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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第147話 後の祭り

 あれからの話。バゴットさんだけど、次の日には魔道具学科の人間に担がれて魔道具研究塔に連れてかれた。例の魔導弾砲と弾についての詳しい話を皆が聞きたいと殺到しちゃってね。

 まだ眠かった私達の変わりにあの花火の説明もするって言ってくれたのが救いだったかな。


 それで私達は、いつも通りに寮に戻って何事もなく寝てたんだけど、本体からの更新が始まると、2人して飛び起きちゃったよ。頭から蒸気を出して顔を真っ赤になったアリーナが可愛かった。可愛いからとりあえず愛でておいた。


 けど眠気もあったし、疲れていたのでとっとと寝て、次の日の朝におはようのちゅうをして覚醒する。で、今に至る訳でして。


「おはようございますわ……朝からお熱いのですね」

「いや、昨日のフェルノラ達には負けるよ流石に」

「おはようフェルノラ~♪」


 フェルノラと及川君は、花火が終わった後はお互い寮まで寄り添いながら帰って行った。2人は終始無言だったけど、フェルノラが及川君の腕を抱きながらだったので、周囲の生徒達にはかなり祝福されていた。

 数年掛けてやっと結ばれたんだもんね。モンドールの説得は任せなさいな。




 さて、今日は私達にとっては後始末の日だ。昨日の1件で同時に3ヶ所で色々やってたからね。纏めて処理していくとしよう。で、今居るのは理事長室だった。


 理事長室には現在9人の人間が居る。


 昨日、神代魔道具を根こそぎ持ってかれて内心怒髪天なマートン理事長。未だに光輪で縛られている勇者2名(気絶状態)とそれを運んできたバラドクス先生。私とアリーナ、フェルノラ、及川君にジブス先生という内訳だ。


 件の話は勿論昨日の誰も知らない事件の話だ。



 まずは理事長が喋り始める。顔からは不機嫌な様子を一切隠していない。これはかなりキているようだ。


「さて、昨日の事件についてだが……まぁ、2人がやられた時点で私が犯人、という事になっているのかねぇ。及川君も居ることだし」

「ええ、2人がベラベラと喋ってくれましたよ理事長。ついでに、彼女も貴方の横暴について全て知ることとなりました」

「そうかい………その事については全面的に認めよう。しかし、ならばリングを付けたまま私の前に現れた事は早計ではないかな?私の権限で全員動けなくする事も出来るというのに」


 その通り、理事長の権限はこの学園で唯一、リングの拘束を任意に発動出来るのだ。これは教師達にも付いているので、今この場で発動させれば、誰も彼を止めることは出来なくなる。


 しかし、それを口にしても、彼は忠告だけで終わらせていた。


「分かってるわよ理事長さん♪貴方、もう諦めてるわね?」

「バラドクス……ああ、私の研究成果は全て持ってかれてしまったしね。外道になることに躊躇は無かったが、大事な物を何も出来ないままに持ってかれる気持ちっていうものを初めて味わったからかな。馬鹿らしい存在に全てを持ってかれて怒りしか湧かないのに、何もする気が起きないのだよ。笑うしか無い」


 謎の存在に自分が何より大事にしていた物を奪われたのだ。彼にとっては人生の全てと言っても良い程の価値ある物だ。例え誰かの人生を無駄にしてでも、研究をしていたかったのだから、


「そんな勝手がありますかッ!!こっちは完全に被害者ですのよッ!?」


 しかしそうは問屋が卸さない。フェルノラがマートンの胸倉を掴み睨んだ。一国の王女すら危険に晒した罪は残ったままなのだから。


 なにより、及川を亡き者にしようとした張本人なのだ。とても許せるものではなかった。



「残念だが、この学園において最も権力を持つのは私だ。国に帰れば君も一国の王女だが、此処ではただの一生徒に過ぎない。吹聴しようとも、私の指先1つでその口は簡単に黙ることになるだろうさ」

「……外道が」

「誉め言葉をどうも、バラドクス。さて、アイドリー君達も私の計画に巻き込まれた形になるが、言い分はあるかね?」

「ええ、勿論」

「ほう、何かな?」


 上から目線どうも理事長。けどね、バレているという事が分かっているなら、もう既に貴方は詰みだよ。


「まずはその2人の勇者についてですかね。昨日はバラドクスに指導を任せましたが、直接の実行犯はこの2人ですし、フェルノラに手を出そうとしたのは彼等の独断ですから。そういう意味では重い罰をもっと欲しいのですが?」

