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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第157話 人海戦術

「……」


 レーベルは非常に怒っていた。かつて無い程にブチ切れていた。髪は濃密な魔力によって揺らめいており、さっきから握っている拳も耐えているのか密かに震えている。ここまで怒った姿を見るのは初めてだったよ。


 しかし彼女の感情を抑えている頼もしい仲間達が居るので、急ごしらえは出来た。



「レーベル~、おちついて~?」

「おばあちゃん、怒ると悲しいよ?」

「そ、そうだよレーベルさん。ほら、僕の毛皮モフモフして良いから落ち着いて?」

「「「れ~べる~~」」」



 両頬にアリーナとコーラスを引っ付かせ、膝の上にファノラを乗せて撫でらせ、数多の妖精達が一匹ずつデコちゅうしている。


 いや、実際危なかったんだよ?なんせレッドドラゴンになって飛び立とうとしたぐらいなんだから。周囲も気にせずやったのは私とクアッドが即座に結界を張ったからだけど、まさかコーラスが叩き落とすとは思わなかったよ。


 そしてまた飛び立とうとしたところをコーラスが突っ込んで、眼の前で「おばあちゃん……行っちゃうの?」と円らな瞳で見つめられたのである。そりゃあ止まるよ。私だったら愛が溢れたよ。



「レーベル。落ち着いたなら、怒ってる理由を教えてくれる?」

「……うむ。すまぬな、少し気が立ってしまったのう。もう大丈夫じゃ」


 言葉の通り、身体から力みが抜けていくレーベルの表情も柔らかくなっていく。古龍でありながら今までレーベルはかなり友好的に妖精達に接してきたから、もう妖精達はレーベルが大好きになってるんだよね。


 異種の友達を作るのも初めてだったってのもある。それ以前に友達が増えるっていうそれ自体が彼等にとって喜びになるのだ。



 レーベルは足を崩してファノラさんを降ろすと、深く息を吐いて話し始めた。


「この島は先程も言った通り、我等古龍の故郷じゃ。我等は此処で育ち、此処で己を鍛えた。あの島は弱肉強食じゃから、普通のドラゴンではまず生き残れぬ秘境なのじゃよ。だからこそ『古龍』という種の重みがあの島にはあるのじゃ……ファノラよ、我の予測じゃが、その島にはブラックドラゴンが相当数居たのではないか?」


「う、うん。かなり居たと思うよ」

「やはりな……ということはじゃ、あの島には今脅威と呼べるような魔物がおらんということになる」

「住みやすくなったってこと?」

「違うのじゃ、主よ。そんな事が出来るのは我等の親、つまり始祖の古龍だけなのじゃ」



 よくは分からないけど、そういうことが出来るって話しなのね。けど、そこからレーベルが怒り狂った訳が分かった。


「これは秘中の秘なので、出来れば誰にも伝えたくはないのじゃが……緊急事態じゃからな」

「あ、なら妖精達には聞かせないようにするわ。みんなー、耳を塞いでくれるかしらー?」

「「「あいさ~♪」」」


 おう……全員耳を押さえてその場を転がり始めた。凄まじく軽くノッてくるなぁ。それを見て和みながら、改めてレーベルは話し始めた。



「始祖はな、巨大な宝玉を核にした龍での。それが心臓とも呼べるのじゃ。だがあまりにも身体が大きく、その体内まで続く結界の数々を通って到達出来る者はおらん。我の今の状態でやっとギリギリだと考えてくれれば分かり易いかのう。で、もしそれを手に入れた場合、既に始祖が死んでいる可能性があるのじゃ。それをあのアグアドが手に入れたなど考えられぬがな……」


 曰く、その宝玉が島全体に強力な魔力を流しているらしく、魔物達はその魔力で強くなっているらしい。逆にそれが無くなれば弱体化し、ブラックドラゴン程度でも勝てるのだとか。


「抵抗とかはしなかったのかな?」

「古龍と言っても、もう長い間島と同化してしまっているからのう。本人には動く気がまったく無いのじゃよ。並みの者では鱗の1枚すら貫けぬし、あやつ程度の力で突破するなどまず不可能じゃ。当時ですら我以下だったからのう」


 ああ、それは確かに無理だね。だとすると、誰か協力者が居ると考えるのが妥当なところか………



 ……なんか、激しいデジャヴを感じた。えーまた?嘘だぁ、そんなことある訳ないやん。



「あ、そういえば何でか分からないけど、人間の姿もあったよ。白い剣と鎧を装備してたんだけど」

「……もうやだ」


 流石に気が滅入るよ……どうして『勇者』ってのはどいつもこいつも問題行動を起こさないと気が済まないんだろうね。ちょっと久々に泣きそうだよ……まぁとりあえず、



「レーベル、犯人が確定したよ。今すぐ勇者達を滅ぼさない?」

「美香が滅んでしまうから止めてやれ主よ。その勇者だけで十分じゃ。後そいつは我の標的じゃな」

「ぶっそう~?」

「パパ~?」

「分かった……分かったからそんな眼で見ないで?」


 一生2人には勝てそうにないなぁ私……



 さて、大元の原因っぽいのが判明したので、次は対策だ。


「ファノラさん、此処から一番遠い集落まではどのくらい掛かるの?」

「ちょっと待ってね。えーっと、一番遠いのはロックダースって国にある山脈の中で、ドワーフ族の洞穴だね。僕だと大体半年ぐらいかな」


 指差されたのは、本当に端っこ辺りの山の中だった。一番遠くて此処か、なら私ならそこまで掛からないね。私は他の集落の場所も隈なく聞き出していき、大まかな位置を把握していく。


