第145話 人の恋
「準備出来た~?」
「おう、出来たぜ!!」
「こっちも完了したよ~」
「よーし……完成だね」
あー…腰に来てるね。分身妖精と本体が報復活動している間に、私達3人は魔導弾砲の設置と弾の振り分けを行っていたんだけど、やっと終わったところだよ。
いや、実際設置するだけだから楽だったんだけど。それを全部コードでリンクさせて発射タイミングとかの設定もしなきゃだから、かなり手間取った。しかしその甲斐あって、素晴らしい仕上がりになったと思う。それぞれの弾砲には私が自動で弾を転移する方式でやるので人数も必要無いしね。もし人手を増やす方向で進めたら100人は欲しいぐらいの弾数だ。
「時間的には後数分か。フェルノラ達は……よし、ちゃんと向こうで座ってるね」
数百m先に私が用意したソファーに2人は身を寄せ合って座っていた。地面には絨毯も敷いておいたからね。ふふふ、それにもギミックを仕込んだからね。楽しみにしていると良いよ。
「さて、最後の仕事をしよっか?」
「おうッ!」
「うんッ!」
「こんな寒空の中なのに、学園の中みたいに暖かいんですのね……」
「これも魔道具なのかな?高度過ぎてどんな作り方してるのかまったく分からないや」
フェルノラも、それは自分も同じだと内心感じていることだった。このソファも、下の絨毯も普通ではない。どちらも獣人の技術が使われいるのは分かっているのだが、どう作用させればこんなにコンパクトに仕上がるのが皆目見当が付いていなかった。
ムードもへったくれも無いが、純粋な知的好奇心が半ば2人を興奮させている。しかしそろそろ時間だと気づくと、フェルノラは咳払いをして更に及川に身を寄せてきた、
「ふぇ、フェルノラ!?」
「……そろそろ、アイドリーさん達が始める頃ですから。こうしろと言われているのですわ」
「えぇ?どういうこ(ふわっ)うあぁッ!?」
「ッ!?」
聞こうとした瞬間、ソファが『浮き上がり』、及川達を乗せたまま独りでに動き出したのだ。こういうことか、と及川もフェルノラに肩を回して抱き寄せる。アイドリー達の用意したものだから落ちる心配はしていなかった。
ソファがどんどん高度を上げていきながら結界スレスレを飛んでいき、遂には学園の中心で止まった。下には未だ遅くまで騒いでいる学生や来客達で賑わい、その光景を見ているだけでも飽きない。
しばらくそうしていると、フェルノラが及川の肩にトサっと頭を乗せた。一瞬及川も固くなるが、雰囲気の為かフェルノラの肩を掴んでいる手が多少力むぐらいだった。
「あの2人が言っていたこと…………本当なのですか?」
「……うん」
「マートン理事長に、私の事でなんと脅されたのですか?」
及川が少し言い渋る顔を作ると、フェルノラは及川の膝に手を置いた。
「言ってくださいな。貴方が、何を思って、何をしたのか。貴方の口から……私に、受け止めさせてください」
「……わかったよ」
及川は決心した。男として言うまいと意地を張り続けてきたが、もう粗方の事は知られてしまっているのだ。いい加減自分にケジメを付けようと思った。それで彼女に嫌われ、拒絶されようとも、甘んじて受け入れようと。
「僕が理事長に呼び出されたのは、アイドリーさん達が来る1週間前のこと。知っているとは思うけど、当時学園で保管されている借りていた神代魔道具を他国に返却する時期に迫っていた。毎年のことだけど、今年は今まで最も返す量が多くて、ほとんど残らないぐらいだったらしくてね。それで自分だけの神代魔道具を欲しがった理事長に言われたんだ」
『フェルノラを卒業させたければ、ラダリアから魔道具を盗んで来い』
それが理事長が及川を縛った鎖だった。
「彼は、僕がそう言えば従うと分かっていた。どうやら僕がフェルノラを守る為に森田達とやりあったのを知ったみたいで……知ってる?この学園、至る所に監視用の魔道具が設置されてるんだよ。だから、僕は誰かに相談することも出来なくてね……」
そして及川は盗んでみせた。自らの聖剣特性を使い、誰にも教えていなかった本当の効果を使って。それは正に、対人戦最強とも言える力で。
「僕の『消失』はね。僕という存在を周りから見えなくする能力じゃない。透明人間になることじゃない。文字通り消えるんだ。この学園の結界に似ててね、違う断層に自分を移動させるから、誰も何も認識できなくなるだけでね。だから痕跡は1つも残らない。そして、僕は任意の物に瞬間的に触れる事が出来る。一瞬だけで、クールタイムに30秒程掛かるけどね」
それが、及川が魔道具を盗み出せた理由だった。本来ならば誰にも看破されることなく彼は帰れたのだ。
「けど、ラダリアには勇者が、高坂さん達が居たから。だからアイドリーさん達が来たんだ。僕が奪った物を、取り返す為に……」
