閑話・16 ガルアニア組
「あぁ……死ぬ、もう死ぬ」
バンダルバはとにかくボロボロだった。身体中傷だらけで、残りHPは3割を切っていた。毎回装備はボロボロになってしまうので、途中から防具を装備することを止めてしまった。
なので今は適当な服だけ着て相棒の剣だけで戦っていた。それもやっと終わったが。
「いやぁ楽しかったなぁスビアげはぁッ!」
「ああ、死ぬかと思ったがなんとかなったぐほぉッ!!」
「テメェ等黙ってろッ!!何回死にかけてんだッ!!!」
「「ありがとうございまーす!!」」
お供の2人は対照的にハピラキな笑顔なのだが、傷の具合は歩けないぐらいには深かった。よって、これも何度目からかで用意した2人が乗れる程度の荷車で運ばれていた。
満足そうに死にかけているのが本当に腹立たしい。それが彼の頭の7割ぐらいを占めている。
「しかし……俺1人じゃ間違いなく死んでたのは確かなんだよなぁ……」
20層のタイラントスコーピオン相手にする為に、毎回準備を整えて往復をしているのだが、どう戦っても1時間の壁を突破することが出来ずに敗走を繰り返していたのだ。
だが、先程ようやくその壁は乗り越えられた。正しく地獄と呼べる20層のノルマを彼はクリアしてみせたのだ。仲間?と供に。それも戦う度にレベルが上がっていくからこそ出来たことでもある。それでもかなりギリギリで、この有様なのだが。
だが、それに見合う力は、予想を遥かに超えて手に入れてしまった。
「まぁ良いか……俺はこれでダンジョンを終えるが、お前等どうすんだ?」
「あー……そろそろガルアニアに帰るか?」
「どうしようか。実際もうかなり満足したしねぇ。バンダルバさんは何処かに行く予定は?」
「お前等には教えねぇよ。じゃあな……」
2人を冒険者ギルドに置いて、自分の傷を治しながらバンダルバは去った。最初から最後まで自分の修行に無理やり付き合って来た者達だが、彼としてはこれ以上一緒に居る理由も無いので、遠慮なく置いて行くつもりだった。
スビア達もそれが彼の気質だとは重々承知していたので、これ以上付き纏うつもりは無い。
「バンダルバさん、ありがとうございましたッ!!」
「どうか道中お気を付けてッ!!」
だから、感謝の言葉と旅の安全を祈った。バンダルバは振り返りはしなかったが、片手を拳のまま一度天高く突き挙げると、何も言わずに立ち去るのだった。
その後ろ姿が完全に消えるまで見送った後、2人は自分のステータスを見ながら思う。
「これは、来年の武闘会も楽しくなりそうだな」
「ああ、とても楽しみだよ。君との闘いが一番待ち遠しいけどね」
「俺もさ、モリアロ」
スビア(26) Lv.1055
種族:人間(覚醒)
HP 3652/45万9324
MP 15万5601/15万5601
AK 6万3550
DF 6万2141
MAK 3万0004
MDF 4万2110
INT 210
SPD 8万7400
スキル:剣術(SS+) 投擲術(EX)縮地(A+)バースト(―)
モリアロ(25) Lv.1021
種族:人間(覚醒)
HP 2333/29万7221
MP 5/60万2999
AK 3万0101
DF 5万4466
MAK 8万3588
MDF 9万0054
INT 350
SPD 4万6251
スキル:水属性魔法(SS+) 短剣術(S+)縮地(A)バースト(―)
もはや素のステータスなら聖剣を発動していない勇者なら勝てるぐらいの強さになってしまっていた。種族が覚醒した理由は分かっていないが、バンダルバとチームワークを意識して戦っていたら、いつの間にかなっていたらしい。
この表記は勇者とかが持っている、というのを遠い昔に聞いた覚えがある2人。自分達がそれになったことを喜ぶと同時に、あることを覚える必要があると考えた。
「他の冒険者に絡まれた時、これだと殺してしまうな……」
