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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第154話 黒龍の押し売り

 妖精とは、自由を尊ぶ種族である。集落で生きてはいるが、彼等に規則性というものは基本的に存在しない。その日したい事を自由にノリで決めて、それを仲間と一緒に楽しむのが彼等の生き方だ。



 そんな妖精の朝は、日の出と同時に動き出す。



「んぴッ!!……んにゅう、あさ~?」


 その中の1匹の妖精が、皆が寝ている中、起き上がってパタパタと飛び始める。今日は彼が『当番』なので、『妖精魔法』で自分の頭に目覚ましの音を仕掛けて寝ていたのだ。


 彼は自分の部屋に置いてある当番用のフライパンとお玉を持って戻って来る。この2つは先代女王がテスタニカに渡した物で、一応由緒正しき物である。


 でなければ、妖精達は絶対に規則正しい生活をしないのだ。それはもう平気で夕方まで寝た挙句、夜更けまで遊び尽くす程に。ただでさえ宴会大好き騒ぐの大好きなのでそのことに無頓着なのだ。


 なので、こうして起こすのである。




「あ~~さ~~だ~~よ~~お~~きて~~~ッ!!」」


カンカンカンカンカンカンカンカンカンッッ!!! 


「「「うわひゃッ!!」」」




 お玉でフライパンをぶっ叩き、全員飛び上がった。ちなみにこれ以外の扱い方を知っているのはアイドリー達を抜いてテスタニカとノルンだけである。


 そのテスタニカもグイっと背伸びすると、妖精達を見ていつものように朝の挨拶をした。場所は玉座ではなく宴会場だが。そこら中に食器が散乱しているので、今から行うのは掃除になる。一同どこから出したのか。箒と塵取り、そしてゴミ袋を取り出して構えた。


 号令はいつも通り。、


「ん~~、おはよう皆。さて、片付け始めるわよ~?」

「「「あいさ~~」」」


 こうして妖精達の1日は始まる……筈だった。







「アイドリ~おはよう~、お~は~よ~う~お~き~て~?」

「アリーナ……後5分」

「だ~め、おきて~ちゅうするの~」

「ん~~……んっ」


 朧気な頭のまま、顔だけ向けて唇を突き出した。そこにアリーナが嬉しそうに顔を近付けて、朝のキスをする。ん~柔らかい感触が口に広がる。満足して口を離そうとしたアリーナを私が抱きしめてもう少し感触を楽しんだ後離すと、少しだけ顔を赤らめたアリーナが頭を擦り付けならがら笑う。


「んっ……んへへ、おはよう~♪」

「うい、おはよ。くあぁ~~」


 私はレーベルのお腹の上で、アリーナのキスと供に目が覚めた。あの後、結局妖精達がクアッドを突破して宴会場に引き摺り込まれていったからねぇ。まさかあのクアッドに、多勢に無勢とは言え勝つとは思わなかったんだけど……。



 その時改めて皆のステータスを見たら…………ほとんどが私のINTを超えていました。あれはある意味コーラスが生まれた以上の驚愕だったよ。


 その時のクアッドの言葉は『私も多少本気で止めたのですが駄目でしたな。ほっほっほ』だった。マジすか……。


「んぅ……」

「アイドリー、コーラス起こそう?」

「おっと、はいはい」


 まだレーベルの『へそ』に顔を突っ込んで寝ているコーラスを抱き起して、2人で魔力を少量流すようにほっぺにキスをすると、パチっとコーラスが眼を覚ました。


「「おはよう、コーラス♪」」

「んふぃ……おはよ、パパ、ママッ!!」


「いつもその起き方なのかお前達は……」


 あら、おはようノルンさん。そうよ、こうしないとコーラスが起きないからね。いや、コーラスが私達がキスしている所を見て、自分もして欲しいとかなりゴネて来てさ。私としては流石に我が子にする訳にもいかないから。じゃあ口には出来ないけど、アリーナと2人で『ほっぺちゅう』でどうだと説得したのよ。


