表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第八章 神聖皇国レーベルラッド
143/403

第122話 事象の勇者と……

 日ノ本の聖剣特性は気付いた者にはよく間違われるが、それは『時間停止』ではなく、全ての『事象の認識』から自分から外すことだ。そこに『時間』も含まれているだけなのだ。


 だから相手からは日ノ本がノーモーションで動いているように見えるし、どんなに視線を凝らして注視しても、彼女の一挙手一投足を『認識』出来ない為に見えない。


 全ての事象が『認識』した瞬間には、日ノ本は全ての行動を終えている。



「残念だったね。僕としては朝比奈を超えるステータス……まぁ今の彼のは知らないが、それに追随するであろう君とまともに戦ってみたいとは思ったんだ。けど……」


 日ノ本は首元の首輪をトントン叩いた。僅かだが、締まりが強くなって首に喰い込み始めていた。


「こいつは命令されたことを実行しないと、少しずつ締まっていくんだ。僕も……死ぬのは怖い。何も聞こえてはいないだろうが……死んでくれ」


 日ノ本は聖剣を握り締めて歩きだす。一刺しすれば殺せるのだから、急ぐ必要も無く。例え何かしらスキルがあっても関係は無い。スキルの事象からも外れる彼女からしてみれば関係無い。




 その『概念』が彼女に通じればの話だが。


「……ふぅッ!!」


 そして、心臓に向かって命を刈り取る為の一撃が繰り出された瞬間、



 その切っ先を掴まれた。



「—――――――ッ!?!?!?」

「怖いなぁ、もう。ちゃんと動いてないかぐらい確認して欲しいよ」


 2本指で刀身を掴まれ、ピクリとも動かないことに驚愕しながら、しっかりとこちらを『認識』しているアイドリーが苦笑いでそう告げる。


「もしかしたらなぁって思って『概念耐性』だけ隠してたんだけど、その様子だとドンピシャみたいだね。ドッキリ大成功かな?そして……」


 そのまま流れるように日ノ本の首輪に触れた。すると、日ノ本は眼を見開いた。



「……締まらなくなった、か」

「シエロからちゃんと聞いてたよ。外されたくないんだっけ?だからとりあえず『命令服従』の機能だけ止めといたよ」


『妖精魔法』を的確に使えるアイドリーは朝飯前だと行ってニヒっと笑う。


 しかし日ノ本は剣に与える力を緩めない。更にその状態から、即答蹴りを鳩尾に喰らわせようとしてきたので、アイドリーは剣を離して後ろに下がった。



「おわっと、戦いは止めないんだね」

「『概念耐性』を持っている存在が僕の知っている者以外に居るなんて思わなかったさ。首輪の事についても感謝はしよう。けど、苦しみや死の恐怖が無くなったからと言って、僕の『縛り』は未だ健在なんだ。だから、引き続き強制力は残るんだよ。本当に、残念ながらねッ!!」



 何が理由かは分からないが、日ノ本は戦闘を続行する。アイドリー本人に聖剣特性の効果が通用しないなら、首輪の強制力が無くなった以上彼女本来の戦いに移行するだけだった。


 また彼女は聖剣特性を発動すると、今度はアイドリーの認識下で姿を消す。音もせず、気配も無い雪原の中、アイドリーは1人立ち尽くすが、その表情に焦りは無かった。




「……おぉ、『隠蔽』の強化版みたいな能力だねっとッ!!」

「ちっ、どんな勘をしているんだッ!?」


 突如横から現れた既に攻撃態勢になっていた日ノ本の剣を一瞬の内に迎撃して弾いたアイドリー。

日ノ本は先程と同じように、しかし今度は連撃でそれを繰り出し始めた。


「わっ、ととぉッ!あぶ、ない、よっとぉッ!!」


 しかし当たらない。攻撃される瞬間は『事象が認識』をする為に、その刹那の間だけアイドリーは日ノ本の姿が見えるのだ。ならば、ステータスのゴリ押しでそのコンマ何秒かの世界で防げば良いという考えだった。





 そして、状況は日ノ本にばかり悪くなっていく。



「……よし、終わった」


 日ノ本の司る『事象停止』の範囲を突き止め、アイドリーはそれを『掌握』してしまった。後ろから斬り掛かろうとしていた日ノ本を包んでいた『事象停止空間』が解除され、その姿が現れる。


「まさかッ!?こんなことが出来るのかいッ!?」

「出来ちゃうんだからしょうがない。そして、これでチェックメイトかな?」

「――ッ!!…………はぁ、こんなに簡単に負けるとはね」



 その首にはアイドリーの剣が添えられていた。



 日ノ本の攻撃方法を見ていたアイドリーは、事象の認識を『任意』に使って自分から存在を消していると考えた。自分の周囲の事象だけを停止すれば、その周りの認識している空間からは見えない。必然、その空間内に居るアイドリーからも見えなくなる。


 空間という『事象』に隠れた戦い方だった。それでも、『次元妖精』である彼女には速い段階でそれは通じなくなり、その空間全てを『書き換えて』しまうので通用しなかったが。だが、アイドリーもやはり負担は抱えた為、頭痛に多少顔を顰めている。



「んー、アリーナみたいにはいかないかな。止めるので精一杯だったよ。それで、降参する?今なら何の障害も無くそれを外してあげられるよ?」

「聞いたなら知っているだろう?そして首輪を『操作出来た』君なら分かる筈だ。絶対に外してはいけないよ。君だけじゃない、確実に大陸の半分が滅びる事になる」

「「……」」



 意志は以前として崩れない。日ノ本の抗い難い戦意を無くす事は不可能だった。日ノ本にとってその首輪を外すのは『自分』を殺すのと同義でもある。そしてこの特性の首輪を作り出せるのは朝比奈だけということも関係していた。彼女は自分の意志が縛られてようが無かろうが逆らえないのだ。