「それについては僕からもお願いします。こいつ等はやり過ぎたし、僕の大切な人を穢そうとしたんだ。許せるものじゃない」

「ああ、それぐらいは譲歩しよう。リングの効果を『奴隷の首輪』と同等にして、一切の行動を制限させるよ」


 これで2人は永遠に好き勝手出来なくなった。眼が覚めたら地獄が待っているだろうけど、自業自得ということで頑張って欲しい。


「次、貴方についてです。確認ですが、昨日の事件は貴方が勇者2人に命令したことですよね?」

「……ああ、そうだ」

「改めて聞きますけど、目的は?」


 今更そんな事を聞いた私に、マートンは眉間に皺を寄せながら、怒気を含んだ声で答えた。まぁその原因作ったの私だけどね。



「私の目的は、ラダリアから盗ませた神代魔道具の解析、及び開発だ。今回の事件はその開発した魔道具のデータ取りさ。まぁ、それも謎の冒険者に全て奪われてしまった訳だがね……非常に腹立たしいことだよ」



 よし、言質取ったね。お疲れ様でーす。


「そんな理事長に問題です。これなぁーんだ?」

「ん?……それ、は……ラダリアのッ!?」


 やっぱり知ってたか。私が見せたのは、ラダリアで絶賛量産中の『録画水晶』である。


 毎度お世話になります水晶パイセン。今回も貴方の力が必要になりました。


「さぁて、これで私達が喋る必要は無くなりました。何故なら、此処に貴方の証言が入っているからです。これをガルアニアに持ってったら問題ですよね?」

「させると?」

「ああ、勘違いをしないで下さいね。これは脅しじゃない、契約ですよ」

「……?」


 私は、1枚のボードを取り出して見せた。理事長と及川君の顔が驚愕の表情に染まる。


「ッ!?……レブナントボード………」


「そう、貴方が及川君に盗ませたものです。実は私、昨夜神代魔道具を盗んだ相手が知っている人物なんですよ。ついでに言えば、私はラダリアが出身地になります。この意味はお分かりですよね?」


『言うことを聞かないと、神代魔道具は戻って来ない』それを理解したのか、苦虫を何匹も噛み潰したような顔になる。これで五分五分になったね。



「……なるほどね。昨日ガルアニアの来賓が夜に帰ったのはそういう訳か。まったく、報復行動にしてはあまりに釣り合わないなこれは」


「やられたらやり返されるもんでしょう?自分だけ安全圏なんて、許される訳無いじゃないですか。そんなの、傷付いた人達が納得しませんよ」


「……理事長。私もそう思います。この生徒達は、皆一生懸命生徒として学園において正しくあり続けていました。貴方も、そうあるべきではありませんか?」

「ブジス君……そうか。君はずっと彼女達を監視していたんだったね」



 ブジス先生はずっと私達を監視していた。それはもうストーカーの如くピッタリな具合で。あまりにバレバレだから黙ってたけど、ずっと私達を見ていた筈だ。


 自分で言うのもアレだけど、私達は精一杯学園生活を楽しんでいたと思う。色んな授業に参加したり、他学科の生徒と交流を持ったり、魔道具を作成したり。それ等を『生粋の教師』であるブジス先生はずっと見ていたのだ。





「私は、貴方のように研究肌の人間でもない。多少学が立つだけのただの平教師です。しかし、そんな私でも、彼女達はとても気持ちの良い生徒だった。そんな生徒を、私は高く評価したい。その努力を、意見を尊重してあげたい。貴方とて、その1人であったではないですか……」


 彼は昔からマートンを知っている数少ない教師だった。その人間性も、生き方も、拘りも知っているのだ。


 だから理解は出来ても、彼はマートンの言う事に対して1つも『納得』はしてこなかった。もっと他に道はある筈だと無駄に足掻き、『知っていながら』見逃してきたのだから。


 それを知っているのは、マートンも同じこと。



「……マートン。君はいつだって僕より前を進んでいたじゃないか。そんな君と供に過ごしてきたこの長い人生、どれだけ僕が君を見ていたと思っている。君がどれだけ汚い手を使っているのも知っていたさ。そしてもし罪が白日の下に晒されたなら、多少は肩代わりしてやるぐらいには腐れ縁を感じていた。だからもう、それ以上君の誇りを穢そうとするな……君にはあって無いような物だろうがさ」


 

 在りし日のブジスの話し方だった。ああ、そういえば君はそういう奴だったなとマートンは思い出す。ブジスは真面目で、自信が無く、いつだって自分を羨んでいた。そんな人間だ。


