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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第二章 冒険者になってみた
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第15話 一番の敵は睡魔

 商人達は今回かなりの不満を抱えていた。なにせ全員で行くのに護衛はEランクになる予定だと言われている冒険者になりたての小娘だというのだ。

 いくら冒険者が居なくて他に頼る相手が居ないとはいえ、そんな初級ランク1人に金貨60枚という大金である。それなら自分達で馬を潰す程の勢いで走らせた方が遥かにマシであると。


 なので、全員の少女に対しての第一印象は『怪しい』だった。白いローブに身を包み、顔は口元しか見えない。どんな人間なのか分からないし、何を考えているのかも分らない。得体のしれない奴という感じだった。



「もし使えないようなら、我々だけで強行軍する」



 ギルド長のヒルテはそのように言っていたが、案の定意地の悪い課題を出したヒルテに対してドロアが突っかかろうとした。だが白ローブの少女がそれを静止し、やってやると豪語する。商人達はどんなペテンをやらかすのか、少女をじっと見守った。


 だがそれはペテンでも何でもなく、商人達の知っている常識をぶち壊す物だった。与えられた命令に従う変幻自在の水人形、それが巨大な土壁を刃となってまるで紙のように切り裂いていくのだ。切り裂かれた土壁を見ると、1m程の厚さがあった。それを易々と切り裂ける水人形が160体。


 どんなこの街のどの魔法使いにも出来ない芸当だった。どんなペテンでも不可能な所業。だからこそ商人達は即座に受け入れた。少女が護衛になれば安心して行けると確信したのだ。


 そしてその確信は、現実において実現することになる。





 それは湖の近くで休息をしていた時である。突然地面が揺れ始めたんだよね。最初は地震だと思ってたんだけど、揺れはどんどん大きくなり、じきにその正体が全員に視認されることになった。


「魔物の大群だぁあ!!」

「……多くない?」


 総勢30グループの荷馬車はとても長い。距離も考慮すれば150mはある。そこに四方から魔物が大量に来たのだ。感知で確認してみると、襲われる側の商人達よりも数が多い。


ゴブリン50匹

ベアウルフ30匹

オーク15匹

ロックリザード3匹


 村ぐらいなら軽く呑み込める程の数だ。冒険者なら100人ぐらいは欲しいね。しかしまさか湖で休憩途中で来るとは。皆馬に水を飲ませている最中だし、団体だと一斉でなければ動けない。そこを狙われるとは思わなったよ。


 私はありったけの声を張り上げた。


「皆、水を解き放って!!」


 パニックになりそうになっていた商人達は、急いで小瓶を開けて水を解き放つ。水は私の姿を取り、商人達を囲んだ。


 水人形160体をそれぞれ分ける。ゴブリンに10体、ベアウルフに30体、オークに40体、残り80体をロックリザードに当てた。あれはここら辺で見た中では一番強いからだ。


名無し(1) Lv.42

種族:ロックリザード


HP 2633/2633

MP 754/754

AK   364

DF  1235

MAK  295

MDF 1456

INT  28

SPD  95


【固有スキル】岩肌  


スキル:無し



・岩肌

『ロック系の魔物特有のスキル。物理・魔法に対しての防御時に大幅の補正が掛かる』



 8mぐらいの体躯で四足歩行。身体全面を覆っている頑強そうな白い岩肌。そして固有スキルにこのステータスだ。ノルンさんでも手古摺りそうだね。商人の人達も絶望の悲鳴を挙げて泣き出してしまう者も居た。


 とりあえずどんな認識なのか、近くに居た一人の商人に聞いてみた。


「ロックリザードって一気に3匹も出てくるものなの?」

「そんな訳ないだろ! 1匹でも出てくれば討伐隊が組まれるぐらいなんだぞ!? そ、それが3匹なんて……そんなのドラゴンを相手にするようなもんだ!!」

「なるほど」


 刃になって飛んでった水人形は、全てロックリザードに直撃するが傷一つ付かなかった。


 他の魔物を倒してこっちに合流した水人形と合わせて突っ込んでも、多少スピードを落とす程度。1匹たりとも怯まないね。これで種族による『補正』ってやつか。数値以上の現実の差が漸く追いついた気分だよ。なら次の手だ。


「水よ、剣となって顕現せよ!!」


 160体分の水が全て集まり、空中で巨大な一塊になる。そこに手を突っ込み水を圧縮しまくった。そうして塊は収縮していき、最終的に1本の剣となる。


 水で出来ているにも関わらず一切の揺らぎがなく、宝石と見間違う程透き通った輝きを放っていた。我ながら良い出来になってくれたね。その剣を持って、ロックリザードの1体に肉迫する。


「ゴァアア!!」


 近付いた私に、ロックリザードから強烈な尾の一撃が放たれた。ギザギザの岩の尻尾。


 当たればマッチ棒のように身体が折れるだろうが、私は恐れずに水の剣を振るう。尾に当たると、


―――――シュカッ


 抵抗無く切り裂いた。



「ゴッアッ!?」


 水の剣の刃先は実は超圧縮して回している。ウォータージェットを遠くから当てるだけではすぐに威力が落ちるので役に立たないが、直接当てれば関係ない。


「見ろ!傷口が凍っているぞ!!」


 ロックリザードっていうぐらいだから、ドラゴンみたいにあらゆる場所が素材になるかもしれないし、血も残しておきたかった。だから切った尾も即座に収納する。斬られた1匹は怒り狂って突進してきたが、私は水の斬撃を飛ばす。これも原理は一緒なので、ロックリザードは真っ二つになって絶命した。


