第135話 甘さは濃い濃い
おはようございます、アリーナです。いやぁ、こんな長い間こっちの私でいられるのは初めてだからかな。すっかり落ち着いちゃったよ。まぁちゃんと自覚してアイドリーを愛でてられるから良いんだけどね。
それで、私達が今話していた話題は『学園祭』っていうものについてだよ。
年に一度、学園で催しされているお祭りで、色んな国から人が来るんだって。ってことは、私達の知り合いも来るのかな?一杯色んな出し物があって毎年盛り上がるって言うんだけど、学生達にとっては自分をアピールする事にも繋がるらしいね。
ふへぇ、私達もただ楽しむんじゃなくて、何か用意した方が良いのかな?アイドリーも何か考え始めてるみたいだけど。
む~……
「どしたのリーナ?そんなに頭グリグリしながら唸っちゃって。痛いの?」
「色んな意味で痛いかな~」
「フェルノラ、今日学校を休むね」
「あ、ごめんドリー止まって止まって」
さて、学園祭か。前世でも私見た事無いんだよなぁ……学生のお祭りって事は知ってるんだけど、ぶっちゃけハバルと変わり無いと思っていた。けど学生達のアピールする場ともなれば、色々と個性的な物が出そうだね。
私達にはアピールする相手は居ないけど、どうせだから祭りに紛れて盛り上がらせてみようかな?う~~~~~~~ん……
「フェルノラ、学園祭まで後どのくらいなの?」
「えーと……後1ヶ月ですわね。何かしますの?時間も少なくて大した物は作れないのでは?」
「1ヶ月か。それなら……出来るかな。及川君の事も考えるとぉ~……よし、リーナ。1個考え付いた」
「お、なになに?」
私が絵も使って計画を話すと、いつものように眼を輝かせるリーナ。私も凄い遠い所から見た事あったから、昔はこんな顔してたなぁ。
「あ……なら……ふむ…ふむ……ドリー、それに1つアレンジ加えて良い?」
「お、良いよ良いよ。是非教えておくれ」
「えっとね?」
それでアリーナの案を聞いて、あーそんなのあったなぁと思い出した。けどそれは良いアイデアだね。ロマンチックにもなるし、是非やろう。
「…………」
あ、やべ。本人の目の前で計画話しちゃった。また顔がトマトのように赤くなってプルプルしてる。そして怒鳴る事も無く机の上に突っ伏した。あらあら、湯気が出てるよ。
「えーと、フェルノラ?」
「無理ですわ~……そんな勇気、私にはありませんわ~……」
「うん。恥ずかしいのは分かるんだけど、とりあえず理事長室の場所教えて貰って良い?」
「私の状態はスルーですのねキチドリーさん」
「キチドリーってあーた……」
「ていうことでして、やって良いですか?」
理事長に会うのはこれで2回目、いつもは忙しいと門前払いされるからきっと無理だとフェルノラには言われてたけど、すんなり入れてくれたよ。
理事長は茶髪の細いおじいさんで、身形は良いが、ボロボロの白衣を肩に掛けていて、少しだけ不気味さを感じさせる。眼も隈が出来ていて、ずっと頭がフラフラしていて不安定だ。
特に注目したのは、全ての指に嵌っている指輪である。皆同じ型だけど、埋め込まれている宝石の形が違うのだ。多分魔道具の類だろうね。
「なるほど、話は分かったよ。で、それを踏まえて聞きたいんだが良いかい?」
「はい、なんでしょう」
「では1つ目、予算はどこから出すのかね?もう既に申請してきた各出し物に学園の予算は振り分けれてしまっているよ?」
「ご心配なく。これまで稼いできたお金で事足ります」
手に持っていた金貨の袋を掲げて、ニカっとアリーナが笑う。
「では材料は?今から発注するにも間に合うまい。というより、これは何が材料なんだい?」
「それは秘密です。問題無く作れる、とは言っておきます」
「宜しい。人員は?」
「2人……いや、3人で問題ありません」
「場所は?」
「都市の外が望ましいです。出るのは学園祭最終日の夜だけで構いません」
「理由は?」
「絶対に盛り上がるからです」
まるで、予め決められていたかの様に流れていく会話。
私は勿論答えを準備して来たけど、この人も分かってて言っている節がある。まぁこの人の権限なら大抵の事は出来そうだし。
「……良いだろう。許可するよ。ただし、外に出る際に教師を1人付けさせて欲しい。君達のステータスなら問題は無いと思うが、一応生徒を守るのは教師の義務なのでね」
