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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第127話 また会う日までの優しさを

 こんにちわ、シエロです。もう色々とありましたが、御蔭様で何とかなりました。今は、皆さんと一緒にお父様の所へ行っている最中になります。



「「んふぃ~♪」」


 アイドリーが増えたことにより、和やかさが倍になりました。本体アイドリーはレーベルに肩車されており、分身アイドリーは美香とアリーナに手を繋がれています。


 私は日ノ本さんと一緒にそれを見ながら後ろを歩きながら話していました。


「美香も君も……いや、ついでにこの国の全てがお人好しだと僕は思うよ。あれだけ国に不利益を齎そうとした人間を、首輪付きとはいえ国外追放だけだなんて」

「贖罪をする前に、剛谷さんには心の休養が必要でしたから……きっと良き人となって戻って来ると思います。なんせ」


「妖精が付いているのですから」とシエロは笑った。確かにその通りだと納得してしまうあたり、日ノ本も相当毒されていた。


「まぁ……僕の罪も中々なものだし、現に今は罪悪感一杯なんだけどさ……」

「ちゃんと誠心誠意謝れば大丈夫ですよ」

「う、うん……」




 教皇室では、カイルスが晴れ渡った空を見ながら椅子に座っていた。眼の隈は多少取れていたが、それでもまだ身体を怠そうに椅子に預けている。彼は昨日のシエロの協力者達を出迎える為に起きていた。まだまだ休養が必要な身体ではあったが、代表者としてどうしても間近で『妖精』を見たかったというのもある。


 そしてシエロ達が入室すると、カイルスはゆっくりそちらへ顔を向けた。


「来たか……アイドリーという『妖精』はどうしたのだ?」

「「あいっ!」」

「……?」

「すいませんお父様、その子……達?がアイドリーなのです。昨日の戦闘でそうなってしまいまして……」

「…………奇妙奇天烈だが、まぁ良いだろう」


 聞き伝わっている妖精とは風貌が異なっているので多少驚きはしたが、昨日見た羽と同じ物が幼女から生えていたので、とりあえず教皇は納得した。


「お礼を言わせて欲しい。我が国を、君達の御蔭で間違った道に進ませずに済んだ。ありがとう……」

「どういたしまして♪」

「……ふむ」

「んあ?……んふ~♪」


 やっぱり撫でた。と全員の心がまたしても一致する。しばらくそうしていると、はっとした顔になって咳払いする。


「んんッ。それで、勇者日ノ本殿。貴方のことも多少は聞き及んでいる。奴隷の首輪を付けていたそうだな」


「ええ……けど、僕のやったことは彼の計画の手助けだ。貴方には、その身体に無理をさせて本当にすまなかったと思っているよ。ごめんなさい……」

「いや、頭をあげてくれ。お互い首輪の効力には逆らえなかったのだ。そんなことを言えば、私とてそれは同じこと。そうであろう?」

「……はい」

「良かったね、せっちゃん!」


 また一つ肩の荷が下りたのか、柔らかい笑みを浮かべる日ノ本。しかし片手で抱き着こうとしてきた美香の顔をアイアンクローで止めていた。「みぎゃぁッ!」という断末魔が鳴ったが気にしない。


「それで、今首輪の呪縛から解かれたからこそ、僕は今この場に居る人達に、あの事について話したいと思うんだ。僕の身体に起きていたことについて……」

「『魔族化』……じゃな?」

「ええ……」




「「あり~な~……」」

「どしたの~?ねむい~?」

「「うん……」」

「じゃあ、お昼寝しよ?」

「「は~い…」」

 重大な話が始まろうとしていたが、参加者そっちのけでアリーナとアイドリー2人は教皇のベッドで寝始めてしまった。


 勝手に使い始めてしまったのだが、その様子を教皇は少しの間だけ見つめると、「構わん。自由に使って構わぬよ」と許可した。





 じゃあ話そうか。と言っても、明確な説明が出来る訳じゃないからそれは許して欲しい。


 そもそも僕以外にも他の四人、つまり僕以外の序列5位以内の勇者は、皆奴隷の首輪を付けているんだ。理由は勿論『魔族化』を防ぐ為だ。ただし、リーダーの朝比奈だけは違うよ。彼が抑えているのは『魔王』だからね。


 どうして僕達がそんなことになったか……というのは、実はよく分かっていない。朝比奈以外はね。なんせ僕達をこんな身体にしたのは彼なんだから。


 一食盛られて、スヤスヤ寝てたら次の日には首輪が付いていたよ。


 何でそんなことをしたのか直ぐに問い詰めたさ。朝食堂に集まったら彼が意気揚々と自分がやったと言うもんだから。



 それで4位の奴が嘘だと思って首輪を一度外してしまってね……『魔族化』が始まった。



 周りが茫然としている中で、朝比奈だけは冷静に動いて、外した首輪を付け直したんだ。そしたら治まったよ。



「僕達は素晴らしい力を手に入れた。もっと喜べ」それが彼の言葉だった。



 けど聞きたい言葉はそんな事じゃなくて、『魔王化』『魔族化』の原因だった。僕達が魔王を倒した際、魔王は何事も無く死んだんだ。そりゃあ当時の僕達でもかなりギリギリだったけどね。

 その時、僕だけは見た。朝比奈が最後の一撃を魔王に入れる際に、何かを聖剣に吸わせていたんだ。恐らくは、あれが原因だったんだと、僕は思う。


 それをどういう方法か知らないが……いや、聖剣特性だろうね、あれは。それを使って実験をしていたんだろうさ。その為に税が必要だったんだよ。絶対に壊れない研究施設と実験場を作る為にね。そこで朝比奈はどうやってか『魔王化』と『魔族化』のスキルを付与する手段を確立させたんだ。僕達は、その実験体のモルモットってところかな。


 首輪も朝比奈が主人設定だった。彼の言う事には逆らえなかったし。ただ、僕以外の人間は彼に従順だったから、特になんとも思わなかったんじゃないかな?


