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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
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第123話 魔族VS妖精 更なる先

「アリーナよ……あれは」

「うん、アイドリーが戦ってる。それも、全力っぽいね」


 レーベルラッドで半身アイドリーの番組が終わった瞬間、遠くの空を白と黒の光が貫き、レーベルラッドを含めたその地域全ての雲が消し飛んだ。途端に澄み切った青空が広がり、同時に彼方からの凄まじい轟音が此処まで届いて来る。まるで一発一発がレーベルラッドに向かって放たれ、それを阻む山を削り取るかのように。


美香は、アイドリーが誰と戦っているのか分からなかったが、


「アイドリー……初めてしまったのですね。本当に……」

「え、どういうことなのシエロ?アイドリーは誰と戦っているの?」


 その言葉に、シエロは極力声量を落として答えた。


「間違っていなければ、奴隷の首輪を外した状態の日ノ本様と……『魔族化』した状態の彼女と戦っている筈です」

「えっ!!?……な、なんで。なんでせっちゃんが魔zむぐッ!」

「それ以上を大声で口に出すでない。国民に聞こえたら事じゃぞ?」


 咄嗟にレーベルが近付いて、美香の顔を自分の胸に押し付けて口を塞いだ。美香はズリズリと顔を上げ、口をへの字にして頷く。瞬間的に柔らかさに触れて感情を抑えることに成功したらしい。


 全員で小さく円になり女子の内緒話が始まった。



「シエロがアイドリーに言って、日ノ本さんの問題を解決しようって話になったんだよ。何で魔族化のスキルが付いていたのか分からないけど、アイドリーがそれを消すって約束したから、ああなったんだね」

「けど、勇者が魔族になるなんて……それもせっちゃんがなるだなんて、アイドリーでも勝つの難しいんじゃいのかな……」

「そりゃそうじゃろう。しかし我等が行っても、負ける事は無くとも勝つのは至難の業じゃと思うぞ。我の進化した力でも出来てサポートぐらいじゃろうしな……」



 日ノ本の厄介なところは、他の勇者と違って『魔王討伐』をした5人の内の1人だという部分。他とは比べ物にならない程のステータスで『魔族化』したのだから、少しは魔族を知っている美香やレーベルからしてみれば、恐怖以外の何物でもなかった。


「すいません……私が言ってしまったばっかりに」

「気にしなくて良いよシエロ。どっちにしろアイドリーは自分で気付いてやったと思うから。そもそも作戦上絶対にそうなったし。ほら、それよりも教皇様と一緒に国民達を鎮めよう。この事について説明しなきゃだし……勿論魔族の事は伏せてね」


 今世では滅びた筈の魔族が存在していると知られれば、間違いなくレーベルラッドから各国へその話が広がり、大パニックを巻き起こすだろう事は容易想像が付く。


幸い、今クアッドの妖精魔法により音や空気の震え等は全て国民側にはシャットアウトされているが、先程のような光がまた見えれば不安も増す筈だとアリーナは言った。


 それを聞いてシエロは数舜思考し、即座に頷いて教皇の隣に立って演説を開始する。それを見てアリーナはまたレーベル達に顔を向けた。


「私はこれからアイドリーと『同調』して思考サポートするから暫くの間何も出来なくなるけど、言っておきたい事は何かある?」

「「グッドラックッ!!」」


 アリーナは大きく頷き、座って目を閉じた。








「だぁーッ!!こんのッ!理性無い癖に人の居る場所に向かってばかり攻撃すんね君はッ!!」

「ぎぃぃぃーーーーッ!!!」

「うっさいッ!!」


 一撃ごとに大地が割れ、山が大きく削られ、木々が消し飛んでいくそんな中で私達は戦っていた。


 私はとりあえず日ノ本さん……いや、このクソ魔族の攻撃を捌く事は出来ていたが、攻撃のチャンスが中々やって来ない。この魔族、徐々にレーベルラッドに向かって移動してるんだよね。その進路方向を私が塞ぐんだけど、力押しで通ろうとしてくのだ。


 しかもさっきから闇属性魔法が剣を振る度に大地に降り注ぎ、辺り一帯が『汚染』されていっている。土は毒を含んで木々や草原を一瞬で枯らしていき、空気も澱みどんどん生物の住める環境では無くなっていっているのを感じていた。

 

