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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第155話 コブリン

「コーラス、口元~」

「んも?」

「付いてるってさ。ほら、拭いてあげる」

「ん~~、ありがとうパパ♪」

「うん、ゆっくり食べな~」


 今日の朝飯は『世界樹の枝と葉を適用量磨り潰して水に浸した物を沸騰させたスープ』だ。正式名称は不明だけど、飲むと非常に身体がポカポカするのよ。レーベルには特にお勧めである。味はコンソメなのはやっぱり世界樹クオリティである。


 未だに世界樹の凡庸性が高過ぎてどうなっているのか気になるなぁ……



「それで、あれは一体なんだったの?」

「うむ、間違っていなければ、あれは『闇属性』の古龍の下っ端じゃよ。奴め、まだ懲りておらんかったか」

「どういうこと?」


 その昔、始祖古龍が生んだ子供達は、全部で5匹居た。その内の四大龍が火、水、地、風の龍。残りの一匹が闇で、五大龍として君臨していたらしい。


 龍達は仲が良いという訳でもなかったが、殺し合いをするほど悪いという訳でもなく、それぞれが強くなるまでは協力して魔物を倒すということもあったとか。四大龍はそうだったのだが、唯一闇の龍だけはその四匹全てと仲が悪かった。


 彼はとにかく気性が荒く話を聞かない。しかも残虐性が高く、他の全てを見下していたのだ。



 そして生まれてから100年が経った頃、事態が急変した。レーベルが自分の首から下げている小瓶を指で突つきながら言う。


「闇の古龍が、ルクレツェと手を組んで人間に戦争を仕掛けたのじゃ。相手は勇者、当時の我等ではとても歯が立たぬからのう。奴等も例外ではなく、叩き伏せられる形となった。クアッドから聞いたが、その時の奴の国が後のレーベルラッドだったのじゃな」

「ええ、歴史上はそうなっておりますな」


 いつかの蒼い鐘楼を思い出しながらクアッドは頷く。


「うむ、それでその時、ルクレツェは連れ帰るか抹殺という事になっていた。そしてこやつを引き込み戦争を起こした張本人、闇の古龍『アグアド』は見つけ次第裁くという事になっておるのじゃよ」


 と言っても、寿命が長過ぎる種族なので、全然急ぎではないらしい。そりゃあレーベルが寝床変えてほのぼのしていたぐらいだもんね。


「で、今度は古龍以外の種族を傘下に入れて人間と戦争する気ってこと?」

「昔と同じならばその通りじゃろうな」

「戦争する理由は?」

「簡単なこと。気に喰わぬのじゃろう。、人間がより広く世界で生きているという事実が。自分達より遥か格下である筈の彼等が……奴に関わらず、我も含め他の龍達も少なからずそこは羨んでおったよ。見つかる度に騒がれ、討伐隊を差し向けられもすればそうもなる。じゃが、奴はやはりやり過ぎた」


 種族間の争いとも言える事だ。けど、じゃあやっぱりと。私達はそれを阻止しなければならない。


 問題は、今どれだけの規模で妖精や亜人達が彼等の傘下に入っているかだ。こうなると数が多過ぎて把握しきれないし、ともなれば直接殴り込みに行くしか無いかな?


「じゃあさっきのブラックドラゴン索敵して追い駆ける?」

「うむ。分身引っ付ければ住処まで行けて一石二鳥じゃしな」

「それちょっと待ってくれる?」



 そこで、神妙な顔したテスタニカさんに止められた。ノルンさんも隣で渋い顔をしている。


「どうしたの?」

「もしも親玉だけさっさと倒したら、残ったドラゴン達が各集落で報復だって騒いで暴れるかもしれないじゃない?それは許容出来ないわ。とち狂って人間の居る場所を攻撃してくる可能性だってあるんだから」


 確かに、それはあるかもしれないね。それじゃあ力押しは駄目か……いや、それ以前に私としては気になる事があるんだよね。


「テスタニカさん、ブラックドラゴンが言っていた『亜人』についてなんですけど」

「ああ、それは多分エルフとドワーフの事よ。彼等は『精霊魔法』も使うから戦力的にはかなり心強いでしょうしね」


 エルフ、ドワーフ、そして精霊かぁ………居たんだなぁ。


「しみじみしてる~?」

「おっと、いや、なんでもないよ。でね、その亜人の中に『獣人』って含まれるのかな?」

「……あー……多分」


 断言は出来ないか。けど、考えてみればそうだ。獣人は人間という『種』とは違う類の『人間』だ。ただ獣系の人が沢山集まってそういう総称が付いただけで、彼等は『亜人』に分類される筈なんだ。


