第128話 ラダリアへの帰還
『そろそろ降りるぞ~』
「「は~い♪」」
「あれがアイドリー嬢達が創った国ですか。何とも温かみのある光景ですなぁ」
「えっへん♪」
レーベルに乗って2日程飛ぶと、遠くにラダリアの独特な樹木のドームが見えて来た。ここら辺まで来ると、雪もめっきり姿を見せなくなり、冬の寒さに耐え忍木々や草原を見ることが出来る。
その中でラダリアだけは色褪せることなく映り、クアッドはテンションを上げていた。恐らくはまた着いた途端に飛び立って散歩にし行くのだろうとレーベルは思う。
アイドリー達はレーベルを『隠蔽』した状態で下に降りた。そして皆が人化した状態で離れた場所から徒歩で向かう。ラダリアまで歩いて数十分程だが、特に苦にはならない。
歩いている中、レーベルは改めて肩車しているアイドリーの頬をぷにぷに突きながら言った。
「しかし異色なパーティになったものじゃな。最終的にドラゴン1匹と妖精3匹になるとは。クアッドよ、お主も『妖精の宴』に入らぬか?」
「はいる?くあっど、はいる?」
「入ってくれたら嬉しいす!!」
「おお、宜しいのですか!実は皆さんのお揃いのブローチが少し羨ましかったのです。是非入れて頂きたい」
「「やったー!!」」
ダンディな顔で嬉しそうに喰い付いてくるクアッド。新しいパーティにアイドリーとアリーナは揃って抱き着いてクアッドは文字通りおんぶにだっこ状態になる。
「うむ、では先に冒険者ギルドへ向かうとするかのう。アリーナよ、お主らは城に行ってフォルナに顔でも見せてやったらどうじゃ?」
「「うんッ!」」
「あーもう主戻る必要無いじゃろ。2人揃って我が貰ってやるわ」
「「あ~♪」」
もはや姉妹と言われても遜色付かない程声がマッチする2人に聖母のような顔で頭を撫でるレーベル。しかしその眼は本気だった。
「うわ、帰って来たわね……」
「しばらく振りじゃな。えー、リサリー……じゃったか今は。ちゃんと働いておるか?」
「隊長さんにドヤされるから、こいつみたいに寝てはないわね、少なくとも」
「zZ……」
門の詰所に黒髪の女、リサリーが軽くしかめっ面をしながら相方のクエントの頭を小突く。見覚えのある紅い女、レーベルの姿を見て最初は冷や汗が止まらなかったが、普通に笑顔で話し掛けられ、今は普通に対応出来ていた。
そこでふと、リサリーは『あいつ』が居ない事に気付いて、レーベルに尋ねた。
「あれ、あのピンクはどこ言ったのよ?」
「そこにおるぞ」
「は?」
「おひさし~♪」
「……っ!?」
詰所のカウンター下を差されたので身体を乗り出してみると、羽を隠したちっこい幼女が笑顔で立っていた。ピンクの髪が地面スレスレで跳ねており、無駄に長いアホ毛をミョインミョインさせながら。
そんな愛らしいという言葉が天元突破した存在を見て、リサリーは大いに狼狽え、とりあえずほっぺをぷにぷにしながら問いかける。
「……この、これ、どしたのよ?」
「ちょっと色々あったんじゃよ」
「ちょっと……これがちょっと?」
「まぁの。引き続き励めよ。ではな~」
そう言って、ピンク髪の幼女は空色髪の女の子に抱えられて一緒に去っていった。と思ったら、幼女だけトタトタしながら戻って来た。
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みを浮かべたまま握りこぶしを差し出して、
「てっ!!」
「……へ?」
「て~だして~?」
「あ、はい」
「あげる~♪じゃね~~~♪」
「は?あの……あり、がとう……」
リサリーはしばらくその後ろ姿を見ていると、ハンカチを取り出して自分の鼻を塞いだ。
(……天使だったなぁ)
幼獣達と見比べても天使だったアイドリーの姿に、愛が溢れそうになるのを必死に止める為に。そして握らされた飴玉を口に含むと、その天上の味に酔いしれ気絶したのをクエントに運ばれていった……
「た~だいま~♪」
「いま~♪」
