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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第134話 暗躍と暗躍と恋愛模様

『アリーナ。フェルノラは寝た?』

『うん、ぐっすりだよ。今日は興奮しっぱなしだったからね。疲れてたみたい』

『よし。じゃあ『妖精』になろうか』

『あいあいさー♪』


 夜、皆が寝静まった頃。隣のベッドで寝ているフェルノラを起こさないよう、私達は行動を開始した。夜に宿舎の外に出ればリングのブザーが鳴るが、『妖精魔法』で解除は可能だし、妖精になれば誰にも見えない。

 夜に抜け出すのは初めてじゃないけど、いつもは月の光を浴びながら星々を見上げている時間だった。今日はお預けだねぇ。





 今夜は彼との密会だからね。


「よく来てくれたね。及川 奏太君?」

「さっきぶりだね。誰にもバレてない?」

「……ああ、大丈夫だよ」


 私達は宿舎の屋上で落ち合う場所にしていた。しょうがない、好きやねんこの場所。周りに遮蔽物は何も無いし。


 で、彼は『聖剣』と『聖鎧』を装備していた。ローブも付けていない。どちらも発動状態だった。


「こんな状態でごめん。けど、僕はこの状態じゃないとリングのブザーが鳴ってしまうんだ……君達が僕の聖剣特性を知っているなら、分かっていると思うけど」


「高坂と日野から聞いているよ。『消失』って言うらしいね」

「……うん。ラダリアが復活してて、2人が元気そうな姿をしてたから、本当に安心してたんだ」

「じゃあ……」



「ああ、僕が……犯人だ…………すいませんでした」



 泣いてはいない……けど、涙は流れていた。誰が言うでもなく、及川君は私達に頭を下げる。


 けど、私達は責めに来たんじゃないんだよ。謝罪にはまだ早い。


「ということで頭を上げて?私達が知りたいのは理由なの。貴方の『消失』は聞いていたのとは違うし、何故貴方は魔道具を盗んだの?」

「…………」

「だんまりなのは……フェルノラの為?」

「……っ」


 反応したね。言えないってことは、だ。


「これも聞かれてるんだね。よし分かった。アリーナ、やるよ~」

「ガッテンッ!!いくよ~♪」


 2人で手を合わせて、『妖精魔法』を発動させる。『隠蔽』をシャボン玉のように発生させ、三人でその中に入った。これはただの『隠蔽』じゃない。私の『空間魔法』でテルベールの結界のように『位相』がズレているから、外からは物理以外何も干渉出来ないようになっている。


 シャボン玉なので、触れられただけで割れるけどね。


「これでもう大丈夫。私達の会話は誰にも聞こえないから、好きなように話せるよ。だから、もう謝るのだけは無し……ね?」


「……分かった」






 森田と相澤は生徒達の宿舎ではなく、教員達の宿舎のすぐ隣の一軒家に住んでいる。派遣とは違い、『罰』としてこの学園に入れられた彼等には相応に重い処置があった。前回の及川との件もあり、それは更に重くなっていた。

 

 そこに素行の悪さも加わり、半ば『勇者』という言葉を利用して隔離したのだ。



「あー……くそ、やっと痺れが取れてきやがった」

「マジありえねぇ……いつになったら出られんだよ……」


 2人は冒険者学科の生徒として名簿には記載されているが、一度として真面目に授業へ出たことは無い。試験もすっぽかし、偶にある模擬戦闘の授業に顔を出すぐらいだった。


 そもそも、そこらへんの魔物など『聖剣』や『聖鎧』を使わなくても勝てるのだから、授業で魔物への対策を教えて貰っても無意味だと思っていた。それの延長で、筆記試験も受けようとは思えず模擬戦闘の授業や試験で相手を甚振るということだけを楽しみにしていた。


 その所為で、彼等は未だに『1年生』。正直な話、この学園内での暮らしは嫌いではない。ただ、この『リング』が無ければの話だが。


 これがあると女生徒を襲えないのだ。勇者の威光で威張り散らしてもそれだけで、暴力も最初の一発だけが限度である。『校則違反』をすればリングが作動し、強制的に身体を麻痺にしてくる為、どうしようも無い。


 『聖鎧』を発動しながらであれば防げるが、『麻痺』を防ごうとすると、今度はリングが物凄い勢いで手首を締め付け始めるのだ。一度、それで2人の手が千切れ掛けた。


 魔力が多い人間である程強度を増すらしく、壊す事も出来ない為、2人は『校則の奴隷』みたいだと思っていた。

 しかし、『校則』さえ破らなければ良いのだ。いや、破ったとしても片方が背負って逃げれば良い。勇者のステータスに敵う者は居ないので、逃げれば捕まることはない。



「なぁ相澤。昨日会ったあの2人の女。何か見覚え無かったか?」

「ああ?……どうだかな。あんな襲いたくて堪らねぇ奴等、そうそう忘れねぇと思うぞ?」

「だよなぁ……」


 彼等は食堂で食べる事が多いが、互い同士以外で友人は居ない、というか作れないのだ。最初は冒険者志望の生徒達が憧れを抱いて気さくに話し掛けて来るものがかなりの数居たのだが、その度に森田達は『友人』と称して絡み、カツアゲしようとしたり、恋人を奪おうとしたり、訓練という名の暴虐を模擬戦闘で行ったり。