「構いませんよ」
「では了承しよう。大いに学園祭を盛り上げてくれたまえ」
「「ありがとうございますッ!!」」
おっし、無事許可貰えたし、早速行動に移さないとね。
「楽しくなってきたね♪」
「うん、すっごい楽しみッ!」
数ある広場に設置してあるベンチに座り、フェルノラは悩んでいた。今年の学園祭の事で。本当は自分もそうしようと思っていたのだが、アイドリー達が予想以上にノリノリで『御膳立て』をしようとしているのだ。しかも学園内のほとんどの学生を巻き込むような『御膳立て』を。
「本当にヤバいですわ……」
「どうしたんですか?」
「いえ、ちょっと友人というかお節介さんというか彼女達の行動に頭を悩ませ……て?」
「こ、こんにちわ、フェルノラさん」
「――――――――――――――――――――ッ!?」
一瞬の思考停止後、立ち上がって乙女の全力ダッシュ。フェルノラは逃げ出した。
「え?あれッ!?」
「顔なんて見れませんわぁぁ~~~~~ッ!!」
「待ってフェルノラさぁぁ~~~~んッ!!」
数秒後、ステータス差で及川に追い抜かされて鎮火し、ベンチに戻って来て2人で座る。2人の間は1人分の空間が空いていたが、今回は及川が攻めた。
「あの……来月の学園祭、なんですけど。最終日、一緒に回りませんか?」
「ふぇッ!?え、あぅっ」
まさか同じ事を考えていたとは知らず、あわあわと挙動不審になり始めるフェルノラ。実は及川も、先程遭遇したアイドリー達に絶対に誘うように言われていたのだ。
彼としても、今年はフェルノラと一緒に居たかったので、言われるまでも無かったが。
「駄目……ですか?」
男なのに『可愛い』という言葉が似合う及川に見つめられて、益々震えが大きくなっていく。いくが、ここで返事をしないなんていう選択肢は無い。彼女にとっても今年が最後なのだ。
賢明に、その眼を見て、
「い、良い、ですわよッ!!」
最後の言葉まで言えた。
「ほ、ほんとですかッ!?やったぁッ!!」
男及川21歳、初めてのデート相手が一国の王女様に決定した瞬間だった。周囲の生徒達が見ている中だということも忘れてはしゃいでいる姿に、フェルノラは気付く事無く震えるだけだった。
頭の中は『及川様とデート』という言葉で埋め尽くされており、俯いてないと緩みきってだらしない顔を見せてしまう程に酷かったのもある。
その内、2人は自分達の時間を共有する大義名分を得た事に気付き、今年の注目場所や、美味しい屋台、楽しいアトラクションの事について話し始めるのだった。
離れていた距離は、半分まで縮まっていた。
えー、現在は魔道具研究塔に来ているよ。実は前回、私達に挨拶してきた男の研究に興味を抱き、訪ねに来たのだ。その男は、今も自分の研究に精を出し、煙を巻き上げながら奮闘しているところだった。
「うぇっほ、げっほ、ぺっぺ。くそ、口の中に入りやがった……あれ?お前等……」
「こんにちわバゴットさん。今日は真っくろくろだね?」
「ああ?……ああ、また失敗しただけだ。で、こんな汚ねぇ場所に麗しいお嬢さん達が何の用だい?」
うん、話したいんだけどね。まずはこの部屋をどうにかしようか。何かの儀式かってぐらい壁やら床やらが黒いし。
本人も茶色い髪とか髭だったのに、顔も含めて全体的に黒々しちゃってるよ。
「リーナ、水」
「はいバゴットさんちょっとごめんね~」
「あ?うぉ、うぬぉ~~!?」
そのままバゴットさんを水洗いし、机と椅子、床を多少綺麗にして改めて私達は話を始めた。
私は、バゴットさんの作っている物。前世でよく似た『迫撃砲』みたいな物についての概要が知りたかった。もしも使えるようだったら開発に協力するし、駄目なようならこっちで似たような物を作る予定だった。
「俺のこれは『魔導弾砲』という代物だ。簡単に説明すると、魔法を圧縮した弾をこの筒の中に入れて、レブナント鉱石に刻んだ魔術式で爆発させて打ち上げるって構造になってんだよ」
「ほほぅ……弾はどんなの?」
「ああ、これだ」
手の平に丸々乗っかった固い金属の弾、というか玉だねこれは。叩いてみるとコンコンと鳴るけど、中身がスカスカなのか軽かった。魔力込めたら重くなるのかな?
