第139話 学園祭 2日目
「ふぉ~~~~………お腹減ったッ!!」
「うぇ~~い、ふらふらだ~~い♪」
「もう、一日中寝ているからですわ……」
「「おはようフェルノラ」」
「……おはようございますわ、『アイドリー』さん。『アリーナ』さん」
「「……ほよ?」」
「ふっぐっ……負けませんわッ!!とっととキリキリ話すのですわ!!」
いやいや、そんな鼻抑えながら言われても……
学園祭二日目の朝は、自分達の腹の虫大合唱とフェルノラの詰問から始まった。あー……ああ、マゼンタさんが来たんだね。名前だけは教えて貰ったみたいだ。ある程度バラして良いとは言ったけど、律儀だなぁ。
「話すのは良いけど、まずはご飯ね」
「ドリ~私まだ眠いにゃ~♪」
「もう普通に言って良いんだよリーナ?あ、違う違う。アリーナ。起きないとイタズラするぞ~♪」
「はにゃんッ!?」
……前よりも育ってるな。いや、そこまで毎回触ってないけどさ。
「う~~、お返しッ!」
「え?あ、あはははははッ!それ反則だよ~~ッ!!」
「お、アイドリーも大きくなった?」
お礼のくすぐりで戯れた後、私達はフェルノラから呆れた顔されながら朝食にしたよ。アリーナのあーんが今日も多かったけど、素晴らしく嬉しそうだったので放置。
さーて、屋台は沢山出てるだろうから、今日は食べ歩きしながら遊ぶかなぁ。説明は……まぁ歩きながらで。バゴットとは明日の朝から準備する予定だし、今日一日は自由行動だね。
「で、何が聞きたいのかな?今度はちゃんと教えてあげるよ」
「では1つ目……何が目的でテルベールに?」
「それか。ラダリアが再建されたのは知ってる?」
「ええ、父から聞いてはいますわ」
なら話は早いね。私は手に持っているオーク肉の串焼き、うん、今回は何の肉が分かったよ。で、それを食べながら説明した。及川君の話は濁すけど。
彼の場合は2人の問題になるから、出来るだけ私は干渉する気が無いし、彼に関しては咎める気も無いもん。
「つまり、盗まれた物を報復も兼ねて取り返しに来たのですわね?」
「そゆこと。あー美味しかったぁ」
「まんぷくまんぷく♪」
アリーナは串焼き+クレープ+私の造った世界樹蜜カキ氷を食べてご満悦である。何か今の状態を保つ為に結構カロリーを消費しているらしい。いつもよりも食べる量が多いんだよね。ちょっと羨ましい。
フェルノラは少し悩むような仕草になり、意を決して訪ねてきた。
「それは、及川様も関わっているのですか?」
流石に勘付くか。もしかして聖剣特性を知ってるのかな?だとしても、私は答えないけどね。
「それに関しては本人から聞いた方が良いと思うけど、これだけは言っておこうか。フェルノラは気にする必要は無いよ。それを踏まえて、私は貴方達を3日目に回らせることにしたんだから」
「……わかりましたわ」
よしよし、まぁその問題は当人達で解決しないといけないことだからね。まぁ辛気臭いお話は明日全部吹っ飛ばす予定だし、今日は楽しもうよ、ね?
「で、クアッドなにやってん?」
「おおアイドリー嬢。こんな所で会うとは奇遇ですなぁ♪」
のっけから知り合いに会いました。というかガチの身内だった。手には沢山の景品を抱え、鼻眼鏡を掛けた老紳士のクアッドがそこには居たのだ。
この妖精そこらへんの子供よりも楽しんでるなぁ。
「ガルアニアで招待状が1つ余っているというので、向こうのアイドリー嬢に行って来てはどうかと勧められましてな。いやはや、来て正解でしたな」
「わぁ、クアッド良いなぁ。アイドリー、私達も早く遊ぼうよッ!」
「分かってるって。じゃあねクアッド、ゆっくり楽しんでってね」
「ええ、そうさせて頂きましょう♪」
ルンルン気分で去っていくクアッドに、道端の生徒の何人かがテンションを上げていたけど、一体何が…?まぁ良いか。
「あの、あの方は?」
「え?ああ、私達の冒険者パーティ『妖精の宴』の1人だよ。私と同じで観光が趣味なの」
「フットワーク軽いですわね貴方の身内……」
そりゃあ、全員人じゃないしね。
「これは……ホラーハウスってやつかな?」
「ひゅ~どろろって何の音?」
「薄気味悪いですわね……」
最初にやってきたのは、1つの多目的ホールを丸々お化け屋敷にしたようなアトラクションだった。へぇ、こういうのも初めて見るなぁ。説明書きには、『心臓の悪い人、単純に弱い人は事前にお伝え下さい』と書いてあった。どうやら、人によって難易度が変わるらしい。
早速銅貨1枚で入ってみた。超リーズナブルだね。
「暗いし、何かこう……香しい匂いがする」
「私もするね」
「お互い抱き着いているからでは?」
「「……あっ」」
うん、暗いからいつもよりも臭いに敏感になるよね。アリーナの甘い匂いが心地良い。
どうしよう、全然怖い気持ちにならないや。