 そして、大小で合計100近い集落があることが分かった。妖精が7割、亜人3割って感じだね。ブラックドラゴンの総数は分からないけど、おそらくほとんどの集落には行っている筈だし、ならやる事は決まった。


「これは人海戦術になるかな。レーベル、ブラックドラゴンは狩って良いんだよね?」

「レッドドラゴンの時と一緒じゃよ。魔物であるからには、戦うならば死あるのみじゃ」

「増える~?」

「私も増える~?」



 え、全ての分身でイチャコラしたいの?流石にそれは……素晴らしい提案だけどさ。


 けどそうなると、かなり負担の掛かる『妖精魔法』が必要になる。っと思っていたけど、今この場に居る妖精の総数とノリの良さを忘れていたよ。皆こっちを見てフンスフンスと鼻を鳴らしている。


 そうだなぁ、皆が活躍出来るようにって言うと………



「よし、アバターを作ろうか」






「は~い始めるわよ~~」

「「「は~い♪」」」


 妖精達は私を中心にして円を描いて並び立つ。私の隣にはクアッドとアリーナが立って私の肩を掴んでいた。

 そして、その外側ではレーベルが胡坐を掻いて座っており、手の平にはコーラスが。



 今から、妖精達に私の分身というもう一つの身体を貸し与える為に『妖精魔法』を使う。それを妖精達全員の『妖精魔法』で補助して貰うのだ。更にアリーナとクアッドのイメージを借りて準備万端である。



 最後に、ある提案をしてきたテスタニカさんに私は確認を取った。


「本当に良いんだね。テスタニカさん?」

「ええ、いい加減こうするべきだと考えてたのよ。お願いね、アイドリー」

「うん、任せて」


 その言葉に私は頷き、周囲全ての妖精達の顔を見渡して叫んだ。


「それじゃあ、みんなは私の身体に同化する感じで、よろしくッ!!」

「「「ういすッ!!!」」」


(イメージ…………私の身体を溶かし……別けるように……)





 アイドリーの身体から、彼女の分身が出現し、妖精達一匹一匹の前に立っていく。レーベルラッドで出していた『アイドリーズ』ではあるが、強さはあれの10倍程である。それが妖精の数に合わせて、計450人分。

 前なら頭が10回程破裂するような負担になるが、今回は妖精の郷で、妖精達の手伝いがある。アリーナとクアッドの補助もある為、多少の頭痛で全て出す事が出来た。ただし脱力感が身体を襲ったが。



 全ての『アイドリーズ』が出揃うと、今度は妖精達が一斉にその分身と正面で手を繋ぎ額を合わせると、お互いの身体が光に包まれていく。


 そして、その光が重なっていき……『同化』した。



「お~壮観じゃな……」


 光が無くなると、そこには変わり無く妖精達の姿があった。ただし、その身体にはアイドリーズのステータスが丸ごと付与されているのだ。

 

 各自がピョンピョン跳ねたり手を突き出してグーパーしながら調子を確かめているが、どうやら問題は無いと判断し笑顔になる。私は汗を拭い、隣のアリーナに抱き付いてそのまま倒れた。もう駄目、今日は動けないや。


「お疲れアイドリー♪」

「ん~上手くいって良かったよ。コーラス、おいで~♪」

「パパ~格好良かったよッ!」


 レーベルの手の上から飛び出したコーラスに頭を抱き締められた。あ~頭が癒されていく。アリーナも合わせて私の頭が急速に回復していった。



 テスタニカさんは、私達が旅立つ前からブラックドラゴンが此処を探していることを知っていた。何が目的かは知らなかったけど、念の為に妖精全体で鍛えてはいたのだ。しかし将棋が流行してしまい、INTだけが爆上がりした結果、『妖精魔法』だけが強くなってしまい、ステータスは貧弱極まりなかったという。


 だから今回のステータスの底上げは僥倖だった。それに、私達が皆羨ましかったのだ。旅をして成長し、沢山の物を得た事が。


 そしてこの作戦に皆で手を貸したんだそうだ。気分は軽い遠足である。



「はい、それじゃあ1組ずつ場所を説明するから覚えてね?」

「「「了解でありまーすッ!!」」」

「うん、良い返事だ」


 次はファノラの仕事だった。3匹で1組の妖精達に地図を使って1ヶ所ずつ場所を指定していくのだ。派遣先の紹介をしているようだとアイドリーは思ったが、別に仕事をしに行くわけではない。


 妖精達は珍しく真剣な表情でファノラの話しを頷きながら聞いていき、そしてその場所を正確に覚えていった。






 全員が覚える頃には、夜の帳が下りてきていた。ファノラの賢明な説明により、無事全ての妖精に集落の場所がインプットされたので、明日から移動が開始出来るようになったよ。何匹か目を回していたけど、そこはグループごとにフォローしてあげてね?


 


「みんなお疲れ。では飯にしよう」

「今日は我が特大のを作ってやったのじゃ。食べるが良いぞ」


 そして更に嬉しいことに、今日はレーベルのご飯である。今回は世界樹の調味料をふんだんに使っているので、ほっぺが蕩け落ちるかもしれないね。その時はあーんして貰おう。


「それじゃ、頂きまーす」

「「「頂きますッ!!♪」」

「はい、じゃあマスクの色決め始まるわよ~~はい、これに人数分のクジ入ってるから取っていってね~~」

「「「は~い♪」」」

「え、なにこれ?何が始まるの?っていうかあのマスクの山は何!?」

「私達も参加するべきですかな?」

「お主はそのままで居てくれ、クアッドよ……」

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