第156話 突き詰めた歴史の至宝
「レーベル、私妖精として生まれて本当に良かったと思う」
「確かに触り心地は最高じゃなぁ~~」
「あ、あの。そんなに触られるとくすぐったいんだけど」
あまりに気持ち良かったので、人型になってレーベルと一緒に撫でまわしてたんだけど、あーこれ最高だわ。羽毛布団に手突っ込んだらこんな感じなのかな?あれの数百倍って言えるぐらい蕩けたけど。
「貴方達、行っておくけどファオラは私よりも年上なんだからね?しかも強いのよ?」
「「えっ」」
ファオラ(325) Lv.147
種族:コブリン
HP 1681/1681
MP 1233/1233
AK 1110
DF 989
MAK 1245
MDF 1600
INT 1300
SPD 1440
【固有スキル】コブリンフット コブリンアイ コブリンイヤー モコモコ
スキル:剣術(B+)四属性魔法(B)隠蔽(EX)
長生きしているだけあって確かに結構強いけど、それ以前にこの固有スキルはなんなんだろうか?何でこんな可愛いスキル名なの?
・コブリンフット
『限りなく音を無くして移動が出来る。また、自身の体重を限りなく0にしての移動が可能になる。通常は愛らしい擬音が鳴る』
・コブリンアイ
『数百m以内の悪意ある存在を障害物を無視して視覚することが出来る。眼を空ける度に愛らしい擬音が鳴る』
・ゴブリンイヤー
『様々な音が入り混じる中でも、特定の音だけを聞き分ける事が出来る。使用すると耳朶の柔らかさが3割増しになる』
・モコモコ
『触れた者はレベル差で対抗し、低い者は魅了される。初見で触れた場合は種族に関係無く魅了する』
もうあれだ。この種族創った神は生粋の馬鹿だね、間違いない。特に最後は何を思って作ったんだろうか。これ、レベルが1000超えたらほぼあらゆる生物に無敵じゃん……
「さて、それじゃあ仕事をしないとね。まずは商人としてだ。今回はいつも通りかな?」
「ええ、金属品だけになるわ。ドワーフの皆によろしくね」
「君達はこういうの見つけるの得意だからね。彼等もいつも感謝してるよ。じゃあこっちは……あれ~どこだ~~?」
連れてきている荷馬車にファオラさんが身体を突っ込んでワタワタしている姿を見せる。
お尻が……尻尾が……揺れている。私達の眼がそれに釣られていく。
「「「…………触っていい?」」」
「一応雄じゃから止めてやれ主達よ。親子揃って本当にソックリじゃな」
そして彼が取り出したのは、私も見た事がある物だった。香辛料や食材の数々が取り出されていく。見れば、全部妖精に合わせた大きさの野菜や肉だね。
そういえば全部『妖精魔法』で保存されてたけど、どこで作ったもんなんだろうってずっと気になってた。これって自然物じゃないよね?
不思議そうに見るアリーナとコーラスに、テスタニカさんとファノラさんが補足説明してくれた。
「これは全部他の集落で作られた物なのよ。私達はお互いの土地で出る物を出し合ってるから、こうやって場所によって出来る物が違うのよね。この食材は平原に近いとこに住んでる妖精達の物になるわ」
「僕達は各地を回って遠距離物々交換をしてあげてるんだよ。その代わり僕達はあらゆる恩恵を受けさせて貰ってる。主にこれのね」
そう言って更に出したのは、この『世界の地図』だった。
「凄い……」
そう、これは凄いものだ。人間の国には全ての場所を表す地図は無い。国ごとの地図は存在するけど、知らない場所は沢山ある。秘境も魔窟も山ほどあるから、未開の地だらけなのだ。
その地図も現存している物が少なく、殆どは国の騎士団とかが使っているぐらいだ。
「これはね、神代の頃から何度も何度も書き直されて更新されてきた、全てのネットワークで協力して作ってきたコブリンの一番大切な宝物なんだ。僕達はこれを作る為に生きていると言っても良い。しかもこれには、面白いギミックがあってね」
そう言って地図の一端を指押すと、そこだけ拡大するように映ったのだ。ただの地図じゃない。魔道具の地図なんだね。
アリーナが驚いた声を上げたので、してやったりとファノラさんが笑った。
「わ、大きくなったッ!?」
「ふふ……こんな感じで、色んな場所を細かく描けるようになってるんだ。これがあるから、僕達は決して道に迷わないんだよ」
「なるほど……」
……これ、ちょっと気になるな。
「クアッド、ちょっと手伝って?ファノラさん、ちょっとこれに『妖精魔法』使っても良い?正確にはこの地図の歴史を見ても良い?」
「え?……ああ、良いけど」
「ありがとう。じゃあやろうか」
「ええ、これは非常に興味深いですからな」