「そいつは特殊な金属でな。発動した魔法を取り込むんだが、中に入ったら任意に発動させねぇ限り出さねぇんだ。だからこいつを打ち込めば、角度さえ調節すりゃあ結構な距離を好きな場所に落として攻撃出来るようになるんだよ……だが、今はちょっと上手くいってなくてな」
何が問題かと言えば、レブナント鉱石の質だった。なるべく同じ質の物を使っているのだが、どうしても魔力効率に差が出るので。刻む術式を少しずつ調整して変えなければならないという手間が発生する。
これがただの試験機なら問題は無い。だが、もし量産することになれば、それが問題となってしまう。今も、試しに軽い魔法で撃ったら暴発したのだ。他の違う魔導弾砲ならしっかりと飛んで行くという。
「これが攻撃魔法なんかにしてみろ、撃った瞬間に周囲の人間が暴発した魔法の餌食になっちまう。だから、何とかこいつを一定にして組み込める術式が欲しいって訳よ」
「なるほどね……それってさ。多少何か追加機器を配置しても良いの?」
「え?あ、ああ。後で改良して小さく出来そうなら構わねぇけど」
「なら良い物があるよ?」
私が出したのは。一本の刀身の付いていない柄だけの剣。それに私が魔力を流すと、透明な黄色い刀身が出現する。ダンジョンで取って来た『魔光剣』である。実はこれ、フォルナに無理言って借りて来た物だった。ごめんねフォルナ、今はレブナントボードの量産だけで頑張って欲しい。
バゴットさんはその剣を見て息を呑み、恐る恐る受け取った。穴が空く程見つめているね。
「すげぇ……なんだこりゃあ?」
「ダンジョンから出土した魔道具だよ」
「は!?それって神代まdぶぐッ!!??」
大声で叫ぶ前に、自分で口を抑えたバゴットさん。うん、言ったらヤバかったね。超大騒ぎになってと思うよ?
「それ分解して使える術式を解析して良いよ。その変わり、今作ってる魔導弾砲を全部貸してくれないかな?弾は全部買うからさ」
先程理事長に見せた金貨の袋を、そのままバゴットさんに差し出した。といっても、中は十枚ちょっとだけど。
ふっふっふ、実はフェルノラに聞いていたのだよ。バゴットさんは失敗を沢山して、その分沢山の材料を仕入れてたから、成功しないと借金塗れで大変なことになるってことをね。
「……」
机の上に乗せられた袋から見える金貨を見て、固まってしまうバゴットさん。ええんよ、受け取ってええんよ。綺麗なお金だから問題無いんやで……
「私達はたった数ヶ月で居なくなるから、最初で最後の学園祭を大いに盛り上げたいんだよね。その為に、貴方の力が、その作った発明品が必要なの」
「お願いバゴットさん」
「……こんなんで良けりゃあ、是非協力させてくれ。スポンサーさんよ」
固い握手と共に、契約は成立した。さぁて、忙しくなるぞ~~
「ところで、弾は何発分作るんだ?」
「えーっと……今どのくらいあるのかな?」
「大体100ぐらいだが」
「じゃあ後数万発ね」
「桁が跳ね上がってんぞおいッ!?間に合うのかよッ!!!」
「はいこれ追加の金貨10枚」
「ちくしょうやってやらぁぁーーーーーッッ!!!」