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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第九章 魔導学園都市テルベール
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第132話 報酬はマッサージ

「えー商店通りに各地の学び舎と大規模修練場、そして教育用宿舎と生徒用宿舎……と」

「後は魔道具研究塔と教育会議場と魔導図書館だね。メインデッシュが揃った感じ?」

「そんな感じだね。さぁ、次行こうかフェルノラ?」


「ちょ……ちょっと…ぜぇ……はぁ……待ってくだ、さらないかしげっほッ……」



 おぅ……綺麗な女性が小鹿のように四つん這いになって震えている。顔が酷いことになっていなければきっと興奮を誘うんだろうけど。今はそんな風に見えないね、ごめんね。




 今日1日を使い、私達はこの都市内を隈なく探索しようとしていた。そのガイドとしてフェルノラに道案内を頼んだんだけど、この分だと私が背負って歩いた方が早そうだ。

 

 そんな彼女は、疲れた顔しながら『カキ氷』をしゃくしゃく食べている。氷はアリーナが出して、私が風魔法でシャリシャリ削った物を器に入れ、上から世界樹の蜜を垂らして完成である。

 目の前でアリーナがそれっぽい呪文を唱えた時は吃驚したけど、直ぐに意図を理解して合わせられたよ。ふいー、良い仕事したね。


「なんなんですの、この物凄く美味しい物は……」

「秘伝のタレを使ったスイーツです。ハイペースで移動してごめんね?それ、お詫びだからさ」

「はぁ……まぁ、良いですわ」


 早歩きぐらいで移動してたんだけど、それでもぶっ通しで5時間は足に来たよね。私とアリーナは楽し過ぎて全然疲れなかったけど。





「ドリーさんもリーナさんも、2人とも強靭な肉体をお持ちなのですわね。この時期に来るというからどんな御登りさんかと思いましたが……」

「あ、やっぱりそんな感じに思われてた?いやはやこれにはふか~い訳があるのよフェルノラさん?」

「聞いてくれるかなフェルノラの姉御?」

「そのテンションも腹立たしいですわ……じゃあ聞きますが、貴方達はこれまでガルアニアでは何を?」


「「冒険者」」


「……ここには誰の紹介状で?」


「「モンドールさん」」


「…………ここに来た目的は?」


「「ひ・み・つ♪」」

「ふか~い訳はどうしたんですの?引っ叩きますわよ?」


 フェルノラは思った。2人はもしかしたら父が差し向けた監視役の様な者達ではないのかと。自分がちゃんとやっているのか探らせに来たのではないのかと。最初はそんな印象を抱いていた。直ぐに接触してきたし、何よりこの時期に3年生として来たのだから。


「ドリー、口に蜜が付いてるよ?ほら」

「ん~~ありがとうリーナ。いや、にしても結界の中だからかあったかいね~」

「明日は天気良かったら日向ぼっこでもしよーよ。一緒に寝てよ~♪」

「お、いいね」


 しかし、あの仲睦まじい姿を見ている限りでは、そんな気には到底なれなかった。というか距離が近い。今も椅子に座っているリーナの上にドリーが座って、お腹を抱き締められた状態で2人仲良くかき氷を食べている。

 

 そんな様子を見ていたら勘繰るのも馬鹿馬鹿しく思えてきたのだった。


「……まぁ、何者であっても良いですわよね」





 魔道具研究塔は、結界のほぼ天井まで届くぐらいの高さの建物だった。外から見ていた時もなんだあれ……煙突?って思うぐらい高かったので、ここがそうだとは全然思えなかったよ。


 で、入る時なんだけど、これは皆共通で手首に装着したリングを使っての認証になっていた。何か近未来でドキドキしたね。


 このリングがまた高性能だった。特定の動き、例えば決められている『校則』を破るとブザーが鳴るらしい。しかも破った人間が動けなくなるよう『麻痺』の状態処置もされるらしく徹底していた。調べてみたんだけど、これは日ノ本さんが付けていた奴隷の首輪並みだったね。


