第18話 妖精VS伯爵
「攻撃方法は武器と魔法、徒手空拳の全てだ。気絶させるか降参をさせれば勝利とする、よいな!!」
「わかりました。ギルド長、合図よろしく」
お互い自分の剣で構え合う。私には特に構えはないけど、適当にそれっぽくしておいた。ここでもまだ私はローブも外さないしフードは被ったまま。アリーナもフードの中に入っている状態で、武器も鉄の剣のままである。
舐めている訳では決してないけれど、私の顔は認識阻害でボヤかせていても人に見せたくないからね。
「はじめ!!」
最初に動いたのはアステルさん。私に向かって魔法を唱えながら武器を振るってきた。
「剣よ、炎を纏いて焼き切れ! 炎剣!!」
(おぉぉぉ~~~~~~っっ!!!)
(剣が炎を纏った! 何あれカッコいい!!?)
フードの中のアリーナと一緒に目を輝かせながら横っ飛びで避けると、剣は地面を焼き焦がしてしまう。中々の威力だね。
「我が豪熱の剣はロックリザードとて焼き切れる。余り舐めてはくれるなよ!!」
「威力は折り紙付きか。青い炎って……よく剣が耐えられる」
アステルさんは魔力を練り上げ、直ぐに次の手を打ってくる。
「盛り上がれ土よ!!」
私が着地した足場の土が盛り上がり、バランスを崩してしまう。そこに炎剣が横殴りで迫ってきた。鉄の剣で受けようとしたが、
「ぬぅん!!」
「あっ」
(ありゃ~)
見事に剣を斬られましたとさ。ああ、切り口が熱でドロドロに……もう使えないなぁこれ。これまで旅のお供だったが仕方ない。私は武器を手放して、背中から新しい剣を出す。
「なんだその剣は……」
「さて、なんでしょうね」
私の出したそれは、全てが白い剣だ。持ち手も柄も刃も、真っ白いその剣で構える。これは妖精郷の倉庫に眠っていた剣だ。ただし、武器じゃないんだよね。
私は起動詠唱をしながら、白い剣を地面に突き立てる。
「白き騎士団よ。主の名に従い、敵を粉砕せよ!ナイトメーカー!!」
剣を突き立てた場所に魔法陣が現れ、剣が吸い込まれていく。私は大量の魔力を注ぎ込んでいくと、その魔法陣が広がっていき、そこから白い騎士の軍団が現れた。2mぐらいの騎士の人形が30体。全員が私が持っていた剣と同じ物を装備している。
「な、なんと……だがっ!!」
驚愕する他無かった周囲の人間よりも先にアステルさんは正気に戻り、一番近くに居た騎士人形に攻撃を仕掛けるが、今度はその騎士に完璧に受け止められてしまう。炎剣を以てしても、白い剣はビクともしない。押し返され、アステルさんは数メートルほど吹っ飛ばされてしまう。自分から飛んだって感じだね。
ナイトメーカー() Lv.120
種族:人型ドール
HP 2500/2500
MP 0/0
AK 1300
DF 2000
MAK 0
MDF 2000
INT 0
SPD 1000
スキル:剣術(B)
この剣で生み出された騎士は、全て同一のステータスになる強さは練り込んだ魔力によって決まるので、大概は土壁を張った方が役に立つ。このステータスで私は40万ぐらい使ってるからね。
その代わり、HPが0になるまで動き続けるので、戦いには重宝するのよ。
前回の依頼で使わなかったのは私のステータスが知られているからだけど、今回は誰も知らない、そういう魔導具だと言っておけば怪しまれない。
アステルさんはナイトメーカーの一体と斬り合っているが、ステータス差でどんどん押しやられている。重量差もあるから、体力も削られるだろうし、勝つのは時間の問題かな。この騎士達は自動で指定した敵と戦うので、スキルとステータスに合わせた動きしか出来ない。だから剣術のランクが高くステータスが拮抗している相手には案外簡単に倒されるのだ。今回はその状況には当て嵌まらないけどね。
「うぉおっ!!」
渾身の攻撃を繰り出したアステルさんの剣を、ナイトーメーカーが切り上げで弾き飛ばした。そのまま首筋でピタッと剣を止める。
荒々しく息を整えながら、両手を挙げる。その周囲には、埋め尽くす様にナイトメーカーの剣先があった。
「はぁ……はぁ……降参だ。まるで敵わん」
「そ、そんな……お父様が負けた?……っつ!!」
お嬢さんに思いっきり睨まれてしまった。えー……貴方が戦えって言ったのに。けどこれで私の……というか、ナイトメーカーの実力は分かって貰えたかな。アステルさんは1体であの有様なのだ。それが30体同時にダイオスに向かえば、ミンチになっちゃうかもしれない。
(それはそれでスプラッタな光景だな……止めておこう)
(血みどろやーよー?)
