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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第140話 学園祭 3日目

「……」


 広場の一角、噴水の前でフェルノラは彼を待っていた。制服も髪も昨日の夜の時点ではボロボロ、メンタルも最悪だった。


 しかしそれらは、アリーナのメンタルケアとアイドリーの天上のマッサージとキューティクルケアにより全て元通りに、いやそれ以上になっている。軽い薄化粧もしたし、髪のセットも完璧である。




「フェルノラさん!!」

「あ……及川様!」


 そこに、想い人である及川が手を振りながら走ってきた。フェルノラも控えめな仕草で手を振って応えた。お互いが近い距離で対面し、その姿を確認し合う。



 端から見れば子供と大人な2人。頭1つ分の身長差なのだ。一般客からしてみれば何の待ち合わせだろうかと首を傾げるだろうが、生徒達は皆彼等がどんな間柄であるかを知っている。そして、



((ああ、今日勝負するんだな……))


 と、考えていることが一致していた。



「すいません、待たせてしまいましたか?」

「い、いえ、私が待ち切れなくて早く来てしまっただけで……」

「そ、そうなんですか……」

「う、あぅ……はい」


 まだ本来の待ち合わせの時間まで30分はあった。余裕どころか朝ごはんを食べる時間すら残っている。だがお互い朝飯はまだ取っていない。


 いつものように固まってしまう2人だが、このままでは悪戯に時間を消費するだけなので、及川は手を差し出した。精一杯の微笑みと一緒に。


「……行きましょう、フェルノラさん」

「……はい、よろしくお願いしますわ」





 そうして、2人は仲良く手を繋いで歩き出した。よしよし、無事始まったね。『妖精魔法』で遠くから見ていたけど、及川君ちゃんとエスコート出来るみたいで安心したよ。

 

 しかしふむふむ。恥じらう乙女を遠くから眺めるのもまた一興だね。


「そんじゃあ私達も行こうか?」

「うん、バゴットさんは準備大丈夫?」

「おう、問題無いぜ」



 私達は魔道具研究塔の前で集合していた。バゴットがいつになく身綺麗な恰好なのは学園祭だからなんだろうけど、私達魔道具の紹介とかしないよ?


「いいんだよ。どうせ汚れるけど、様式美みたいなもんだ」

「ふーん……じゃあちょっと良いことしてあげよう」


 私はバゴットの制服に触れて『妖精魔法』を発動、『コーティング』をした。これで諸々の『汚れ』は防げるようになる。


「今何したんだ?」

「ただのおまじないだよ。ほら、運ぼう?」

「お、おう……」



 大量に作った弾と魔導弾砲を今日1日で夜までに運んで設置する訳なんだけど、勿論こんなに大量にあるから通常の手段では不可能だ。我ながら複製し過ぎたなぁ材料。


 で、バゴットに事前に持っていこうと言われていたけど、私はある方法があるから問題無いと言っておいたのさ。何事も使える物を使ってかないとね。


「で、どうやって持ってくんだよ……これ」

「まぁまぁ」



 こんな時に役立つものがあるのですよ。えーと、『妖精魔法』でまずは倉庫に入ってる物を『浮遊』させて全部外に出します。


「……は?」


 次々と出てくる弾砲と弾の数々に目を点にするバゴットは無視する。次に空中で漂っているそれらを『妖精魔法』で範囲指定して、『空間魔法』で収納した。はい、一瞬で全て仕舞えたね。


「ということよ」

「……俺は、死ぬのか?」

「発想が飛躍したね。何想像したのさ……」


 どうやら知ったら口封じに殺される類のものだと判断したらしい。まぁそういう簡単便利な手段あるなら普通魔道具に頼らないもんね。空間拡大したバックでもここまで入らないだろうし。


「珍しい魔法ぐらいに思っといてよ。入れるのは簡単だけど、外で出した後に設置するのが大変なんだから。ちゃんと図面通りやらないといけないんだしさ」

「私が指示するから、バゴットさんとアイドリーで設置してって?」

「お、おう」


 そうして急な光景に戸惑いつつも頷くバゴットの背中を押しながら、私達はテルベールの外に向かったのだった。





 とある地下実験場にて、森田と相澤はある物に乗って練習を続けていた。大分乗りこなせるようになり自由な機動を可能にしようと練習をしていたのだが、存外操作性が良かので楽しみながら乗れるようになり、2人は大変満足していた。