「うん、『手加減』のスキルを覚えないとね。さて、そしたらどうする?ガルアニアに帰ってからにするかい?」
「いや、風の噂だと獣人の国が再建されたと聞いたからそっちに行こう。獣人は人間よりも身体能力が高いし、あそこの近くにある森はガルアニアのマダルコスの森より強い魔物が出るらしい。どうせだからドラゴン狩りに洒落込もう♪」
「お、いいな。そうしようか♪」
戦闘狂2人は次の目的地を定めると、肩を貸し合いながら仲良く冒険者ギルドに入っていくのだった……
「ヤスパーヤスパー、これ見てよッ!」
「ん、何だ?チラシ?というか近いッ!!」
「あら、ごめんみ?」
「最後の『み』ってなんだよ……どれどれ」
とある町で宿を取っていたヤスパーの下に、チラシを持って来たセニャルが、それを彼の顔に押し付けて来た。それを受け取り読んでみると、彼女の興奮具合の原因が分かり納得する。
『ラダリアにて実況者募集中。経験者は優遇』
こんな書き出しで始まっていた。あまりにピンポイント過ぎて軽く笑える程だった。読み進めていくと、給金も割りが良く、仕事も定期的にあるので安定しているようだ。
ガルアニアの国境に入ってからあったと言うことは、人材はその出身者の方が良いのだろうか、とヤスパーは思う。
「んー、けどお前、これガルアニアに帰れねぇぞ?どうすんだ?」
「そうだねぇ。ねぇヤスパー?ラダリアって今温泉とかもあって、凄い勢いで発展しれるらしいんだ。だから、私達も2人の家を買って、そこで住まない?私、あそこの温泉とか国の雰囲気好きになっちゃったんだよね。ほら、ヤスパーも私が冒険者よりかは、実況者として働く方が安心出来るでしょう?」
意外によく考えていたようで、ヤスパーはそれに深く首を縦に振った。確かに、危険性の無い仕事で稼いでくれた方が彼としても安心出来るし、どうせ帰ったら新しい住居を構えるつもりだった。
どうせなら違う場所の方が心機一転出来るし、彼もラダリアの環境は居心地が良かった。あの時もセニャルが勝手に国の代表者を決める決闘に乱入して実況者をしていたけど誰も咎めはしなかったというのも大きい。普通なら牢屋行きだ。
「よし、分かった。まだセニャルが受かるかどうか分からないけど、それで行こう。俺もラダリアは気に入ってたし、あそこら辺の魔物もガルアニア並みには強いからな。今ならまだ人口もそこまでじゃないし、丁度良いかもな?」
「本当ッ!?やっひーッ!!」
「おっと、なんだよその喜び方……くく」
全面的に肯定してくれた彼に愛しさを隠せず抱き着くセニャル。
だが気付いて欲しい、此処は宿屋なのだ。商人や冒険者達がそれを酒を飲みながら見ているのだ。
セニャルはそれなりに、というか冒険者の中でかなり可愛い方だ。でなければ数年連続で武闘会の司会者になれはしない。そんな彼女がヤスパーに抱き着いて愛の言葉を囁き、夜のお誘いをしてくるのである。
「殺してぇ……」
「俺の武器で圧殺したい……」
「いや、串刺しだな」
「俺の魔法で丸焼きも良いべ」
よって、男達の嫉妬がヤスパーに絶え間なく降り注ぐ。
(……これは泊まる場所変えた方が良いな)
なので彼は、フロントの店員でアイコンタクトで取ったばかりの部屋のチェックアウトをするのだった。全員返り討ちにする自信はあったが、愛しい妻を危険に晒してまで戦う気など一切無いのだから、と……
「そういうところも大好きだよ?ヤスパー♪」
「俺はお前の全部が好きだよ、まったくよー」
「うぇへへへ……幸せ過ぎて死にそう」
「……はぁ」
「ヤスパー、子供は何人欲しい~?」
「息子が2人と娘が2人だな。1人は冒険者、1人は商人。後2人はお前の後継者だな」
「スッゴイ計画的だったッ!?」
「息子2人はテルベールに行かせたいから、頑張って稼がないとなぁ……」
「なにこの出来た夫ッ!?」