 僕が何で逆らったかだって?そりゃあ、自分で従順に動くぐらいなら命令されてやる方を選ぶよ僕は。最高にムカついていたからね。


 後はお察しの通りさ。本来ならあの時も介入するつもりは微塵も無かったんだけど、命令によって動かざるを得なかった。





 そして『魔族化』の効果まで話終えると、美香は恐る恐る聞いて来た。


「何で、そんなことしたの?朝比奈君は……」

「さぁ……『彼は必要なことだから』としか言わなかった。けど、その『魔族化』はスキルだからね。もしかしたら彼は、更に改良を重ねているかも……まぁ、こんなところだよ」


 序列5位以内の勇者が全員そんな状態だという事実に戦慄が走る。もしもそんな者達に動かれたら。世界は成す術無く滅びることだろう。そう考えるのが自然だ。


「のう、1つ良いか?」

「なんだい?」


 レーベルはアイドリーを指差して言う。


「日ノ本から主が『魔族化』のスキルを飴玉にして食べたんじゃろ?ということは、主には今『魔族化』のスキルがあるのではないか?今は『限定幼女』の効果で還元されておるが、元に戻ったらヤバいのではないか?」

「……彼女なら何とかなりそうだと僕は思うのだけど。それは早計かな?」

「いや、まぁ……主なら耐えそうじゃがな」

「うん、アイドリーなら平気だと思う」


 根拠は何も無いが、今ですら手の付けられない無敵を誇っているのだから、不可能ではないと無条件で信じてしまうぐらいには付き合いが長かった。


「クアッドよ、主はどう思う?」

「私もそう思います。今のアイドリー嬢ならば、それも十分可能でしょう」


 それぐらい平気でやってのけるだろうと『妖精魔法』のエキスパートであるクアッドは太鼓判を押す。


「お父様、この事実は」

「隠すさ。言える訳が無いからな。日ノ本殿、話してくれてありがとう。そうだ、レーベル殿これを。シエロから話は伺っている。これはラダリアのフォルナ殿下への書状だ、どうか届けてくれまいか」

「謹んで承った。必ずや届けようぞ」


 これでアイドリーの目的も本人が知らぬ間に達成された。これからは、ガルアニアやレーベルラッドとの貿易を開始すれば、ラダリアは更に復興が進むことだろう。




「ほ~れ、起きるのだアリーナと主よ」

「「んあ~?」」

「皆に挨拶をせよ。ラダリアへ帰還するぞ」


 眠気を隠し切れずに頭で船を漕ぎながら礼をする2名。


「「またね~~」」

「う、うむ……」

「変わらないなぁ……それも可愛いけどさ。またね、みんなッ!」

「今まで本当にお世話になりました。いつでも来て下さいッ!」




 お互い別れを告げると、レーベルは2人を持って、部屋から去っていった。最後にクアッドが一礼し、部屋の扉を閉める……


 旅立つ、人ではない者達。『妖精』と『古龍』が人の諍いを鎮めたという事実。そして、あまりに劇的に、人々に知らしめてしまった古の存在を、カイルスは苦笑いで見送った。



「まったく、素晴らしく自由気ままな者達であったな……あれがお前の出会った友だとするならば、お前の強くなった理由も頷けるぞ、シエロよ……」

「変わりもしますよ。あんなにも笑顔に溢れた人達と、半年以上ずっと一緒だったのですから……絶対に、また会いに行きます」

「そうか……行く時は一言、アリマニに言えよ?」

「はいッ!」






 未だ教皇のベッドで寝ているもう1人の妖精幼女を、美香は抱いた。


「ん~?みか~?」

「ああ、ごめんね。起こしちゃった?」

「ん~ん……みか、かなしいの?」

「違う、違うよ……楽しかった思い出をね……振り返ってたの。だから、これは嬉し涙、かな……」


 美香の流す涙を、分身幼女は指で拭う。その顔は、微笑みに満ちていた。


「ふふ、いつも優しいなぁ……アイドリーは」

「だって……」



 そして愛を体現する妖精幼女は、当たり前のように言うのだ。


「だって、大好きなの~~♪」






 レーベルラッドの門の前で、日ノ本はレーベル達と向かい合っていた。


「僕はこれからハーリアに戻るよ。潜伏して彼等のことを探ろうと思う」

「ふむ、では戦うのはまた今度かのう」

「はは、そうだね。……3人も元気で。出会いは最悪だったけど、君達に会えたのはこの世界に来て初めての幸運だったよ……じゃあね」


「「またね~♪」」

「またの機会を、楽しみにしております」


 レーベル達とは反対の方向に歩いていく日ノ本を、4人は見えなくなるまで見送っていた。それが終わると、自分達も国を離れて歩き出す。


「暫く道を外れたら、我が龍となって飛ぼうぞ。保温をよろしく頼むのじゃ」

「お任せ~♪」

「アイドリー、てーつなごう?」

「うん♪くあっどもー」

「ええ、是非とも」




 幾つかの別れと出会いを得たアイドリー達『妖精の宴』。新たな仲間と共に、彼女達は帰りを待っている獣の国に、その足を進め始めたのだった……



「おい、あれ昨日の奴等じゃないかッ!?」

「走るぞ主達よッ!!」

「「「ラジャッ!!」」」


 国民から逃げるように……

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