 つまり私の『妖精魔法』で解除出来てしまう。普段はやらないけどね。

 

「こういうのがあるから、大通りにはゴミの1つも落ちてないし、治安も良いんだね」

「昔何人かの魔道具学科の生徒が解除しようとしたらしいのですが、その術式に触れた瞬間奇怪な声をあげて失神したそうですわ」

「うはぁ、怖いねドリー♪」

「その割りに楽しそうだねリーナさんや……」


 この子、もう既にその機能解除してたよ。仕事が早いね君。



「おー……むさい人多いな」


 塔の中に入ると、そこら中で何かを話し合っている人や、図面を見ながらブツブツ呟いている人。そして魔道具の実験をしている人が居た。

 床は石造りだけど、壁は何かの素材で作られた特殊な合金、かな?手で叩くとコンコンっと少し響いた音が返ってくる。


 そこから結構上まで階段で上がっていくと、ある階で1人の男に出会った。


「お、フェルノラじゃないか。もう塔には来ないって言ってなかったか?」


 そんなことを言って来たのは、茶色い髭がもじゃもじゃしている恰幅の良い男だった。白衣を着てるけど、この人も研究者?冒険者じゃなくて?フェルノラは澄ました顔でその男に何でも無い風に言う。


「今日は転入生2人の案内で来ただけですわ」

「ほぉん?……お前等か、下級生が騒いでた話題の3年生ってのは。へぇ……すげぇ別嬪だが、どっかの王族か何かか?」

「いや、ただの冒険者だよ。私はドリー、こっちはリーナ。おじさんの名前は?」

「おじッ!?……こんな顔しちゃいるが、俺はまだ20代だぜ?……バゴットだ。よろしく」

「そんな髭しているからですわまったく……」


 マジですかバゴットさん。ごめんなさい。確かに髭を剃ればそれなりに若そうだね。謝ると、バゴットさんは「良いってことよ」と言って、また自分の魔道具研究の為去っていった。その内また会いに行こうかな。




 色々見て回って分かったこと。まず、この建物には通常の生徒では行けないフロアが存在した。塔は下層、中層、上層、特別層で別れているんだけど、下から1年、2年、3年の順で仕切られているらしい。


 特別層は生徒や教師の中でも特別な存在。神代魔道具に匹敵するような物を作れる可能性を秘めた生徒や教師が居るらしい。そこはその人達にしか貸し出されていないのだとか。


 聞けば、1・2年は授業、3年は研究で、生徒のほとんどが国から支援を受けた平民なんだってさ。卒業した後、自国で魔道具の製作をして貰う為らしい。お抱えになれば給金も高いし、彼等も本気度が違う。


「特別層か。それって保管庫部分も含めてなの?」

「そうですわ。ここには神代魔道具の保管もされていると聞きますから。年に1回、どこかの国から貸し出されるのですけど、特別層の人達がそれを研究するそうですわよ?といっても、期間は1年の終わりまでですけど」

「へぇ……じゃあ、あまり出来ないんだ?」

「そこまではなんとも。さぁ、これで説明は終わりですわ。出ますわよ……ここはいつも臭いがキツくて叶いませんわ」


 臭い?ああ、何か燃やしたり煮たりしているのもあるもんね。一体何が目的なんだろうあれ……何か怪しい笑い声が聞こえるし。まぁいっか。ここでする事も終わったし。


「ドリー、『探知』した?」

「問題無いよ。次行ってみよ~」

「お~♪」

「……?」



 

