第149話 新たな妖精に祝福の名を
おはよう、無事アリーナと親友以上の何かになった本体アイドリーだよ。私達の関係が分身の方にも伝わったみたいで、現在学園ではこれ以上無い程私達が甘々な空気を周囲に振り撒いているらしい。まぁそのまま及川君達と一緒に毎日ダブルデートでもしていれば良いんじゃないかな?
それよりこっちは、違う問題が生まれていた。
「……スー……ピー……♪」
場所はラダリアの城内で、今私の頭の上には一匹の『妖精』が寝ていた。それはアリーナでもクアッドでもない妖精、新たな妖精だった。
誰かって?…………私にも分からないんだよね。だって、ねぇ?
始まりは、私とアリーナがもう一度キスした時に遡る。
「えっ!?、何が起こってるの!?」
「ふぇ~?」
キスした瞬間に、私達の身体が強く輝き始めたのだ。しかも、この輝きは魔力によるものじゃない。何かこう、『生命力』みたいな物を感じた。
それがお互いの身体から凄い勢いで放出され、混ざり合い、私達の間で凝縮していく。強い倦怠感に襲われたけど、何とか意識を強く持ってそれを眺めていた。
その内、それは段々と小さな人型の姿を取り始め、身体の輪郭が出て来たのだ。
そして完全に姿を現したそれを、私達は見た。
「「……妖精?」」
その姿は、見紛うことなく妖精だった。風貌は水色とピンクのグラデーションの髪が特徴的で、フリルのカチューシャを付けており、後ろ髪がポニーテールになっている。
そして顔の感じはアリーナだけど、目元は私に似ていた。そして頭から飛び出たアホ毛は、2人の特徴を合わせたような形になってミョインミョインだ。薄っすら開いている瞳の色は、中心が群青色で、その周囲が虹色ように見えた。
なんだこれ……これじゃあまるで、『私達の子供』みたいじゃないか。
「……んぁ?」
「うっ……え、っと」
「……パパ?」
「はいぃッ!?」
こちらに少しだけ目を向けてそんなことを言った妖精。何て言ったのッ!?今私のことパパって言ったッ!?
「パパ……?」
アリーナも聞き慣れない言葉だから首を傾げてしまっている。けど、妖精は更に衝撃の発言をしてしまったのだ。
「……ママ」
「わたしのこと~?」
「ん~……」
「え、っちょ」
「……すぴー」
「寝ちゃうのッ!?全部放置しちゃうのッ!?」
アリーナを見てそう言いながら、私の膝に着地すると。そのまま寝息を立て寝てしまったのだ。いや、え?ごめんごめん。全然事態が分からないよ。これ何が起こったの?考えてもまったく答えは出て来ないんだけど。
「……とりあえず、ラダリアに帰ろうか?」
「う、うん。この子、なんだろう~?」
「推測は出来るけど、経験は無いからなぁ……私にも分からないや」
っということで持ち帰って来たんだけど、いきなり私はレーベルに正座させられました。わーい、凄まじい熱気で暖かいぞ~♪むしろ熱くて溶けそうだ~~♪
……あの、蛆虫を見るような眼で見るの止めない?
「さて……言い分を聞こうか主よ」
「待って。ただ私達はキスし合っていただけで」
「それも問題じゃ。むしろ我としてはそっちがメインじゃが、今は置いておく。アリーナがとても幸せそうな顔であの妖精を世話しているのでな」
「あ、はい……」
ラダリアの城内だけど、下はやっぱり石だから痛いなぁ。アリーナは布団の上で妖精になって生まれたばかり?の妖精を膝枕して撫でていた。
完全に母親の顔しながら。
その光景を見て一拍置き、そして再開される。
「で、一体どんな不埒な方法でアリーナを孕ませて生ませたのじゃ主よ。返答によってはお別れしてもらうぞ」
「何とッ!?」
「どこが良いのじゃ?」
「選べちゃうんだッ!?待ってレーベルッ!!アリーナに誓って私はそんな傷つけるような行為は一切していないよッ!!ただ想いを確かめ合ってより深い関係になっただけだよッ!!」
「赤裸々なのは良いが、我の前で惚気るとはのう。ブチコロされたいようじゃな主よ」
「わーい、理不尽ッ!!」
「レーベル、アイドリー、しっ!!」
そこにアリーナの鶴の一声が入った。妖精が少しグズッていたので、頑張ってあやしていたようだ。何でか分からないけど、いつもの数倍幸せな気持ちになる。その光景そのものが何より愛おしく感じた。
「……」
んー、レーベルがフリーズしたね。助かった?いや、執行時間が伸びただけか。起こしてちゃんと説明しないとね。