「ほら、逃げちゃダメだよー、そいやっ!」


 他2匹も斬撃を飛ばして首を切断した。すぐに近づいて収納収納。ふー、これ結構魔力使ったなぁ。10万ぐらい減っちゃったよ。


「さて、皆怪我は「「「うぉおおおおおおおおおおお」」」み、耳がぁ」

「すげぇ、あんなデカい魔物を一人で倒しやがった!!」

「それもだが、あれだけの数の魔物を本当に倒し切りやがった!!」

「見たこと無い魔法だ!!是非教えてほしい!そしてロックリザード売ってくれぇえ」


 皆口々に賞賛の嵐だけど、今そんな暇無いからとっと出発の準備してくれないかなぁ……



「あー…、静かにしないとロックリザード売らないよ?」


ピタッ

(現金……)


 商魂逞しいなぁ。皆商人の鏡だよまったく。私が他の魔物を収納している間に商人達は準備を終えて出発した。途中何人かにどこに仕舞っているのかを聞かれたけど、四次元背中と答えておいた。漏れなく首を傾げられたよ。


 さっきの戦い、確かに私は水人形を作って操ってたけど、実は精密な動きは全てアリーナがやってくれていた。刃の状態で敵を切り裂くのとか、水の形を保ち続けてくれるところとかね。だからこの戦闘は、アリーナのおかげで勝利したと言っても過言ではない、過言ではないのだ。


「アリーナ偉い?」

「大統領より偉いよ」

「? ……だい~?」

「なんでもない。よしよし」

「あにゃ、んぁ~~♪」



 その日は街に着く前に夜になってしまったので、今日は野宿することになった。私はグループリーダーの年配商人と話しながら夕飯を食べていた。今日はロックリザードのステーキ!!


 ジューシーな肉汁に舌鼓を打っていると、ヒルテさんが隣にドカッと座ってくる。多少当たりが軟化したけれど、眼は合わせてくれないまま話し掛けてきた。


「今日のあの大量の魔物、一体どういうことか分かるか?」

「多分だけど、皆の魔力に惹かれて来たんじゃないかな。あんな大所帯で街から出てきたもんだから、いきなり巨大な魔力を感じて本能が暴走してああなったんだと思うよ?」


 実際あの大群はみんな目が血走って我を忘れていた感じだったし、水の刃にもまったく怯まず特攻してきたんだから、理性があったとは思えない。


「なんにせよ、ここからカナーリヤまでは朝すぐ出発すれば昼前には到着するんだから、明日は多少馬を飛ばそうよ」

「それはワシも賛成だ。日が上がったと同時で良いか?」

「準備の時間を考えると、その方が良いね。今夜は私が水の結界か土の壁を張るつもりなんだけど、どっちが良い?水の結界なら魔物が入った瞬間自動で残滅してくれるし、土壁なら物理的に絶対に魔物は入れないよ」

「あんまり馬を圧迫すると明日力を出せんからな。水の結界で頼む。そんなことも出来るのは驚きだがな…」

「了解。それじゃあおやすみ~」


 私はテントから出て、魔法で薄い水のベールを商団の周囲に張った。これで入っても出ても結界で私に伝わることになる。こうしてみると水ってとても便利だ。形は自由自在だし、無味無臭だしトラップとしても優秀だ。これらからも依頼討伐の時とかは水中心で使おう。


「さて、私も寝るかぁ。アリーナ、おやすみ~」

「おやす~……くかぁ」


 早い早い。




…………ピチョン ザシュザシュザシュ

…………ピチョン ザシュザシュザシュ


 夜中の間何度か起きたけど、全てゴブリンとかウルフだったのでなんなく処理されていった。けどこれ失敗だなぁ……私が眠れないや。




「うぉ~朝だ~~……」

「おはようアイドリー!!」


 うん、おはようアリーナ。よく眠れたみたいでなによりだね。私はこの依頼が終わったら何時であろうと寝るから、出来れば起こさないでね。ごめんね。


「あいあいさー!」

 うむ、良い返事だ。



「嬢ちゃん、フラフラだが大丈夫か?」

「午前中は持つから大丈夫。とっとと行こう」

「わかった。おぉ~い、出発するぞ~」


 リーダーの掛け声で、ラストスパートが始まった。私の体調を心配してるのか、行軍は昨日よりずっと早かった。途中魔物にも出くわしたが、ゴブリンばかりなので馬を飛ばして逃げた。


 数時間後、太陽が眩しくなってきたところで、街が見えたよ……どうやらこれで終わりみたいだね。


「嬢ちゃんありがとうよ。無事着いたみたいだぜ」

「まだだよ。街に入るまでは気は抜かない」

「はは、仕事熱心で安心だよこっちは」


 街に付くと、まずは門の前で身分証の確認である。しかし30グループもあると多少でも時間が掛かる。だから私はその間、最後尾で無防備になっている商人達の警備をしていた。


「さて、どうかなぁ……」


 しばらくその場から動かず感知に集中していたが、肩を叩かれ後ろを振り向くと、リーダーさんとリーダーさんの荷馬車だけが残っている。


「無事全員中に入れたよ。ありがとう。依頼は完璧に達成された」

「なら証明書プリーズ。眠くてヤバいんだ」

「おお、受け取ってくれ」


 証明書を確認すると、私達は一緒に街へ入った。やっぱり門兵の人に怪しまれたけど、リーダーさんが持ってた私のステータス表を見せると、畏まって入れてくれた。




「今日は宿屋でずっと寝てるから、ここでお別れだね」

「ああ、ゆっくり休んでくれ。じゃあな!!」


 そう言ってリーダーさんは他の商人達の輪に入っていった。私は一番近い宿屋にフラフラと歩き出すのだった。



 んぁ~~寝るぞ~

「……zZZZ」

「……(パチッ……パチッ)」


 アリーナによる24時間耐久将棋開始

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