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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第二章 冒険者になってみた
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第17話 初めての貴族

(おぉ~~~♪)

(ザ・豪邸ってやつだねぇ……まるで中世の屋敷そのまんまだ)


 バヌアの案内で貴族が住んでいるという屋敷にやって来た訳だけれど。栄えている街だからこそか、やっぱり貴族の館というのは豪邸だね。こういう場所に一度は観光で行ってみたいと思っていたので、内心少しワクワクしていた。


 門の前には番兵が三人。二人は槍を持って左右に別れ、一人は二人と世間話をしている様だった。バヌアが近付くと即座に警戒態勢に入る辺り、きちんと心得はあるみたい。うん、立派な甲冑と相まってカッコイイね。


「カナーリヤのギルド長、バヌアです。アステル伯爵様にお取次ぎ願えますか?」

「わかりました。中でお待ち下さい」


 番兵に通され中に入ると、今度は綺麗な花畑が目に入った。よく見ると、全て色の違う薔薇で均一に柄が揃えられている。おー優雅って感じがするよ。


「ここの奥様の趣味らしいよ? 貴族特有の趣味だけど、僕は良いものだと思う」

「それは同意するよ。花は愛でるべき」


 そのままメイドさんに屋敷内に通される。どこもかしこも高そうな物が置いてあるし、天井たっかいなぁ……。客間でさえ調度品で溢れてるし。タンス一つでも金貨何枚するんだろうってくらい金ピカな細工が施されている。


 ちょっと前にパッドさんの家を見てあれも十分立派で広いと思ってたけれど、やっぱりお金持ちさんやら権力者さんの持つ家は比較にならないんだろうね。それが”必要”とされている社会体系だからだろうからしょうがないんだけど。


「緊張してるのかい?」

「そりゃあね。こういうところは初めてだし」


 アリーナだってさっきから興味深々で奇声を発しながら部屋を見渡してるよ。あんまり高そうな物に触って割らないようにね……直せるけど心臓に悪いから。


(イタズラは妖精のおはな~?)

(おっと、悪い子ちゃんだ~れだ?)

(は~い♪)

(元気が宜しい様で……)



 数分バヌアとくだらないやり取りをしていると、貴族の人がメイドを従えて入ってきた。髭の似合うフサフサ金髪のおじさんだね。


「待たせたな。それで、見つけたのか?」

「ええ、彼女ならば問題ありません」

「……ふむ。娘、名を聞こう」

「アイドリーです」

「うむ。私はこのカナーリヤの領主、アステル・ベイーテロ伯爵だ」


 見た目は頑固さんかなって思うぐらい凛々しい顔をしたおじさん。だけど声の端々から人に対する正直さが分かるほど、その人の声は誠実そうだった。


 簡単な自己紹介の後詳しい依頼内容について聞くと、事態と全容が明らかになる。


「やって貰いたいことは1つ、我が娘メルキオラの為に、私の代わりに騎士団長と決闘をして貰いたいのだ」

「アイドリー君。ベイーテロ卿の娘は強い男が好きでね、父であるアステル卿よりも強い貴族の人間でなければ、自分は誰であろうと結婚をするつもりはない、という話だったんだけど。それがちょっと拗れに拗れて大変なことになっていてね」


 へぇ、っとベイーテロ卿のステータスを覗いてみる。



アステル・ベイーテロ(48) Lv.65

種族:人間


HP 867/867

MP 607/607

AK   591

DF   385

MAK  461

MDF  503

INT   195

SPD   368


スキル:剣術(C+)四属性魔法(D+)俊足(D)



 四属性魔法使えるのか。中々凄いおじさんだね。レベル的にはバヌアより多少強いぐらいか。強いと言われているってことは、貴族の中では武闘派なんだろうか。


 言葉をなるべく丁寧にして喋る。


「えっと……それでは、何故伯爵様がご自身で決闘を受けられないのですか?」

「騎士団長が私より強いからだ。元王国騎士団の副長を務めていたのだが……問題を起こしてなそれを私が拾ったんだが……」

「拾われて……?」

「……私の娘に一目惚れしたと言い出しおったのだ」

「えぇ……」


 それで結局、決闘で勝ったら婿として迎え入れて欲しいということになったそうだ。決闘は代理を立てるのはありだけど、冒険者を立てる場合はBランク以下でなければならないという決まりなんだってさ。


