第152話 帰郷
「じゃあフォルナ、大体2週間ぐらいで帰るから、その間お願いね?」
「ラダリアのことは気にせず、ゆっくりしてきても良いんだよ?ラダリアはもう大体大丈夫だし」
「まだ依頼は完遂してないからそうもいかないよ。最低でも国際会議が終わるまでは拠点にさせて貰うし」
「む~……非公式のなのに」
「友達の為だからね」
「じゃあ尻尾触るのは?」
「それはスキンシップかな?」
「……えっち」
こらこら、誤解を与えるような事言うんじゃないよ。見なさい、レーベルが私の頭を掴んでミキミキと音をたてさせているじゃないか。すっげぇ痛いわ。
「まったく、出発前にセクハラする阿呆が居るか主よ」
「馬鹿め、私程であれば一国の王ですらセクハラ対象よ」
「妖精が頭潰れても生きれられるか試してみるか主よ?後誰が馬鹿者じゃ」
「サーセンデシタいたたたたッ!!」
幾ら自分が触りたいからってその嫉妬はアイドリーさんはいけないと思う。ということで一列に並び、各自1分間のモフりタイムを設けた。フォルナさんが尻尾スタンバイしていたから多分合法だ。
レーベルがシンプルに、アリーナとコーラスが何故かケモミミの甘噛み、クアッドはじっくり丁寧に、私は妖精状態でダイブ。
「い、いっひぇらっはい……」
「うん、行って来ますッ!!」
皆の顔は晴れ晴れとしていた。
ラダリアから大空洞までは、レブナントボードによる移動にした。単に乗りたかったてのもあるけど、レーベルがコーラスを頭に乗っけたかったらしい。まぁ旅に使ってみたかったから丁度良かったよ。
さて、国を出て早速乗ったんだけど、此処からだと大空洞まで歩いてなら2日程の距離になる。大空洞は森の奥の奥にある場所だからね。あの森はラダリアの人も入るけど、奥に進むと凶悪な魔物のオンパレードだから、レーベルの住んでいた古龍の巣と遜色ないぐらいには危険らしい。
といっても、私達は空を飛んで行くので危険なのは実質空を飛ぶ魔物だけである。まぁドラゴンとかも探さない限りはそこまで出没しないしね。
レブナントボードのスピードは、現在ゴーレム馬の3倍。これなら半日以内で済みそうだ。
大空洞の真上まで来ると、コーラスがレーベルの頭の上ではしゃぎ始めた。クアッドも何も言わないが、楽しそうな雰囲気は醸し出しているね。
「わぁ~~~♪レーベルおばあちゃん、凄いよッ!!」
「お~此処が主とアリーナの故郷がある場所か。大空洞というか、広大な土地が陥没した感じなんじゃな」
「それもありますが、何よりも感じるのですよ」
「妖精の存在?」
「ええ……」
どうやら、大量の妖精の存在を此処からでもクアッドとコーラスは感じていたようだ。私も淡くだけど、確かに存在を感じていた。
なんだろう、旅に出る時はこんなこと無かったんだけどなぁ。
「アイドリー、アイドリーッ!」
「うん、早く行こう」
アリーナもそうみたいで、私も自然と気が急いでしまった。大空洞に降りて草原をしばらく飛ぶと、高い森が見えて来たのでその前で降りた。ここからは歩いて行かければならない。
実は問題が1つあったんだよね。ラダリア出た時に、アリーナが妖精郷の場所を忘れてたから、『妖精魔法』を使って探すつもりだったんだよ。けど森の前まで来ると、もう感覚だけでどこが入口か感じる。うわ、なんだろう、凄い興奮してきた。
「珍しくソワソワしとるのう主よ」
「う、うん。妖精の本能がとっとと飛び込んで行けと叫んでいるみたい」
「我も古龍の巣に帰る時はそんな感じになるからのう、気持ちは分かる」
どんな種族でも、そういう集落を作る者にはそういうものがあるらしい。同族の気配って離れてからだと余計強く感じるものらしい。似た魔力が大量に集まっているとそこに本能が引き寄せられるんだとか。
「あ、アイドリー、ここだよッ!」
「ほんとだ、パパ、何かあるよッ!」
「うん、私も感じるよ」
手を入れてみると、そこから波紋が広がっていくように腕が消えて行く。間違い無い、ここだ。
ということで、その前で私はテスタニカさんに通信を試みた。
『……(プツッ)はいはーい、テスタニカよ。アイドリーかしら?』
「うん、今何してるかな~って」
『なによ、珍しいこともあるのね。もしかして寂しくなったの?帰って来るのはいつでも構わないから無理しないでね?』
うわぁ、凄い優しいよテスタニカさん。なんだろう、嬉しいというか照れるというか……お母さんみたいだなぁ。お母さんそういうの言われる前に亡くなられたけどねぇ、はぁ。
「……パパ?」
「アイドリー……?」
おっと、コーラスが鼻に、アリーナに背中に引っ付かれた。ああ、うん、ちょっと気分が暗くなったのを察しられたようだ。『同調』で随時繋いでいるからか、気持ちが伝わってしまうみたいだ。ありがとう……
「大丈夫、そういうのじゃないんだよ。それに、もう帰って来てたりするんだよね」
『えっ?嘘?ちょちょ、宴会の準備が』
「残念、もう結界前さ」
ズルンと全員で結界内に突入すると、そこには約一年振りの懐かしい景色があった。
「「「……」」」
一斉に、その場に居た数多の妖精達が振り返った。あ、ヤバい、妖精になるの忘れてた。泣かれるか逃げられるかもしれな―――――――
「「「アイドリーッ!!!アリーナッ!!!!」」」