少女と幼女が城に到着した。2人揃って迷い無き足取りで城内をトタトタを走っていき、フォルナの居る執務室へ突撃していく。
因みに止める者は誰も居ない。彼女達程無害な者は居ないと城の連中は分かり切っていたからだ。
「「ふぉるなふぉるなふぉるなふぉるなふぉるな~~~~~ッ!!」」
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンッ
「え、なに、だれ?ノック音凄いッ!?ってアリーナ?そっちのピンクの子は誰ッ!?あ、待って分かったあいどr―――――――ッ!?!?」
怒涛のノック連打をし、フォルナが答え切る前に突撃されダイブ。流れるように空を飛んで床に大きなモーリスを配置。
そこに3人でブニョンっと受け止められた。
「んも~……いきなり過ぎるよ~~感動の再会っぽくなると思ってたのに~~おかえり~~~」
「「ただいま~~♪」」
扉の外で、メーウが良い顔しながら『録画水晶』片手にその様子を見ていた。
改めてフォルナはアイドリーを見る。自分よりも小さくなってしまった誰よりも頼れる友人が愛らしい一点の曇りも無い無邪気な幼女に変わってしまったのだ。それが今、彼女のことを、
「ふぉるなお姉ちゃ~ん♪」
「なんてこと言われて抱き着かれて平気にいられる人は居ないと思うの。私8歳だけどそう思うの。心がこう、騒ぐの」
「どうにも止まらない感じ~?」
「アリーナにもそんな感じだよ!」
幸せな空間の中、時間を忘れてしまいそうになるフォルナ。だが、彼女は今や国の王。あまり自分の時間が割けないのだ。ただでさえ一度はオージャスとの件で1ヶ月の間メーウに任せてしまっているのだ。もはや友人との幸せな一時の為に自由に時間を割く訳にはいかないのだ。
断腸の思いで腰を上げ、2人と指切りをする。
「ごめんね。今日の仕事終わったら、皆でご飯食べようね?」
「「はーい♪」」
2人は快く返事をしてアイドリーを肩車しながらアリーナは去っていった。何故アイドリーがあんなになってしまっているかとかはどうでもよく、どうせ夕飯の時にレーベルが教えてくれるだろうと思ったフォルナは、また机に向かって仕事を始めるのだった。
「久しいの熊っ子」
「……っふ、お久しぶりですレーベルさん。もう私は貴方の存在程度ではこゆるぎもしないのです」
「ふむ、今日はこちらの者の冒険者登録をさせたいのじゃが?」
「こんにちわレディ、クアッドと申します。以後お見知りおきを……」
「…………ダンディな老紳士!?」
クアッドを見て途端に鼻息を荒くするマーブル。どうやらイケメンの老人はストライクらしい。丁寧な挨拶に顔を真っ赤にする。
「あ、ひゅゃ、えと、こ、ここ、こちらにど、どうぞッ!!」
「はい、失礼いたします」
その様子を楽しそうに笑いながら見ていたレーベルは、他の職員にクアッドの『妖精の宴』パーティへの登録申請も一緒にしてしまう。
ギルド内では『妖精教』の創造神の相棒が来た事に、内心で湧き上がっていた。ガルアニアの冒険者達も居たので、二つの意味で注目の的である。だがその強さはよく知られている為、誰も絡もうとは思わず、自分達の酒をチビチビと飲みながら横目で見るだけだった。
「む、戻って来たか。早かったのう?」
「レーベルさん……この人何者なんですか?女性試験官と戦い始めた瞬間に、この人10人ぐらいに増えたんですけどッ!!全員で奉仕し始めて骨抜きにされちゃってたんですけどッ!!?」
「ほんっと面白いのう、お主」
「少し疲れ目で肌に潤いが足りていないようでしたので」
それだけで相手が戦意喪失させる程ロイヤルなおもてなしをしたのだから、種族柄が出ているクアッドだった。ならばとマーブルも自分の身体の箇所を指差しながら告げる。
「私にもやって下さいッ!!疲れ目です!枝毛です!ついでに肩もゴリゴリです!!」
「やらなくて良いぞ。とっとと主達を迎えに行かんとだからのう。多分今頃はフォルナの仕事邪魔せんように孤児院の方に行っておるだろうよ。ノリ的に」
「だそうです。申し訳ありません」
