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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第126話 愛の贈り土産

「ん………んあぁ~~~~…ふみゅぃ」


 朝日が差し込んだと同時に、アイドリーは目を覚ました。あの後結局皆で星空を見ながら眠ってしまったのだが、最初に寝たのはアイドリーで、起きるのも最初である。


 一番に起きられたことにニコニコしながら、寝ている彼女達に顔を近づけ、ちゅっと頬に口付けをしていく。朝から愛情たっぷりの行動なのだが、この口付けにも『妖精魔法』が使われており、『目覚まし』の効果が付与されていた。


 なので個々が眼を覚ます度に、最初に見るのは幼女の笑顔である。


「おはよ~♪」

「おはよ~あいどり~♪」

「「んふ~♪」」


「朝っぱらから口から砂糖吐きそうじゃ我……」

「同じく」


 元の少女に戻ったアリーナと妖精幼女アイドリーが朝の抱擁を交わしながら、草原の上をグルグル回ってそのままバランスを崩して転がって行った。しばしその様子を2人で観賞した後、朝のティータイムを開催する。


「さて、今日はどうするかのう」

「僕は、名残惜しいけど桜田さん達に会いに行こうかと思ってるんだ。謝罪と感謝をまだしてないからね。君にもね、レッドドラゴンさん?」

「要らんよ。我は別に何もされとらんしな。悪いと思うなら、いつかで良いから一回立ち会ってくれぬか?ちょっと修行して強くなったのでな」

「……前見た時と雲泥の差なんだけど、一体何をしたんだい?」

「なに、ちょっと死にかけただけじゃよ……軽く数百回程な」


 たった1週間でその回数を体験したというのだから、日ノ本は身震いする。この女はヤバイと少なからず恐怖した。日ノ本の感情を感じたのか、アイドリーが子供用の椅子から降りて日ノ本の服を引っ張った。


「せっちゃん、シエロのとこ行く?」


 スコーンをポリポリ食べながらアイドリーがそう尋ねて来る。


「ん?うん、そうだね。寂しいのかい?」

「んーん、私もね、会いたいのー」

「私もー♪」


 アリーナも日ノ本の後ろから首に抱き着いてそう言う。どうしようか、とレーベルを見ても「まぁ良いと思うぞ」と笑うばかりだった。正直日ノ本としても彼女に1人で会いに行くのは怖かったので、


「じゃあ、一緒に行ってくれるかい?」

「「りょっ!!」」


 素直に頼らせてもらうことにした。







「ん……あぁ~~~~……うぇ……きぼぢわるいぃ……あだまいだいぃ……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ♪」


 剛谷の部屋で行われた4人だけの酒盛りは、1人を除いて大惨事になっていた。今にも吐きそうな顔で床に倒れ伏している美香。部屋の隅っこでひたすら謝罪を続ける剛谷。


 そして一番酷いのは、未だに酒を片手に真っ赤な顔で笑いこけているシエロだった。


 それをクアッドは酒瓶やつまみの残骸を片付けながらどうしたものかと思案していた。昨日の時点で出来上がっていたものの、止めようとすると「こういうのはこれで良い」と美香に止められ、シエロもニコニコとひたすら飲んでいたので止められなかったのだ。


 結果、律儀に空いた瓶などを片付けながらクアッド自身もチビチビと飲んでいたのだが、気付けば朝日を目にしていた。


「そろそろ各々がお勤めをしなければなりませんでしょうし、もう酔いを醒まさせても良いでしょう」


 そう結論を出し、『妖精魔法』を使って各自の酔いを解除しようとしたら、



「ふぎゃッ!」

「おっと失礼」

「そいやっ」

「とうちゃく~♪」


 突如、空中から姦しい女性達が落ちて来た。レーベルが顔面から落ち、その上に日ノ本、アリーナ、アイドリーの順に落ちて山となっていく。アイドリーは飛び降りてクアッドにニッコリとした表情で手を振った。


「おはよ、くあっど♪」

「ええ、おはようございますアイドリー嬢。より可愛らしくなられましたな」

「えへへ~♪」


 腕をブンブン振って嬉しさを表現すると、今度は美香に走り寄っていった。


「おはよ、みっちゃんッ!」

「お、おhうぷッ!」

「ちぇい♪」

「…………治まった?っは、なにこの美幼女!?天使?天使なの?とりあえず抱き締めて良い?」

「どうぞ~♪」


 先程まで目の前でアイドリーに汚物を見せようとしていたが、アイドリーが美香の鼻先に触れると、全ての状態異常が一瞬で治った。改めてアイドリーを見た美香は、今度はだらしない顔をしながら幼女を頬擦りし始める。


 日ノ本はドン引きだった。


「君の性癖をとやかく言うつもりは無いんだが……その、幼女趣味は隠した方が良いと思うんだ桜田さん。向こうの世界なら事案ものだよその顔は?」

「はぇ?……せ、せっちゃん。何故ここにッ!?」

「あー……まぁ、先にそちらの2人を元に戻してからね」

「え、あ……うん」


 2人の惨状を見て、美香も顔を真っ赤にして頷いた。どうやら相当酷い痴態たったらしいとレーベルは密かに笑う。後でクアッドに全てを聞いてやれば良いのだから。


「レディの秘め事なので、ご勘弁を」

「っち」


 残り2人の酔いも醒ますと、シエロは両手で顔を隠し、剛谷は床で胡坐いを掻いて座っていた。そして何故かその上にアイドリーが居座っている。先程から頭を撫でろと剛谷に催促をしているのだが、あまりの愛らしさに剛谷も何かが目覚めそうになっていた。