マートンの目的は、自分だけの神代魔道具を作り出すことだった。その為にガルアニア経由の間者でラダリアに新しい神代魔道具が出土された事を知ったのだ。
現在のラダリアはまだ国としては認められていない。国際会議において認証されなければ不正式な土地だ。よって盗んだところで問題には出来ない。何故ならラダリア自身もその姿をガルアニア以外には隠していたのだから。
だから盗ませた。来年の世界会議前に及川を使って。
「事の顛末はこんなところかな。後は、僕が告発しないように理事長が自分で作り出した魔道具のテストを兼ねて、2人をけしかけた感じだよ……ごめん、巻き込んで」
「なにを……何を言っているのですかッ!!」
「ッ!……ご、ごめ「お黙りなさいッ!!」うわッ!?」
及川の謝罪を遮るように、フェルノラは及川の顔を胸に押し付けて物理的に黙らせた。ムグムグと苦しそうにしているのを見て多少力を緩めると、2人の瞳が正面からぶつかる。
「貴方が、貴方自身を乏しめる事など、私は絶対に許しませんわ。私も貴方も、理事長の私欲に巻き込まれただけの被害者なのです。というより、貴方は私を庇って罪に手を染めただけではないですか。私を『人質』として見ていただけでしょう?」
「そ、そうだけどさ」
「そんなことより!!…………貴方が、何を想って私を庇ったのかが気になるのです。大事なところをはぐらかさないで下さい……おねがい」
「フェルノラ……」
両手を及川の頬に添えて、額を合わせた。
「教えて下さい。貴方にとって、私は何ですか?」
一番知りたいこと。何よりも求めていた答え。それはお互いが夢みた言葉。
「……好きだった。好きだから助けたかった。自分を汚してでも、貴方に、フェルノラに綺麗でいて欲しかった。一点の曇りも無い君で、いて欲しかったんだ。大好きな、何よりも大切な人だから……だかッんむ!?」
「んぅ……んんっ……」
それ以上は、唇を塞がれ言わせて貰えなかった。情熱的な、焼き焦がす程の熱さが、2人が接している間から吐息となって漏れ出す。
数分それが続くと、ようやくフェルノラは顔を離す。
「ぷは……話が長いのですわ。私がお手本を見せてあげます」
妖美な笑みを浮かべ、絶対に離してなるものかという信念の籠った眼を向けながら言うのだ。
「貴方をお慕い申しておりますわ。奏太さん」
ヒュ~~~~~…………ン………ドンッ!
そして、大輪の花が、夜空に極彩色の光となって咲いた……
「せーのッ!」
「「たーまやー♪」」
次々に魔導弾砲から放たれる弾は、想像通りの放物線を描き、色鮮やかな『花火』を咲かせていく。
「すげぇ……これが、俺の造った物なのか……最高じゃねぇか………」
花火は学園を360度囲うように放たれていくので、誰がどこに居ても空を見上げれば見られるようになっている。
更には、咲いた華は次々と形を変え、ドラゴンやペガサス、ついでに妖精になって大空を舞いながら消えて行った。花火の色彩はアイドリーの自作だった。生物の絵を見ながら弾にそれを詰めるのに最初は悪戦苦闘していたものだ。
これらも、元を正せばバゴットの発明によって生まれたのだから、本人にとっては泣き喜びものである。
「いやぁ、我ながら自画自賛しちゃうよ。超綺麗」
「アイドリー、そろそろ私のくるよッ!」
「お、来るか青春砲」
「なんだそれ……」
その光景には全ての人間は釘付けになり、そして花火の音以外は静寂に包まれている中。
その内、花火の中に文字が出現するようになった。ハートマークの中に、誰かの名前が2つ。それが幾つも上がり、数分の間停滞している。
それは、お互いが気持ちを突き合わせる為の一押し。アリーナが配りまくった紙に書かれた名前を花火に込めたのだ。そして、名前が表示されたら、お互いの気持ちを相手に伝えるという了承がされている。
よって、学園は一時、学生達の告白大会へと発展した。
「ある意味テロだなぁ」
「大丈夫、抽選で決めたし、お互いが好きって人しかやってないからね」
「なるほど、ちゃんと絞ってるのね。ま、アリーナもバゴットもお疲れ様ッ!!」
「「おつかれッ!!」」
こうして、3人の共同発明は無事成功を納めた。
けど、今私達の本体には絶賛問題発生中だったりする。といっても、どう転んだところで私とアリーナだから大丈夫だと思うけどさ。
「アイドリー……」
「そんな顔しないの……大丈夫だよ」
だから私は、アリーナの肩を抱き、寄り添い合って花火を見ていた。
こんなにも賑やかな夜なんだ、楽しんでやらないと。
だから頑張ってよ?私…………
「…………こんな生徒も居るのですね。どうやら、私の眼も曇っていたらしい」
「おいブジス先生ッ!!そんなとこに縮こまってないで一緒に見ようぜ!!」
「ええ、ええ、そうしましょう。君の素晴らしい発明に祝いの言葉を述べさせて下さい」
「ありがとよッ!!いやっほ~~~♪」