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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第124話 妖精幼女

「うまふ~♪」

「ぎぎがぁああああッ!!!」


 異常な光景がそこにはあった。


 浮遊した大地に広大な湖が生まれたかと思えば、その中身は全てミツを溶かしたジュースが入っている。下から生えて来た芝生は、感触は芝生のままなのに全て飴細工だ。木々の葉っぱは極薄のスナック菓子であり、ヒラヒラと舞い散った物を拾いあげて食せば、絶妙な塩見とサクサクとした食感を口内に美味の合唱を鳴らす。


 そして、クッキーとチョコレートで出来た小屋が一件。その細部に渡るまで金具も含めてお菓子で出来ていた。


 更にそれ等全てを包む巨大な魔力の膜が、空間内の温度を真冬の中、温暖な地を作り出す。



 その中、薄いスナック菓子の葉は幾つも舞い散る木の下で、『妖精幼女』は魔族とティータイムを開いていた。魔族を完璧に『椅子に縛り付けた』状態で。



 幼女の今の状態を表すなら、『全ステータス』とそれまで得た『レベルの経験値』と『スキル』を妖精魔法を使って『INT』と『固有スキル』に全てぶち込んだ姿、ということになる。



 更に彼女本来の『人間』としての自我を消し去るということもして生み出されたのだ。



アイドリー(3) Lv.1


固有種族:次元妖精(覚醒++):『妖精幼女』


HP 100/100

MP 100/100

AK   1

DF   1

MAK  1

MDF  1

INT  ・表示出来ません・

SPD  1


【固有スキル】妖精魔法・改 妖精の眼・改 空間魔法 顕現依存 限定幼女


スキル:歌(EX)複数思考(EX)

    

称号:愛の体現者



・妖精魔法・改

『ありとあらゆる現象を一切の負担を無視して任意に発生させることが出来る。威力や効果はINTに依存し、発動した時点でそれ等は『破壊』という概念から外れる。ただし、攻撃手段として使う事は出来ない』


・妖精の眼・改

『相手の真意を全て読み取ることが出来る』


・限定幼女

『一切の自我を放棄し、レベルとなった経験値、ステータス、戦闘系スキルを全て『妖精魔法』『妖精の眼』『INT』『複数思考』に振り分ける。強制持続タイム:発動してから2週間』


・愛の体現者

『誰かの為に愛を込めて生きる者、それを成せる者』



 全てが『妖精幼女』の為にあるものだった。今の彼女は虫の1匹すら倒せない程に弱い。だが、誰がどれだけ強かろうと、彼女には決して勝つ事が出来ない。


 まったく椅子から動けない魔族がひたすら暴れるが、椅子はその場からピクリとも動かないし、椅子から出ている飴の手枷足枷もビクともしない。


 幼女はそんな魔族にほっぺをまん丸に膨らませて近付き、魔族の膝に上に攀じ登って立った。


 お互いの目線が重なる。



「あばれちゃやッ!……ん~~~……むちゅっ」

「~~~~~ッ!?!?!?!?!?」



 いきなり唇へのキスを慣行した幼女。魔族はビクっと痙攣すると、そのまま力んでいた身体を弛緩させ、抵抗することも出来ず、されるがままになった。


 すると、みるみる内に魔族の身体は元の人間色を取り戻していき、それと同時に幼女の口に引っ張られて日ノ本の口から黒いモヤが排出されていく。


「もむ~~……もっ!」


 ポンっと最後の塊が出て来ると、幼女はそれを引っ掴んでトタトタ走り出した。ハチミツジュース溢れる湖の所まで来ると、それを丸めてコネコネした後、投げ入れる。



「ま~わる~ま~わる~ぐ~るぐる~~♪」



 指をクルクル回すと、湖が巨大な渦を巻き始め、黒いモヤを呑み込んでいく。渦の中心辺りまで行くと、一気に湖全てのハチミツジュースが凝縮し、黒いモヤを押し潰した。

 モヤはジュワジュワと溶けていき、ハチミツジュースと一体になる。幼女は手を握るような仕草をして、


「ぎゅっ♪」


 一瞬であの莫大な体積がハチミツ味の『飴玉』に変わった。ぽっかり空いた湖跡に、また『妖精魔法』を掛け、今度は何も無い空間から水をドバドバと流し、瞬く間に満たしてしまう。


 幼女はそれを見てご満悦になると、『飴玉』を口に放り込んでまたトタトタと日ノ本に向かって走って行った。






「……うっ……ん?ここは……?」

「あ、起きた?」


 僕は……椅子に座って寝ていたようだった。目の前には入れたばかりなのか、湯気の立っている紅茶が。そしてすぐ目の前には、見覚えの無い女性が、なんとなく見覚えのある羽の生えた幼女を抱き抱えて一緒にスナック菓子を食べている。


(僕は魔族になって戦っていた筈だよね?……けど、ステータスにも『魔族化』が無くなっているし……一体どんな負け方をしたんだ?)