(ステータスに依存した魔法だから、全ての数値を合計した威力なんだ。だから、私の聖属性魔法じゃ完全に散らせないんだね……)


 妖精魔法を試みようとも思ったけど、『魔族化』のスキルは消せるような物ではなかった。なんせステータスから消すイメージをした瞬間、頭をバットで殴られたような衝撃が走ったからね。あれを『消すのは』不可能だ。


 今はもうレーベルラッドがある山の手前付近まで押されている。途中色んな種類の魔物も居たけど、今では地形が変わり過ぎてるし、攻撃の余波で全部吹っ飛んだから、動いているのは私達2人だけだった。


 そして私の頭の中に、最高の相棒が助っ人に来る。



『アイドリーッ!!こっち終わったよッ!!思考サポートするから『複数思考』に『同調』を介して私に繋げてッ!!』

『まぁってましたッ!!』



 私は殺意の籠った剣の一撃を弾き魔族の顔を上空に向かって蹴り上げると、即座に『妖精魔法』を使って『同調』中のアリーナに『複数思考』のバイパスを繋いだ。これで私の妖精魔法の精度が上がる。


「これでちょっとはマシになるかな?さぁ、行ってみようか相棒ッ!!『『妖精魔法』』ッ!!!」


 イメージするは自分の半身。私を中心にして10人の『アイドリーズ』が出現した。全員私の半分のステータスを保有し、尚且つスキルは短い間だが全て使用可能だ。


頭に痛みではなく岩を乗せられたような重さに晒されるが、戦力は強化されたよ。


 聖剣もどきを持ったアイドリーズは『妖精魔法』を使い全てのステータスをAKとSPDに全振りし、四方八方から魔族を攻撃する。



「が、ぎぃ、ごぁッげあぁぁーーッ!!」


 何人かの攻撃は弾いたが、残りの聖剣によって四肢を斬り落とされ、地面を転がっていく。私は『超回復』で四肢を再生される前に、『妖精魔法』によって『退魔』を聖剣に付与し、エルダーアーマーの時のように浄化する作戦に出た。



「これで―――っどうだッ!!!」



 空中高くから、聖剣による退魔の斬撃が飛び、魔族の身体全てを呑み込む。


 光は辺り一帯を包み込んでいた呪いごと消失させ、攻撃の余波でまた山が削れた。あっぶい、私がレーベルラッドを壊すところだったよ。


「ふぃー……」

『倒せた……かな?』

「さてどうか―――――――ッつ!?」


「ォォォオオオオオガアアァァーーーーーーッ!!!!」



 煙の奥から飛び出してきた魔族の全力の一振りが、一瞬無防備になった私の顔に迫ってきた。


「ぐっ。うぁあッ!!」


 山ぐらい簡単に吹き飛んでしまうであろう衝撃を聖剣で受け、後方の山に向かって吹っ飛ばされる。『妖精魔法』を使って着地点で衝撃を緩和しようとしたが、それでも余りある威力を持って私は叩きつけられた。


『アイドリーッ!!!?』

『くぅ~~……だい、じょうぶだよ……ちょっと痛いだけ。けど、そっか……』



 魔族はまったくもって健在だった。四肢は再生、HPもまったく減らず、そして『退魔』では『魔族化』の浄化は不可能。まるで完全に消滅させなきゃ止められないって言われているようだよ。あたた、こっちは肩を少し打って痛いや。まぁ即座に治せるんだけどね。



 アイドリーズも限界時間を迎えて消失。残ったのは頭の鈍痛だけ。うーん、困ったッ!



『あれは『狂気』とは違って浄化出来ないみたい……どうする?』

『目測をちょっと誤ったね……顔中から血流して数日眼を覚まさずアリーナの抱擁+頭撫でされる覚悟で攻撃すれば倒せはするけど、それだと日ノ本さんが救えないから駄目だしね…………はぁ』