一通りの説明をすると、レーベルはアリーナ達を見ながら自分の考えを述べた。
「なるほどのう……妖精が恋らしき物を、か。アリーナは確かに通常の妖精よりも考えが深いからのう、人と接して経験していくことで、そういうのも芽生えたのではないか?」
「けど、私達は人間じゃないんだよ?」
「主も自分で言っておったろうが。似たような何か、じゃよ。人間の『恋』を見て、人間に似た思考を持ったのじゃろう。主は元々そんな感じじゃったが、アリーナもそうなっただけの話。そして、人間の『恋』を知ったのは……」
「アリーナが初めてか……なるほどね」
妖精は、遥か昔に人と別れてしまった。だから昔の妖精がどんな生き方をしていたかは誰も知らない。そして、妖精は自然に近い存在、半精神体とも呼べる存在だ。
つまり、精神構造が身体に引っ張られる事が無い。だから如何様にも変える事が出来る。身近に居た存在の影響を受け易く、それが自分が普段から感じている感情に近いなら尚更だ。
それがアリーナを変化させたのだろう、と結論に至った。
なら、私とアリーナは『人間性』を持った『妖精』ということになる。テスタニカさんやノルンさんの『ごっこ』とは違う本物だから、身体構造も変化して。
けど『人間』じゃないから、『妖精』として生きる事しか出来ないから。
「いや、だからって強引過ぎない?いきなり過程吹っ飛ばし過ぎじゃない?」
「それはほれ、主のノリじゃろ?」
「流石の私も予想外だよッ!!」
うー……どうしよう、子持ちになってしまうとは思わなかった。いや、嬉しいんだよ。超幸せな気持ちが溢れて止まらないんだよぉ~……けど、どうすれば良いのか分からないんだよ~~。
「アイドリー、来て~?」
「う、うん」
アリーナに呼ばれて、私達が生んだ子を一緒に見た。見れば見る程似ている。その子に指を近づけてみると、パシっと掴まれてしまった。赤ちゃんっぽいなぁ行動が。
「名前決めよ~?」
「……そだね。良い名前を付けてあげないとね?」
「うんッ!」
うん、なんだかんだ理由を考えたけど、まずは可愛い我が子に名前をあげよう。大丈夫、アリーナの子でもあるというなら、愛せない筈が無いからね。初めての経験だけど、きっと大丈夫。心を込めてノリと勢いで育ててみせるよ。
この世界に生まれた事を、祝福をもって出迎える為に……
その3人の様子を見ながら、ラダリア国王のフォルナと妖精クアッドはチェスをしていた。何だか入ってはいけない雰囲気だったので、こうして話が終わるまで待機していたのだが、
「クアッドさん、一万年前には居なかったのかな?そういう妖精って」
「残念ですが、私にもなんとも……言えることは、私もまた精神を人に引っ張られた存在だと言えますな。この姿が何よりの証拠」
クアッドは、自分の胸に手を当ててそれを表現する。彼は精神構造が限りなく人に近い。それは、彼等を100世紀以上見続けた結果とも言える。当然、その感情も理解は出来ていた。
ただし、知りたいという知的好奇心のみの行動なので、実際に体験するという事は出来なかった。テスタニカ達と同じ、『ごっこ』に近いのだ。
「まぁ、御2人の子供も妖精ですからなぁ。どのような子なのかは分かりませんが、子供ならば親の特徴を受け継いでいるのではないですかな?姿形もさることながら、その精神も」
「アイドリーとアリーナの精神が合体したってこと?……ぜ、全然想像付かないや」
なにせノリで生き、やりたいことは迷わずやるアイドリーと、天真爛漫で、愛を振り撒くアリーナの精神構造をフォルナは獣人側からの観点で完全に理解することは不可能だった。
その2人の精神構造が合体した子供が、一体どんな性格になるのかまるで想像出来ないのは仕方が無かった。
「フォルナー、クアッドー、2人も名前考えてくれないかな?」
「おお、御指名されましたな。行きますか?」
「うん、そうしよっか」
本当に突然の事態だったが、結局2人は『妖精だから』『アイドリーとアリーナだから』を暗黙の了解として認識し、いつも通りに過ごすのみだった。
「はい、1回目の発表いくよー。せーのっ」
アイドリー 「イリスティア」
アリーナ 「アドリアナ」
レーベル 「ベルーナ」
クアッド 「イシュアタール・セルベリカ」
フォルナ 「フォッシル」
「レーベルが自分の願望入ってるのと、クアッドが自分の子供にしようと画策してるのが意外だった」
「なんじゃ、文句あるかッ!!」
「ほっほっほ」