 だが立場ば変わって、口調が変わって、数十年の時が経って尚、彼は自分から離れない唯一の教師だった。



 その『腐れ縁』が初めて自分の夢に対して意見したのだ。そう言われてしまっては、今までの自分の行いが酷く陳腐に見えてしまう。まるで相澤達と同じだと見れてしまう。


 そうだ、自分は馬鹿の極みじゃないかと。自分が嫌っていた、馬鹿そのものじゃないかと。


 なら、受け入れるしか彼に残された道は無い。両手を上げて降参だ。



「……はは、君に諭される日が来るとはね。あーもう駄目だ、分かったよ。全面的に君達の言い分を認めよう……私の負けだ。すまないブジス。すまなかった、生徒達よ……」



 最後の一手でマートンは折れた。2人の関係をアイドリーは知らないが、決して浅くはない仲なのだろう思う。ならば、さっさとお開きにするつもりで話を進めるのだった。



「それじゃあ契約内容発表しまーす。アリーナ」

「はいはーい。じゃあこちらの資料をどうぞ~♪」






「どこまでも抜け目無いですのね、貴方は……」

「まぁまぁ、けど、これで立派な罰になると思わない?最終的には皆ハッピーだしさ」

「そうだけど……優しいんだね、君は」

「ホント、アイドリーちゃんもアリーナちゃんも素晴らしい生徒よね♪」


 

 結局、マートンは理事長を続行、その地位に着いたまま学園の運営を任されることになった。ただし出来るのは『レブナントボード』の拡張パーツの開発のみ。今後他の物に手を出したり誰かに命令して何かをやらせるということはリングを付けて縛らせて貰った。


 ほとんどの仕事はブジス先生が代行をするんだとか。


 奴隷の首輪のように締めたりはしないけど、特定の行動で通常の5倍は大きい音でブザーが鳴るから、バラドクス先生が黙ってはいないだろう。


 で、開発を続けてくれるなら、こっちも盗んだ神代魔道具を解析次第返す予定なので、他国への返上前には終わるだろう。


 それとは別に、マートンには『先生』もして貰う事にしたんだけどね。





「……んが?」

「ぅ……な、どこ、だ?」


 勇者達は、教室の席で眼が覚めた。見渡してみると、場所は魔道具学科の空き教室だった。


 動こうとすると、自分達の身体に合計5つのリングが付いている事に気付く。両腕、両足、そして首に付いていた。


「んだよこれ……」

「何が……どうなって」

「おや、起きたかね」


 そこに教室へ入って来たのは、学園の理事長、マートンだった。彼は珍しく教員の格好をして教壇の前に立ち、机の上に『レブナントボード』を置いた。



「さて、早速で悪いんだが時間が無い。君達も僕も、仲良く揃って罰を受けなきゃならなくてね」

「はぁ?」

「何言ってんだあんた?」


 2人の記憶はまだ昨日の夜、アイドリーの光輪に拘束され気絶されたところで止まっている。なので、マートンは彼等のこれからの仕事を懇切丁寧に説明し始めた。


「簡単な話さ。僕達は負けたんだよ。彼等にね、君達も僕の取引を無視してガルアニアの王女に手を出した」

「それは……」

「ああ、言い訳は聞かない。既に罰は実行されている途中だからね……さて、説明をしないとね。これから何をするか、だ」


 レブナントボードを分かり易い様に彼等に見せるマートン。似たような物を身に纏っていたので、2人もそれが何かを理解する。だが、どうしてそんな物を今更見せるのか不思議そうな顔になった。それを見て、マートンは笑う。


「はは、良い顔だ。教え甲斐のある馬鹿だ」

「あぁッ!?」

「ああすまない。さて、君達には今から魔道具造りが何たるかの勉強と、この『レブナントボード』の開発、及び強化パーツの作成を私として貰うことになる。推定期間は……まぁ、軽く40年といったところかな」

「「40年だぁッ!?!?」」


 現在のマートンの歳が68歳。残りの人生を全て彼等とレブナントボードに費やす計算になる。彼等も40年後には60代のじいさんだ。とても耐えられる期間じゃない。しかもそれが勉強と開発に費やされるのだから、堪ったものではなかった。


 それを想像するだけで身体が震えるのが分かる。


「残念だが、私も君達も選択肢は無い。契約上、僕達は毎日8時間を授業、12時間が研究開発、1時間が食事とお風呂、3時間が就寝時間だ。よろしいかな?」


「お……あ……?」


「おいおい、何をゾンビのような声で呻いているんだい?僕は君達に8時間取られる事が腹立たしいというのに。しかも研究出来るのはこれだけだ。あーまったく、素晴らしく無駄と有意義な人生になりそうだよ……まったくね」


 うんざりした声なのに、満面の笑みでそう言うマートンに、2人は恐怖を覚えた。そして後ろからは、



「ほ~ら。暇な時は私も来てあげるから、頑張ってね~ん♪」



 バラドクス先生が、耳に息を吹き掛けてくるのだった。



「た、たすけてくれぇぇぇーーーーーーーーーッッ!!!!」

「こんなふざけた人生があるかぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!」

「にしても、バラドクス先生はあの2人のどこを気に入ったのでしょう?」

「なんか、具合が良かったらしいよ?」

「?」

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