「ちくしょうこの外道冒険者ッ!!」
「「こーんにーちわー♪」」
「「「こーんにーちわーッ!!」」」
レーベルの経験則が的中していた。孤児院に行くと、幼獣と人間の子供達が入り乱れながら作業やら練習をしていた。だがアリーナの姿を見て集まり、アイドリーを見て目を光らせ突撃していく。アシアは苦笑いだった。
「この子はアイドリーだよ~」
「えっ!?えっと。本当に?」
「そだよ~♪あ、ルンちゃぁ~ん」
「わ!あ、アイドリー、ちゃん?」
そこに、演奏練習が止んだのを変だと思ったのか、ジェスがその場にやってきた。見覚えの無いピンクの小さいのを見つけて近づくと。そのまま顔に身体ごと引っ付かれた。
「むごもご~~~~~っ!?!?ぶはっ!何だお前ッ!!??………見覚えある顔と髪色だな……え、まさかあいつの娘か?」
「ちゃうッ!!」
「アイドリーだよ?」
「はぁ?」
「ジェスさん、そうらしいよ?」
「…………まぁ良いか。なんもねぇなら、青髪の嬢ちゃんもゆっくりしてけ。じゃあな」
「「ばいな~」」
その後も子供達に揉みくちゃにされたり、一緒に次の講演に向けて練習し始めたりして時間を潰し始める。アイドリーはまともな自我が無くても、全て完璧にこなしていた……
そして夕暮れ頃に、レーベルとクアッドが到着。子供達に別れを告げて皆で城に向かった。今日は久しぶりにフォルナも含めてのお風呂もあるので、アイドリーとアリーナは更にニッコニコになる。
「我も久しぶりじゃからな。一杯尻尾を愛でぬとなぁ」
「そんなに素晴らしいのですか?」
「天上の触り心地よ」
「ほほう……」
そうして城に付き。メーウに案内されれば、食堂ではフォルナが4人を出迎えてくれた。机の上には配膳のおばちゃん達が腕によりを掛けて作ったラダリア料理の数々が並んでいた。
この時ばかりはフォルナも子供の雰囲気で笑い掛ける。
「みんな、お帰りなさいッ!」
「「ただいまッ!」」
「戻ったぞう~」
「初めましてお嬢さん」
ということで、ご飯を待ちきれない人居るので、話はご飯を食べながらになった。詳細は全てクアッドが話すことに。自分の身の上の話になると、フォルナは深くクアッドに同情してしまった。
また、フォルナの身の上話を聞けば、クアッドも彼女に対して深い同情を抱いてしまう。互いに友人が居なかった時にアイドリー達と出会い、救われた者同士だったからか、所々で共感し合えた。
「なるほど、それは辛かったねクアッドさん……」
「いえ、フォルナ殿も。その歳でこの国を動かす手腕、辛い思い出を乗り越えたのですなぁ」
フォルナは傍らの口一杯にご飯を頬張っているアイドリーのアホ毛を指で弄りながら半年前のことを思い出す。
「彼女が居なければ、私達は何も出来なかった。郷の為というのもあったけど、彼女は私と無条件で友達になってくれたから……国の再建も嬉しかったけど、私には何より」
「んふ~ふ?ん~ふ~♪」
「クスクス……こんな可愛らしい人と友達になれた事が嬉しかった。確かにこんな力があるなんて羨ましいなぁって思ったこともあったし、この子みたいになれたら良いなって思ってたの」
「ええ、ええ……私もですよ」
アリーナに口を拭われている様子を可笑しそうにまた笑って、クアッドも釣られて笑ってしまった。
その様子を口に物を詰め込みながら見ていたレーベルは、心配もしていなかったが、ちゃんと仲良くなれていたのを確認して、また食の海に埋没していった……
ご飯の後のお風呂にて。
女湯 アイドリー・アリーナ・レーベル・フォルナ
「かゆいところはある~?」
「ん~ん、きもひ~♪」
「あ~そこじゃそこ、上手いのうフォルナ」
「いえいえ。ひゃんっ!?アイドリー、触ったら駄目だよぉ~んんっ!」
男湯 クアッド・メーウ
「……いやはや、良いもんですなぁこれは。今度作ってみますかな」
「それは良い。是非場所を提供させて頂きたいですな」
「おお、それはありがとうございます♪」
それぞれで楽しんでいた。