 そしたらそれが朝の日課になっただけだから、何の問題も無いね、うん。


「はぁ……まぁ良い。ちょっとレーベル殿を起こして入口に来てくれないか?問題が発生したんだ」

「問題?」


 この妖精郷に問題が起こるなんて、そう有るとは思えない。ノルンさんの表情もどこかしら焦ってるようだし、一大事かな。よし、なら急がないとね。


 久し振りにあれするか。


「レーベル~、3秒以内に目覚めないと鳩尾に一発行くよー、はい、いーちにーさー」

「数えんの早くないかのうッ!!?って……おい、主よ。何故龍の気配がするのじゃ?」

「え、そういうのが来てるの?」

「やはりレーベル殿なら分かるか。なら話が早い、手助けして頂けるか?」

「無論じゃ。任せよ」


 どうやら来たのは龍らしい。そういえば一部の妖精は龍の傘下で暮らしているってレーベルから聞いた事あったなぁ。もしかして今回はそういう系のお誘いなのかな?なんにせよ行ってみよう。





『だから、我々が守ってやると言っている』

「で、その代わり協力しろって?無理よ。私達がそこまで強くないの知っているでしょう?」

『数が揃えば『妖精魔法』で戦えるであろうが。最強種の申し出に逆らうと言うのか?』

「あら、貴方ぐらいなら私達でも勝てるわよ?後、貴方は下っ端でしょう?最強種とか口にしない方が良いと思うのだけれど?」

『貴様……』


 入口にドンと構えていたのはレーベルの言う通りドラゴンだった。色合いが黒いドラゴンは初めて見るね。えーと種族は……ブラックドラゴン?何属性なの?


 そしてそのドラゴン相手に真っ向から立ち向かっているテスタニカさんの肝の据わり具合が凄い。周囲の妖精は気にする事なく将棋指しているし、私の郷の皆、度胸付き過ぎじゃない?


『なんなのだこの妖精達は……他の郷の者とまるで違うではないか』


 ブラックドラゴンも困惑しているみたいだった。私が元凶です、ごめんなさい……。


 レーベルはブラックドラゴンの姿を見ると、珍しくキリっとした表情になってテスタニカの横に立った。お、魔力も少し身体から出してる。



『何だ貴様は。何故妖精でもない者がここに居る』


「ほう、名を聞くならば自分から名乗るべきだとは思わぬのか?それとも、偉大なお前達の祖先はそんな事すら教えてはくれなんだか」


 レーベルの安い挑発に、そのドラゴンは翼を広げて傲慢に言い放つ。



『……良い度胸だ。ならば脆弱なる者に我が種族を名乗ろうではないか。心して聞き、そして畏怖するが良い。我は誇り高きブラックドラゴン。偉大なる古龍の名の下に、今日この日より、この郷は我等の傘下に入る事を許す。感謝するが良いッ!!』


 その種族名を聞いて、密かに彼女は笑った。やっと見つけた獲物を見つけたかのように。そして感慨深く言う。


「……ほう。ブラックドラゴン、か。それはまた、懐かしい種の名前を聞いたのう。まぁ名無しの貴様が種を誇りとして名乗ったのじゃ。我も応えてやろうではないか」



 レーベルは、己の姿を開放した。本来の姿、レッドドラゴンの『今の大きさ』に。私と出会った時は30m程の大きさだったが、今は違う。ステータスが爆上がりし、途轍もなく成長してしまっているのだ。


 だからなのか、最近レーベルの胸が更に大きくなった気がするよ。



『お……あ……』

『どうしたブラックドラゴンよ。名乗ってやると言うのだ。もっと堂々と聞け』


 そして、世界樹を丸々覆い尽くす程大きな羽を広げて、レーベルはいつもの口上を述べるのだ。




『我が名は猛火烈風のレーベル、始祖古龍の子にして四大竜の一柱、そして妖精の友なりッ!!!』



 


 ブラックドラゴンは、自分を見下ろす遥か格上の龍が言った言葉に驚愕していた。その堂々たる姿、迸る魔力、そして龍としての『格』が否が応でもそれが事実であると叩き付けられて困惑する。


(馬鹿な……何故四大竜がこんな場所に!しかも、なんだこの大きさはッ!!?)