 だが、その程度でアイドリーは自分を曲げたりはしない。


「……シエロがさ、言ってたんだよ」

「……何を?」

「彼女は、世界にあるべき物を背負ってしまっているから、出来ることなら助けて欲しいって。美香みたいに笑って欲しいって。知ってるでしょ?並大抵の『隠蔽』じゃシエロの『神眼』は誤魔化せない。ステータスには出なくても、その『存在』は感じ取れるんだよ。貴方の事……ずっと気にしてたんだよ?」


 その言葉に、日ノ本はなんとなく分かっていたのか、諦めたように疲れた笑みを零す。


「……そうか。こんな身体だと言うのに、彼女はやはり心配してくれたんだね…………ねぇ、妖精さん。僕には勇気が無いから、願わくば君が代わりに、僕をころ「だめ」……まだ言い終わってないんだけどな」

「分かってないね。妖精って種族を。だから教えてあげるよ」


 アイドリーは、ゆっくりと聖剣を首輪に当てた。引き攣った顔になる日ノ本に、ニヒっと笑ったアイドリーが、



「妖精は、ハッピーエンドが好きってことを」


 その剣を、引いた。


 カシャンッ


 首輪が、落ちる。






 ドクンッ


 高鳴る。何かが、精神の奥底から這い上がるように身体を脈動させ、蹂躙されていくような感覚が日ノ本を襲う。


「あっ!……ぎぃっ!?に、にげ、ろぉ……」


「逃げないよ。私は、貴方を助ける為に今、ここに立っているんだから」


「ば……か――――――ッッ!!!!!!」



 身体が滲み込こませたような紫に代わり、眼球が黒く染まっていく。それに合わせて聖剣も、聖鎧も黒く染まり上がった。


 濃密な黒い魔力が暴風のようにアイドリーを襲うが、咄嗟に聖剣を盾にして防ぎ、身体ごとぶっ飛ばされた。直ぐに起き上がって日ノ本を見ると、



 『日ノ本だった者』が、何も映さない眼をこちらに向けていた。その顔は、理性とはかけ離れた笑顔を浮かべて、



「あ”ぁぁあああああああああああーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」


 吠える。その生誕を全ての者に知らしめようとする様に……





「ようやく、糸口を掴んだってところかな……後でテスタニカさんに電話しないとね」


 私は『妖精の眼』を発動し、その『日ノ本だった者』を見た。


 

日ノ本 刹那(21) Lv.4680

種族:人間(覚醒+):魔族化+聖剣(ステータス×10000倍)


HP 6兆0840億2755万/6兆0840億2755万

MP 131兆0400億6812万/131兆0400億6812万

AK   3兆2577億6630万

DF   3兆5368億1110万

MAK  6兆3997億4577万

MDF  5兆2200億0054万

INT   5500

SPD   7兆0401億0870万


【固有スキル】自動回復 聖剣 自動翻訳 マジックボックス 

       聖鎧 魔族化 超回復

 

スキル:剣術(EX)隠蔽(EX)手加減(EX)鑑定(―)投擲術(EX)

    四属性魔法(EX)闇属性魔法(EX)


称号:勇者 転移者 女神に祝福された者 魔族



・魔族化

『理性を破壊し、破壊と殺戮の衝動に囚われる。ステータス×1000倍の補正が掛かる』


・闇属性魔法

『魔王・魔族のみに使用が可能となる属性魔法。ランク・威力は「ステータス」に依存する』


・超回復

『重症、四肢欠損であろうとも瞬時に回復する』



 首輪の機能で、執拗な隠蔽が施されていたスキルが封印されていた。『魔族化』、ね。過去の魔族達は皆このスキルを持っていたとすると、確かに勇者以外に対処は不可能だろう。その勇者でも、レベルを上げていかなければ絶対に勝てないだろう相手だ。聖剣特性だけじゃ辛いと思う。



 そして、そんな最悪なスキルが、『勇者』に付いてしまったら………


「考えうる限り最悪な組み合わせってことか……歴史上初にして、最悪の新事実ってやつかな。本当に、場所を離しといて良かったよ」


 あれは周りの被害など微塵も考えず本気で戦うだろうから。上等だよ、私も本当の本気で戦える相手は初めてだ。そして自分よりステータスの高い者と戦うのは、初戦闘で倒したゴブリン以来だ。



「ぐぅぁ……あぎゅぃ……ぎひっ」


 日ノ本さんは、黒く染まった聖剣に更に闇属性の魔法を纏わせ、こちらに向けて来る。黒い魔力を見れば、んーあれは問題児さんの『呪い』に似てるね。斬られたらバッドステータスになるっぽいから当たれないか。


「ならこっちは………光よ、闇を払う力となれ」


 私は聖属性魔法を聖剣に纏わせた。効果はなんてことない、私へのバッドステータスへの抵抗力を上げただけだ。後は私の気合と根性で乗り切るよ。妖精魔法でステータスも順次変更で。


 目標は『魔族化』を日ノ本さんから引き剥がすこと。出来ればスキルを何らかの形で回収したいから、消去、もしくは捕獲出来……出来るかなぁ。まぁ頑張ってみようか。


 




 2人は向かい合って、お互いの聖剣を構える。白い大地の中、魔力の余波だけで雪が蒸発していき、空気が歪み始めた。



 そして、広範囲の大地を蹴り砕き、接敵する。




 剣がぶつかり合った瞬間―――――光と闇の柱が、天を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