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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第136話 仕掛け

 現在、学園内では様々な生徒に話し掛ける青色の女生徒の噂がこの2週間出回っていた。


 曰く、一応は高級品である筈の紙を大量に持って特定の人間に1枚ずつ配っているのだと言う。そして渡された人間は、何事かを書いて魔道具研究塔の入り口に置いてある箱の中に入れていくらしい。


 そして、更にそこから1週間後、沢山の紙が入って重くなった箱を見た青髪の少女は、満足そうな笑顔でそれを抱え、塔の中に走り去った。





「ドリー、一杯入ってたよッ!!」

「ん?ああ、もう朝か。どれどれ……へぇ、やっぱり皆青春してんだねぇ。見なよバゴット、貴方これを打ち上げるんだよ?」

「あん?…………マジかよ」


 箱に入っていた1枚の紙を摘まんで見ると、うげぇっとしながらバゴットは頭を掻く。マジかよって、説明したでしょうに。その為に今まで私も手伝ってたんだからね?もうどんだけ弾を作ったのか覚えて無いよ。今日も徹夜しちゃったし。



 ああ、けどこの最初の1枚は危ないね。バラドクス先生のなんだけど、男性でありながら女性の道を歩む求道者なんだよ。それで内容が男子生徒を求める声だから問題になってしまう。ごめんねバラドクス先生。流石にこれ打ち上げたら教員として問題になっちゃうよ……



「じゃあリーナ。魔力は既に込めてあるから、後は貴方が1個ずつその紙通りにしてあげて?ちょっと私は寝てるよ」

「俺も寝るわ~」

「分かった。後は私に任せてッ!!」


 アリーナがそう言うと、バゴットはその場の床で、アイドリーは机の上で寝息を立て始めた。2人に毛布を掛けると、そこら中に転がっている弾を集めていき、紙を見ながら弾に向かって『妖精魔法』を発動する。


「んふ~ふ~ん♪」


 その作業を喜々として始めたアリーナは、2人が起きるまで延々と没頭し続けるのだった。




 くぁ~~~……おはよう、アイドリーです。ん~この塔って泊まり込み可だから、ここ2週間宿舎で寝てないや。身体のあちこちがバキボキするよ。アリーナ?好きにさせてたけど、夜は私と背中合わせになって寝てることが多かったね。起きてる時は作るの手伝ってたけど。


「おはよ~、ぐっすりだったね」

「おはようございますわドリーさん」

「うん、おはよ……おや?」


 見れば、フェルノラが丁度ご飯を机に置いていたところだった。もしかして差し入れかな?良いねぇ~ポイント高いね~。


「何ですのその眼は?」

「ん~ん~なんでも~♪リーナ、進捗はどんな感じ?」


 ぽや~んとした顔で微睡のような眼をしながら作ったものを見渡し、


「今で3割ぐらいかな?もっと掛かると思ってたんだけど、慣れたら作業が早くなったよ」

「それは何より。じゃあやっぱり問題はこっちか……」


 まだまだ弾が足りない。ちょっと本格的に本気出さないといけないかなぁ。バゴットの手前『妖精魔法』は最低限で済ましてたけど。

 手作業も楽しかったからそれも良かったんだけど、今の弾数じゃまだ全然足りないからね。本腰入れようか。リーナの分は既にあるんだし、大丈夫だろう。


「フェルノラ、そういえば及川君はちゃんと誘えた?」

「……誘われましたわ」

「お、やったね。リーナ、へーい」

「へーい♪」


 ハイタッチで友人が上手くやったことを喜んでみた。こういうのが上手くいくと私達も嬉しいもんだ。よし、今日は前祝いしないとね。


「バゴット、今日は盛大にやるよ。フェルノラの将来の伴侶が決まりそうだからね」

「お、ならやらなきゃか?」

「飾り付けする?沢山華やかにしてあげるねフェルノラッ!」

「一々暴走しないと気が済まないのですか貴方達はッ!?」


 そりゃあノリだもん。止められないし止まらないよ?



 そういえば、バゴットってフェルノラと知り合いぽかったけど、どういう経緯で知り合ったの?


「あー……元は、その女がこの塔に来たのが始まりだったな。とにかく最初は関わらねぇようにしてたんだが、事あるごとに文句言いやがんだよこいつ」

「まぁ!?貴方が一々私の欲しい素材を奪うからじゃありませんのッ!!」

「俺は魔道具学科なんだから優先されて当たり前だろうがッ!!」


 という口喧嘩が2年の終わりまでの日常だったらしい。お互い魔道具の論争になったりもして良い友人関係だったそうだ。けど3年になってからフェルノラが来なくなったから、2人の関係も自然消滅していったとか。


 その理由をバゴットも知っていただけに、口出す気も無く、自分の現在も危うかった為に構う暇が無かった。対照的だなぁ君等。


「バゴットがお金に困っているのも知っていたのですが、この男、私が支援金を渡そうとしたら跳ね除けましたのよ?ぶん殴ってやりましたわ」


「お前が俺のクラスまでやって来て渡そうとするからだろうがッ!!あんな大勢の野郎共の前で受け取ってみやがれッ!!俺が殺されるわッ!!!」


「フェルノラ、ギルティ」

「ドリーさんッ!?」


 いや、バゴットのクラスって職人気質の人しか居ないって聞いてたからさ。出会いも無くて皆泥臭い青春の中で生きてきたらしい。そんな中で美少女がお金渡しに来たら、そりゃあ、ねぇ?

