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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第158話 ヒーロー

「やぁアグアド。調子はどうかな?」

『……貴様か』


 古龍の故郷である島。その島の中心には古龍達の住処はある。そしてそこには、誰が作り上げたのか分からない巨大な宮殿があった。ドラゴンでも余裕で入れる程広いその空間の奥底、絢爛豪華とは呼べないが、どこか畏怖を覚えるその中で、


 1人の『勇者』が立っていた。


 彼が見上げているのは、巨大な玉座に座る1匹のブラックドラゴン。『アグアド』と呼ばれた古龍である。



 本来ならば、そこに座れる者はこの世にただ1つの存在であるにも関わらず、その手に虹色に輝く宝玉を持ちながら。



「そんな邪険にするような顔しないでくれよ、ドラゴンなのに分かり易いんだね」

『……ふんっ』


 アグアドは、この勇者に対して強く出ることは出来なかったが、勇者もこちらの力が必要な為に、2人は対等だった。それでも人間にこの宮殿には入られることは業腹だが。



「それも、上手く使いこなせそうかな?でなければ頑張って取って来た意味も無いしね」


 彼が指差したのは、アグアドの手に丸々収まっている全長5m程の宝玉だった。それは始祖の心臓でもある。それを愉悦を含んだ笑みでアグアドは持っていた。


『言われずとも、我はこれをほぼ熟知した。ただ、溢れ出る魔力を御しきるのに多少の時間を要しただけのこと……。これを取って来た事には感謝をしてやるが、本来ならばこの宮殿で生きる事を許されない身なのだ、弁えろよ人間?』


 大言を吐くアグアドの威圧をまったく意に介さず、勇者は軽い口調で釘を刺す。彼にとってアグアドの存在など所詮その程度だと言葉の端々から感じさせるように。しかし、それを決して否定させない眼で見られれば、彼は言い返す事は出来なかった。


 それほどまでに、目の前の男は『化け物』だと感じていたから。


「それはすまないね。ただ、僕としては君達がちゃんと動いてくれないと困るから、どうにも確認をしたがるのさ。僕達人間は仕事に関しては忠実だからね。やって貰わねば殺すしか無くなる。契約はしたんだ、分かっているだろう?」


『……契約は果たす。だが』

「分かってるさ。望みはままに、さ。さて、じゃあ今の進捗を聞こうか?」


 その『勇者』の目的は、ブラックドラゴンを使っての妖精、亜人の統一、及び人間との『戦争』を起こさせる事だった。それは果たせる者が偶々このドラゴンだっただけの話しである。

 よってアグアドにどう見下されたところで問題は無かった。特に気にもせず、彼は忠実に仕事を行うのみである。



『配下達がそろそろ全ての箇所に配置される。多少集落を見つけるのには手間取ったが、時期に終わることだろう。配下とは繋がっている故に、その動向も全て把握可能なのだからな。今の時点での問題は有ろう筈も無い』


 彼等の多少は数年単位なので、流石の彼も苦笑いだった。だが古龍と人では時間の流れが違い過ぎる為、そこは責められない。


「それじゃあ、来年の国際会議には間に合うのかな?」

『問題は無い。ドワーフとエルフは最初に抑えたからな。戦力として投入することは容易だ』

「なら良いさ。また数ヶ月後に来るから、その時には全ての準備が整っていることを願うよ。それじゃあ」


 そう言って一方的に彼はその場から影も形も残さず消えてしまった。最初に出会った時もそうだったとアグアドは頭の片隅で考えながら、その時が来るのを待っていた。


 そこで、無視出来ない報告が配下から入る。


『我が主よ、申し訳ありません……緊急での報告が』

『何だ、申せ』

『大空洞の妖精の郷を発見したのですが、レッドドラゴンの古龍が住処にしておりました……更にはある妖精の従魔となっておりました』

『……あの赤トカゲがだと?』


 報告では、とある丘の上で寝ていた筈だ。それが何をがどうなってそんな事になっているのか分からないが、由々しき事態ではある。やっと見つけた大空洞の妖精郷には、数少ない『世界樹の枝』があるのだ。