「わぷッ!」
「みんなーーッ!」
大量の妖精に抱き着かれてそのまま倒れた。アリーナも同じく倒れて、身体が見えなくなる程群がられる。うお~凄い勢いで身体を頬摺りされているのが分かる。全身で愛されている感覚を感じるって泣けるぐらい幸せになるよ。
「おじちゃんようせい~?」
「おなかま~?」
「ええ、そうです。皆様初めまして」
「「「なかま~♪」」」
「おやおや、はは、嬉しいですなぁ」
「あなたも~?」
「う、うんッ!」
「どうあげだ~」
「わっしょいだ~」
「わぁッ!?」
「あなたは~?」
「わ、我は「ドラゴンさんだよ~」主よッ!?」
「ドラゴン!?」
「へんしん、へんしんしてッ!!」
「うぬぅッ!?」
おぅ、各自同じように群がられていくね。色んな所引っ張られながら起き上がると、目の前にまたまた見知った顔があった。
「やっほーノルンさん。久し振り」
「ああ、久しぶりだなアイドリー。色々連れて帰って来たようで驚いたぞ?」
「大丈夫、人間は居ないから」
「まぁ、確かにその通りだな」
久しぶりに会ったノルンさんは変わらず騎士の格好をして私達を出迎えてくれた。うわー、妖精になって抱き着きたいけど、今妖精になったら本当に埋まるからなぁ。
『主よー、助けてくれ~い』
レーベルが多少小さいレッドドラゴンになって全ての妖精達に集られていた。申し訳ないけど、もう少しそのままで居てね。あーやっと抜け出せた。私達は妖精になって改めてノルンさんの前に立つ。
「それで?そちらの2匹は新しい妖精か?どっちも微妙に通常の妖精とは違うように見えるが」
「まぁまぁ。それよりテスタニカさんは?」
「彼女は王座で今全力でめかし込んでいる最中だ。だから少し待て」
「ん、了解だよ」
どうやら相当女王っぽい感じになっていないらしい。しょうがない、皆で集られているレーベルでも見ながら時間潰すかなぁ。ああ、髭くすぐられてくしゃみしたね。
妖精達が一頻り満足すると、わらわらと広場に用意されていた椅子に座り、それぞれが『将棋』を始めてしまった。
…………流行ってるッ!?!?
「久し振りねアイドリー。元気にしていたかしら?」
「……久しぶりだね、テスタニカさん」
王座の間に入ると、フル装備のテスタニカさんが出迎えてくれた。コルセットもしっかり着用しているのか、胸部装甲が今にも零れそうなんだけど。え?揉みしだいて欲しいの?
けど、私が手をワキワキさせようとする前に、クアッドは見事に空気を読んで片膝を付いた。
「お初にお目に掛かります。私はクアッド・セルベリカ。アマルティスという妖精種の者です。以後お見知り置きを、陛下」
「ええ、よろしくねクアッド。ところで貴方、ここで執事しない?」
「ズルいぞテスタニカッ!彼は私の秘書にしたいッ!!」
「あら、騎士は王の命令は聞くものじゃない?」
「むぅ~~クアッドよ。給料は毎日世界樹の蜜1瓶分でどうだッ!!」
「いえ、こちらは2瓶よッ!!」
「競り合うなっての」
「「へぶあッ!!」」
幾ら2人のごっこ遊びに完璧な対応が出来るクアッドでもあげることは出来ないよ。クアッドは『妖精の宴』のメンバーだからね。ほらほら、そんな恨めしい顔するんじゃないよ。
「あ、あのっ、そのっ」
「いたた、ああ、貴方が聞いてた子ね……確かにステータスは見えないのね」
「本当に2人の子なのだな。それぞれの特徴をちゃんと受け継いでいるようだし」
「ふぇあ?ふぁふぁ~」
いや、何で確かめる為にほっぺ引っ張ってるのよ。餅みたいに伸びてるから止めなさい。あ、アリーナがコーラスを引っこ抜いて抱きしめた。ほっぺ膨らませて怒ってるね。
あれ。、アリーナが怒ったところ見るの初めてじゃない?いや、私とレーベルが先か。
「ママ~、ヒリヒリしゅる~~」
「テスタニカ、ノルン、めッ!」
「「ごめんなさい」」
ちょっとした交流を終えると。私達は胡坐を掻いたレーベルの足に座った。レーベルは玉座の間には入れないからしょうがないね。というかレーベルどこに寝かせ……レッドドラゴンになってれば問題無いか。
私はテスタニカさんに帰郷の目的を話した。といっても、特に深い理由は無い。
「コーラスとクアッドに、私達の故郷を見せてあげたかったんだよ。クアッドはずっと1人で生きて来た妖精だし、コーラスは私達しか妖精を知らなかったから。こう、一般的な妖精達がどんなものか知って欲しかったんだ」
「古龍さんは?」
テスタニカがぺしぺし叩くと、レーベルが暫し上を向いてポリポリと鼻を掻く。何か考えてる顔だね。威厳あるキリっとした顔になって
「……世界樹の料理を食べれれば我はそれで構わぬぞ、女王よ」
「お酒は?」
「欲しいのじゃッ!!」
あぁ……せっかく取り繕ったのに、簡単に化けの皮が剥がれた。やっぱりかと皆がクスクス笑っているのを見て、レーベルが照れ臭そうな顔になってしまう。
「沢山あるから、好きなだけ飲んでいってね?」
「む……感謝する………むぅ?主よ。下で何か騒いでおるぞ」
「え?……あ」
下を覗いてみると、そこには彼等のノリが暴走している光景が見えていた。
「パパ、ママ、今から何が始まるの~?」
「宴だよッ!!」
「ライブもかなぁ。よし、可愛い衣装を準備しよう」
「「やったー!!♪」」




