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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第十章 里帰りと龍騒動
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第153話 いつも通りに いつもの様に

「パパとママ可愛い~♪」

「2人も可愛いよ。いやぁ、素晴らしいな」


 私を見て皆思い出したのか。妖精達総出で舞台を作ってくれて私達の名前を連呼していた。熱狂的だったので早速親子3人でアイドルグループを結成してみた。


 私とアリーナは武闘会の時に来ていた衣装を、コーラスにはオニュ―の物を本人の意見を取り入れながらプレゼントする。クアッドはそのままタキシードを着てきた。妖精でその姿になるの新鮮だね。


 で、コンセプトはロックで行こうと思うので、ギターは私、ベースはアリーナに持たせる。クアッドにはドラムを作って貰った。我が子がヴォーカルなのは親心だ。強いて言うなら娘の歌声が聴きたいんす。


 今回の楽器は妖精達の密集具合が半端無いので、まったく負担無く作り出せた。妖精達に関してはサイリウム持参である。


「パパ、ママ、何歌えば良いの~?」

「自由で!」

「心の赴くままに歌って良いよ。『同調』で合わせるし、クアッドなら素で合うから」

「ええ、お任せ下さい」

「わかったッ!!」


 流石私の娘だ。こんなあやふやな説明に納得してくれたよ。まぁ妖精ってノリの時は感覚で生きているようなものだしね。


 よーしパパ、久しぶりにハッスルしちゃうぞー







「み~~んな~~~ひっさしぶり~~~~~ッ!!♪」

「「「キターーーーーーーッ!!!」」」


 スポットライトに照らされている中、アイドリーが肩に掛けているギターを搔き鳴らしながら、宝石よりも価値ある笑顔で仲間達の前に躍り出る。久し振りのコンサートに、観客達は熱を上げてサイリウムをブンブン振る。

 その光景を見てアイドリーは両手で手を振り返すと、更に場が熱くなっていくのを感じた。


「さぁ、難しい話なんてぜ~んぶぶっ飛ばして、まずはメンバー紹介だぁッ!!まずはこの私、皆のハッピーアイドルロッカー、アイドリー~~~~~ッ!!!ヴォ~~イッ!!!」


「「「yhoooooooooooooooooo!!!!」」」


 どうやって電源を持って来て響かせているのか分からないエレキギターをジャカジャカ鳴らすアイドリー。


 ガチャンっとという音と供にステージ下から登場するは、ドラムに囲まれたダンディ紳士クアッド。


「へい、次はダンジョンの中からこんにちはッ!!お菓子も料理もお任せあれ、頼れるおじいちゃん妖精、クアッドだぁぁーーーーーッ!!!」

「ほっほっほ、皆さんよろしくですぞ」


 凄まじい速さで叩き、ギターと合わせるようにして聴き慣れない音を妖精達に届ける。非常にリズム感ある音に、何人かが遂に首を振り始めた。


「続きまして3人目ッ!!この前私の嫁になりましたッ!!!光る笑顔は百万馬力、アリーナをよろしくーーーーッッ!!!!」

「みんな~久しぶり~~♪」


 腹の奥に響くようなベースを奏でながら着地したアリーナが、更に合わせて3人の音となる。違う種類の音が重なり、会場の空気を震わせていく。



 そして、バンっと周囲が暗くなると、ある1点。ステージの真ん中にスポットライトが当たった。


 そこにはいつの間にか、最後のメンバーが登場、皆よりも身長が半分程の小さな妖精。


 少女はパッと顔を上げ、色っぽく笑って魅せる。



「こんにちは皆さん、私の名前はコーラス。パパとママの娘なのッ!!今日はいっぱいいっぱい楽しんでってね?……皆の為に、心を込めて歌うからッ!!!」


 アイドリーが指を鳴らすと、3人の前にスタンド付きのマイクが現れる。そして、



 3人は同時に、息を合わせて歌い出した………






 テスタニカとノルンは、世界樹の上からその光景を座って見ていた。今アイドリー達は歌っているのは、『恋』や『愛』を超えた『何か』を表現するような歌だった。勿論、それは今現在も経験している彼女達にしか分からないことだ。


 それでも心にしっかり響いて来る。これがそうなのだと思わせてくる。そんな情熱的で蜜よりも甘い歌。


「親子、か。妖精には無いと思っていた概念だったんだがな。ああして見れば、とてもそうは思えない」

「けど、ちゃんと絆で繋がってると思わない?2人のコーラスを見る顔を見なさいよ?きっと、あれが『親』の顔ってやつなのよ」

「そういうものか……はぁ、やっぱり私達も旅に出るべきだったかなぁ」


 あれは、ノルンが欲しかったものだった。テスタニカに対して、ノルンは親愛以上の表現を知らない。人間と接してこなかった妖精の限界とも言える壁。それに阻まれているから。

 しかし、テスタニカはそうは思わない。


「言っても始まらないし、私はこれで良かったと思うわ」

「なぜだ?」

「ノルンと、これからも親友でいられるもの……形は1つじゃない。先代様も言っていたじゃない?何が偽物だったとしても、本物に勝らない訳が無いって」

「……そうだな。確かに私達のこの想いは間違いじゃない筈だしな」

「ええ、そうよ……大好きな気持ちなら皆一緒だもの♪」


 100年求めた物は、たった1年でアイドリー達が見つけて、自分達に見せてくれたのだから、もう彼女達は十分に満足した。あれも正解の1つだと、今なら分かるのだから。





「まだまだいくよ~♪」


 コーラスはまだまだ元気に歌っていた。というか、加速度的に輝きが増していくなぁ。動きも良くなるし、余裕が出て来たのか『妖精魔法』を使って空中に様々な色の光を放つ粒子を放ち始めていた。