 疑問は最もだったが、今は彼女達と話すことにした日ノ本。2人は笑顔で挨拶をしてくる。


「「おはよー♪」」

「……ああ、うん。まったく状況が呑み込めないけど、おはよう。えっと、君は?」

「この子に頼まれて迎えに来たの。名前はアリーナ、よろしくね?」

「ああ、ご丁寧にどうも……それで、一体これはどういうことなんだ?」



「これ~♪」



 そう言って幼女は透き通った琥珀色の飴玉を僕に差し出してきた。これは?


「さっきまでこの子の話を聞いてたんだけど、貴方の『魔族化』の部分を吸い出して『飴玉』に加工した後食べちゃったんだって。丁度そんな感じのだったらしいよ?」

「……はい?」

「にひひっ♪」


 幼女に目を向けると、てれてれとアホ毛を揺らしながらまた彼女の胸に抱き着いた。彼女は幼女を優しく抱きすくめると、膝に乗せて頭を撫で始める。


 まるで親子のような姿だな、と思ったが、僕はまだ実感が湧いていない。本当にこれは現実なのだろうか?


「それで、この場所は貴方の理想を魔法を使って再現したらしいんだけど合ってるかな?」

「……ああ」


 言われて改めて周囲を見渡してみれば、確かにいつか僕が望んだ物が全てそこにあった。望めぬ夢、理想だった物が全てだ。はは、なんだこれ…………


「これ全部お菓子で作ったんだって。そこらへんはこの子の趣向らしいんだけどさ」

「むも?」

「……」

 僕は、それを実現したという幼女を『鑑定』を使って見た。何のフィルターも掛かることなく、すんなり全ての情報が開示され………また景色に眼を戻し、涙を零す。



「…………なんて馬鹿げてて、自己満足で、途方も無い愛の塊なんだ。暴走して心の奥底に閉じ込められた僕の真意を読み取って、こんな場所を作り出したって言うのかい?……都合が良いなんて話じゃないよ、まったくさ………」



 人の醜さ、魔物の恐怖。向こうの世界より尚厳しいと言わざる負えないこの世界において、この幼女の存在は奇跡と評しても過言じゃない。例えスキルの効果だったとしても、それが出来るという時点で生物を逸脱している。そんなの、



「勝てる訳ないじゃないか。こんな反則的な手を使われて、戦意を維持出来る奴なんて居やしないよ。こんな幸せをくれる存在を、理想を体現してくれる存在を傷付けるなんて所業……僕には出来ない」


「そうだねぇ、私もこんな素敵な事が出来る子と戦うなんて気は、最初から起きないかな?」



 そんなやり取りの中、暇になったのか幼女は膝から立ち上がってアリーナの頬を手で挟んでこねくり回しながら意思表示をする。


「ありーな、あそぼ、あそぼ?」

「ごめんね、もうちょっとお姉さんとお話しよう、ね?」

「うん、わかったぁ♪」


 どこまでも純粋、どこまでも無垢。欲望のままに動いているのに、人に尽くし、人を愛し、体現する存在。彼女にとって自分の存在についての話などどうでも良かった。ただ遊んで、笑って、幸せになってくれれば良かった。


 その様子を見ていた日ノ本が、立ち上がって幼女を掴み肩車する。幼女は七色の眼を輝かせて喜んだ。


「いいよ、もうお話は終わりだ。僕を幸せにしてくれたお礼に、今日は一日遊ぼう」

「ほんと、いいのッ!?あ、ありーな、ありーな?」

「こっちは大丈夫だから、一杯遊んできな?」

「やったーッ!!いこー、せっちゃんッ!」

「せっちゃん……桜田さんの入知恵か。まぁ良い、君のことは何て呼べば良い?」

「あいどりーッ!」

「良い名だ。じゃあアイドリー、日が沈むまで一杯遊ぼう?」

「うんッ!!」



 アリーナは2人が飴細工の芝生を駆け回っている間に、『同調』で一部始終を見ていたレーベルと繋いだ。極めて冷静なように振舞うレーベルだが、同調を通してアリーナもレーベルを感じている為、その動揺具合が分かり苦笑いになる。


『まさかあんな馬鹿げた存在になってしまうとはな。しかも2週間の強制持続とは重いのう……』

『そっちが大丈夫そうなら、今日はこっちで過ごさせようと思うんだけど?』

『構わんと思うぞ。こちらは先程終息したからのう。一応聞いてはみるが、シエロも美香も何も言わんじゃろうて』

『なら良かったよ。私はそっちで何かすることあるかな?』

『大丈夫じゃ。お主もそっちにおれ、我も後で行く』

『うん、待ってるね』


 そして通信を切って2人に目線を向けると、飴細工で作ったスライダーから二人揃って流れて来る様子が見えた。


 非常に楽しそうだったので、アリーナも参加しようとそこまで駆け出して行った。今は全てを忘れて楽しもう。この場に、戦いを望む者は居ないのだから……



「私も混ぜてー?」

「「いいよッ!!」」

「ど、どしたのレーベル?そんな鼻から溢れさせて……?」

「いや……うむ。ちょっと、主が尊くてのう……」

「え、えぇー……」

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