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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第142話 鬱フラグ 立った瞬間 叩き折る

「トゥイーレル。そろそろ夜だ。帰る支度をするぞ」

「え?もう帰られるのですか?もっとゆっくりしていきませんか?」

「駄目だ。忘れたのか?私達は一応任務で来ているんだぞ?」

「……ああ、団長とのデートでは無かったのですねッ!!」

「お前帰ったら減俸だよもう」

「ヒギィッ!!」



 マゼンタはトゥイーレルの首根っこを掴み、馬車のある小屋に向かっていた。時間は3日目の夕方。彼女は他国の来賓達との挨拶も終え、本来の目的を果たそうとしていたのだが、どうにもトゥイーレルが勝手に歩き回り、思うがままに楽しむものだから、彼女も少しそれに引っ張られてしまっていた。本当ならもう少し早く出発する筈だったのだが。


 と言っても、既に『物』は馬車に積まれている筈なので、後は知らぬ顔して出発するだけだ。


「ガルアニア王国、マゼンタ・ナイルズだ。馬車を取り来た」

「……ええ、確認しました。少々お待ちを」


 国の来賓招待状を小屋の管理人に見せて馬車を取りに行ってもらい、改め自分達の眼で『物』を確認し、マゼンタは何事も無く乗った。しかし、



「団長ッ!!不信な物体がありますッ!!今すぐ馬車を放棄しましょうッ!!」

「……」

「え、何故無言で拳を振り上げてあぎゃんッ!?」

「休日も返上だ馬鹿者」


 そう言ってとっととトゥイーレルを馬車に放り込むと、自ら御者台に座り馬車をテルベールの外へと向かわせるのだった。






 時を同じくして、及川達はテルベールの外をグルっと回りながら、アイドリー達の居る準備場所まで足を運ばせていた。


「僕は聞いてないけど、アイドリーさん達って何するつもりなのかな?」

「突拍子も無い事をするのは確かですわ」


 学園祭で目一杯遊んだ2人は、アイドリーのが言う『特等席』で今日を飾るつもりだった。


 もう数十分歩けばその場所に着くのだが、そこで及川は急に足を止めてしまった。フェルノラから見て分かる程警戒しているようだった。



「……何か、飛んでる音が聞こえる」

「飛ぶ……?もしかして魔物ですか?」

「いや、違う……これは生物の出す飛行音じゃない」


 何かがこちらに無機物な音で近付いて来る。風を切る音が近くまで聞こえると、及川達はその姿を視認した。



 一見して、それは空をスケートリンクのように滑る人型の何かだった。



 全身に赤いラインを走らせ、変幻自在の軌道を描きながらこちらに来る2つのそれは、2人がよく知っている『問題児』達。


 『勇者』森田と、『勇者』相澤である。



「ようッ!!2人でな~~にしてんだ?俺達も混ぜてくれよぉ!?」

「及川!!学園長のご指名だぜ?こいつの実験台になってくれよぉ~?」

「逃げてフェルノラさんッ!!」

「そ、奏太さんッ!!!」



 直ぐにフェルノラに逃げるよう指示すると、アイテムボックスから『聖剣』を呼び出し発動する及川。無論『聖鎧』も身に着けた。

 だが勇者2人も既に『聖剣』を発動させており、肩に装着している魔道具の筒から『魔力で出来た弾』を高速で射出する。


「く、がぁあああああッ!!?」


『聖剣』を発動した2人の魔力を込めた弾は、聖鎧の外からでも十分な衝撃を持って及川をズタボロにしていく。聖剣で戦おうにも、空を飛ばれている2人に届く筈もなく、ひたすらに円を描きながら蜂の巣にされていくだけだった。


 そしてなにより、あの光弾を撃ち出す魔道具が致命的過ぎた。


(速過ぎる……目で追えないッ!!)



 光弾の初速が速く、まるで拳銃に撃たれているような錯覚に陥っていた。しかし威力は段違いであり、地面に当たれば鈍い音と供に深い穴を空ける。手の平サイズでそんな大穴を空けるのだから。身体に当たれば衝撃で身体がバラバラにされるだろう。


 現にそれを受けている及川は、自分の身体が中途半端に頑丈なことが憎らしかった。受ける度に骨が軋むような音が鳴り、自分の四肢が千切れ飛ぶのではないかと思う程の激痛が襲って来るのだから。



 2人は集中的に及川を狙うが、勿論フェルノラを逃がす気も無い。偶にフェルノラの進行方向にも弾を撃ち足止めをしている為に、身動きが取れなかった。


 なので、これは戦いでも、ましてや実験でもない。2人による一方的なリンチだった。


 それでも及川に逃げるという選択肢は存在しない。それは彼自身が許さない。



「あ~~~良いなぁッ!!!超スッキリすんなぁおいッ!!!?」

「お~い、あいつ動けねんじゃね?女犯しに行こうぜ~~?」

「……させるかぁッ!!!!!」


 フェルノラを穢そうとする言葉を聞いた及川は、聖剣特性を発動しようとするが、


「隠れてねぇぞ?」

「ッ!?!?!?な、なんでッ!!」

「っぷ、おいおい。理事長のご指名つったろ?実験なのにこっちに攻撃することが許されると思ってんのか?」


 聖剣特性を使用しようとした瞬間、痺れが『リング』から発せられ発動することが出来なかった。



 瞬時に悟った。これは『理事長の権限』で禁止されたのだと。勇者の付けているリングは他の生徒と違い特別性だ。遠方から細かい部分まで設定出来るのだから、そんなピンポイントな事も不可能ではない。