 そこにクアッドがドラムのリズムで光るタイミングを合わせていき、私がそれで模様にしたり、生物のように動かしたりしている。


 コーラスの歌い方は、最初こそ子供らしいものだったが、今は一人前のロックシンガーになっていた。私達がハモる時に、声を真似し始めたんだけど、元々幼い声だから、『妖精魔法』で少し加工したんだね。後で世界樹の蜜ジュースをあげないと。



『コーラス、アリーナ、そろそろラストにするよ~』

『『りょすッ!!』』


 最後は、ガルアニアでアリーナが歌った時の曲、妖精達がいつも口ずさむ語り継がれた歌のロックバージョンだ。それが妖精達も分かったのか、大勢での大合唱になっていく。


 そしてフィニッシュすると同時に、全ての光は霧散する。



「「「みんな、ありがと~~~~ッ!!!♪」」」






「あー歌ったぁ……」

「お疲れ様アイドリー、今日もキレッキレだったわね」

「いつもより激しいのやったからねぇ。私の娘が予想以上にパワフルだったし」

「あはは、確かに」


 只今宴会と化した会場内では、コーラスが世界樹の蜜ジュースを飲みながら色んなグループに突っ込んでどんどん友達を作っていた。コーラスは友達になった妖精と必ずほっぺちゅうをしているからか、皆顔が赤くなっていた。いや、多分蜜酒が原因だねあれは。


 にしても、やっぱり妖精だらけの妖精郷って凄い安心感がある。なんせ難しいことは何も考えなくて良い。あるがまま、感じるがままにノリだけで動いても誰も驚いたりはしないし、悪意を持たなければ即座に皆懐くし。


「アイドリ~ちゅ~しよ~♪」

「んー、いいよ。おいで……」

「ん……♪」


 それに、周りの眼を気にすることなくアリーナとイチャイチャ出来るのだ。人前だと女同士という形になってしまうので奇異に見られてしまうからね。アリーナもそれは嫌らしく、妖精になった時だけにしよう、ということになった。


 いや、朝と夜の挨拶の時にもするんだけどね。


「……」

「うん、羨ましいのは分かるけど首根っこ掴んで阻止するのはどうなのかなレーベルさんや?」

「我もしたいのじゃ」

「直球だねこの駄ドラゴン。そんな貴方に悲報です」

「レーベルはお母さんだよ?」

「…………しくじったぁぁ~~……」

「そこまで悔しがるか」


 極め過ぎじゃない?いや、私の方が想いの深さと強さでは全然負けないけどさ。いや、多分アリーナだってレーベルのことは結構本気で好きだとは思うよ?ただそれが家族愛なだけで。しかも自覚持ち始めたから余計にね。


 おっと、待ちきれなくなったのかアリーナの顔が急速に近付いてきた。


「んむ」

「んー♪」

「ほんっと仲良いわね貴方達……」


「あ、パパとママがちゅーしてるッ!!」

「「「マジカッ!!」」」

「全員振り向くんだッ!?」


 酔ったべべれけ妖精達とコーラスが怪しい笑みを浮かべ、キス顔しながらこっちに突っ込んで来たので、私達は咄嗟に飛んでそれを避けた。


「おぉおぉおぉお~~~むぐぉッ!?!?」


 変わりにレーベルに突っ込みあっという間に覆われて行った。というか全員から至る処にキスの嵐を受けた。うわぁ、超吸われてる。


 ちゅぽん、っという音を立てて離れていくと、後に残ったのは唇の跡だらけになったレーベルがダブルピースしそうな程恍惚な顔になっていた。控えめに言ってドン引きである。


「パパ~~ッ!!」

「おぉっと来たねコーラス。どうせだし、3人でちょっくら世界樹の天辺にでも行ってみる?」

「おぉ、行く~♪」

「アイドリー嬢、私が囮となりましょう」

「ありがとうクアッドッ!借り1つにしとくよッ!!」


 誰よりも早く私達に追いついたコーラスと一緒に、クアッドを囮にして私達は逃げ切ることが出来た。







 世界樹で一番高い場所に腰を下ろすと、そこから夜空を見上げる。大空洞の下からだけど、風に揺れる木々の囁きが耳に心地良い。星々は今日も月に負けないぐらい見えるしね。


「~~♪」

「~♪」


 アリーナはコーラスを膝に乗せて、2人で口笛を吹いていた。コーラスが微妙に掠れてるのが可愛くて笑ってしまった。


 色々あったなぁ……過去って言える程まだそこまで長く生きてないけど、旅に出てから一気に色んな事をやっていて、改めて思う。


 

 私、好きに生きてるなぁ~って。


 

 そりゃあね。テスタニカさんに怒られる程あらゆる問題事に首を突っ込んだりしていたけど、私は私を貫けていたと思う。人間でも、妖精でも、私らしく生きてこれた。


 そう思うと、この世界に来れた事は私にとって幸運だった。あっちは……あの世界は未来も希望も無く、ただただ地獄だけが蔓延ってたからなぁ。


 私はその中でもマシな方だったけど、最後には捕まってあの結末だったしね。


「……」

「うや?アイドリー?」

「パパ?」

「なんでもないけど……こうしてて良い?」

「「いいよー♪」」

「……じゃあ有難く」


 思い出してちょっと怖くなったので、私は2人を抱きしめた。2人にも抱きしめ返され、心がポカポカしてくる。あー……泣ける程嬉しくなる。


 これも、この世界に生まれて来なかったら絶対に得られない『想い』だから。


(これからも、こうして生きられたら良いなぁ……)


 そう切に願い、私はアリーナとコーラスの温もりを感じていた。

「レーベル殿。大丈夫ですかな?」

「くあっろ~~われはもうらめじゃ~~~♪」

「……おやおや」

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