「もう…あるけ、ませんわ……」


「ありがとうねフェルノラ。後で全力のマッサージで天国に連れてってあげるからね」

「私も手伝うね」


 足が乳酸地獄で一歩も歩けなくなったフェルノラ。本当に学園内全てを案内させられ、既に日は落ち、完全下校時間5分前だった。


 アリーナはフェルノラをおんぶして歩いてくれたのだが、最後まで彼女は動けぬ体で抵抗していた。


「く、屈辱……圧倒的屈辱ですわ………」

「えー、しょうがないじゃん。皆暖かい目で見守ってくれてたよ?」

「恥ずかしいんですわ!!!」


 アリーナを叩くが、一向に笑顔を崩さないアリーナ。さてさて、宿舎に着いたし私達の部屋に行こうか。えーと、渡された鍵の番号はっと。


「アリーナ、私達301号室だって。フェルノラさん送ったら荷物降ろしに行こう?」

「りょうか~い。フェルノラさん、部屋はどこ?」

「…………」


 フェルノラは、顔を俯かせて答えず。ただ、制服のポッケから鍵を一つ見せてきた。それを見た私も、ポッケから鍵を出して見比べる。



フェルノラの鍵→『301』

私達の鍵→『301』



「「「……」」」


 同じ部屋でした。あ、顔がトマトみたいに真っ赤になってくね。よし、何か言われる前にダッシュで部屋に向かって口封じしよう。


「リーナ、ダッシュッ!」

「お任せあれッ!」

「本当になんなんですのぉぉぉおおおおお~~~~~~…………」





「マートン理事長。何故、彼女達をガルアニアの王女と一緒の部屋にされたのですか?」


 教育用宿舎、その理事長の部屋の中。他の教師達のより幾分か広いその部屋で、1人の老年の教師がマートンと呼ばれた理事長と対面して座っていた。


「おやおや、何か問題があるのかねブジス君。空いている部屋は彼女の所しか無かったし、何より2人供彼女の父親、モンドール王が紹介状を書いたんだ。王紋も本物だし、最大限配慮してやってくれと書かれたいたからね」

「ですが……それでは勇者達がまた何を仕出かすか……」

「彼等の希望なんて1つも聞いた事は無いだろう?どうしたんだいブジス君?もしかして脅されているのかい?」

「うぐっ……いえ」

「はぁ……」


 直ぐに動揺するブジスに、マートンは溜息を洩らしつつ忠告する。


「『勇者』という言葉に怯え過ぎだよブジス君。もっと楽にいきなさい。彼等とて、今は『生徒』としてこの学園に在籍しているんだ。聖剣や聖鎧があるとは言え、容易に人を傷付ける事は出来ない……まさかとは思うが、リングを外してはないだろうね?」

「め、めめ、滅相もないっ!!そんな自殺行為いたしませんッ!!」


 流石にそこまでの馬鹿はしなかったようだ、とマートンは胸を撫で下ろす。あんな『素行の悪い』連中を野放しにすれば、何人の生徒が犠牲になるか分かったものでないのだからと。


「とにかく、彼女達が真面目な生徒なのは王の太鼓判も付いて証明されている。気に入らないなら、君自身の眼で彼女達の動向を見守りなさい」

「……」


 ブジスは頭を下げると、無言で部屋を出て行った。その後ろ姿を見届けると、机に乗っていた紅茶を一気飲みしてベッドにダイブした。歳老いた老人のやることではないが、彼とて元は研究者。自分本位な人間である。



「あーもう嫌だ。あの馬鹿供追い出したい。超追い出したい。研究材料として聖剣と聖鎧だけ置いて消えて欲しいよ本当に……ま、今はまだ良いか」


 なのでこんな事も平気で言ってしまう。そんなお茶目な理事長だった。

「はいじゃあこの上に寝てね~」

「え、あの、これスライムなんじゃ」

「大丈夫従魔だから。はい、乗ったら私達でスライムの粘液を刷り込みしていきまーす」

「いきまーす♪」

「え、あの、あんッ!や、やめ、んぁ。な、なんでこんなに気持ちいんぅ~~~ッ!!」


 モーリスの貯蔵魔力を体中に擦り込まれてへにゃへにゃになったフェルノラだった……

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