 レーベルの今の体長は世界樹にも届く程なのだ。ブラックドラゴンの大きさは15mぐらいしか無い。体格的にも圧倒的である。彼等の親玉ですら、到底この大きさにはなれない。



「レーベル、何か萎縮しちゃって何も喋られないっぽいよ?威圧止めてあげたら?」

『む?おぉ、すまぬ。昔の感覚でやってしまったのでな』


 今にも潰れそうな程の威圧感の中をふよふよ飛んできたアイドリーにそう言われて、レーベルは素直に人型に戻った。それもまた彼にとっては信じられない光景である。誇り高き龍の、それも最高峰の力を持つ古龍が妖精の言葉に従っているのだから。


 その事実を目の当たりにして、ブラックドラゴンはやっと口が動いた。警戒と確認の意志を言葉に乗せて。


『……古龍とは知らず失礼をした、レーベル殿……この場所は貴殿のテリトリーであったのか?』


「いや、昨日初めて来たのじゃ。そしてテリトリーにする気など無い。我はこやつの従魔なのでな」

「こらー、そう言うなら頭を摘まんで持ち上げるんじゃないよ」



 レーベルはアイドリーの頭を摘まんで、頭にぽいっと投げる。そこにアリーナとコーラスがダイブし、甘い空気が頭の上で展開され始めた。何もされていないが、レーベルの頭の中がどんどん和やかになっていく。


 反対にブラックドラゴンは黒い鱗に覆われた顔を真っ赤にする程激怒する。格の差など関係無く、ただドラゴンとしての誇りを侮辱されたかのように怒る。


『……古龍が、妖精の……従魔、だと?馬鹿な……ふざけるな貴様ッ!!誇り高き龍がたかが妖精に従うなど、恥を知れッ!!!』

「ほう、そう思うか。言っておくが、我は我に勝った者にしか従わぬぞ。それがレッドドラゴンの生き方じゃからな」

『ならば、貴様はその妖精に負けたと言うのかッ!!!』

「その通りじゃな。完膚無きまでに負けておる」

『虚言を言うなッ!!!』



 当たり前だが、まったく信じる気配は無かった。本来彼等にとって妖精という種は少し変わった魔法が使える羽虫程度の存在なのだ。


 そんな矮小な存在に古龍が負けるなどという事実を受け入れられる者は居ない。


「我の事など、今はどうでも良いではないか。で、お主は此処を傘下に加える為に来たんじゃろう?一体誰の命令じゃ」

『ふん、妖精以下の雑魚に答える口など持たぬわッ!!』

「……ほう?」


 人型の状態からまた魔力が迸り、濃密な威圧感となってブラックドラゴンを襲う。そのままレーベルが不敵な笑みを浮かべながら言う。


「まぁいい。貴様等の頭が誰かなど聞くまでも無いからのう。今は見逃してやるから、帰って奴に伝えるが良い。『今度は逃がさぬ』とな……」

『……ちっ』



 ブラックドラゴンは嫌な汗を流しながらさっさと飛び上がって去った……



 結局あれはなんの用だったの?とテスタニカさんに聞いてみたところ、あのブラックドラゴンは各地の妖精や『亜人』の集落を回って片っ端から傘下に引き込んでいるらしい。

 

 あの、亜人なんて居たの?初耳なんだけど……


「それで、その代わりに人間と戦うから力を貸せなんて言うのよ。妖精の存在全否定ですかって感じよまったく」

「人間とって……レーベル何か知ってるんでしょう?」

「無論じゃよ。ちゃ~んと教えてやるから急ぐでない。まぁまずは……」

「まずは?」

「朝飯じゃ」

「「ごは~ん♪」」


 ……そうしよっか。

「今日のご飯は枝10本削って混ぜて~葉っぱを半分切って入れましょうか。アイドリー、適当なお肉おねが~い」

「はいよ~~」

「……ママ、枝って食べられるの?」

「美味しいよ?」

「我は蜜を所望するのじゃが」

「というより、あの調理法の法則がなんなのかとても気になるのですが私。是非教えて貰いたいですな」

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