ひゅ~~どろどろどろとBGMが流れ出すと、どこからともなく何かの呻き声が聞こえた。声だけ似せてるって感じかな。本物は声だけで呪われそうなぐらい悍ましいからなぁ。
「うひぃっ!な、なんですの?モンスターですのッ!?」
「だとすると一瞬でこのアトラクション閉鎖だと思うよ?」
「何だかアモーネを思い出すねアイドリー」
「ああ、確かにね」
あの鬼畜ダンジョンね。そういえば苗の頭叩くのスッカリ忘れてたなぁ……流石にあの世には会いにいけないもんなぁ。
お、続々と壁が回転してゾンビっぽいのが出て来たね。リアルだけど動きが固いね。ダンジョンのはもっと俊敏だったよ……あれは例外か。
「うひゃぁ~なんであんなに腐ってるのに動いてますの!?なんで目玉が無いのにこっちに一目散に這い寄って来ますの~~!?」
「それがお仕事だからだよ。ほら、横のドア空いたから行こう?」
キィ……っと音と共に入口の横にあった扉がひとりでに開いた。どうやらこういう脱出ゲームみたいだね。
スタコラ入って扉を閉めると、中は屋敷の一室のような空間だった。よくよく見れば、どの調度品も手作り感がある。
「お、机の上に何かあるよ?」
「ん?……「席に座れ」だってさ」
「もうなんなんですのよ~~~」
「こういうの苦手だったんだねフェルノラ……」
しょうがないので2人で挟むようにしてフェルノラの横に座ると、ひしっと腕を掴まれ抱かれた。可愛かったので頭を撫でていると、多少顔色が良くなったのか「もうちょっと……お願いしますわ」と言われた。ん~尊いお嬢様だ。
ガコン
「「「ん?」」」
音の先には、壁に掛けられた絵画があった。先程まではあんなに『傾いて』はいなかったけど。絵画はツボを持った女性の姿が描かれていたが…………その眼がこちらを向いた。
「イヒッ♪」
「「わお」」
「ひやぁあ~~~~!!」
おぉう壁を這い出してこちらにもうダッシュしてきたよ。しかもこれ人間じゃないっぽい。魔道具の類だ。
「いいね、あれ欲しいッ!!」
「欲しく無いですわ捕まりたくありませんわ逃げますわ~~~~ッ!!」
フェルノラは絶叫を上げながらまた開いた扉の向こうに走って抜けるが、
ベチャッ
………スライムもどきが頭に振って来た。ああ、良かった。どうやら感触だけで髪や肌には付かないっぽいね。良かったよ、フェルノラの綺麗な髪が汚れなくて。
「……―――――――――――きゅぅ~~」
「よし、走ろっか?」
「はいよ~♪」
フェルノラがダウンしたので、抱えてとっとと脱出しましたとさ。いや、ちゃんと一回一回ビックリトラップには引っ掛かったけどね。全部堪能させて満足よ。
で、ベンチでアリーナに膝枕されている青い顔のフェルノラ。ん~これは難しいかな。
「こういう所で及川君と急接近とか出来るんじゃないかなぁって思ってたんだけど。下調べでこれだもんなぁ……」
「こ、これはキツイですわ……」
「ありゃりゃ」
「そんじゃあ次は絶叫系いってみようか」
古い文献を漁って完成させたっていうけど、これ普通の人間が乗ったら首が折れそうだよねって感じのジェットコースターがあった。私の知識に間違いが無ければ、両脇にブースターを取り付けるジェットコースターなんて存在しないと思うんだ。あれ、一体何キロ出てるのかな……?
「フェルノラ、レベル30以下は乗っちゃ駄目だってさ。確か越えてたよね?」
「いや、死にますわよ?というかどこのクラスですかこんなふざけた物作ったのはッ!!責任者をお出しなさ~~~いッ!!」
無論乗せました。大丈夫、汚い物は全部消しといたよ。
午後になると、私達は魔道具展示会を見つけた。この学園祭で最も大きな目玉の1つだから、私としては後の一日ずっとここに居たいとさえ思う。
「アリーナ、私は思うんだ。『妖精魔法』のイメージ力アップを図る為に、若人の発想力を見習うべきだと。だから今日は後の時間ここで過ごそう」
「けどアイドリー、学園祭までの間ちょくちょく他の研究室覗きに行ってたよね?」
「え?いや……えっと」
「その所為で弾の製作遅れて徹夜になったよね?」
「……うす」
「もう良いよね?」
「……はい、すんません」
すんません、実はこれでもかってぐらい他の研究室に顔出しに行ってました。いや、ちゃうねん。そう……これは息抜きしてたのよ。息抜きしている先が他の研究室だっただけの話だったのよ。
だって、もう何パターン考えたが分からないぐらい作ったんだもん。頭が破裂しそうだったのよ?
ちぇ~、しょうがない。普通に面白い場所は他にもあるし、そっちを回るとしよう。さぁ立つんだフェルノラ。私達の歩みは夜になるまで止まらないのだよ!!
「もう、ギャフンと言うので、許して下さいまし……」
「流行ってるのその古の悲鳴?」
「ぶしぇいッ!!……グス、風邪かな。『状態異常』無効なんだけどな?」
「噂してた~♪」
「あ、そうなの?」
「みか~、ぎゃふんってな~に?」
「えっ……えーと、古の悲鳴、かな?」