 で、それ以来更に犬猿な仲に磨きが掛かったらしいんだけど、今の様子を見ている限りじゃそこまででもないみたいだ。


「ていうか、どうして支援金なんて渡そうとしたの?」

「それは勿論、我が国で雇うつもりでしたので。父にも優秀な人材は勧誘して来いと言われていましたのよ。この男のことはその点では認めておりましたから。研究気質の馬鹿なので、お金の管理だけさせれば使えると思ったまででしてよ」


 それで即座に行動ですか。行動力パないっスね姉さん。

『アイドリーの方があるよ?』

『それを言っては駄目よアリーナさんや』


 私はほら、ノリだし。行動のおよそ8割ぐらいは気分の赴くままに動いてるからね。



「俺は、世話になる国に最初から迷惑になるのは嫌だったからな。せめて自分の研究成果が形になって認められるまではとは思ってたんだよ……受け取らなかったのは、悪かった」

「……良いですわよ、別に」


 ということで、バゴットの将来も決まったようだ。ガルアニアのお抱え魔道具製造師か。いいね。今はここまで話は届いてないけど、ラダリアのことが全世界に広がるようになったら、是非工場に招待したいね。






「来たかね」

「何の用だよ。もう来るなって言われた気がすんだけど?」

「最近はなんもしてねぇぞ?」

「毎日どこかしらでブザーを鳴らしておいてよく言う……」


 理事長は問題児達ある場所に呼び出していた。相澤も森田もふてぶてしい態度だが、理事長の次の言葉に、耳を疑うことになる。


「今日はある条件を呑めば、君達を卒業させてあげようと思って呼んだんだよ」

「「……はぁッ!?」」


 とある物を指差し、驚いている暇も与えず説明を始める理事長は、自分の造った玩具を見せびらかすように笑顔だった。2人も落ち着いて聞いてみれば、それはとても楽しそうだと笑う。


 とにかく退屈を吹き飛ばすような刺激が欲しかったのだ。



「とまぁ、こんな感じになる。試作機なんで慎重に扱って貰いたいが、傷付けなければ多少手荒な操作は許そう。どうだね?引き受けてくれるかな?」


 ん?っと2人に目を向けると、相澤が隠し切れない笑みを浮かべて確認した。


「……で、その変わり卒業か?」

「学園としても、留年しっぱなしの勉強嫌いな生徒をこれ以上置いておく程無駄なことはしたくない。ハーリアからの事もあるが、もう数年経つんだ。いい加減に帰ったらどうかね?」



 言い方は非常に癪に障るが、確かに彼等は鼻からやる気など無いのでそれは納得している。此処に居るよりはハーリアで悠々自適に暮らす方が遥かにマシだと思う相澤と森田は、それに乗った。


「へっ、良いじゃねぇか森田。やろうぜ?」

「……だな。受けるぜ理事長。相手は誰だ?」


 快い返事を貰い、冷笑を浮かべた理事長は、2人もよく知る人物だった。



「及川 奏太。『消失』の勇者様さ」







「まったく、王も人使いが荒いことだ……」


 ガルアニア王立騎士団、団長のマゼンタ・ナイルズ伯爵は、テルベールに向かっている馬車の中で、自分の仕える主君に悪態を付いていた。アイドリー達からの連絡が入ったのが発端だったのだが、それを自分に任せると言うから頭を抱えてしまう。


 彼女とて騎士団の長なのだ。自分の仕事もある。2週間も国を離れれば、自室の机の上はきっと山となっていることだろう。


 そこに来て『学園祭』の招待状だ。毎年のことなので特に驚くことではないし、いつもは適当な貴族に行かせてしまうものだった。


 しかし今回は、ラダリアの件が絡んでしまっている。彼女は『神代魔道具』の奪還を目的としているアイドリー達と共闘しなければならない。ということは、必然的に彼女を知っている人間が参加しなければならない。


 その中で戦力的に申し分ない人間だと言われれば、マゼンタが行く以外の選択肢は無かった。それだけならまだ彼女も許容出来る範囲だったのだ。



 付き添いの人間が、普通であれば。



「お姉様ッ!!今日も良い天気ですッ!!魔物狩り日和だと思いませんか!?」

「トゥイーレル、手綱を持っていろ。顔をこちらに向けるんじゃない……」

「了解しましたッ!!」


 彼女こそ、武闘会にてアイドリーと剣を交えた騎士、トゥイーレル・アルダースその人である。



 他の騎士団は皆忙しく、その中で唯一暇をしていたのが彼女だったのだ。騎士団の中でも屈指の実力を持っているのだが、性格がマゼンタ限定で変わるのだ。どう変わるかと言えば、曇りなき眼で24時間羨望の眼差しを向けながら完璧に御者で馬の操作をこなすぐらいには変わる。


 普段は厳格で人に厳しく見えるが、マゼンタの話題を出す瞬間だけでも人が変わり、その良さを1日が終わるまで延々と話し続けてしまうので、マゼンタとしては彼女だけとは一緒に行きたくなかった。



「ほら、お姉様ッ!!向こうにオークが寝ていますッ!!叩き起こして切り刻んで来てよろしいでしょうかッ!!」

「急いでいるから止めなさい。馬車を止めたら置いていくからなトゥイーレル」

「了解いたしましたッ!!…………ふへへ、名前2回も呼んで貰えたぁ♪」

「……」



 マゼンタは憂鬱だった。これから約1ヶ月、彼女と旅路を共にする事を考えると、夜も彼女を監視しなければならないのだから……貞操の危機も感じていた。

「団長ッ!!今日は添い寝してもよろしいでしょうかッ!!!」

「交代で見張りに決まっているだろうが」

「……」

「…………トゥイーレル」

「了解しましたッ!!!」

「……はぁ」


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