 だが、その上で彼は思う。



「そんな……こんなことまでしてあの人は自分を満たしたいって言うのかッ!!?」


「知らねぇよバーカ。俺達は卒業出来ればそれで良いんだよ。お前が『盗んだ』魔道具を解析して理事長自身が造ったんだ。お前の自業自得だろ?」

「……え?」

「え?って、なに?知らなかったの王女様?ぶっは、お前マジかよ!!その手を使って誑し込んだのかと思ってたぜ!!?」


 何の事か分からないとフェルノラは及川を見るが、彼は顔を背け俯くだけで、何も言わなかった。それを見て2人は大笑いする。



「言えねぇよなぁ?そこの王女様を人質に取られて他国の『神代魔道具』を盗んだなんてよう?それが今、自分の女を危機に晒して、お前自身は死ぬってんだから、なぁッ!?」


「うぐぁッ!!」


「そして、その機会をくれた理事長も最高だぜッ!!はは、あいつ俺達に及川を消さして、口止めまでしようってんだから喰えねぇ爺だよなぁ?王女様も散々遊んだら犯されたなんて言えなくなるぐらいの好き者にして国に返してやるからよぉ?安心しろよお~い~か~わ~く~ん?くはははッ!!」

「もりたぁああああーーーーーッッ!!!!」


 顔面を蹴り飛ばされ、腹に光弾を撃ち込まれながら『自分の罪』を暴露する2人に怒号を発するが、身体が付いて行かない。


 どんなに力を振り絞っても、魔法も剣も、あの武装には無意味だった。相性が悪過ぎる。


 そして、遂にフェルノラにも毒牙が掛かろうとしていた。


「お前はこっちだぜ?」

「あ、いやッ!!離しなさいッ!!!」

「フェルノラッ!?相澤、彼女を離せッ!!」

「あ?何指図してんの?」


 手を出してもリングの反応しない2人。完全に自由だと飢えた獣のようにフェルノラに手を這わせようとする相澤。一方的に攻撃してくる森田。もうどうしようもなかった。


「さ~~て、楽しもうぜぇ?王女様~~♪」

「いや、いやぁああーーーーーーーーー!!!!」




 ヒュンッ




 そして叫び声と共に、まず相澤の姿が『消失』した。


「……は?」

「え、あれ?」


 何のモーションも無く消えた相澤に、及川とフェルノラが呆けた顔になる。周囲は学園を背にして、全て草原。隠れる場所も無い。


 なのに、相澤はどこにも見当たらなかった。突然消えた相方に森田が狼狽えるが、



「い、一体なにg―――――――――――――――――」



 その森田も『消失』した。



「「!?!?」」


 ついさっきまで絶望的だと思っていた状況が、唐突に終わりを迎えた事にどう反応すれば良いか分からない2人に、『姿を見せた妖精』の言葉が掛かる。




「お待たせ。ごめんね、ちょっと設置に戸惑って遅れちゃったんだ。2人とも無事?」


 それは、やはり彼女だった。



「あ、アイドリーさん?」

「えッ!?」

「はいよー、アイドリーさんです。ふむふむ、及川君が重症か。じゃあ、ほいっと」


 突如現れたアイドリーが指を振ると、及川が一瞬で『全快』した。更に2人の服の汚れや埃も無くなり、綺麗な身形に早変わりする。



 やることなすこと姿形も何もかもが突拍子なく勝手に進んでいってしまうので、フェルノラはアイドリーが目の前に来るまで思考が停止していた。


 しかし正気を取り戻した瞬間、ガシっと両手でアイドリーを掴むとブンブン振って問い詰め始めるのだった。


「……っは、どういうことですのアイドリーさんッ!!可及的速やかに説明なさいッ!!」

「するから、するから揺らさないで~~~」

「ちょっ、そんなことしちゃ駄目だよフェルノラさんッ!」







「な……なんだここ?」

「わ、訳わかんねぇ……一体何がどうなってんだ……?」


 2人が跳ばされてきたのは、テルベールが少し離れた場所だった。目視で学園は見えた為、そう離れてはいないと安心する。しかし、問題はどうやって2人をこんな場所まで跳ばしたかだ。


 だが、それは直ぐに知れることになる。何故なら、それをした張本人が2人の前に現れたのだから。



「はろー勇者達。初めまして、かな?」

「て、てめぇは……及川達と一緒に居た」

「そう、君達で言うならドリーという名前だけど、今一度自己紹介をしてあげよう」


 冒険者の服に白いローブを身に纏うピンク髪の少女が、虹色の眼で2人を視界に捉えた。あの時とは違い、圧倒的なまでの威圧を放ちながら。



「私は『妖精の宴』のアイドリー。奪われた物を取り返しに来た者だよ」




 本体のアイドリーが、2人に引導を渡しにやって来た。

「おい、あっち凄い戦闘音鳴ってんだけどッ!?大丈夫なのか!?こっち来ないよなッ!!?」

「あ、あの、私来たばかりでまるで状況が読めないのですが……」

「落ち着いてバゴットさん、ブジス先生。アイドリーが行ったから大丈夫だって。勇者倒すの慣れてるし」

「「慣れ!?」」

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