 まぁ流石にラダリアに来たりはしないだろうけどね。今はレッドドラゴン達が常駐してるし。なら、そっちは放って置いて大丈夫だろう。


「いつからこういうことやり始めたのか情報とかある?」

「ここ数年くらいだと聞いてるわ。今日コブリン達も来る予定だし、何かしらの情報がまた得られると思うけど」


「「マジでッ!?」」


「パパ?ママ?」


 思わず私とアリーナが食い気味に反応してしまった。いや、ごめんねコーラス。私達結局噂のモフモフ一族を堪能することなく旅立ってしまったから妖精の本能がつい出てしまったよ。


 けど会えると分かったから、途端にアリーナと小躍りし始めてしまった私達をどうか責めないでおくれ。そしてコーラスも混ざってええのよ。


「結構一大事だと思うんじゃが、変わらぬのう主達は」

「しょうがないわよ。多分レーベルも本人達に会ったらそう言ってはいられなくなると思うわよ?あれは反則だもの」

「そんなもんかのう?」






 コブリンは今日の昼に来るらしいので、早速出迎えの準備をしなければならない。で、物々交換が原則だから、久しぶりに武器倉庫に行くことになった。


 妖精達も協力して武器やら防具やらボロボロの物でも運び出して行く。偶に落として埃を巻き上げては連鎖的にクシャミをしてたけど。


 あ、また1匹くしゃみして……鼻水が相方達の顔に、顔にぃ……


「めが~」

「はにゃが~」

「くちが~へくちっ」

「ふぁいと♪ふぁいと♪」


 な感じで悪戦苦闘していた。その横でコーラスがボンボン両手に出現させて応援してるよ。アリーナに録画水晶渡してあるから、後で私も見るつもりだ。


「ほほう、かなり昔の物もあるのですなぁ」

「クアッドそういうの分かるの?」

「『妖精魔法』で造られた年代を見たのですよ。この兜など、私が生まれるよりも前みたいですな」


 コンコンと指でボロボロの兜を弾くクアッド。弾かれたところから魔力が波紋となって広がっていくので、その響き具合で確認しているらしい。どういう原理なんですかね……


 そして荷馬車1台にギリギリ入り切るぐらいの量を出し終わってみれば、時間は既に昼になろうとしていた。


 そこに1匹の妖精が倉庫に飛び込んできた。その顔は今までにないぐらいキラッキラしている。


「きたよーッ!!」

「「「わぁ~~~~ッ!!!」」」


 その一言で妖精達が一斉に全てを放棄して飛び立っていった。私達もその後を追いかけて妖精郷の入り口まで向かうと、




 既に妖精達に群がられている、1人の何かが居た。そこにノルンさんが来て妖精達の中からそれを引っ張り出すと、


 私は初めて『コブリン』というものを目にしたのだった。



「……なんだあれ」



 モッコモコしていた。茶色の毛皮に覆われた姿に、クリクリの眼が特徴的な生物だった。というか、ゴブリンの形しただけの『テディベア』だった。トンガリボロボロ汚物のゴブリンとは違って全体的に丸くてこの距離なのに良い匂いが漂ってくる。


 え、何あの愛らしいの?妖精ホイホイなの?

 

 しかも何故かそこかしこから『ぽにょん』やら『ぷにゃん』やら愛らしい擬音が鳴ってるんだけど。それは一体どんな仕組みなんだ……是非身体で味わいたい。


「パパ、ママッ!!」


 娘の待ちきれない声に、私達はお互い力強く頷いた。最早言葉は要らない。






 ノルンから引き出されたコブリンは、苦笑いしながら身体を起こす。彼の身長は120cm程だが、数百の妖精に突っ込まれれば流石に身体が全て埋まっていた。


 全身をモフモフされた彼は幸せな気分になっているのだが、どこの妖精の集落に行ってもやられているので、半ば慣れもあった。


「いやいや、久し振りだけど相変わらずだね」

「いつもすまないなファオラ」

「君達の種族はどこでも皆一緒だからね。構わないさ……おや?」


 ノルンとの再会を喜んだのもつかの間、また自分のお腹に妖精が引っ付いていることに気付いた。ピンク、水色、そして2つを合わせたような色の頭が見えている。それを見てノルンが申し訳なさそうな顔になった。


「すまない、その3人は君を見るのが初めてなんだ。しばらくはそのままにしておいてやってくれないか?」

「ああ、なるほどね。お嬢さん達、僕はファオラと言う者だ。よろしくね?」


「「「ふぉふぉふぃふー♪(よろしくー♪)」」」


 顔をモコモコの毛皮に突っ込んだまま答える3人にノルンは噴き出し、ファオラはクスクスと笑いながら優しくモコモコの腕で3人の頭を撫でるのだった。



 そして3人はモコモコに包まれて昇天した……

アイドリー 「こひぇらめら~やわしゅきりゅ~~~(これ駄目だ、ヤバすぎる)」

アリーナ  「あは~~♪とってもいいんら~~♪」

コーラス  「んへへ~~しゃいこうなの~~♪」


「主が負けるとか、我絶対勝てる気がせんのだが。いや、包まれない分ワンチャンあるのじゃろうか?」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよレーベル殿」

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