せやね。トラウマを刻む訳にもいかないし。
「……ッ」
それを分かっているのか、白い顔したダイオスは震えた身体を隠そうともしていない。とりあえず放って置いて私はメルキオラの方に行く。一応言っておこうかと思って。
「メルキオラちゃん。私は貴方の父と、貴方の為に依頼を受けたの。貴方は父親に理想を持っているかもしれないけど、この世に君の父親より強い存在はいくらでも居るよ。だからそういう憧れは父親ではなく、勇者とかにしときなよ。貴方の父親の素晴らしい部分は武闘派なところだけじゃないでしょう?」
「そ、そんなの当たり前です!!」
「なら、今回は私に任せて。貴方の敵を、誰もが認めるやり方で打ち取るので」
「…………わ、分かりましたわ」
私はナイトメーカーを連れて、ダイオスのところまで歩いていく。白い騎士団に圧倒されるダイオスの団員達は、こちらが一歩近づく度に後退りしていった。なんだかこれ出しているとまともに話が出来なさそうなので、魔道具を解除して魔法陣の中に返す。剣がまた出現したので、それも背中に仕舞う。
「さて、次は貴方で良いんだよね?」
「ま、待て!! 決闘の場にそのような物が許されると思っているのか!? 正々堂々自らの実力を示すべきだろう!!」
「これは魔導具だし、私だって魔力を多く使って発動してるんだよ。貴方だって戦闘で魔道具を使う相手と戦ったことぐらいあるでしょう? 今回もそうなだけ」
「き、貴様ぁあ~~」
(アイドリーいじわるさん?)
(ちょこっとね)
そもそも私は正義の味方じゃない。なるのは好きだけど、今回は依頼だもの。確実に達成しなくちゃならない。間違っても盗賊とかになったら多分私国を敵に回せちゃうだろうから。それでも、彼に言う”対等”というのは必要だと思う。
メルキオラちゃんに言った通り。誰もが認めるやり方じゃないとね。
「まぁ、安心しなよ。今回はこれを決闘では使わない。貴方は私だけが相手をするから」
その言葉に、ダイオスの顔に血色が戻った。多少余裕が生まれたようだ。後ろの団員達も安心したのか、ぞろぞろと戻って来る。
「ふん、ならば良い。使わなかったことを後悔させてやるぞ!!」
「あっそ」
そういえば、戦う前に聞きたいことがあるんだった。
「そういえば、貴方どうしてお嬢さんが欲しいの?」
「はぁ? そんなもの決まってるだろう?」
ダイオスは笑いながら大げさな身振り手振りで演説を始めた。
「貴族の娘を得れば、私は伯爵の後継者になれる。更に冒険者のギルド長という地位になれば、この街に居る冒険者全員を手中に収められるんだ。勝てる勝負で一気にこの街の全てを手に入れるチャンスだというのに、憶する必要がどこにあるんだ?」
「つまり、純粋に愛してるとかそういうのではないと?」
「まだ8歳のガキに何を期待しろと言うのだ?夜の奉仕はメイドにでもやらせる。メルキオラ様は精々部屋の中で大人しくなってもらうさ。伯爵様共々な」
まだ自分が伯爵にもなってないのに偉い口叩くんもんだね。しかも例え結婚出来たとしても、アステルさんが違う家から養子を取ってその人を後継ぎにすればその計画崩れ去るよね?穴だらけなことに気づいてないのかな?INTが低いからかな?
ダイオス(28) Lv.153
種族:人間
HP 2650/2650
MP 4058/4058
AK 2092
DF 2245
MAK 2483
MDF 2006
INT 35
SPD 2409
スキル:剣術(A)盾術(B+)槍術(B)瞬歩(C+)四属性魔法(B)
本当にINT低いな。他のステータスが4桁だから余計低く見える。脳筋と力だけでここまで地位を築いてきたタイプだから、頭を使うのは苦手なんだろうなぁ。
(そういえばアリーナって今どのくらいのINTになってるんだろう……)
この子は暇な時はずっとフードの中で将棋をやっているからね。そろそろどのくらいの影響が出ているのか気になってきた。ということでそこらへんをフワフワ飛んでいるアリーナのステータスを覗いてみた。
アリーナ(3) Lv.97
種族:フェアリー
HP 547/547
MP 3420/3420
AK 68
DF 2038
MAK 1184
MDF 3254
INT 450
SPD 530
【固有スキル】妖精魔法(水) 顕現依存
スキル:隠蔽(B)複数思考(C-)
増え過ぎじゃない!?え、将棋ってこんなに短時間でINTを上げるの?いや、アリーナの集中している時間が長過ぎるんだ!!まずい、これ妖精郷の皆も同じ状態に陥ってる可能性あるよね。白熱し過ぎて荒んだ遊び方してなければ良いんだけど………後でテスタニカさんに電話してみようかな?
(でへへ~~~♪♪)
(アリーナ……末恐ろしい子!!)
「おい、さっさと構えろガキ!!」
「おおっと失礼」
「アリーナ、何か難しい言葉言ってみて?」
「えー?……えーっと…シキジャキュゼッキュウ?」
「よし、何の問題も無いね可愛いやったー!!」