「それであの依頼だったんですね」

「私も、騎士団長が人格に富んだ人間であったなら認めたのだがな。奴め、今でなければ駄目だというのだ。困った男よ……」


 バヌアが私に「メルキオラ嬢はまだ8歳なんだ」と耳打ちする。なるほど、ロリコンを拗らせているのか。気持ちは分からなくもないけど、そういった手法で手に入れようとする性根が気に入らないね。男なら惚れさせてみせなよ。恋をした経験の無い私が言うのもアレだけどさ。


「参考までに、騎士団長のレベルっていくつなんですか?」

「城に居た時代のものしか知らぬが、当時は150程であったと聞き及んでいる」


 わお、ノルンさんより高いのか。それはかなり強そうだ。というか私が居なきゃ確実に娘さん取られてたよね?


「よくメルキオラ様は受けましたね、その決闘」

「あの子は、私が世界で一番強く頼れる父親だと思ってくれているからな……親としては嬉しいが、今回限りは期待には応えられそうにない。だから依頼を出したのだ。一縷の望みとしてな」


 あれ、そういえば負けたらギルド長になるって話はなんだったのかな?


「負けたら騎士団長がギルド長になるって話は?」

「それはメルキオラの言葉だ。勝てたら褒美としてなんにでもならせてやると啖呵を切ってな。その時騎士団長が勝ったらギルド長にしろと言ってきた。婿として貴族になる男がギルド長になったら、この街は完全に奴の支配下になってしまう。それは避けたい……」

「私も路頭に迷ってしまいますから……」

「それは割とどうでも良いかな」

「本当に酷いな君は!?」


 話の全容は分かった。可愛い娘の為の依頼なのは良いけど、私としてはその娘さん納得するのかな? っていう不安があるんだけど。


「本当は伯爵様が戦う筈なのに、私が出て大丈夫なんですか?」

「娘には納得して貰う他あるまい。騎士団長も納得済みだしな。問題なのは、お前が本当に騎士団長に勝てるか否かだ」


 そんなのまったく問題にならないけど、ここは基準を設けて判断してもらおうか。


「その人はロックリザード3体を同時に相手するより大変ですか?」

「ベイーテロ伯爵。彼女は80人の商人を一人で護衛して、道中ロックリザード3体と大量の魔物を倒しているんですよ。私も先程瞬殺されましたしね」

「なんとっ!?」


 そういう驚き方されると何だか嬉しくなってしまう。こういう風に自分の実績が評価されると達成感が漸くジワジワ追いついて来る。あの仕事で一番大変だったのは睡魔なんだけどね……


 なんにしろ、ベイーテロさんの顔が多少だけど安堵の表情に変わったのは良いことだ。


「……なら大丈夫であるか」

「はい、お任せを」


 バヌアのフォローもあって、無事依頼を受ける運びとな「お父様!!」……おん?


「お父様!! 冒険者を雇ったというのは本当ですか!!?」

「な、メルキオラ何故ここに?」

「メイドに、ギルドの人間が来たと聞いたのです!! 何故お父様自身が戦われないのですか!?」


 そこから親子のすったもんだの口論ば勃発したので、私はバヌアと隅っこに引っ込んで、出されていた紅茶を啜っていた。この世界に紅茶あったんだね。香りも良くて好きだなぁこれ。


 メルキオラと呼ばれた少女は、それはもう西洋人形と見間違うぐらい綺麗な容姿をしていた。赤とピンクのチャイルドドレスに身を包んでいて、父親と同じ金髪が光に当たって輝きを放ちながら流れている。キリっとした眼に赤い瞳が力強い。絵に描いたようなツンツンさんだ。


「可愛いね、8歳であそこまで親に喰ってかかるのも凄いけど」

「将来を約束された美貌ってのも良いよね。間違っても今求めるもんじゃないけど」


 遠回しに騎士団長を軽蔑するねバヌア。もしかして何かあったの?