「これ面白いな……これで戦えるとか、完全に時代変わるんじゃねぇか?」

「ああ、こんなもんが売れるようになったら近未来だな。それに、これに俺の聖剣特性も合わせれば怖いもん無しだぜ」


 そう思えるぐらいそれは『魔道具』として完成度が高かった。少なくとも地上の魔物ならこれ1つで殲滅出来ると思えるぐらいに。


「気に入って貰えてなによりだ。そして素晴らしい乗りこなしだよ。ここまでとは予想していなかったな」


 そこに拍手をしながら現れるマートンに、瞬時に2人はしかめっ面になった。森田に関しては備え付けてある武器を向けている。だがマートンはまったく余裕が崩れる事なく笑っていた。彼からしてみれば、2人はただの『生徒』と変わり無い。


「おや、折角そこまで使えるようになったのに、乗れなくなりたいのかな?」

「……っち。冗談だよ」

「それは結構。今日の夜、及川君はガルアニアの王女と一緒にテルベールの外に出る。その時に出て貰う予定だから、今の内に休んでおきたまえ。食事もある」


 彼としても、万全の状態で扱って貰わなければならないからこその配慮だった。正確なデータが欲しいというのもある。より良い『玩具』を作る為にも。


「へぇ、そうさせて貰うぜ」

「飯の中に変なもん入ってねぇだろうな?」

「屋台で買ってきたものだ。そんなもの入らんよ。ではまた後で」



 軽く流して出ていく理事長を最後まで睨み付けると、2人はその魔道具を脱いで用意されている部屋に行った。


「……本当に屋台飯だなおい」

「まぁ良いんじゃね?タダだし」

「確かになぁ」


 とっとと食べ散らかしてベッドに横になると、お互い特に話すこともなく就寝した。


 全ては及川を『殺し』、この学園という牢獄から抜け出す為に……







 僕は今、人生で初めてデートをしている。しかも相手は一国の王女様なんだけど、そこらへんは僕にとってはどうでも良くて、ただ一目惚れしてしまっただけなんだ。


 最初は『勇者』って肩書が凄く邪魔で、僕はこの学園を卒業すると同時に聖剣と聖鎧を寄付してしまおうと考えてすらいたんだ。強い力なんて要らないし、そんなの無くても十分過ぎるぐらいのステータスだって自覚はあったから。

 だから冒険者になって適当な地に住んで静かに暮らそうかとも最初は思ってたんだけど、彼女、フェルノラと出会ってしまった。



 フェルノラとの出会いは、レストランで1人食べている彼女に森田と相澤が絡もうとした時だった。腕を捕まれ嫌そうにしているその姿が見てられなくて飛び出したんだけど、いざ近くで見て………こう、やられてしまったんだ。


 そのままあまりにしつこい2人と模擬戦をすることになったんだけど、聖剣特性が使えないとはいえ、2人掛かりの彼等にボコボコにされて無様な姿を生徒達に、フェルノラに晒してしまっていた。あれは悔しかったなぁ……


 その場は結局理事長が来て重い厳罰を2人に与えて事なきを得た。僕はというと、起きるまでずっとフェルノラさんに看病されてた。


 死ぬほど恥ずかしかったけど、死ぬほど嬉しかったのを覚えてる。




 そんな彼女と、今、僕はデートをしているんだ。


「えっと、大丈夫?怖くない?」

「だ、だだ、大丈夫ですわッ!し、した、下調べ、は、完璧です、わッ!!」

「あー……じゃあほら、僕が怖いので、しっかり掴んでてもらえると嬉しいです」

「お、お任せですわッ!!」


 これ以上無い程密着しして、僕達はお化け屋敷の中を進んでいる状態で。


 うぅ、柔らかいなぁフェルノラさん。身長差の所為で胸が顔に近い位置で当たるんだよなぁ……こんな小さい僕でも、ちゃんと男だよなぁと情けなく感じるけど、……うん、確かに少し怖いなこのアトラクション。


「おっと」


 今も小細工なのか、スライムみたいな物が天井から降ってきた。手に付く事なく落ちたからいいけど、彼女を引っ張ってなければ頭に落ちていたよ。


「あ、ありがとうございます及川様……」

「え、ああ、うん。大丈夫、なるべく僕にくっついていれば安心ですよ?大体の物から守れますから」

「あら、私そこまで弱くありませんわよ?」

「王女様はお強い?」

「その通りですわ♪」


 そんなやり取りも出来て、少しだけ和む。

 


 けどその後、結局怖くて2人で走ってしまった………手は離さなかったけど。けど2人で顔を見合わせれば、可笑しくなって笑ってしまった。それだけで、元気になれた。



「じゃあ、次行こうか……フェルノラ」

「ッ!……はい、奏太さん」

「しっかし、毎日違う魔物の肉食えるってすげぇよなぁ」

「食料にだけは困らねぇからなぁ……クソつまらねぇけど」

「だけど……なぁ?」

「ああ……」

「「何の肉かが分からねぇ……」」

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