私はこの地図に対して『空間魔法』と『妖精魔法』の混成でこの地図限定の『過去』を映像化した。その際にクアッドには『過去』を表すイメージを手伝ってもらった。
そして発動した『妖精魔法』により、地図が過去を遡り始める。
地図の上に。もう一枚映像となった地図が現れ、それは真っ白に、染み1つ無い紙になったが……ひとりでに地図が描かれ始めた。
「これは……」
「おぉ……なんと素晴らしい」
ファノラさんが驚いている横で、クアッドはこれ以上無い程に眼を輝かせてそれを見ていた。妖精の姿だからか、感動している姿が可愛い。おっと、私も見ないとね。
最初に書かれた文字は、『コブリンの郷』だった。そこからどんどん細かい道が足されていき、村、街、国と名前が付けたされ、地形が現れていく。
それが何度も何度も書き直されていき、形が洗練されていく。その内各地での危険な魔物の名前や道の補足説明も入り始めた。凄まじい量の年数の間に、様々なコブリンの苦悩が見て取れる程書き殴られたりしていたし、一時期はまったく更新されなかったり、破れてしまったこともあった。
それでも歴史は続いていく。地図は受け継がれ、新しい世代のコブリン達が『世界地図』を完成させていく。完成する度に書き直されていく。
「……終わらないんだね」
「ああ……終わらない」
ボソッと呟いたコーラスの言葉に、涙を一滴零しながらファノラさんは言った。もう何代続いているのか分からないぐらいの歴史だ。おそらくこの世界で最も古く、価値があるだろう。特に、彼等にとっては。
そして300年前辺りの頃になると、一気にまた新しい大陸が地図に表された。そこで今度こそファノラさんは涙を流し始める。
そこに沢山の妖精が集まって、皆でファノラさんに引っ付いた。そうされながら彼はポツリポツリと喋る。
「あれは……あれはね、僕が見つけた場所なんだ。けど、こんな形で誰かに見せられるなんて思わなかったな……密かな自慢、みたいなものだったから……」
「ならば、今こそ誰かが褒めてやらぬとな」
「ええ、こんなに凄い事してるんだから」
「お前達にしか出来ないことだしな」
「ということで、さんはいっ」
「「ファノラさん、凄いッ!!♪」」
「「「すごーーーーーーーーーいッッ!!!♪」」」
誰もが認める偉業の連なりなのだ。私達の暮らしを、営みを支えながらこれを完成させたのだ。決して楽な道のりではなかった筈だ。場所によっては魔物による命の危険だってあった。それを誰に言われるでもなく、延々と繰り返してきた功績を、褒めてやらねば誰が褒めるというのか。
「ほんと、だから大好きなんだよ……君達のことが」
そして、『過去』の年代が終わり、今の地図と重なる。そこで『妖精魔法』は効果を失った。
「あー、久し振りに泣いたなぁ。地図を受け継いで以来だよ」
「ごめんね、ちょっと過去の世界地図って見てみたかったからさ」
「良いんだ。僕も先代達の歴史を知れて嬉しい。これは今までで最も嬉しい報酬だよ」
いや、報酬にする気は無かったんだけど。けどファノラさんは手をモンモン振って良いんだと断る。か、かわえぇ……その手にアリーナとコーラスが引っ付いてわーわーしてるから更に倍々でかわえぇ……
「あれはクルものあるのう」
「ええ、まったくですな」
まぁ良いならいいや。なら私達の欲しい情報を聞くとしよう。きっとファノラさんも困ってる筈だし。
その事について聞いてみると、やはり彼は頭をコリコリ掻きながら頷いた。
「そうだね、やっぱりどこも困ってるみたいだよ。彼等はあまりに強引だし、守ってやると言いながら食料を根こそぎ食べられて泣いていた子達も居た。そこは僕達がなんとか調達してあげられたけど」
「コブリン達は大丈夫なの?」
「僕達はその気になればあらゆる者達から逃げられるからね。そういう術を磨いてきたし。それよりも、君達には耳よりな情報があるんだ」
ファノラが意気揚々と地図をどんどん拡大していき指差した場所を皆で見ると、そこは海にある小島だった。
「ここは?」
「彼等の住処さ。この前セイレーンと一緒に身を隠しながら島に近付いて、数ヶ月探索してようやく見つけたんだよ。いやぁ、あれは大変だったなぁ……ってあれ?どうしたの?」
その話を聞いて、1人だけ真顔で動かないレーベルに、私も含めて不穏な空気を感じた。レーベルはマジマジとその地図を見て、段々と眉間に皺を寄せていき、
絞り出すように言った。
「……ここ、我の故郷じゃぞ」
「ところで、何で地図作り始めたとか理由はあるの?」
「受け継がれた歴史の中だと、コブリンの郷周辺を地図に起こしたのが始まりらしいよ?」
(これは妖精的にノリで始めたっぽいなぁ)