 そこに、アグアドが侮蔑を含んで『赤トカゲ』と呼んだレーベルが居る。自分の配下よりも先に。それだけで彼は怒りを覚えた。



『それで、貴様はおめおめ逃げ帰ってきた訳か』

『申し訳ありません……せめて報告が出来ればと……』

『その言い訳は受け取ってやろう。貴様は一度帰って来い。そこには他の集落を支配してから数を集めて強襲するぞ』

『寛大なお心、感謝いたします。我が主よ……』



 ドカッと座り直して、アグアドは物思いに耽る。かつて、この島で一度も勝てなかったレーベルが、自らの邪魔をしようとしている。宝玉を手に入れる前ならば避けるだろうが、今は違う。

 宝玉の力で配下は大きくステータスが上がっているし、アグアド自身も昔とは比べ物にならない程の強大な力を手に入れていた。今なら、此処に来た勇者を抜いて、ほとんどの勇者なら相手取る事も可能だと思っている。



 だからこそ、配下の手でズタボロになったレーベルの姿を、彼は見たかった。


『楽しみだ……些末ではあるが、良い余興にはなるだろう』


 楽しみだと、その口は歪むばかりだ。



 その所為で、彼はこれから自分の配下がどうなるかが気付けなかった。







 とある集落では、ブラックドラゴン3匹により妖精達が虐げられていた。彼等はブラックドラゴン達に強要され、今まで育て上げた食材を根こそぎ食べられている真っ最中だった。

 自分達が愛を込めて作った物が貪り喰われるのを黙って見ていることしか出来ない彼等は、ただ涙を流して耐える事しか出来なかった。


 逆らえばブレスによって炭にされるか。手足を千切り取られて踏み潰されるされるかだ。そして、今もそれがお遊びでされようとしていた。


「やめて、やめてッ!」


 泣きながら必死に掴まれた腕を離すよう懇願する妖精だが、ブラックドラゴンはニタニタと邪悪な笑みを浮かべて、その悲鳴を喜々として聴いていた。


『ほう、妖精如きが我等に意見を言うか。なに、少し遊んでやるだけのこと。我等も暇なのだ、付き合え』

「やだーッ!!」


 誰も奴等を止められる者はこの場には居なかった。凶悪とも言える悪意があるのは、やはり魔物故の残虐性からくるもの。それが言霊となって妖精達を恐怖で縛るのだ。だから動けない。


 そして今正に、身体を掴まれ、器用に手を掴まれた妖精に、その凶行を行動に移そうとしている。


『さぁ、良い声で鳴けよ~?』


 威厳など微塵も感じさせない下卑た顔をしながら、妖精の手をゆっくりと引っ張られ、




 ヒュンッ



 誰も知覚出来ないスピードで、その手から妖精が消えた。


『……あ?』




「悪行はそこまでだッ!!悪のドラゴンよッ!!」



 聞こえて来た声の方にその場に居た全員が振り向くと、そこには後光の射した3匹のマスクを被った妖精が立っていた。


 そして真ん中に立っていた妖精の腕の中には、先程腕を千切られそうになった少女の妖精。少女はそのマスクを被った妖精に見惚れているようだった。


 そして自分達の余興を邪魔されたブラックドラゴン達が怒りに燃えた声で叫ぶ。悪役側が絶対に言ってはならない決まり文句を口に出して言ってしまう。



『我等の邪魔をするとは、何者だッ!!!』


 その声に、待っていましたとばかりに、3匹はそれぞれポーズを決めながら叫んだ。



「人が呼ぶ、妖精が呼ぶ、誰もが呼んだかもしれない正義のヒーローッ!」


「実は誰も呼ばなくても即参上ッ!!寂しいからッ!!」


「我等、ヒーロー戦隊ッ!」



「「「ヨウ・セイ・ジャーッ!!!」」」



 必然、その場の時間が止まったかのような感覚に陥っていた。ブラックドラゴン達はアングリした顔になり、思考が停止した。おそらく外から来た妖精なのだろうが、一体何をしているのかまったく理解出来ていなかったのだ。



