボロボロ流し始めたリサリー。下唇を噛んでギリギリで嗚咽は漏らさないようにしていた。


 それを見て、クエントため息を付く。ここまで追い込んでしまった自分の罪悪感と、やはり見捨てては置けないという保護欲が同時に彼を動かしていた。


「俺が言いたいこと、分かるっスか?」


 優しく声を掛け、大きな手でその頭を撫でた。言葉は返って来ないが、頭は上下に動いたことを確認すると優しく抱きしめる。抱き締めた大きな手を、小さな腕で更に抱き締められる。


「じゃあ、俺は一緒の方が良いっスか?」

「……うん」


 どうか謝るだけの勇気が欲しいと、リサリーはクエンの手を離さなかった。





「いやぁ、まさかあんな所で再会するとはね。にしてもこの肉美味しいね。ここ等辺って何の魔物が狩れるんだい?」

「ああ、本当に吃驚だったな。お、モリアロ。メニューにはロックバードと書かれている。多分ガルアニア産だぞ」

「いや、軽いですね2人とも。一応モリアロさんの手足を斬り捨てた人ですよ?お、こっちのサラダも美味しい。ほら、ヤスパーあーん」

「あーん。うん、ドレッシングが豪勢で上手い。これであの値段はリーズナブルだな。っていうかこれから来るんだろう?モリアロさんはどうすんだ?」



 なんて話をしながら、一行は例の温泉街の穴場のとあるレストランで昼食を取っていた。さっきの剣呑な雰囲気はまったく無く、別段気負いもせずに手は動き、口で噛む。


 こういうところは皆冒険者の気質に溢れている。どんな状況だろうと、食べる時に食べるのだ。


 そしてヤスパーのその質問に対して、モリアロは不敵な笑みを浮かべる。


「まぁ、あの顔見る限りでは話の内容の想像は容易いよ。それに対して、私の用意する答えは既に決まっている」

「当ててみせようか?」

「君なら考えるまでもなく分かってるだろう?」

「違いない」

「わ、わ、大人の以心伝心って奴だよヤスパーッ!!私達も対抗するべきかな?」

「んなことよりこれ美味いぞ。ほれ、あーん」

「あーんッ♪」


 異なるラブコメの波動を無作為に周囲に垂れ流していく4人に、店員は客達に対して苦みがアクセントの料理を勧めていた。


 そしてそれを涙ながらに注文していく常連達は、彼等がもう店に来ない事を願っていた。既に血涙を流し始める者まで出ているのだから。




 そして食後から数時間後、彼等は再び相対する。


 場所は城前の広場。モリアロ達の前に現れたのは。高坂だけではなく、後ろに3人連れていた。2人は一見して白狼の兄妹に見え、そして1人は黒髪の男。それにも朧気だが覚えがった。


「そっちは、あの時の勇者か」


 スビアが確認の声を上げると、日野は一目見て頷く。


「ああ、俺は見届け人だ。一応そいつについては、止めなかった俺の責任もあるからな」


 こっちはこっちで気まずい顔をしていたが、白狼の少女ネムレアが「もっとちゃんと言うっスよこのムッツリッ!!」と背中を叩く。


「っち……ああ、つまりだ。俺も謝りに来た」

「……そうかい」


 その申し出に耳は傾けていたが、モリアロの眼はひたすらに高坂を見ていた。隣に立つ白狼の青年クエントは、その高坂の手を握っている。


「……私も、私も謝りに……来ました」

「ああ……」


 高坂と日野は、意を決して頭を下げる。


「貴方の人生を無茶苦茶にしようとして……すいませんでした」

「すまなかった……」


 混じりっけ無しの謝罪。ただそれだけある。恨み言を吐かれても良い、叱咤され、ふざけるなと殴られるのも良い。これは自己満足なのだから。ただ、ケジメを付けなければ前に進めない。


 それは、モリアロも同じことだった。スビアに目配せして、何も言わぬようにして、向き直る。その顔は、その声色は、やはり彼女らしくあった。



「まず、その謝罪は受け取ろう。君達の今の立場を考えれば、色々あったのだろう。そして確かに、私はあの時君達の事を心底恨んでいた。次あれば殺そうと思うぐらいには」


 殺すという言葉にビクっと肩を震わせるが、頭を上げずに耐える。その様子にクエントの顔が強張るが、モリアロが勘違いしないでくれと言葉を添えた。


「だが、失って新たに得た関係がある。もしあの時、君が私の手足を切り取ってなければ、私はスビアと結ばれることは無かっただろう。そして事実、その後に私のこれは治された。そう考えてみると、感謝しても良いかもしれないと、そうも思える」


 あの時、スビアが自分を捕まえるチャンスを得られなかったら、自分達は死ぬまで戦友だったことだろう。それも良いかもしれないが、今の関係は、それよりも何倍も、何十倍何百倍も良いものだったのだから。



「だが、私は負けっぱなしは好きじゃない。君達が謝罪というケジメを付けるなら、私は『リベンジ』というケジメを付けたい」

「「……はぁッ?」」


 思わず顔を上げてしまった2人が見たのは、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちするモリアロとスビアだった。


「私は冒険者だ。そして戦闘狂なんだよ。だから何度でも挑みたいし、高みを目指し続けている。私にとって、君達は未だに壁なんだ。だから是非超えたい。この力でね」

「俺もそれに便乗したい。受けてくれるか?このリベンジマッチを」


 獰猛になっていく顔は、心底戦いが楽しい男女の顔だった。恋焦がれてると言っても良いぐらいに、その顔は笑顔なのだ。2人は苦笑いして頷くしかない。



「その試合、私が預かってもよろしいでしょうか?」

「「「ッ!?」」」



 そこに現れたのは、ラダリア国王、フォルナその人だった。彼女はオージャスからの連絡を受けて、是非勇者の戦いを見たいと提案するつもりだったのだが、手間が省けて今こうして言葉にした。


 呆気に取られる一同に、隣に立つ羊獣人メーウかコホンと咳払いする。


「この方はラダリア国王陛下にあらせられます。陛下は貴方方の戦いを見たいと所望されましたので、よろしければこちらで修練場をお貸ししたく存じます。いかがでしょうか?」


「「是非も無い」」



 即答で戦闘狂達は応えた。フォルナは高坂達に目を向け意志の是非を問うと、彼等も深く頷いた。フォルナはそれを見て満足そうに頷き、パンっと手を叩く。


 此処に、武闘会のリベンジマッチが公式で決まった。

「あ、あのッ!!リサリーと仲良くさせて頂いてるクエントっスッ!!」

「私はネムレアっスッ!!これ、どうぞっスッ!!」

「ああ、よろしく。後で美味しく頂くよ」


「あんたら何挨拶してんのよッ!!」

「つまらない物を渡そうとするなッ!!」


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