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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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閑話・10 鐘楼

 レーベルラッドで暇になった時のクアッドの話になります。

遡って数日前、1人で出掛けていた時の事。



 現在、クアッドは妖精の姿でフヨフヨとレーベルラッド上空を彷徨っていた。今日の彼は非番で自由行動を許されたので、こうして街の喧騒をニコニコ見ながら漂っている。


「おぉ~昼間の人の営みを空から眺めるというのも素晴らしいですな~♪」


 彼は現在、アリーナに勧められた方法、『ほわほわ飛行雲』を教わり自分も作って乗っていたのだ。ただしクアッドが作り出した雲は、わたあめの様に甘く、千切って食べられるようになっている。

 それをふもふもと食べながら、子供達の遊ぶ様子や門での人の出入りを見ていると、


「おや?あれは……」


 入口の方から入って来た人々の中に、微量ながら知っている魔力の残像を付けていた人物を見つけた。興味が出たのでその2人に付いてみた。



「わぁ~此処が『勇者教』で名高いレーベルラッドなんだねッ!!ほらヤスパー、早く早く~~♪」

「ったく、着いた途端元気になりやがって……待てよセニャル!1人でドンドン進むなってッ!!」

「何言ってんのさ?これから宿屋さっさと取って観光しに行こうよッ!!」

「マジかお前……しゃあねぇなぁ」


 2人のステータスを覗いてみると、青年の方だけ通常の冒険者よりも高い位置にあることが分かったクアッドは、暫くは彼等に付いて行く事を決めた。セニャルの雰囲気になんとなく惹かれていたのもあった。



「わぁ~すっごい綺麗だねッ!!あれ何て言うのかな?」

「え?うぉ、本当だ、すげぇ……」


 2人は大聖堂の入り口前で、見上げる程大きなステンドグラスの扉を見ていた。絵の内容は聖龍と巫女、そして勇者の出会いを現したものである。此処でクアッドは思い付きで人化し、2人に近付いてみた。


「あれは、ステンドグラスというガラス細工の芸術品ですよ。観光ですかな?」

「え、ああ、そうですよッ!私達新婚なんですッ!!」


 自慢するようにヤスパーの腕に抱き着き幸せをアピールするセニャル。ヤスパーは頬を掻きながら照れていた。クアッドの笑みは深まる。


「そうなのですか。では、この国の見所をお教えしましょう。私も観光者なのですが、既にほとんどを回ってしまっているのですよ」

「本当ですかッ!?是非お願いしますッ!!」

「良いのかじいさん?」

「ええ、幸せな人を見ると、応援したくなる年頃なのですよ」


 クアッドは美香との聞き込み調査の際に、この国のほとんどを見て回っていた為、このような事が可能になっていた。しかも美香が休んでいた時等短い時間で。なので地形も把握しており、この国で迷うということが無くなっていた。


 そして幾つかの観光地をセニャル達に教えて行く。


「まずはやはりこの大聖堂になりますかな。勇者教総本山の代表すべき建物となります。こちらは一般開放もされておりますから、是非見ていって下さい。中も素晴らしい物が沢山ありますからな。次に教皇様が毎日いらっしゃる城ですかな。遠くから見えていたと思いますが、こちらも近くから見るとまた圧巻ですぞ後は…」

「ふむふむ…ふむふむふむ……」


 クアッドの言葉を逐一メモしていくセニャル。鼻をフンフンさせながらそうしているセニャルを見て「可愛い奴だよ……」と思いながらそこら辺の屋台で2人の食べ物を買いに行くヤスパー。ついでにクアッドの分も買って来る。



「ふむ、こんなところですかな。どのくらいの間滞在されるか分からないので、一応お勧めは全てお教えいたしましたが、いかがでしょうか?」

「大丈夫、全部回れますッ!!おじいさんありがとうッ!!」

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」

「終わったか?ほいじいさん、これは良い場所教えてくれた礼だ。受け取ってくれよ」

「おぉ、これはこれは、是非頂きましょう」


 3人で食べて、クアッドは2人を笑顔で見送った。2人もクアッドに手を振りながら大聖堂の中に入っていく。

(さて、では次へと行きましょうか)


 クアッドはまた妖精になり、まだ行っていない観光地に向かう。訪れたのは、山肌に見事な氷柱が立ち並ぶ鍾乳洞の入り口だった。中に入ってみると、紫色の泉が広がっており、外の光に反射して、全体を照らしていた。


 一本道のようなので進んでいくが、その道は広く、ドラゴンぐらいの大きさでも通れるであろう広さだった。そして奥まで進んでいくと、これまた見覚えのある魔力の残像を発見する。



 その場所は巨大な何かが座っていたような、妙に滑らかな石の台座だった。


(……これは、レーベル殿のものですな)


 クアッドもレーベルから昔の話を多少聞いていたので、おそらく此処がその寝床の1つだったのだろうと結論に達する。だとすると、彼女はもうこの寝床には戻って来れないだろうということも。


「後で伝えておきませんとな。しかし、この素晴らしい景色の中であれば、手放したくないのも分かります」


 石の柱と氷の柱が自然の美しさを現し、その中心にある石台にレーベルが乗れば、まるで最初からそう計画されていたかのような雰囲気を醸し出すことだろう。セニャル達にもこの場所を教えてやりたいと、クアッドは少し後悔した。


「しょうがありません。もしも見かけたら、また話し掛けるといたしましょう」




 昼食にレーベルラッド名物『勇者ソバ』をフォークで啜りながら街並みを眺めていると、また新しい物をクアッドは見つけたのでさっさと食べ終わりお金を店員に渡す。




「ほほ、これは大きい。しかし、何故地面に置かれているのでしょうか?」



 ある区画の広場、その中心にあったのは巨大な青い鐘楼だった。暫く黙って眺めていると、1人の老婆がやってきて、クアッドに話し掛けて来た。


「珍しいことじゃ、この鐘楼に近付く観光客が居るとは。看板を読まなかったのかい?」

「おや、それは見落としていました。ありがとうございますご婦人」

「良いんだよ」


 お互いに一礼し、クアッドは建てられていた看板を読んでみる。そこには、『レーベルラッド』という名が出来る前のこの国の話が綴られていた。




 遥か昔、この地は蒼き龍によって国が統治されていた。その者、古龍の子孫にして数多眷属を操る王であり、その力を持って国の安定に尽力していたという。その時、蒼き龍を模して造られたのが、この鐘楼なのだとか。

 しかし、ある年から王は荒れた。理由は定かになっていないが、自らの眷属を使いハーリアを強襲。勇者の居る国に戦争を仕掛けたのだ。王は暴君として振舞い、自軍を使って血みどろの争いを起こしかけたが、その前に勇者の手により討伐。その際紅き龍が天空を舞い、国民達と勇者の偉業を称えたという。


「そして鐘楼は蒼き龍の呪いの象徴として降ろされ、以後、この地にて永遠に封印されている……と」



 そうしてあの鍾乳洞にてレーベルは見つかり、新たな伝説の聖龍として祀り上げられた結果が、今のレーベルラッドということだった。


「これはまた、おそらくはレーベル殿も知らない事実なのか、それとも知っていてシエロ嬢に黙っているのか。まぁどちらにしろ、これは私の胸の内に秘めておきましょうか。しかし、それを抜きにしてこの鐘楼は美しいですなぁ……」



 その後は、その鐘楼に刻まれている文字や絵を見ながら1日を過ごすのだった……

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