「数年前視察と評してギルドに来てね。実力を測ってやるとか言われてボコボコにされたんだ」

「そりゃ災難で」


 今思い出しただけでも腸煮えくり返ってますって顔しながらカップを握りしめている。割らないでね? キチキチ鳴ってるからね?


「ちょっと、貴方!!」

「ん?」

「あ、いや、そのっ」


 振り向き綺麗な頭が見えたので下を向くと、こちらを見上げる二つの眼と合う。ギラギラとした眼力は親譲りだ、間違いなく。怖いもん。可愛いけどものっそい怖いもん。とりあえず下手に出て見る。


「なにかな? ベイーテロ姫?」

「ひ、姫……? あ、じゃなくて。貴方がお父様より強いという証拠をお見せなさい!!」


 ビシィッと指を突き付けられる。小さくて綺麗な指……でもない。どちらかと言えば剣を扱う人でいう綺麗な手だね。


「どすれば良いかな?」

「お父様と戦って!!」

「「え?」」

 私と伯爵の声が重なる。これから貴方の代わりのお父さんの代わりに戦うのに?


「それって私が危ないと思うんだけど。貴族に手を出したら捕まっちゃうよね?」

「そうだね、普通なら等しく死罪だ。決闘でもないし」

「あ、あれ? だ、駄目なのかしら?」

「いや、待て」


 伯爵様が止めに入った。やっぱり駄目だよね。あ、違うなあれ。覚悟を決めた男の顔してる。


「模擬戦という形でなら問題あるまい。それで良いな、メルキオラ?」

「は、はい、お父様!」


 パパ大好きか。お父さんの心配も少しはしてあげて欲しいんだけどなぁ。伯爵様は申し訳なさそうにマントを脱いで剣を手に取った。そしてヒソヒソ話で大人の輪を作る。


(すまん、これで娘が納得するのならそうして欲しい。私は本気でやるが、手加減をしてくれると助かる)

(娘の前で負けて大丈夫なんですか?)

(娘の為なら、泥も被る)

(尊敬しますよ伯爵殿……)


 この人も娘大好きか。嫌いじゃないから協力するけどね。





 屋敷内の広場を抜けて、屋裏にある訓練所。冒険者ギルドの地下訓練場並みに広いね。数十人の伯爵の騎士団が訓練をしているけど、それでも半分空間が空いている。

 そこに伯爵が顔を見せると、騎士団は訓練を止めて整列した。動きの一つ一つがキビキビしているのはなんとも軍隊らしい。


「おや伯爵様。まだ決闘まで時間がありますぞ?」


 その先頭に立っていた男。重装備の鎧に大剣を背中に背負っている男。こいつが騎士団長か。伯爵は貴族の余裕か、ニヤリと笑って応えた。


「なに、代理の冒険者が見つかったのでな。お前との前哨戦に、私との戦闘で身体を温めて貰うつもりなのだ、ダイオス」

「ほう……本当に見つかったのですね。それは驚きだ……おや、メルキオラ様もご一緒でしたか」

「ひっ」


 ダイオスの視線に怯えて伯爵様の背中に隠れてしまうメルキオラ。強気な女の子が怯える姿も一興だけど、やはり可愛い子は笑っている姿が一番だからね。


 

 私は伯爵様の前に出て、ダイオスと対面する。私を一目見て鼻で笑われたよ。


「貴様か。見たところ女のようだが、冒険者如きが本気で私に勝てると思っているのか? この国で私に敵う人間など、国王騎士団の団長か近衛騎士の者ぐらいだ」

「そこに今日もう1人加わるよ」

「……なんだと?」

「ロリコン拗らせた変態野郎に負ける訳が無いって言ってるんだよ」

「……ロリ?」


 ああ、そういう言葉はこっちには無いのか。


 私は伯爵様に向き直ってさっさと模擬戦を始めようと言う。ダイオスと話す気は無い。この模擬戦で自分がこれから戦う相手がどんな存在なのか、とくと目に焼き付けると良いよ。

「ところで伯爵様。五体満足で終わらせた方が良いですか?」

「そ、それでお願いするよ……」

(どこか斬り捨てるつもりだったのか……)


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