 だが妖精達は違う。彼等はこんな時、どんな反応をすべきかを本能で知っている。しかし数年間虐げられた為に中々反応することが出来ない。


「悪しき力に、恐れてはいけないッ!!」

「「「ッ!!?」」」


 だが、ヨウセイジャーは勇気を奮い立たせるような声を『妖精魔法』に乗せて広げた。


 その声を聴いた妖精達は、自分達の中に懐かしいポカポカした物を感じ始める。



「私達が来たからにはもう安心ッ!」

「皆の応援が私達の頑張りに即還元ッ!」

「そして悪しき者から安全救出ッ!」


「「「それが我等、ヨウ・セイ・ジャーッ!!」」」



 ボフンっと、それぞれのマスクの色に合わせた爆発の煙が上がる。その光景を見て、妖精達は理解した。自分達と同じ存在である彼等が『ノリの絶頂期』だということを。この大波に乗らずしていつ乗るのかと。




 既に恐怖の縄は解けている。今こそ開花する時、



「「「頑張れ、ヨウセイジャ~~~~~ッ!!!!!」」」




『ふざけるなよ妖精如きがッ!!』

『我等最強種に勝てると本気で思っているのか。虚言を吐くとは愚かなり』

『死にたいというなら是非も無い、逆らう気力など2度と起こさぬように、見せしめにグチャグチャに殺してやるぞ貴様等ッ!!』


 ブラックドラゴン達は戦闘態勢に入って、いきなり3匹に向かってブレスを吐いた。進行方向には妖精達が居るが、彼等は何匹死のうと知ったことではないので、気にしていない。得体の知れない妖精ではあるが、これで終わりだと早々に彼等は笑う。


 そして黒い炎の奔流に成す術の無い妖精達が目を瞑るが、


『ふはははははッ!!…………は?』


 同時によるブレス攻撃で死んだであろう彼等に、ブラックドラゴン達が圧倒的な勝ちを確信して笑うが、直ぐにそれが間違いであったと思い知らされることになった。



 ブレスが、自分達の目の前で壁が出来たように遮られていたのだ。



 そしてそれを成したのは、やはりヒーローである。


「「「必殺、ヒーロー位相バリアッ!!」」」


 今この場に置いて、彼等ヒーロー妖精はアイドリー並みに『妖精魔法』を使える。それは集落内全ての妖精達と心が1つになってノリノリになっているからだ。よって、生み出される『妖精魔法』の規模は破格の威力に成り得る。


「さぁ、力を合わせて奴を倒すぞ。ブルー、イエローッ!!」

「「了解ッ!!」」


 3匹はブレスを未だ吹いているブラックドラゴン達に、必殺の合体技を発動する。



「愛と勇気とノリを乗せッ!」


「今必殺の~ッ!」


「トリプルッ!!」


「「「キィ~~~ックッ!!!」」」



 まさかの物理攻撃である。だが3匹が回転するように突っ込む様は、ステータスが1000万ずつが掛け合わさった馬鹿げた威力なのだ。昔のレーベルぐらいにならかなりの痛手を負わせる程の一撃が、竜巻となってブラックドラゴン達を襲う。


『な、なんだそれはッ!!逃gゲグェッ!?!?』

『たすkヒギャァアアアアッ!!!??』


 飛んで避けようとしたが、隕石の様な速さであっという間に竜巻に巻き込まれると、蹴りで穴を空けられながら切り刻まれていくというスプラッタなことになっていた。


 しかし血が出る前に『妖精魔法』で蒸発させていくので、グロテスクな光景にはなっていない。そのまま細切れになって絶命すると、



 ボカァァアアアアアンッ!!!



 何故か爆発が起こった。ブラックドラゴン達は、塵すら残らず消滅する。その瞬間の光景を、妖精達は忘れないだろう。もっと言えば、永遠に語り継がれていくことになるだろう。


「「「ありがとう、ヨウセイジャーッ!!!」」」



 これが、この2週間、全ての妖精の集落で行われていたことだった。

「撮れた?撮れた?」

「カンペキバッチシッ!!」

「家宝にしよ~~♪」


 自分達の雄姿をしっかり『録画水晶』で撮っていた一同だった。

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