「撫でてあげてー?」

「撫でて~♪」

「……わ、わかった」

「変な事したら切り取るからね?」

「怖い言い方すんじゃねぇッ!お前じゃねぇんだからしねぇよ!!」



 ようやく皆が落ち着くと、それぞれの顛末を話し始めた。


 まず最初にアイドリーだが、スキルの影響により2週間はこのままなので放置。彼女を傷付ける事は不可能なので、そのままで良いだろうということになった。普段はアリーナとレーベルが見ているので問題無し。



「というより、我等はラダリアに帰らねばならんからな」

「あ……そっか、そうだよね」

「暫くはお別れですか……寂しくなりそうです」



「さびしい?「こうする?」」


「「「……」」」



 シエロの願いを瞬時に読み取り、アイドリーは何の前触れもなく『増えた』。アホ毛が反対に付いたこと以外は何も変わっていない。コロコロ転がってシエロの下に行くと、よじ登って顔に抱き着く。



 重さでシエロは後ろのベッドに倒れた。幸せそうな顔で……



「……『鑑定』で見たけど、ただの『妖精魔法』のスキル、ということ以外はまったく同じステータスだね」

「もはや分身を作るのもノーモーションで負担無しか。突き抜けとるな……」


 即座に悩みは解決され次に進む。クアッドはレーベル達に付いて行き、美香はシエロと共に居ることを再確認した。問題は剛谷だった。



 剛谷には奴隷の首輪が付き、聖剣も聖鎧もレーベルラッドの預かりとなり、首輪の力で魔物や犯罪者以外の者とは戦えなくなっているし、言葉の制約も付けられる。


 その状態で彼は今日、早々に国を去らなければならない。だが彼には行く宛などない。ガルアニアに行くにも、レーベルラッドとラダリアは交流を始めれば、自然と剛谷の話は広がっていくだろう。そうなればラダリアでも剛谷は肩身の狭い思いをすることになる。他の国に行ったとしても、信者に見つかれば同じこと。


「まぁ……俺にはお似合いだろ。『勇者』って肩書きを捨てた奴等のことも、今なら気持ちが分かる。こんな重い物、俺はもう背負ってられねぇ……」


 本人としても、自分の黒歴史を国民全員に見られて今でも死にたくなるのだから、当分の間は誰も居ない場所で1人になりたいと考えていた。『勇者』という肩書を捨てて。



「で、その後はどうすんの?」

「……さぁ?」

「それじゃあ何にも変わってないじゃんこの馬鹿ッ!!」

「ば、馬鹿って言うなよッ!!お前も馬鹿の癖に……」

「どっちもどっちです」

「うむ」

「「……はい」」



 ということで、どうせ『勇者』の肩書を捨てるなら、『隠蔽』にクアッドの『妖精魔法』を混ぜて、まったく違う別人にして貰うことになった。本人の意見は全て無視され、女性陣がクアッドを中心にどんな顔が良いか話し合いを初めてしまう。


 手持ち無沙汰となった剛谷は、以前として自分の足の上から退かないアイドリーのアホ毛を弄りながら思う。あれだけ争い合っていた筈だったのに、酒で一晩飲み明かしただけであの変わりよう。


(女って……こえぇ)


「……お前はあんなんになるなよ」

「ふえ?」

 妖精の羽をパタパタさせて首を傾げるアイドリーの頭を、剛谷は静かに撫でていた。



 ということで、門の前でお披露目した。


「んーこれは中々……」

「立派な貴公子になりましたね」

「良い仕事をしたのう、クアッドよ」

「ええ、我ながら改心の出来ですな♪」


 金髪青目、鼻筋の通った非常に顔が整っている。イケメン程ではないが、良い男が生まれた。元は一般的な日本人顔だっただけに、自分の変わりようを見て「これってある意味転生だよな……」と内心で思い始める剛谷。


「ま、まぁこれで新しい人生をスタートさせられんなら良いか……やるとしても、気長に冒険者稼業するぐらいだけどよ」

「そのまま騎士団に入団しませんか?」

「……しねぇよ」


 流石に自分を目の敵にしている人間達と一緒に過ごす気概は彼には無い。残念そうな顔するシエロだが、彼は耐えた。


「散々酒の場で恥ずかしい思いをしたんだ。もう許してくれ……」

「剛谷よ。それならラダリアに来る気は無いかのう?ラダリアならば高坂と日野もおるし、お主も知り合いが居た方が何かと心休まるのではないか?」

「俺、あの2人とも仲良くなかったしな……止めとく」


 剛谷は日野と同じで本来そこまで自分から友人を作る人間ではなかった。暗い、という訳ではなかったが、ぶっきらぼうで人付き合いが下手だったので、そこまで交流を深められる相手が居なかったのだ。


 それを分かっていたから美香は口に出さなかったのだが、レーベルは見事に地雷を踏み込んでしまっていた。




「……行くわ。もう、二度と会うことはないと思うけど……じゃあな」


 最後まで決まらない剛谷は、苦笑いで『隠蔽』を発動し姿を消そうとする。だが、背を向けた瞬間。彼の後頭部にある存在を見つけて、全員の心が1つになった。



 だがアイドリーは誰も何も言わないように指を立て「しー…♪」と良い笑顔で言うと、皆苦笑いで頷く。


 なので『後頭部に引っ付いている妖精』を指摘せずに、そのまま彼を見送るのだった……




(((絶対にまたどこかで会うなあれは……)))

「……とりあえず、東に行くか」

「~~♪」


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