 とにかく馬鹿みたいにこの学園の理念とは逆のことをしていたのだから、早い内に彼等に関わる者は居なくなっていた。


『勤勉に励み、未来を想い進む者こそ正しい』


 それに唾を吐き続ける彼等に、居場所など無い。



「お、及川だぜ。またやるか?」

「俺パス。朝から『麻痺』になりたくねぇよ流石に」

「っち、連れねぇやつ」


 そんな彼等は、最近及川の存在を特に疎ましく思っていた。2人と違い、勤勉で、優しく、人を気遣える彼の周りには、友人と呼べる存在がそれこそ幾らでも居た。決して及川は自分を『勇者』として扱わず、『生徒』の1人として周りに接していたのだ。


 2人からしてみれば欲の無い奴だと笑うが、周囲の人間は、そんな彼がとても好ましいのだ。必然的に、及川と2人は比べられるようになった。


 自業自得とはいえ、前々から気に喰わなかった人物が、更に輪を掛けて気に喰わなくなった2人は、彼に嫌がらせをするのが日課になりつつあった。彼の周りの人間を脅してみたり、彼自身を恫喝してみたり、女性を庇わせてみたり。


 何より、自分達がある程度やっても壊れない玩具だったので、彼自身も模擬戦では必ず2人とやることになるのだ。だから喜々としてボコボコにしていた。

 だがそれも最初の1年だけ。どんどん及川は進級し、来年には卒業してしまう。及川は彼等の御目付役ではあったが、朝比奈には『卒業』した後はどうしても良いと言われている為、自分のやりたいことをしようと思っていた。


 それが更に彼等をムカつかせた。


「そろそろ学園祭だし、そん時やる予定だろ?偶には我慢しねぇとな」

「へへ、そうだな。お楽しみは後にとっとかねぇと……」







「2週間が経ったけど。彼等はどうだい、ジブス君?」

「……はい」


 今日は理事長室で向き合っていた2人。ジブスは学園では校長として勤めているが、自分が校長になる前から数十年この学園で理事長をしているマートンの前では萎縮するばかりである。


「……2人は、特に何をするでもなく真っ当に優等生であり、楽しそうに日々を謳歌していました。怪しい行動も見受けられません。悩みを持つ学生には手を貸したりもしていて、人格としても優秀。勉学、身体能力に関しても入学前に調査済みですから……」

「ほら、やはり大丈夫だったろう?」

「し、しかしですね理事長。以前として王女が危険に晒される可能性が」

「リングが付いているのにそんな事起こる訳無いだろう?」

「……」


 興味を無くしたかのように机の書類に目を通し始めるマートンに、ジブスはもう何も言えない。何故彼がここまで恐れているのかと言えば、王女が傷付けば責任は自分に行くからだ。それは何としても避けたかった彼は、今まで以上に慎重だった。


「……抜け穴が無いとは限らないのです。捨て身で何かを仕出かす可能性もあります。もうすぐ文化祭もありますから、それまでは警戒していたいと思います」

「ああ、好きにするがいいさ。仕事さえ疎かにならなきゃ問題無い」

「それは無論のこと……では」


 理事長としては、彼の行動はそこまで見咎めるつもりはなかった。彼からすると、2人の存在は王女のお目付け役という認識だし、校長が見ているというなら、フェルノラの安全は比較的容易だからだ。勇者が来ても校長の権限で止められるし、及川も彼女にはご熱心だ。『彼女自身が外傷を負うようなこと』にはならないだろう。



「あーしかし、こっちも中々終わらないな……」


 理事長は、自分の持っている報告書を読みながら頭をガシガシを掻いた。もう何日もまともに寝ていないので、頭も少し蕩けている。眼の隈などもう何年も取れていない。


「神代魔道具は幾つも扱ってきたが、この手の類はどうにも……技術者もそうだが、扱う者がおらんな……」


 彼は身体を動かすのは得意ではない。なので自分の研究成果を自分で扱うには、些か役者不足だった。

「むぅ……どうするか。ふむ、実験と称して使わせるか?……よし、そうしよう」


 思い付いた事は即実行するマートンは、早速それをする為にいそいそと動き出すのだった。






「んぅ……んふぅ……もう朝……?」


 昨日は久しぶりに及川様に会えて、私はとても幸せな気分で夢に旅立つ事が出来ましたわ。


 最近はずっとあのドタバタコンビにずっと付き合っておりましたが、悪くはありませんでしたのよ?けど、ほら、想い焦がれる相手に対してはこう、色々と違うと言いますか……私は誰に言い訳しているのでしょう。


「さっさと起きま……な、なんですのッ!?」

「「おはよ~♪」」


 起き上がろうと身体の向きを変えようとしたら、既に起きていた2人が私の顔を覗き込んでいましたわ。ま、マナー違反でしてよッ!?にしても、どうしてそんな優しい顔して私を見てますの?なんなんですの?今日は何されるんですの!?


「いやいや、違うんだよ。ただ、ねぇ?」

「ね~♪」

「???」

「にしても貴方達、距離が前より更に近くありませんこと?」

「「えっ……」」

「何で顔が真っ赤なんですの?ドリーさん何かしましたの?」

「最初に私に来るか。これは今日も連れ回すべきかな?」

「申し訳ありませんでしたわッ!!」

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