 今の状態では、完全にお手上げである。


 彼女を救う方法は……やりたくはなかったが、あの手を使うしか無くなった。



『……アリーナ、『あれ』本気で使うから、数週間私をよろしく頼んで良い?』

『『あれ』……ああ、使うの?というか、『あれ』ってそんなに凄いの?私1回負けたけど』

『うん、まぁ……ああ、私のあられもない姿が色んな人に見られると思うと躊躇せざる負えないんだけど、うん、使う。使うよ………うぅ』

『一杯皆で愛でてあげるから頑張って?』

『……うん。『同調』切れちゃうと思うけど、発動したら終わると思うから、こっち向かってくれると助かるかな』

『わかったッ!!』



 よし、覚悟完了。後の事はアリーナに任せよう。私は聖剣を仕舞い、無手で遠くでこちらを笑いながら睨んでいる魔族と対峙する。



 今から私がすることは、新しい固有スキルの作成だ。それだけでもう私の自我が吹っ飛びそうになるけど、今回は更にその上を行くだろう。作った瞬間に発動すれば、どちらにしても『今の私』は一時的にだけど消えるしね。



 もう一度だけアイドリーズを数体だけ出すと、足止めとして魔族に向かって突っ込ませた。数十秒持てば良い、その間に完成させちゃうから。



「ふぅー…………」

『……いくよ、アイドリーッ!!』





  ――――――イメージする




『無垢な子供』『夢』『理想』『純粋』『喜び』『自由』『思いやり』



全てを凝縮し、混ぜ合わせ、濃縮させ、絞り込んで、一滴の『愛』という雫にする




それが『私』という存在の上に垂れ落ち、瞬く間に浸透していくように




「………発動―――――――――――――――――――――――」









 ボッフンッと、魔力が七色の煙となって全て放出し、渦を巻くようにして『幼女』の眼に吸い込まれていく。


 虹の眼はそれに合わせて激しく回転し、ギュルギュルと音を立てた。身長は今や100㎝にまで縮小し、髪が伸びあがって地面に垂れそうになる所でクルンと刎ね上がる。頭から飛び出しているアホ毛も更に伸び上がり、背中から『妖精の羽』を6枚出現させる。


 格好は、カボチャパンツにふわふわのレースの付いたワンピースを身に纏い、胸にもしっかり『妖精の宴』の証であるブローチが付けられていた。




 やがて七色の魔力は全てその眼に吸収され、『幼女』は完成し、そして『覚醒』する。






「……んぅ~~♪んッとと……んへへ♪」



 大きく伸びをして、こけそうになるのを自分で照れ笑いする幼女。その後キョロキョロと辺りを見回して、魔族と戦っているアイドリーズを見つけると、


「ん~~、めっ!」


 言葉と共に、アイドリーズ達を消失させた。いきなり消えた事に驚く魔族だったが、直ぐに少女の姿を見つけると、聖剣を振り翳して突っ込んで来る。数舜の間もなく来て剣を振るわれるが、



「とりゃ~♪」


 その剣はポンと音を立てると、『わたあめ』になって幼女の顔に当たった。剣は上から降ってきて幼女の後ろの地面に刺さる。


「うまし〜♪」

「……ギ?」


 自分の顔に当たったわたあめをモショモショ食べている幼女の姿に、理性を失った魔族でも、これは流石に呆気に取られてしまった。そこを狙ってか、



「とうっ♪」

「ギィッ!?」



 幼女は魔族の身体に張り付いて、肩の位置までスルスルと登ってくる。そして魔族の頭の上でフンスと無い胸を張って得意げな顔になった。


「グギィァアァアァアァッ!!―――――――――――ゲェアァッッ!!??」


 魔族は手で幼女を掴もうとしたが、幼女に触れる瞬間、身体を動かす事が出来なくなった。魔族は両耳を幼女に手で包まれている。


 そこから『妖精魔力』によって生み出した魔力を流し、脳を一時的に操作したのだ。



「えっと~~~…………お♪」


 その状態で器用に魔族の眼を覗き込む幼女。2人の眼が至近距離で数秒交差し合うと、幼女がニコっと笑って魔族の肩から降りた。


 そして、歌いながら、踊りながら『妖精魔法』を発動する。何人もの『自分』を呼び出し、全員で円を描きながらノリを高めていく。



 途端に、半径数百mの大地がボコォっと『浮き上がり』始めた。

 


 そして浮き上がった大地が、幼女のノリのままに作り替えらえていく。



「~~~~♪~~~♪♪」


 羽も一杯パタパタさせて喜びを表現するその姿は、正しく『妖精』。だが同時に素晴らしく愛らしい人間の『幼女』でもある。




 ならばこそ、後に周囲の者達は、この状態の『アイドリー』をこう呼ぶだろう。





 全てを愛で塗り潰す者 『妖精幼女』 と。

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